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03 使い捨て部隊③

 本来なら巡洋艦に搭載される高出力プラズマエンジンが超高速航行へのエネルギー供給だけでなく、機体各部の兵装を万全な状態へと温め始める。圧巻の勢いにパイロットたちはシートへと押さえつけられながらも準備に取り掛かっていた。



「打合せ通り、”誘爆”を防ぐために適度に距離をとれ。ARP散布領域化に突入後、両側面上部の電磁砲レールガンの牽制射を放ちつつ、試作重粒子砲での超長距離砲撃を実施する」


『はいはい、了解です大尉ー。生真面目ロイとフィリアちゃんは大丈夫かーい?』


『こちらは問題ない』


『や、やはり退却しましょう。こんなやり方馬鹿げて――』


『大尉―。残る二人も準備万端の意気揚々といった感じでっす。後は死にに行くだけですね』


『そうか。頼もしい限りだ』


『なんでこの状況で焦らないんですかあなた方は!?』



 回線越しにて平時と全く変わらない3人に対し、青ざめて必死に操縦桿を握るフィリアが悲鳴にも聞こえる怒声を上げる。そんな彼女の態度を見てグエンは楽しそうに笑っていた。

 そうこうしているうちにも彼らを乗せた機体は猛スピードで突き進んでいく。ほどなくしてコクピット内の熱源接近アラームが鳴り響き、モニターでも遠方から迫るそれらの姿を確認できるほどになっていた。

 やってきた戦いの時への覚悟を今一度確かめたアランは、補助的機能しか持たない操縦桿を握りしめる。そしてその冷めた目の奥底で勢いを増し始めた闘志の炎を表面化させ、告げた。



「ARP散布領域に突入する。突破までの間、死に物狂いで突き進め」


『『了解』』


『こんな……、こんなの、間違ってる!』



 二人分の返答と一人分の悲鳴を回線越しに聞いた直後、進行先にて連鎖的に飛来したミサイルが爆発し、煌めく粒子をまき散らした。

 間を置かずに光を失い宇宙空間へと溶け込んでいく粒子。広範囲にわたって散布された領域化に4人の”ヤドカリ”が突入した瞬間、強力な電波障害が発生し始めた。

 短期間の効力ながら、散布化におけるあらゆる電波を無差別に拡散する。それが連盟が今大戦以前の鎮圧活動などでも使用してきた粒子兵器、『ARP』である。

 治安維持の名目での制圧行動にはうってつけのこのARPは安価な生産技術が確立されており、空気中だけでなく宇宙空間への浸透、無効力化も早いことから戦闘における妨害手段として連盟が多用しているのだ。



「斉射、開始」



 誰との回線も切れてしまった中で、アランは操縦桿のトリガーを引く。簡易なその動作に応じて機体両側面上部に装備されていた電磁砲レールガンが、第二波として到来した弾道ミサイル群へと超々高速の弾丸を撃ち込み始めた。

 4機の”ヤドカリ”から絶え間なく放たれる攻撃は次々と弾道ミサイルを撃破し、さらに後方へ存在する敵艦隊最前列の艦にダメージを与えていく。こちらが優勢だと錯覚できる光景が展開されたが、数秒経たずしてそれは覆されることとなる。



「――む。被弾? 誰だ」



 モニターの端にて並走していた”ヤドカリ”のうちの1機が、取りこぼした弾道ミサイルの直撃を受けた。”ヤドカリ”の鋏とも言える二門の試作重粒子砲が炎を上げ始める。



「……新入りか。運がないな」



 相当の焦り具合を見せながら速度を落としていく”ヤドカリ”を見て、搭乗者が誰かを察したアランはため息交じりにつぶやく。下部から炎を上げて消えていく機体を横目に見ながら、アランは操縦桿のもう一つのトリガーに指をかけた。

 ヘルメット備え付けの録音機能を首を回すことで起動し、コクピット上部にあるサブモニターに『発射準備完了』の文字を確認したアラン。僅かな間だけ機体操縦をオート航行に移し、最大望遠モードに切り替えたモニターで狙いを定める。

 そして――



「……試作重粒子砲、初の実戦射を開始する。対象は連盟の治安維持軍艦隊。目標補足。……発射」



 ――二門の試作重粒子砲から、高圧縮された超熱量の輝きが放たれた。



 一帯を明るく照らすほどの光量を誇る二筋の光。電磁砲レールガンの弾速を超える速度で突き進む光は、見事に治安維持軍の艦隊を突き抜けていった。

 続くようにして残る2機の”ヤドカリ”からも砲撃が行われ、敵艦隊軍に風穴を開けていく。壮観な眺めだとアランが心の中でつぶやいた矢先、4機の”ヤドカリ”はARP散布領域を通過したのだった。



『――嘘。嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘嘘……! ダメ、こんなの、嫌ぁっ!?』


「フィリア中尉か?」



 通過したことで回復した回線から聞こえてきたのはフィリアの絶叫。かろうじてといった状態で散布化から離脱できたものの、その機体は限界を迎えているようだった。



「慌てるなフィリア中尉。破損部分を切り離し、誘爆を防げ」


『やってます! やってるんです! でも、でも、でもぉ! 反応してくれないんです! 切り離しもできなければ、【ハーミット】から離脱もできないんです!』



 焦りも頂点に達し、絶望に歪み切ったフィリアは泣きじゃくりながら反応しなくなった操縦桿を殴りつけている。痛ましすぎるその光景を見た他の3人は、それ以上言葉をかけることはなかった。

 敵艦隊へと間近まで迫る中、後方へと置いてけぼりをくらったフィリアの機体の各部にて小規模の爆発が発生し始めた。それが機体後方のメインエンジン部に到達する直前、フィリアの断末魔が響き渡る。



『ママぁ、パパぁ!! 助けてっ――』

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