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何かいる

作者: さち


「っあぁ〜!!疲れたぁーーっ!!」



残業が続いていてようやく明日は休みだ。

帰ってそのまま前のめりにソファへ倒れ込む。


「…頑張った、私。…うん。」


ずっと張り詰めていた糸がプツンと切れたよう。

メイクも落とさずにそのまま寝てしまいそうになる。



「ゔぅ〜。寝てしまいたい。寝ても、いいかな…?」



………はっ!?



「いやっ!駄目だっ!!せめてメイクは落とす。あと少し頑張れ。」

パンッと顔を叩いて気合いを入れる。



顔を洗って着替えるだけなのに、かなり気合いを入れて頑張らないとしんどい。



「はぁ〜あ。…新人さん、急に辞めちゃうんだもんな〜。参ったよ。」


ブツブツと文句を言いながらも服を脱ぎ、少しずつ寝る為の準備を進める。



ようやく洗面所に辿り着き、フラつきながらもメイクを落として歯を磨く。


「…もう寝よう。うん。それがいい。」


結局、ベッドまで辿り着けずに今度は仰向けでソファに寝転がる。




「うぅ〜!背中がバキバキだ。……もう、無理。」

手を頭の上へ伸ばしてグーッと背中を伸ばした。


もうそこからは動けない…。








その後、明かりのついたままの部屋には私の寝息が静かに響いていた。


もちろん他には誰もいない。








気づいたら眠ってしまっていて、いつもならロフトに上がって寝ているはずなのに今はソファ。



夜中、冷たい何かが顔にかかった気がして目が覚めた。


「……う、ん〜?な、なんだ?」

頬っぺたが濡れている。



「…え?これ、なんだ?」

手で触ってみて何だかヌルッとした感触に背中の毛がゾワゾワッと逆立つ気がした。



寝起きだし暗くて目が慣れていなかったのもあって、ようやくボンヤリと辺りが見えてくる。


「あ〜またソファで寝ちゃったんだ。…うぅ。ロフトに上がるのしんど。」


少し大きめの独り言の後、再び何かが顔にかかる。

「うぇ〜!何なの!?これ。」




ガサッ




ふいに上から物音がして全身が固まる。


「…え?いや、私一人だよね。」

声にならない程の小さな声で言う。


何かを声に出さないと怖くていられない。


再び、ガサガサッと音がする。


何故か気づいていないフリをしながら、ロフトの方へと視線を向ける。



何かが二つ光って見えている…。


「…え。アレ何?」






次の瞬間。



ピキーンッという感覚と共に全身が硬直した。

…金縛りだ。


「いやっ!嘘でしょ!?無理無理無理!!」

かろうじて小さく声が出るが、指の先すらも動かない。


「…え。こういう時ってどうしたらいいの?」

全く動けず困惑している間に、さっきまで見えていた二つの小さな光が移動し始めたのが分かった。



「えっ!怖い怖い怖い!!コッチに来てる?嫌だ!嘘でしょ!?」


何とか体を動かして逃げないと!

分かっていて必死に動かそうとしてもがく。



でも、何処もかしこも動かない。


「うわぁ!来てる!?コッチに来てる!ヤバいヤバいヤバいっ!!」




ガサガサガサッ




音がして、仰向けに寝ている私の顔の目の前に二つの小さな光が来たのが見えた。


思わずギュッと目を瞑る。


「ハァ…ハァ…ハァ…」

息遣いが耳元で聞こえる。



「無理。目、開けられない!怖いっ!!」




ピチョンッ




頬にまた何かが当たる。


「うぅ…気持ち悪い。怖い。」




すると突然、今まで聞こえていた息遣いがスッと聞こえなくなった。

「あれ?いなくなった…?」


辺りが真っ暗過ぎて聴覚だけじゃ今がどんな状態か分からない。

何も聞こえなくなってから少しして、フッと体が軽くなる感覚がした。



手を握ってみる。


「…動く!」


少しずつ動かしてみる。

動く。…全部動くかな?




ガバッ




その場で起き上がる。








次の瞬間。





電気がパッとついた。







あれ?なんで電気…?

そういえば電気つけっぱなしで寝ちゃってたはずなのになんで真っ暗だったの?






トントン。

肩を叩かれる。




「いやいやいや。これ振り向いたら絶対ヤバいやつじゃん!!」




トントントン。

恐怖で動けずにいるとまた叩かれた。




寒気が止まらない。

ガタガタと全身が震えている。







「…チッ。こっち向けよな。」






低い低い大人の男の人のしゃがれた声でそう言った後、その何か分からないモノは静かに部屋を出て行った。




バタンッ




ドアの閉まる音が響いた瞬間、身体中の力が抜けてソファから滑り落ちるように床にへたり込んだ。


「ハァ〜。…今の何?」

その時、ハッと気づいて慌てて玄関のドアへ走り鍵を閉めた。

チェーンもかけて、ホッとしたのも束の間。





ガチャガチャガチャッ!!




