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狂った正義

「ゆ、優……」


 逃げる間も無く勘助のスーツに引火した。一瞬の内に彼の全身は炎に包まれ、苦しみ悶える。

 本気ではないせいか、一撃で燃やし尽くす火力ではない。寧ろ嬲るような威力の炎だ。


「司令!?」


 流石に優人の行動は想定外、実の父親に攻撃するなんて思ってもいなかった。いくら何でも命を奪って良い理由は無い。

 瑠莉は咄嗟に切っ先から水を出し勘助に浴びせる。火は瞬く間に消火したが、勘助の全身は爛れ服は焦げ無残な姿になっていた。


「優人! あんた自分の父親に何してんのよ!」


「へ? だって悪党じゃん。零次だってこいつを倒しに来たんだろ」


「俺達は逮捕に来たんだ。命を奪うだけじゃ事件は終わらない。優人、お前とは違う」


 関係者の捕縛、地球への賠償責任。事件の首謀者が闇に葬られれば解決には至らない。だからこそ優人の削除すれば解決、といった思想には賛同出来なかった。


「……わかんないな。悪を倒し平和を手に入れる、今までやってきた事じゃないか。父さんも、真美も早苗も悪党なんだぞ」


「悪党? 何言ってんのよ。真美も早苗も……人を……」


「ハッ、零次も言ってただろ。あいつらは父さんが頭をいじくった心を持たない肉の人形だ。もう人間としての二人はとっくに死んでんだ。俺は助けたんだよ。父さんの操り人形からね」


「優……!」


 思わず槍を振り上げた手を零次が止める。


「……優人、最後に確認させてくれ。お前は何が目的だ。何がしたい」


 声が震える。ずっと信じてきた幼なじみに、正しくあろうと導いてくれた友に裏切られた、そんな暗い気持ちが胸で渦巻く。

 聞きたくない、予想は外れてくれ。そう祈るも笑い混じりの優人の言葉はそれを否定する。


「言っただろ。地球の、人類の平和の為に毘異崇党との戦いを創り続ける。だから零次に協力してほしいんだ。俺達の戦いがあれば人間同士で争わない。人々が手を取り合い協力する世界を作ろう。ヒーローの物語が平和な世界に必要なんだ」


「そうか……」


 頭が急速に冷めていくような感覚。脳が、血液が、怒りを超えて軽蔑に近い心情に凍てついていく。

 それはノアも同じだ。


「完全にイカれてるわね。何がヒーローよ。私達を家畜か何かとでも? 冗談じゃないわ。熱海優人、あんたは狂ってる」


「何だと?」


 ノアに対しては声色が変わる。ドスのきいた敵意に満ちた真っ黒な声だ。


「やっぱり、怪人には人間の気持ちが解らないのか。だけど零次は解るだろ?」


「解るか!」


 零次は怒鳴る。理解なんて出来ない、したくない。こんな事を許せるはずが無い。


「優人、お前をこのまま自由にはしない。アンフォーギヴンの未来を壊させはしない!」


 突き付けられる弓、真っ正面からの拒絶。零次が敵となるのを想定していなかった優人は愕然とした。そして彼はゆっくりとノアの方を向く。


「……そうか。お前か。お前が零次の従妹だとたぶらかしたのか!」


 怒りの矛先はノアの方へと向かう。妄言、妄想だったが無関係ではない。彼女が零次に真実を伝えたのだ。ただの勘、推測だったが間違いではない。


「椿、零次を解放するぞ。瑠莉……君は解ってくれるよな? 一緒に零次を取り戻そう」


 あくまで自分は悪くない。ノアが元凶。アンフォーギヴンは利用価値のある畜生。それでも零次だけは別。そんな身勝手かつヒーローごっこの塊じみた精神に瑠莉も同意しなかった。


「馬鹿言ってんじゃないわよ! そんなヒーローごっこに私は付き合わない。寧ろ私も……」


 罪無き人々を、アンフォーギヴン達の命を奪ってきた。地球侵略を目論む悪の怪人だと傷つけてきた。罪は自分にもある。


「優人、椿、もう……」


「無駄だ瑠莉」


「零次?」


 零次の右手から黒い光の矢が形成される。言葉に意味は無い。説得でどうこうする問題じゃない。


「優人、俺はアンフォーギヴンの未来の為に…………お前を止める」


「零次……どうして」


「解らないのか? 自分がどれだけ矛盾しているのかも。命を弄んでヒーローごっこをしているだけだ」


 矢をつがえ優人に狙いを定める。


「優人はヒーローじゃない。ヴィランだ」


「…………! 俺が……(ヴィラン)……だと?」


「そうだ」


 矢を放つ。一直線に頭を射貫こうとする一撃を、椿が割り込み弾く。


「…………これが答えか零次」


「疑問に感じている時点で歩み寄るのは不可能だろ。

悪いが命を奪ってでも止める。アームズブレイヴァーは解散だ」


 一瞬俯く優人。肩を落としガックリと項垂れているようにも見える。


「椿」


「…………削除(デリート)


 何かが切れた。酷く重苦しく感情の読めない声。たった一つ優人の言葉、それだけで椿は全てを察し殺戮マシーンと化した。

 彼女の狙いは一人。視線の先にいたのはノアだ。


「消えろ。魔女め」


 優人が呟き椿が凶刃を振るう。頭にあるのは殺意だけだ。


「させるか!」


 零次がノアを庇うように前に立つ。手を出させはしない。こんな八つ当たりに家族を巻き込ませはしないと。

 だが杞憂にしかならなかった。


『Deathblow』


『ブルー! バーストフィニッシュ!』


 床をぶち抜く牙の群が椿を取り囲む。次々と迫り来る牙を避けるも、行動を制限され動きの鈍った彼女の身体を水の龍が巻き付き拘束する。

 瑠莉とランだった。

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