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パーティーを追放されたボクは冒険者ギルドの住み込みとして働く。【試作版】

作者: 清水裕

1.

「えぇーっ!? つ、追放!? 追放って、どういうことですかっ!?」


 ダンジョンへの遠征を終えて、A級冒険者パーティー『友情の絆』の拠点に帰って片づけを行っていたところを呼び出されたボクは驚いた声を上げます。

 その叫び声を煩そうに耳を塞ぎながら、パーティーのリーダーである剣士のソードンさんが呆れたようにボクを見てきました。

 見た目は短く刈り上げた金髪に緑色の瞳という本当にイケメンという感じですが、気さくで話しやすい兄貴分みたいな人……でした。

 そんな彼は冷たく、いえ……汚物を見るようにボクを見ています。

 他のメンバーも煩そうに耳を塞ぎながら、まるでこちらを見下すような視線を向けてくるような気がしましたが……これも気のせい、ですよね?

 そんな中でソードンさんはボクに語り掛けてきます。


「どうしたもこうしたもないだろう? てめぇがぜんっぜん、使えねぇからだ!」

「う……。そ、それはそう、かも知れませんけど……で、でも!」

「でもじゃねぇんだよ。イリス、てめぇはまったく使えねぇ。だからパーティーのリーダーである俺の権限を持って、今この時をもってこのパーティーから追放する! 以上だ!! 異論は認めない!」

「そ、そんな……。プ、プリスさん! プリスさんも何か言ってくださいよ! ソードンさんが酷すぎます! ボクだって頑張っているのに、いきなり追放って言うんですよ!」


 ボクはパーティーの回復と補助を行う神官であるプリスさんへと視線を向けました。

 桃色のフワフワで柔らかくて長い髪をした、おっとりとした印象の優しい大人の女性。

 きっと優しい彼女なら、無茶なことを言っているソードンさんを諫めてくれるに違いありません!

 そう思いながら言ったけれど、現実は違いました……。


「ん~……、わたくしも、イリスちゃんは要らないかな~」

「え……、プ、プリスさん?」

「だって~、イリスちゃんってば、わたくしたちの疲れを取ることはじゅ~ぶんに出来るけれど~、冒険に関することはぜんぜんダメダメじゃないの~」

「ううっ!」


 頬に手を当てながらプリスさんはおっとりとそう言います。

 事実、ボクは料理を作ったり、掃除をしたりといった家事全般は得意……だと思っていますが、冒険はからっきしでした。

 武器を持ってモンスターと戦うのが苦手だし、足止めを行うための罠を仕掛けると逆に自分がかかってしまうほどに不器用だし、魔法だって家事を行うために使う【飲水】や【着火】といった生活魔法は使えるけど……【火球】や【風刃】といった戦闘系の魔法はまったくと使えません。使っても、威力なんて全然です。

 だから俗にいう雑魚というやつです。


 だけどその分、ボクは拠点でのお留守番や、遠征でも料理や皆さんの身支度を任されていたので、そちらを懸命に頑張りました。

 それをアピールして何とか追放をなかったことに……!


「で、でも、ボクは皆さんのために美味しい料理を作ったり、ポーションを作ったりとか、汚れているお部屋の片づけだってしていたりして――「そんなもの、誰にだってできるっスよー」――うっ!」


 精一杯の主張を口にしたボクでしたが、呆れた様子で斥候を務めるシィフさんが言葉を重ねました。その言葉にボクは何も言えません。

 そんな彼女へと若干恨めしそうな視線を向けますが、猫獣人の特徴である長い尻尾がボクをバカにするように背中でユラユラと揺れているのが見えました。ちなみに頭の三角耳もピコピコです。自由気ままです。


「イリスっち、いい加減あきらめるッスよ。うちらの中ではもうイリスっちは追放って決まっているんッスから」

「そ、そんな……で、でも!」

「そこまで駄々をこねるってことは、きっぱり言ってほしいッスか? あんたは役立たずなんだから、とっととココから出ていけってんだ、このただ飯ぐらいが!」

「っ! ひ、ひどいです……! で、でも、さっきから何も言っていないガドナーさんも居るじゃないですか! ガ、ガドナーさん! ボクがいなくなったら困りますよね? ガドナーさんもボク特製の丸焼き肉が食べられなくなるのは困りますよね? ね?」