ドアノブを激しく外から動かされる。





「ひぃっ!今度は何っ!?」

その場に腰を抜かして座ってしまった。




ガチャガチャガチャガチャ…




ずっとそこにいてドアノブを動かしているようだ。

「も、もう無理〜。」



「ねぇ〜開けてよ〜!…おいっ!開けろって!!」

外でさっきの男の声がした。



「無理無理無理無理!何なの!?怖すぎるんですけど!!」



「お〜い!そこにいるんだろ?あーけーろーよーっ!」

今度はドンドンと音を立ててドアを蹴り始めた。




私は慌てて部屋へ戻り、スマホを握り締めてドアに向かって叫んだ。


「警察呼ぶからっ!アンタなんか捕まっちゃえ!!」




「…マジかよ。」と呟く声が聞こえて、バタバタと走って行く足音がした。




「ハァ。…どっか行ったかな?」


まだ居たら怖いしここまで来たらどんな顔なのか見てやろうと、かなり勇気を出してドアに近づく。




ふぅっ。

一呼吸置いてドアスコープから覗く。



「…誰もいない?あぁ、良かった。警察に電話どうしよう?」



玄関のドアの前に誰もいない事を確認してホッとした。

ソファまで戻り、スマホを見て時間を確認した。



深夜の2時過ぎ。

「…怖かった。もう寝られる気がしないよ。どうしよ。やっぱり警察に電話しようかな?」




ふと思った。

あれ?あの男は何処に居たんだろうか?

やっぱりロフトに居た?



でも、あのタイミングで後ろに回って肩を叩く…?



なんだろう。違和感が…。






次の瞬間、バチンッと電気が再び消える。




「…ひっ!え、な、何っ!?なんで?」




慌てて手に持っていたスマホで辺りを照らす。




「…な、何もいない?いや、でもそんなはず。」




ピチョンッ




また何かが垂れる。




…ロフトからだ。

咄嗟に上に向けてスマホで照らす。




「…何かいる?なんで?ね、ねぇ。怖いよ。」




バサッ




何か布のようなモノが頭に落ちてきて覆われた。

身動きが取れない。




口を何かで塞がれたようで何も喋れなくなる。





「んーーーっ!うぅっ!んぅー!」




必死で抵抗するが、体も顔も押さえつけられていてジタバタする足だけが床に当たり、音を立てている。





すぐにパッとついた電気でソレの正体が明らかになる。




…イヌ?いや、オオカミ?

え?コレ何?




毛むくじゃらの体に耳までパックリ開いた口。

ダラッと舌が出ている口からは、ヨダレのようなモノが垂れていて、隙間から鋭い牙がたくさん並んでいるのが見えた。




「んっ!うぅーーーーっ!」

私は目を見開き、さらにバタバタと暴れて逃げようとする。



しかし、全身がガッチリと固定された状態で足首から先しか動かせない。




目の前で大きな口がさらに大きく開けられた。

ダラダラと垂れるヨダレが顔を濡らす。



気持ち悪くて怖くて全身がブルブルと震えた。

「…あぁ!もう駄目っ!!」





どうにもならない恐怖でギュッと目をつぶった。













「…ハァッ!!」

ソファの上で飛び起きた。




「ハァ…ハァ…ハァ…」

心臓が激しく打っているのがわかる。



ドクンッドクンッと耳が痛くなる程に音が響いている。





スゥーッ




……ハァーッ。





大きく息を吸い込み呼吸を整えた。

そしてボソッと呟く。




「…ゆ、夢?え、嘘。こんなにリアルな夢、ある?」





自分の顔や体をペタペタと触って確認した。




何処にも異常はない。…はずだ。




「…えぇ〜!何だったの!?夢だとしても怖すぎるでしょ?…はぁ。もうヤダ。」





付けっ放しになっていた電気を消すと外が白々と明るくなってきていたのが分かった。

スマホで時間を確認する。



4時半過ぎ。

疲れているはずなのに随分と早起きだ。



一体、アレは何だったのだろうか…?

何だか違和感を覚えて洗面台へ向かった。




鏡を見て驚愕した。




「…嘘。私の顔が……。」



耳まで裂けた口。

ギョロっとした目。

ズラッと並んだ牙にダランと垂れた舌。







「いやぁーーーーーーーっ!!」




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― 新着の感想 ―
[良い点] こわい、こわい、と思いながら読み進めてしまいました。 ラストで、ひぇーでした。
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