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02 使い捨て部隊②

『こちら強襲艦【ガーベイジ】艦長の『モラキン』だ。アラン大尉の出撃準備完了を確認した。予定通り、作戦開始前の最終ミーティングを開始する』



 アランがエンターキーを押してキーボードを後方へと戻したのと同時に回線が繋がり、モニター中央に艦橋の様子が映し出された。

 回線越しに映る気だるそうな雰囲気漂わせる士官の名は『モラキン・ドーソン』。左手で口元の無精髭をいじりながら艦長席の右手部分のパネルを操作するが、どうやら上手く機能してくれないようだ。

 何度も何度も同じ操作をすることに苛立ちを募らせているのか、次第にパネルを叩く音が強くなっていく。5度目を超えたところでしびれを切らし、艦橋内にモラキンの怒声が響いた。



『おいコラぁ、『ボーデン』!! 艦長席右手のパネルを直しておけといっただろうが!』


『いや無理っすよ。てか言ったじゃないっすか。修理に必要な部品にパチモン回されて駄目だったって』


『それでもなんとかするのが管制官兼艦橋内修理担当のお前の役目だろうが』


『無茶言わないでほしいっすー。今度補給来た時まで我慢してくださいー』


『ったく。これだから嫌なんだよ、扱いが雑でなぁ……。ただの輸送任務担当だったときはこんな……』


『ぼやかないでください艦長ー。皆聞いてますよー』



 艦長席に深く腰掛け、被っていた艦長帽を下げてモラキンはぼそぼそとつぶやく。艦長らしからぬ姿を見せる彼に代わってぺこりと頭を下げて失態を謝罪したのは、モニター端の小さな回線映像に映る『ボーデン』だった。

 金短髪で眼鏡が似合うニヒルなボーデン。そんな彼とモラキンのやりとりは恒例行事のようなものとなっていた。



『作戦開始領域まで後20分。いい加減機嫌直して左手パネルでミーティング進めてください艦長』


『わかったよ。ああ、めんどくせえ俺は右利きなんだってのに』



 ボーデンの指摘を受けてモラキンは非常に面倒くさそうに左手側のパネルを叩き、作戦要項を本作戦に投入される各機のモニターへと表示していく。それらを全て表示させた後、ボーデンの補助操作によって各機コクピット内の様子がモニター端に表示された。



『そんじゃ、敵さんが気づく可能性もあるからてきぱきと進めるぞ。俺たち、もといお前たちに任されたのは、敵艦隊への奇襲だ』



 モニター上に表示された宙図が示すのは”月”。その月の表面には複数のドーム状の生活圏が形成されており、その中でもひときわ大きな街がある場所へと青く表示された友軍が攻め込んでいくのが映っていた。

 


『すでに月面最大規模の都市であり、連盟の治安維持宇宙軍の拠点である『ウルフムーン』に我が軍の主力艦隊が攻め込んでいる。戦況は上々。完全制圧までにやってくる治安維持軍艦隊をお前たちが叩くんだ』



 月面都市『ウルフムーン』における侵攻が成功しているのを示すように、真っ赤だった街が青く染まっていく。そうした光景とは遠く離れた位置に、【ガーベイジ】と輸送艦一隻があった。

 【ガーベイジ】と輸送艦の両側面には、船体よりも僅かに小さくも十分に巨大な”ヤドカリ”の姿がある。足の速さと航行距離だけが取り柄の旧式艦2隻と4機の”ヤドカリ”は、ウルフムーンへ向けて急行する治安維持軍艦隊側面へと大周りで向かっているのだ。

 


『艦長、質問があります』


『おう、いいぞ。えーっと……。何て名前だったか新入り中尉殿?』


『『フィリア・クーリッジ』です』



 ”ヤドカリ”に搭乗した今回からの補充パイロットであり、唯一の女性であるフィリアはヘルメットとモニター越しにモラキンを睨みつける。そうした圧に臆することなくモラキンは変わることなく気だるそうに構えていた。



『今回の作戦内容、賛同しかねます』


『んだよ、またその話か』


『だってオカシイじゃないですか。これは奇襲ではなく”特攻”です』


『お前たちが任されるのは失敗の判定を受けた試作機や量産機のなりそこないの数々。いわば廃棄処分品を有効活用しようっていう上からのトンデモ作戦だ。基本的に特攻することになるが、安心しろ。お前たちを切り離したら俺と輸送艦は全速力で離脱する。立派に散ったことは友軍に伝えてやるから』