 一縷の望みをかけながらボクは腕を組んだまま黙っている筋骨隆々の盾士のガドナーさんへと声を掛けます。

 ぼさぼさとした黒い髪と何も言わない様子から一見怖そうに見えますが、根はやさしくて力持ちな男の人で困ったときは助けてくれるに違いありません。

 ボクが作った特製丸焼き肉を骨を掴んで齧りつく姿は豪快だけど凄くカッコいいとさえ思っていました。

 ですが、ガドナーさんは返事がありません……。いえ、それどころかこれって……。


「ね、眠っています……」

「あははー! おっさんも面倒ごとは嫌いッスからねー。ああ、マジクさんも追放するのに賛成だから、もう寝るって言って部屋に籠っちゃったッスよー」

「そ、そんなぁ……」


 ここには居ない魔法使いのマジクさん(ちょっと(どころではない)エッチな見た目と性格のお姉さん)にも見捨てられていることを知って、ボクは項垂れます。

 みんなボクが出て行くことを望んでいるのが分かります。

 そんなボクへとプリスさんが何時ものような優しい笑みを浮かべながら、祈るように手を組んで……ボクへと別れを告げます。


「イリスちゃん、今までありがとうね~。新しい職場が見つかることを祈っているわ~」

「というわけで今すぐ出ていけ、イリス。それともオレがボコボコにして追い出してやろうか?」

「それとも、うちが創った特製のクスリを打って頭をクルクルパーにしてスラム街とかにポーイってしたらいいッスかね? きっと浮浪者大満足ッスよ!」

「うっ、ううっ、うわ~~~~~~んっ!!」


 何時ものような口調、だけど出てくるのは出て行けという言葉。

 しかもひどい言葉がソードンさんとシィフさんから出てきます。シィフさんの言っている意味は分かりませんが怖気が走ります。

 それに耐え切れず、ボクは泣きながら拠点から飛び出していきました。


 この日、ボクは数年間所属していたパーティーから追放されました。


2.

「……申しわけありません、イリス様。貴女の望むようなパーティーはこのギルドには存在しません。というよりも、冒険者ギルドには貴女のような方を雇いたいというパーティーは居りません」

「そんなぁ……」


 拠点から飛び出したけれど……、どうすれば良いのか分からなかったため、ボクは冒険者ギルドへと向かいました。

 そしてよくお話をしていた受付のお姉さんへと『友情の絆』を追放されたことと新しくパーティー加入の申請を行いました。けれど返ってきた返答は悲惨なものでした。

 その言葉にボクは項垂れ、落ちこみますが……さらに追い打ちをかけるようにお姉さんは話を続けます。


「イリス様は家事全般は得意なのは知っているつもりです。ですが拠点を持っている冒険者パーティーはこのギルドでは『友情の絆』のみでした。他の冒険者パーティーたちは大半が宿や当ギルドの宿泊施設にて寝泊まりを行っています。ですのでイリス様のように家事のみ行う方は冒険者パーティーから煙たがられる存在となっています」

