07 出戻り出撃②
――月面第七都市『バクムーン』近郊
「――こちらアラン。予定進路を進行中。道中における接敵、抵抗もなし」
『快適な宇宙の旅でーす。気分的には快適ではありませんがー』
『了解した。しばらくすれば目標である月面第七都市『バクムーン』だ。制圧を担当する本隊到着まで、外縁部にて警戒を続けるのが今回の仕事だ。ぶっ放そうなどと考えるんじゃないぞ』
「了解」
『了解でーっす』
【ガーベイジ】のモラキンからの注意の意味も含めた指示に対し、それぞれの機体を『バクムーン』へ向けて稼働させるアランとグエンはコクピットから返答した。
今現在、アランの【コアⅡ】とグエンの【ケルベロス】は月面上を最小限にスラスターを吹かした移動で月面第七都市『バクムーン』へと向かっている。目的は先ほどモラキンが告げた通り、本隊到着までの警戒実施だ。
他の都市と比べても民間の企業が多く集まっており、軍事的要素が小規模な兵器製造工場程度だったために攻略が見送られていたのが『バクムーン』だった。想定では、【ガーベイジ】の現戦力でも制圧可能と想定されるほどの戦力しかないとされていたのである。
『いやー、お手軽な仕事とはいえ、やる気がでませんね』
「そういうなグエン」
『だって、俺たちみたいなのにこんな仕事振るとか、本隊が『バクムーン』を重要視してないってことじゃないですか』
「戦術的価値が低いのだから仕方がない。俺たちはただ回された仕事をこなすだけだ」
『はいはい。それなりにやりますよっと。あ、それじゃちょっと失礼します』
「ん? どうしたグエン」
気だるそうに返答したグエンは【ケルベロス】を減速させ始め、並走していた状態からアランの後方へと回る。その奇妙な行動にアランが疑問を投げかけた直後、コクピット内部にアラーム音が響き渡った。
「これは……」
アラーム音の正体は『ロックオン警告』。他の機体から攻撃目標として選定されたことをアラーム音は警告していたのである。
本来であればすぐさま対処に移るべきなのだが、アランは動き出そうとしない。コクピットモニター端に映し出されたロックオンしてきた機体が、グエンの乗る【ケルベロス】だったからだ。
『ロイを誤射った原因の”誤ロック”です。話に聞いていたとはいえ未調整の物渡すとか、余程曰く付きのこれを早急に手放したかったんすね』
「こちらで調整しろということだな」
『だとしても、せめて調整に必要なだけの時間が欲しかったっすよ。これじゃあ、もし戦闘になったら大尉を誤射しちまうかも』
「では、俺の死因はお前からの誤射で決まりだな」
『冗談ですって。ロックオン機能切ってマニュアルで使いますんでご安心を』
「逆にそちらのほうが心配だ。最後にマニュアルでの射撃を行ったのはいつか覚えているのか」
『……まあ、何とかなりますって。気楽にいきましょ大尉』
「背中には注意しないとな」
苦笑交じりのアランの一言を聞いたグエンは発言通りにロックオン機能をオフにし、全射撃兵装の照準機能をマニュアル操作へと切り替える。アラーム音が消えて静まり返ったアランのコクピット内だったが、直後に響いたのは機体同士の接触危機を知らせるアラートだった。
アランの【コアⅡ】側面すれすれを進んで進行方向前方へと躍り出たグエン駆る【ケルベロス】は、自身が問題ないことをアピールするかのように派手な変則機動を披露し始めた。
無駄な回転軌道によって両腕部と背部に取り付けられた砲塔先端が月面すれすれを掠め、何度も衝突警告音がけたたましくグエンのコクピット内部に響き渡る。注意しようにも警告音と高揚しているグエンの声が邪魔でアランの声は届きそうにもなかった。
「……ん?」
呆れ顔でグエンの操縦をモニター越しに見守っていたアランのコクピット端に、目的地方面より高熱源反応を感知したことを知らせる表示が現れる。
その正体を突き止めるべく最大望遠にて『バクムーン』を確認しようとした、直後。
「あれは……!」
『バクムーン』のある方角から、”3つ”の光源が星の海へ向けて突き進み始めていた。