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ヒーローなのはどちら?

 声が響いた。二人分の声が。それと同時に男達の前に黒い影が飛び出す。その影はギラリと光る刃を振るい男達の銃を両断した。

 一瞬の内の出来事。彼らが目にしたのはカラスの怪人。手にした弓、そこに組まれた刃で銃を切り落としたのだ。

 変身した零次が男達を睨む。


「跪け」


 手をかざすと部下の二人が床に押し付けられる。数倍に跳ね上がった重力に潰され、身動き一つ、指一本動かせられなくなっていた。


「なっ!?」


 リーダーの男は驚きながらも反応は速かった。すぐに銃を捨て後退、ナイフを取り出し構える。

 が、そのナイフも弾き飛ばされてしまった。


「遅い」


 もう一人いた。零次よりも小柄な人物が身の丈はある大剣の峰で男を殴り飛ばした。


「カハっ……」


 一撃で脳震盪を起こし男は気絶。そのまま床に倒れ伏す。


「やるな」


「当たり前よ。今の地位、ノアとのコネで手に入れた訳じゃないんだから」


 背骨に鎌を並べたような異形の剣。骨の鎧を身にまとい、サメの顎のような仮面を着けた青白い肌の女性だ。

 量産型の白いワイルドユニットを装備した女性。いや、少女だ。零次は彼女の事を知っている。

 見間違えはしない特徴的な胸部、身体のあちこちから見えるヒレ。彼女はランだ。

 相変わらず目のやり場に困る格好だが、ランの腕前に問題は無さそうだ。

 部屋に降り立った零次に続き、ラン、ライラノス、ゲルローブルが天井の転移ゲートから出てくる。


「あ、あの……」


「っと。花形エレナだな? 私はレイヴン三世。貴女達の保護に来た」


 唖然とする花形家の面々の前に零次は歩み寄る。


「安心してくれ、ここからは我々が護ろう。さて旦那さん?」


 零次に呼ばれギョッとする。自分よりも大柄な、武装した怪人に恐れてる。しかし大きな嘴のある無機質な仮面、その奥底から彼を見る瞳は優しく穏やかなものだった。


「貴方にとって衝撃的な事だったでしょう。ですが奥さんを信じ我々と来てくれた事に感謝を」


「礼を言うのは俺の方だ。まさか……同じ人間があんな事をしているなんてな。どっちが化け物なのか解らなくなるよ……」


 心臓を直接握られたような感覚。一瞬言葉につまるも強く訂正する。


「違う、()()()()()()。アンフォーギヴンは変異しただけ。こちらの地球の人と変わらない。だから貴方の娘がいるんだ」


「……! そうだな。すまない」


 謝罪し頭を下げ、娘を抱く手に力が入り声も震えている。

 彼は知ったばかりだ。それを責めるのも酷だろう。


「少しずつ我々の事を知っていただければ幸いです。では……っと」


「花形さん? 何か凄い音がしたんだけど?」


 隣の住人が物音を聞きつけたようだ。しかしこうなる事は想定済、むしろ望ましい。


「ライラノス」


「はっ」


 ライラノスはベランダに出る。堂々と怪人の姿でだ。おそらく外に男達の仲間がいるだろう。それに誰かが見ている可能性も。彼は自分の姿を見せつけているのだ。


「ゲルローブルは三人を。ラン後ろは任せた」


「うん」


「了解です。さっ、荷物は僕が運びますよ」


 そう言うとゲルローブルは舌を伸ばしてキャリーバッグを掴むと一口で丸飲みした。質量を無視し腹が膨れた様子は無い。荷物が小さくなったのか、はたまた彼の腹の中は異空間となっているのか。不思議な出来事に花形夫妻は目を点にする。


「では行きましょう。フン!」


 ライラノスが手摺に触れると、空気が一気に冷たくなる。周囲の気温が下がり息が白く変色する。

 すると手摺から氷が広がっていった。それは氷で作られた階段。空を走り地上へと続く道が伸びていく。


「凄いな。下手するとホワイト以上じゃないか?」


「お褒めに預かり光栄です」


 氷を扱う力はアームズホワイトも所持している。しかし彼女にこんな大掛かりな物を作る事ができようか? もしかしたら可能かもしれないが、それでも零次にとってライラノスの力は驚くばかりだ。

 二人の力に零次はある事を思い付く。


「ライラノス、君の力で氷の手枷を作れるか?」


「勿論可能です」


「ゲルローブル、あの男を運べるか?」


「できます! 僕の腹は異空間になってますからね。見た目の千倍は収納できますよー」


 零次は仮面の奥底でニヤリと笑う。


「よし、リーダーらしいあの男を連れ去るぞ。何かしら情報を持っているかもしれない。二人とも頼めるか?」


「お任せあれ。ゲルローブル、やるぞ」


「はーい」


 ライラノスは気絶している男の手足を氷で固めるると、ゲルローブルが丸飲みにする。パッと見は怪人に人が喰われるような風景だが不思議と嫌悪感は感じなかった。

 それだけ憤りがあったのだろう。こんな非道な行為をする連中に慈悲など不要だ。

 そうしているとランは外を覗き込む。


「外も騒がしくなってきたわね。流石に目立つか」


 声が聞こえる。突如として現れた巨大な氷の階段に人々が群がる。スマホを構え写真を撮りどんどん注目が集まる。


「よし、行くぞ」


 零次は翼を広げ飛び、ラン達は階段を降りていく。階段はとても長く、降りながらも遠くへと伸び続けていった。

 移動しながら零次はノアに通信を繋げる。


「ノア、こちらは無事保護した。実行犯も一人捕縛した」


『それは嬉しい知らせね。帰ったらゆっくり()()()しないと』


「ほどほどにな」


『解ってるって。じゃあ私も急ぐから。………………気を付けてね、お兄ちゃん』


「お前もな」


 そう一声告げ通信を切った。

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