「そう、なのですか……」

「はい、せめて自分の身を護ることが出来て、ある程度の補助も行えることが出来たなら……多少なりともハードルは下がったと思われます」


 お姉さんは分かりやすく説明を行ってくれますが、凄く申しわけが無さそうな表情です。

 悪いのはボクなのに、お姉さんを困らせてはいけませんよね……。

 そう思いながらボクは立ち上がると、頭を下げます。


「む、無理を言ってごめんなさい。家事しか出来ないボクが悪いんです。ボクが、わる……うっ、ぐすっ、ぐす……っ!」

「ちょ!? な、泣かないでください、イリスさん! って、ああ、わたしが泣かせたわけじゃありませんからね!?」

「ぐすっ、ぐすっ! ご、ごべんなざい~~~~っ!」


 自分の不甲斐なさに泣きたくなり、ワンワンと泣き出してしまいました。

 そんなボクを見て慌てながらお姉さんが受付から飛び出し、慰めますが泣き止めません。

 というよりも追い出されてから慌ただしかったからか、悲しむ余裕がなかったのでしょう。それが今一気に噴出したのかも知れません。

 そう思いながら泣き続けるボクはお姉さんに手を引かれて、受付奥の休憩室へと連れていかれました。


「…………落ち着きましたか?」

「ず、ずびばぜん……」

「いえ、気にしないでください。色々と我慢が限界だったんでしょうし……。どうぞ」

「ありがとうございまずぅ……ずずっ、うぅ、おいしいです……」


 休憩室の椅子に座らされ、しばらく泣いていたボクですが少しずつ落ち着きを取り戻していきました。

 そんなボクへとお姉さんはカップに入ったお茶を差し出し、受け取って口を付けます。

 じんわりと温かいお茶は口の中に広がり、体を温めていきました。

 考えるとソードンさんに追放云々と言われたときよりも前から、今日は何も食べてもいませんでしたし、水も飲んでもいませんでした。

 ボク自身、拠点に帰ってから料理を作ろうと思っていましたし……。

 ソードンさんたち、ごはん食べてるでしょうか……。


「それで、イリスさんはこれからどうするつもりですか?」

「え? ……あ、そう、でした」


 追い出されたけれど、ずっと一緒だったみんなのことを心配していたボクへとお姉さんは尋ねてきました。

 一瞬……何のことかと思いましたが、すぐにこれからの身の振り方だと思い出します。

 お姉さんの話だと、ボクを雇ってくれそうな冒険者パーティーは居ないそうです。

 ……でも、この街以外なら雇ってくれるパーティーも居るはずでは。

 そんなことを思い始めているボクへとお姉さんは鋭い視線を向けます。


「イリスさん。もしかしてひとりで街を出て、違う街に行こうとか思っていませんか?」

「は、はい……。他の街ならきっと雇ってくれそうなパーティーも居るでしょうし……」

「失礼ですがそれはお勧めできません。イリスさんは戦うことが出来ませんから、ひとりで街の移動なんてしたらモンスターに襲われるか、もしくは野盗に襲われてしまうのが目に見えています」

「う……けど、急いで逃げたら問題は……」

「甘いですよイリスさん。モンスターに襲われて人知れず死ぬだけならまだしも、特定のモンスターや野盗に襲われた場合は……もう、女性として生きているのが辛いほどのことをされるんですよ!?」

「そ、そうなのですか……?」


 真剣な表情をして話すお姉さんの姿に嘘ではないことが分かり、ボクは震えます。

 というか女性として生きるのが辛いほどのことって、どんなことをされるのでしょうか……。

 よく分かりませんが、きっと絵にも描けないことなんでしょう。


「でも、ボク……お金も持ち出していませんし、泊まるところだってありませんから……雇ってくれるパーティーを見つけないと……」

「そ、そう言われると困りましたね……。わかりました、ちょっと待っていてください」

「は、はい……」


 何かを考えながらお姉さんが立ち上がり、部屋を出て行きました。

 その際、ぶつぶつと呟きながらお姉さんが出て行きましたが……「このままだと危険」とか「悪いやつに騙されそう」とか言っているのが少しだけ耳に入りました。

 えっと、どういうことでしょう? 何が危険なのでしょうか。


 そんなことを思いながら、お茶を飲んでしばらく待っているとお姉さんが戻ってきました。ですが、戻ってきたのはお姉さんだけではなく、男性の人も一緒です。

 って、あれ……この人って。


「お待たせしました、イリスさん。待ちましたか?」

「い、いえ、大丈夫です。その……お疲れ様です、ギルドマスターさん」

「おう、大変だったなイリス。話は聞いてるぞ」


 日に焼けた健康的な肌とツルッツルの頭を輝かせながら、この冒険者ギルドのマスターである男性はボクに話しかけてきました。

 どうやらボクが追い出されたということはもう聞いているようです。

 そう思いながら下げていた頭を上げます。

 でも、何でギルドマスターさんが一緒に来たのでしょうか?


「どうしてギルマスが一緒に来たのかって顔をしていますね?」

「はい、あの……どうしてですか?」

「あー……こいつに頼まれたということと、都合が良かったと思ったから尋ねようと思ったんだよ」

「頼まれた? 都合が良い??」


 意味が分かりません。首を傾げるボクにお姉さんが口を開きます。


「イリスさん。もし良かったらなんだけど、このギルドでしばらく働かない?」

「え、ギルドで……ですか?」

「ええ、それならイリスさんの家事能力も役に立てるし、わたしたちも大助かりだって思うのよ。ギルマスもイリスさんなら信用できるって言ってたし」

「イリス。お前の家事スキルは聞いている。料理に洗濯、ベッドメイクに掃除と色々出来るんだろう? それをここで使ってくれないか?」

「もしも、別の信頼できるパーティーとか職場を見つけたら、辞めても構いません。どうでしょうかイリスさん。部屋も用意しますし食事だって出ますよ」


 お姉さんとギルドマスターさんの言葉に驚きました。

 それと同時に悩みというよりも、冒険者として活躍したいと心のどこかで思っているボクが居て……本当に良いのかと悩んでしまいます。

 でも、眠る場所とごはんが出るのは魅力的です。揺らいでしまいます。


「それに、少しばかりですが給料も支払いますよ。そのお金を頑張って貯めて、他の街に移動するために冒険者を雇うなり、乗り合い馬車に乗って移動するということでも構いません。どうですか?」

