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01 使い捨て部隊①

 男性が一人、通路を進んでいく。その足は床には着いておらず、宙に浮かんでいた。着こんでいるパイロットスーツと頭部を覆うヘルメットだけでも結構な重量。それでも足が着かないのは、ここが無重力空間である故だ。

 生気を感じられぬ冷めた目をした男性は、無重力の通路を壁の足元と胸部あたりの位置からせり出して稼働し続ける”ツメ”に体を引っ掛けて移動していた。

 時たますれ違う油汚れ目立つ作業員たちは、敬意と恐れが混じった表情で男性へ敬礼していく。それに対し男性も事務的所作を繰り返すように淡々と敬礼し返していた。

 作業員たちとの接触が終わってほどなくして、男性は格納庫へと到達した。各部の最終調整を任された作業員たちが忙しなく動き回る中、”ツメ”から離れて宙を舞った場違いな冷たさを放つ男性に髭面で笑顔が似合うメタボ気味な中年男性が近づいて行った。



「よう、『アラン』。相も変わらずしけた面でご苦労さん」


「『ロイ』、状況は」



 陽気なロイを目の前にしても、アランの冷ややかな雰囲気は変わりそうにない。傍から見ればひどく不愛想に見えるアランだが、ロイの彼に対する態度が変わることはなさそうだった。



「お前のオンボロ【コアⅡ】はバッチリ仕上げた。外の”アレ”の調整を何とか間に合わせて、既にドッキング済みだ。外で待ってる『ベック』がコクピットまでの誘導ワイヤーを持ってるぞ」


「いつもすまない。恩に着る」


「また生き残れたら飯でも食おうや。次はお前のおごりだな」


「前も俺のおごりだった気がするが?」


「賭けで大損しちまってな。スッカラカンなんだわ」


「ギャンブルは大概にしておけよ」


「死ぬほど後悔したら止めるさ。いつかな」



 恐らくは絶対に来ないであろう機会を口にしたロイはふざけた様に笑いながら格納庫を後にしていく。いつも通りに陽気で駄目駄目なロイを見たアランの口元は、僅かに緩んでいるように見えた。

 宙を進んでいくアランの行く先は格納庫のゲートの端。開いたままの格納庫のゲートの向こう側には、暗闇と無数の小さな輝きが瞬いていた。

 かつては幻想的とも思えた辟易する宇宙の光景を目にしたアランの表情からは明るさが消える。そんな近づきがたいアランと同程度の雰囲気を放つ角刈りの黒人男性が、アランをゲート端にて待ち構えていた。

 進んできたアランが伸ばした手を掴んだ男性は、そのまま流れるように胴部ベルトへと手にしていた誘導ワイヤーのフックを接続した。手慣れた手際を見せた寡黙な黒人男性へと、アランは短く告げる。



「ありがとう、ベック」


「ご武運を」



 短い礼に対し短い返答で応えたベックがスーツ右腕部に装着されている端末を素早く操作すると、アランの体はワイヤーに引かれて格納庫ゲートから星の海へと進み始めて行った。

 牽引によって体勢を崩すことなく調整するアランの行く手に存在するのは、巨大な『兵器』。つい先ほどまでアランがいた『船』と同程度の大きさを誇るそれの中央部へと、ワイヤーは続いていた。

 様々な大型兵装の寄せ集めのように思える巨大な兵器は、まるで”ヤドカリ”のように見える。その”巨大ヤドカリ”の中央部にオマケのように下半身を埋めた『人型兵器』の胸部上へと、アランは到着した。

 開いたままになっていた胸部上のハッチから内部へと入り込んだアランは誘導ワイヤーのフックを外し、体を反転させてコクピットシートへと体を沈み込ませる。ワイヤーが巻き取り終わって固定されたのと同時に、体が動かぬようシートベルトで体を手早く固定した。

 右手側にあるパネルを操作し、ハッチを閉じる。嫌気を覚え始めている煌びやかな光景との一瞬の別れののち、起動したコクピットモニターは再びその光景を映し出した。



「プラズマエンジン、正常稼働。推進剤残量、確認。メイン、サブモニターの補正値正常――」



 そんな光景を無視し、アランは『日課』になっている搭乗時点検を開始した。コクピットシート背面から取り外したキーボードを駆使し、手早く必須確認事項のチェックを行っていく。

 誰に聞かれるわけでもないのに確認事項を声に出す。大半のパイロットが面倒なためにやらなくなるものを律義に続けるのは、アランの気質からくる癖の一つだった。



「――チェック完了。思考投影機構(МPS)による補正追従にも問題、なし」



 確認を終えたアランが両手に握った複合機能操縦桿をいじると、モニター越しの『人型兵器』の腕がその操作に応じて稼働する。操縦桿による操作以上の動きを『人型兵器』が示しているのは、『思考投影機構(МPS)』というシステムのお陰だ。

 動けない下半身を除き、まだ動かせる上半身を駆使して各関節の稼働に問題がないことを確認したアランはキーボードのエンターキーへと指を置く。そしていつものようにこれで最後になるかもしれない深呼吸を終えた後、つぶやいた。



「……『アラン・ウォーレンス』。【M・TMA-04 コアⅡ】。並びにオプション兵装、【PA-08 ハーミット】。出撃準備、完了」



 

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