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11 髑髏頭(スカルヘッド)①

 ――同日、【ガーベイジ】格納庫



「――ふはッ」


「やめてもらえません? 人の顔見て笑うの。これでもう三回目ですよ。流石にキレますよ?」


「いや、まあ、その、何だ。見事なまでの傷病者っぷりでなあ」


「俺だってなりたくてこんなになったんじゃないっす。全部『ゲラルト』さんのせいっすよ」



 格納庫の一角にて笑いを必死にこらえるモラキンの視線の先にいるのは顔の大半部分が包帯で覆われたグエン。それ以外にも右腕をアームスリングに収め、痛々しい姿であるはずなのに何処か笑いを誘うような雰囲気が漂っていた。

 船医の『ゲラルト』の治療は適切なのだが、グエンに対してだけはいつも見た目が可笑しくなるように調整しているのである。馬鹿にしているとも、信頼しているからこそともいえるこのやり方は他の皆も知っていることだった。



「いいじゃねえかグエン。これまでで一番酷い傷だが、生きて帰ってこれたんだ。皆に笑われるのも生きてるって証拠だろ」


「傷病者をぞんざいに扱うのはどうかと思いますがねぇ」


「まあ、お前だからなぁ」


「キレていいっすか?」



 自身の奇跡的な生還を面白おかしく喜ぶモラキンを含めた船員全員に対して怒りをぶちまけたくなってきたグエンの目はギラギラと光る。今にも感情が爆発寸前のグエンの下へと、確認作業を終えたアランとロイが戻ってきた。



「艦長。戻りました」


「おう、二人ともご苦労さん。んでロイ。大尉の【コアⅡ】はどうだ」


「各部チェックも完了。いつでも出せるが、やっぱ【ケルベロス】の装備流用は無理だな」


「唯一無事だった腕の『大型カノン』もダメか」


「付けられはするが、機体バランスが大きく崩れることになる。大幅な機動力低下でいい的になっちまう可能性も大。整備士としては取り付け反対だな」


「ならそのままでいこう。唯一動けるパイロットが死ぬのはまずいからな」



 モラキンに対してロイが答える間、皆の視線が向けられていたのは格納庫奥。そこには大破した【コアⅡ】に仲間入りしたグエンの【ケルベロス】の姿があった。

 右腕だけを残して他の三肢と頭部は引きちぎれ、表面装甲は見る影もなくボロボロ。唯一まだ使用できる状態の右腕下部の『大型カノン』は取り外し済み。グエン救出のためにこじ開けられたコクピットハッチは大きく歪んでおり、一目見ただけで廃棄処分確定だと断言できる有様だった。

 改めて乗機の惨状を目にしたグエンの目からは怒りの光が消え、月面衝突時の事を思い出したことで血の気が失せ始める。いつもの陽気でふざけた雰囲気が鳴りを潜めているグエンの姿を見たロイは、励ますように笑いかけるのだった。



「生きて帰ったんだ。こんなに喜ばしいことはないぞグエン。たとえ碌な連中じゃない集まりの俺らでも、仲間がいなくなるのは寂しいもんだからな」


「……あいつはこの戦い始まってからいた初期面子でしたからねえ。言い合うことはあってもいい仲間でした」


「弔いの花火はお前が上げてくれた。これでよかったのさ。今は傷治すことだけ考えとけ」


「了解っす」



 ロイの言葉を受け止めたグエンは戦火の中で消えていった戦友のことを思い浮かべながら深呼吸をする。多少は良くなったその横顔を見てロイが満足げに口元を緩めたところで、格納庫のスピーカーから艦橋にいるボーデンの声が響いた。



『艦長、皆々様、お疲れ様です。『例の方々』に追いつきました。各所のモニターに映すんでご覧くださいー』



 ボーデンの声を聞き、手の空いた者は艦内各所に設置されていたモニターへと視線を移す。表示されていたのは艦外の星の海。そこにおいて【ガーベイジ】と並走する最新鋭の強襲揚陸艦【ルーラー】の姿があった。

 戦術機動兵装(TMA)を多数運用することを想定した船体規模は【ガーベイジ】の3倍はあるほど巨大であり、搭載されている各種火器数は膨大且つ最新鋭の代物ばかり。こちらとはかけ離れた力強い戦闘艦の姿に皆が目を奪われていたが、その中でも一際目立つ箇所があった。



「――『髑髏頭スカルヘッド』、か」



 周囲が騒然となり始める中でアランがぼそりとつぶやく。彼が告げた『髑髏頭スカルヘッド』という名称が、モニターに映し出される『第4独立機動部隊』の愛称。【ルーラー】両側面に描かれた禍々しく笑う髑髏のマークが、この艦に連合軍屈指の精鋭が集っていることを見る者全てに知らしめていた。

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