「ぅ、あ……、その、す……少し、だけ、ですよ?」


 こうして、ボクは色々な魅力に負けてしまい、冒険者ギルドで住み込みで働くこととなりました。

 そんなボクを見ながら、お姉さんとギルドマスターさんがホッと胸をなでおろすのが見えましたが、ボクってそんなに危なっかしいのですか?

 そう思いながらちょっとだけ頬を膨らませてしまいました。



Ex.

 ボロボロと涙を流してイリスが拠点から走り去っていくのを見届けながら……オレは、オレたちは必死に我慢する。

 正直、みんなで一斉に謝って追い出す理由を話してあげたい。だけど、そうしたら彼女はあんなことになったというのに、また無理をしてでもオレたちに付いて行こうとするから……くそっ。


「やっと行った、か」


 ふぅ、と心の中の葛藤を吐き出すように重たく溜息を吐きながら、オレは体から緊張を解く。

 すると他のメンバーからも緊張が解けたのが分かった。

 それと同時にメンバーからオレを非難する視線が一斉に向けられる。


「ソードンさん、本当にこれでよかったのですか~?」

「正直、うちもイリスっちにあんな酷いこと言うのは辛かったッスよ? あられもない姿になるイリスっちなんてうちも見たくないッスよ」

「……寝たふりは、もう良いか? そして丸焼き肉は食べたかった……」

「あ、ああ、すまなかったみんな、こんな役割を押し付けてしまって……、本当にごめん」


 開口一番に出た言葉に対して返事をしながらオレは頭を下げる。

 だけど、こうするしかなかった。


 さっきも嫌味ったらしく言ったけれど、イリスは冒険者としての才能は本当に皆無だった。

 だけど代わりに彼女は料理やベッドメイク、洗濯といった家事を行えば他の誰よりも才能があった。いや、ありすぎたとさえ思う。

 彼女の作ったご飯は本当に美味しかったし、食べると妙に元気が湧いてきた。

 本人は美味しく食べてほしいと想って作ったと言っていたから、愛情が込められていたのだと思う。


 彼女がベッドメイクした寝床の寝心地は本当に最高だった。前日の疲れが一気に取れたかのような気さえもするほどだ。

 本人は照れながら、元気になって欲しいと想いながら支度をしたと言っていたから……やっぱり思いやりが込められていたのだ。

 その時点でオレたちはイリスを大事だと思っていた。


 このためだけに頑張れると言えるほどだったというのに、更には料理の範疇だと言ってポーションを用意することも度々あった。

 そのポーションは怖いほどに効果があり、オレたちは本当に驚いたのだが彼女はあり合わせの物で作ったと言って恥ずかしそうにしていた。

 もう全員が彼女にメロメロだったと思う。


 可愛くて天然なところが目立つ可愛い妹分。それがオレたち共通の認識だった。

 二度言うほどに可愛らしい妹分だった。

 だからオレたちは野営の際にも彼女を同行させた。

 強いモンスターなどが出た場合でもオレたちで守れば問題ない。そう思っていたのだが、つい先日にその思いは簡単に崩れ去ってしまった。

 ダンジョンに遠征に行ったとき、複数のモンスターに囲まれての混戦となり……彼女を危険に晒してしまったのだ。

 オレたちの間をすり抜けてイリスへと近づいたモンスターの攻撃を受けて、彼女は壁に背中を打ち付けて気を失うイリスにオレたちは血の気が引いてしまった。

 だけど、どういうわけか彼女は気を失っていたけれど、大きな怪我はしていなかった。


 だが、それを見てオレたちはいつか彼女を守れずに死なせてしまうのではないかと思ってしまい不安となってしまっていた。

 だから、ダンジョンから戻る際に……彼女が気を失っている間に仲間と相談して、追放という形で彼女をパーティーから追い出すことに決めたのだ。

 だけど何時ものオレたちの口調で言っても、納得はしないはず。

 そう思いながらワザと酷い態度で追放を行えば、オレたちが酷い人間だと思って絶対に近づこうとはしなくなるに違いない。そうすれば、オレたちに無茶をしてでもついて行くということをしなくなると思ったからだ。

