はじまりと出会い
更新はあまり早くないです。
「おまえ、まだ、そんなの持ってるのか? 早く捨てろよ」
「これは、わたしにとって、大事なもの、なんです!」
いつも、これだ。
わたしが、髪につけている『リボン』が原因で口げんか、が始まる。
「オレは、それが目障りなんだよ!」
「なら! 見えなきゃいいんでしょ?!」
「ちょっと待……!」
屋敷をとびだし、わたしはひた走った。そして、よく行っていた、街のお店に、逃げこんだ。
「おや、また飛び出してきたのかい?」
「だって、彼はこれを、捨てろ、というのよ?」
わたしがリボンを指でつまむと、店のおかみさんが笑っていた。
「あの方にだって、それが嫌な理由が、あるんだろうさ」
「でも……」
「おまえさんが、怒りをぶつけられる相手にであったのは、いい事だろう。だけど、あんまりしていると、愛想つかされちまうよ?」
その通りだ。
わたしは、店の2階にあがり、一室に入ると、膝をかかえて、かれとの思い出をなぞりはじめた。
※
レティセラ、それがわたしの名前。
わたしの家は、旧家であっても、今となっては、地位も、財産もほとんどない、没落貴族。
前妻との子であったわたしと弟は、後妻との間にできた子とは違い、父親からも、見えないもの、のように扱われて来た。
「おまえは、明日から、『ウォード家』の使用人にすることに決まった」
「ウォード家ですか?」
ウォード家は、王様の宰相をしている位の、高い貴族。だけど、ずいぶん急な話だとおもった。
「うちも、そろそろ財産が尽きそうでな。これから4つ季節が過ぎるまでに、そこの息子と恋仲になって来い。それができなかった場合、お前は、海の向こうの相手と、結婚させる事にした」
「そんな……」
タマノコシをねらえだなんて、無茶なはなしだ。
「いいのか? ダメなら息子に頼むしかないんだが」
レティセラは、無理だと言いかけて、ワザと笑ってこう言った。
「分かりました。希望に添えるようやってみます」
15才、まだ寒い春先のことだった。
次の日、弟のデルマにお別れをし、迎えにきた馬車でウォード家にむかうと、ついた先で馬車をおりて、レティセラは目を、ぱちぱちさせた。
(なに? ここ……でっか……)
門も、建物も、ウマ小屋でさえ、うちとは大違い。その大きさに、最初は驚いていたものの、1ヶ月過ぎたころには、もう、仕事にも、人にも慣れて、レティセラは今日も、生き生きと、シーツの交換をしていた。
(父様には、ああ言われたけど、普通にムリだよね)
タマノコシと言われたけれど、ウォード家の令息であるレンヴラント様には、あいさつはおろか、姿を見かけることだってしていない。
どっちにしたって、あの家じゃ、わたしは幸せになんてなれないし、どうせ1年後には、どこかに嫁がされる。弟のことは心配だけど、同じ1年ならここで過ごす方がいい。
そう、思って、レティセラは変えたシーツを持ち、廊下を歩いていた。
ドンっ! と何かにぶつかり尻もちをつき、持っていたシーツが散らばった。
(いてて……)
「なんだ? お前」
頭の上から声がして、見あげると、急いで顔をふせて姿勢を直した。
「も、申し訳ございません!」
「あたらしく来たメイドか? 悪いが、邪魔だけはしないでくれ」
邪魔、とは?
伏せたままの姿勢で、靴が動くのを見ると、ゆっくり顔を上げる。
綺麗な紺色の髪に、整った顔立ち。すらっとして背が高い。ウォード家の御令息。
レンヴラント=D=ウォードその人だった。
(おぉ……カッコ良い)
「歩くのにジャマだ」
そう言って、彼は歩いて行ってしまった。
「…………」
あー、うん。見た目だけだった。
レティセラは、ふり払うように首をふり、散らばったシーツを集めると「ないわ」と言って、反対のほうに歩いて行った。