『ふざけてるんですか!? こんなの作戦として破綻して――』


『勘違いしてるみたいだな。ここにパイロットとして回された時点でもう終わりなんだ。諦めなメスガキ』


『メスガキっ!? この状況でよくもそんな――』



 激情し、コクピットで怒鳴り散らすフィリア。やかましいその声を遠ざけるようにモラキンが彼女の回線だけを切断してしまった。

 一気に静まり返った中で、”ヤドカリ”のパイロットの一人であるスキンヘッドの男性が残念そうにため息を漏らす。いかつい見た目にそぐわない青い瞳が美しい男性へ向け、モラキンは笑いかけた。



『どうした『グエン』。もっと喚き声を聞きたかったか?』


『そいつは勘弁です。でもねえ、金髪蒼眼に完璧なスタイルは貴重だと思うんですよねえ。あわよくば抱きたかったです』


『ほう。あいつがここに飛ばされた理由は、気に入らなかった上官をぶん殴ったからだ。そんな女と一緒にいたいか?』


『うぇ。マジすか。やっぱキャンセル。チェンジでお願いします。暴力女と寝るならお袋と寝たほうがマシです』


『はっはっはっ。そこまで言うか』


『ん゛んっ! グエン、艦長。おふざけはその辺にしときましょう』



 気の抜けた会話を続ける二人に割って入ったのは、アランやグエンと同じくパイロットの『ロイ・ダントン』。いかにも真面目といった丸刈り白人の彼は、この手のノリが嫌いのようだった。

 


『入ってきたな生真面目ロイ。お前だって女を抱きたいと思うことだってあるだろ?』


『そうだぞ。艦長命令だ。好きな女性の胸の大きさを答えよ』


『何故そんな話をしなくてはいけないんです! アラン、何か言ってやってくれ』


『……俺からいうことはない。こうしてバカ話できるのも、最後かもしれないからな』


『それはそうかもしれんが……』



 和やかだった雰囲気が、アランの一言によって一気に沈静化する。艦橋と各コクピット内には重苦しい空気が漂っていた。

 今こうして話している相手が作戦終了まで無事でいられる可能性は限りなく低い。それでもこんなバカ話ができるのは、数度に渡る無謀な作戦をこのパイロット3人と【ガーベイジ】乗組員が共に生き残ってきたからだ。

 アランがほんの僅かな間に目をつぶれば、その瞼の裏には補充されるたびに宇宙の藻屑となった者たちの姿が浮かび上がる。回線越しから聞こえてきた断末魔も、鮮明に覚えていた。

 開けた瞼で捉えた視界の先にアランは死に後れた仲間たちの姿を捉える。そして、静かに告げた。



『……肥溜めのようなこの場所が、地獄のようなこの場所が、俺たちにとって最後の楽園。いつか死ぬ運命でも、とても心地いい。お前はどうだグエン』


『まあ、残念ながら同感です。俺みたいな屑はここにいるのがちょうどいいっす。艦長はどうです?』


『俺ぇ? 俺は嫌だぞ。最後は美女の腕の中で死ぬって決めてんだ。お前らと一緒にすんな』


『えー。その面じゃ無理でしょー。良くて重量級熟女の腕の中で――』


『お前は黙ってろボーデン! いちいち口を挟んで――』


『艦長、『ARP』搭載ミサイルを感知! 敵艦隊から発射された模様!』



 重苦しい空気が監視班からの報告を受けて一瞬にして緊迫したものへと変わる。気だるそうな雰囲気が何処かへと吹き飛んだモラキンはすぐさま声を跳ね上げた。



『バレたか!! 接触までどれくらいだ!』


『2、いえ、1分です!!』


『というわけだパイロット共。すぐさまお前たちを切り離して俺たちは離脱する。生き残ったらまた会おう!』


『『『了解』』』


『――あ! やっと繋がった! 大変です艦長、熱源を――』


『接続解除! 同時に反転! 全速力で逃げるぞ!!』


『嘘、待って、こんなの嫌――』



 両側面に接続していた”ヤドカリ”を切り離し、【ガーベイジ】と輸送艦は反転して急速離脱していく。その方向とは真逆の方向、待ち構える敵艦隊へと”ヤドカリ”は備え付けられた大型スラスターを吹かして星の海を突き進んでいくのだった。

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