 本当なら、もっと美味しいご飯を作ってもらってほしいし、安らぐ場所を護っていてほしいと思う。だけどもう厳しいんだ。

 護ると心で誓っていたというのに、ダンジョンで彼女を危険な目に遭わせてしまった。それはオレたちの力不足に他ならない。

 自身の弱さを実感しながら、気持ちを切り替えて話を始める。


「それじゃあ、これから先の話を始めるけど……良いか?」

「大丈夫ですよ~」

「了解ッス」

「大丈夫だ」

「マジクは……いや、今は思う存分泣かせておこう。それじゃあ、話を始めるぞ」


 仲間の返事を聞いて、最後の一人が絶賛自室でイリスを追い出したことにワンワンと泣いていることを思い出してから、シィフに先行してもらって得た情報を話し合うことにする。

 元々、ダンジョンに潜った理由はギルドからの依頼を受けたからだった。

 新たに街から1日移動した場所に向かった場所にある山の中腹に創られたダンジョン。そこがどうなっているかを調べてほしいというものだったのだ。

 けれど結果は2階層に入った際にモンスターに囲まれて、中断を余儀なくされるものだった。


「うちが調べたところだけッスけど、調べた限りだとうちらが断念した2階層は初歩の初歩だったみたいッス……」

「それは本当ですか~? 2階層に入ったばかりだというのに、出てくるモンスターが上級に一歩手前の中級ばかりでしたよね~?」

「本当ッスよ。気配を消して奥まで偵察をしたんスけど、そこには次の階層に向かうためのらせん状の階段があったッスでも、そこから見えた底には上級クラスのモンスターがうようよ歩いていたッスから……。そこから先に何があるのかなんて調べることは無理でしたッスよ」

「そうか……。1階層から2階層の階段はなだらかな坂道だったけど、次の階層への道はそうなっているのか」

「わかんないッスよ。正直、そこまで向かう通路でもうちらが戦った中級モンスター……群れになると上級になるやつらばかりだったから、気配を隠すのに必死でしたッスから」

「あのとき襲われて囲まれたときも危なかったのに、それが多くいる……更にそれよりも上のモンスターがうようよなんて……マジか」


 シィフの言葉にオレは頭を抱える。

 これはもうオレたちの手には負えないとしか言いようがない。

 そう思いながら、オレは提案をする。


「ギルマスに依頼して、国から騎士団と勇者を派遣してもらうように頼むべきか……」

「勇者様ですか~?」

「勇者、か……」

「オレたちには無理だが、戦うために召喚されたっていう勇者ならダンジョンを攻略することも簡単だろう?」

「それはそうッスけど……ねえ?」


 提案した内容。

 それはモンスターが蔓延り、それを統率する魔王がいるこの世界へと女神さまの力で召喚された勇者を派遣してもらうというものだった。

 だが、そう言ったオレの言葉に全員が難色を示した。

 当たり前だ。聞いた話だと召喚された勇者は本当に強いけれど、自分勝手な人間だと言われているからだ。

 夫が居る女を孕ませたという話も聞いたことさえあるし、気に食わない相手を殺したとさえ聞いたこともある。

 噂かも知れないけれど、火のない所に煙は立たぬという言葉があるから……その人物は信用が出来なかった。

 けれど、あんな危険なモンスターがダンジョン内で増えていくと遠くない将来にダンジョンから溢れかえってしまうだろう。

 そうなればこの街も危険となる。つまりは……イリスも危険に晒されるのだ。


「イリスを、この街を守るために仕方ないんだ。分かってくれ」


 オレの言葉に全員が黙る。その沈黙を了承と取り……オレはギルマスへとダンジョンを探索した結果と勇者の派遣の必要性を伝えることとなった。

 その際、彼女がギルドで働くということを知り、オレはギルマスへと頭を下げた。


 同時に……可愛い妹分を守るためにオレは頑張って強くなることを心の中で誓うのだった。

相手を思っての追放ものってあまり見ないのですけど、ありましたっけ?


とりあえず、纏まったらいつか続きを書いてみたいと思っています。

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