1日目ー③ 勢力図
書き溜めしてるから書くことないです。生徒名は全員覚えなくても困らないけど、愛情込めて作ったから覚えてあげてね。
走り続けていると、やがて首輪から聞こえてきていた音声が変わった。
『ここは安全地帯です。ここは安全地帯です。』
「…っあ~もう、うっせぇなぁ、この首輪―――」
「白馬、落ち着いて。」
「あ…ゴメン。大丈夫。」
紅葉に叩かれて、何とか我に返った。息を切らしながら周囲を見回すと、辺りに人影は見られなかった。
「まずい、好奇のこと置いてきちまった…!」
「好奇も、同じ「シロ」チームだったの?」
「ああ、うん。間違いないって。好奇に言われて、俺も自分のワッペンに気が付いたんだから。」
落ち着け。落ち着け。大丈夫、ここは安全地帯だ。さっきの男の説明通りなら、ここでは誰かに襲われる危険性はない。そもそも、こんな訳の分からないことに巻き込まれて、クラスメイトを手にかけようなんて奴が早々いるはずがない。悲観的になるな。いつもお気楽なのが俺のいいところだろうが。
「なあ、紅葉…とにかく、今は他のみんなを探そう。」
「他のみんなって…好奇たちのこと?」
「好奇もそうだけど、他の「シロ」のワッペンのみんなだよ。俺、焦っちゃってさ…誰がどっちのチームなのか、それも全然わかって無くて。お前のワッペンは、すぐ確認できたんだけど―――」
そういうと、紅葉はちょっとだけ嬉しそうな顔をした。だけど、すぐに気を引き締めると、顎に手を当てて記憶を引き出そうとする。
「確か…蘇芳と松田は「シロ」だったよ。あと…殺された金原は、「クロ」だった。」
「よく見てたな…」
「率先して話してたからね。他の人は…全然見てない。暗かったし、そんな余裕もあんまりなくて。」
「だよな、俺だって何にも考えられてなくて…」
「おーーい!おい、白馬――!紅葉―――!」
好奇の声が聞こえる。白馬たちは必死になって、同じように声を出した。ほどなくして遠くから手を振って駆け寄ってくる好奇の姿が見えた。隣には誰かいる。
「…加世だわ!」
紅葉が歓声を上げて黄島に向かって走っていく。二人が抱き合っているのをよそに、好奇が息を切らして白馬の前にやってきた。
「お前っ…急に走り出すんじゃねーよ、どこ行ったのかと思ったじゃねぇか!」
「ごめん…紅葉のことが気になっちゃって。とりあえず離れた方がいいと思ったんだよ。」
「ま、いいや。こうやって会えたわけだしな。それにしても、とんでもないことになったもんだな――」
4人が揃ったところで、全員の不安はぬぐえなかった。そもそも、いつものメンバーなら2人足りない。黄櫨と東原が、この場にはいないのだ。
「東原たちは、どっちのチームなんだろうな…」
「2人とも「クロ」のチームだよ。」
黄島がそう言うと、3人ともビックリして顔を見合わせる。
「見てたの?加世。」
「ううん。そうじゃないの。みんなも持ってないの?ポケットに入ってたこの紙―――」
黄島がポケットから取り出した紙には、何か細かい文字が記されている。咄嗟に白馬はポケットに手を突っ込んでみると、なるほど確かに小さくたたまれた紙が入っている。
「なんだ、これ―――」
「最初の部屋で、『着替えろ』って指示に従ってるときに気が付いたの。「シロ」と「クロ」でクラスメイトが分けられていて、見た時は何のことか分からなかったんだけど…」
黄島の表情は曇っている。白馬たちは再び顔を見合わせて、それから手に握られている紙に視線を落とした。背中に汗が流れるのを感じて、それからおそるおそる紙を開いた。
※※※
「シロ」
02.緋井勇斗
03.荒川正紫
04.枝野浅葱
05.奥田青磁
08.黄島加世
11.黒崎白馬
16.蘇芳健司
19.天王寺藍
22.新田紫苑
23.灰場好奇
24.縹匡史
27.松田琥珀
28.水原時雨
29.翠田紅葉
31.海松和花
32.萌葱海斗
33.最上銀河
37.緑黄園早苗
39.煉瓦平次
40.勿忘浩太
「クロ」
01.青山英次
06.金原香
07.麹塵貴代美
09.鬼銅瞬
10.朽葉香波
12.黄櫨彩羽
13.渋染赤音
14.朱田静江
15.ジョン・ブラウン
17.象牙学
18.蒼山和一
20.東原牡丹
21.鴇龍星
25.檜皮真紀
26.紅姫桜
30.向井千歳
34.桃岬琴音
35.雄黄敬二
36.リ・トゥミョン
38.瑠璃川咲
41.湾田山吹
数字に規則性は見られない。おそらく、本当にランダムで選んだのだろう。
「男女比に偏りが見られるのぅ、「シロ」は男が12、「クロ」は8か…」
萌葱は静かにマップを広げた。隅々まで観察してみても、見覚えのある地形ではない。外に出た時、確かに彼方に海が見えた。ここが孤島であることは、おおよそ確実とみていいだろう。
「孤島なら、逃亡も脱出もかなり縛りがあるな―――」
「島ということは、ここは無人島かぁ?あの男もそんなことを言うておったが。」
「少なくとも、今はそうだろうな。だが、見てみればわかるだろう?」
萌葱がそう言うと、縹はむぅ…と唸る。今、萌葱と行動を共にしているのは縹と海松の2人。3人が身を隠しているのは、「グレー」エリアの廃墟内だった。
「いくつも建造物が存在してる。俺たちが最初にいた建物も、おそらくは学校跡だ。もともとは人が住んでいた島だったんだろう。」
「ね、ねえ萌葱くん。どうして、ここで隠れることにしたの?地図によるとここは安全地帯じゃないみたいだし、それに地形のことをみんなに教えないと―――」
「そうだのぉ、儂も海松の意見に賛成じゃあ。そもそもなぜ「グレー」のゾーンに留まる必要がある?」
「…とりあえず、ルールを確認しよう。そうすればいくつか質問に対する答えを得られるはずだ。」
萌葱がそう言うと、海松と縹紙を開いた。名簿の紙の裏には、赤字で同じように文字が記されている。そこには、「シロクロゲーム・ルール」と書かれていた。
1.運営の人間が定めた期間内にゲームを終了させること。期間が過ぎた場合、いかなる場合もゲームを強制終了し、終了時点のプレイヤーを失格とする。
2.違反者の処分、制限時間後の処分は、各人に取り付けられた首輪によってなされる。また、これを無理やり外そうとしたものも、同様に処分の対象である。
3.会場には「シロ」・「クロ」「グレー」の3つのエリアが存在する。「シロ」「クロ」エリアは同色のメンバーのみが侵入可能。なお、期間が経つごとに「シロ」「クロ」エリアは縮小し、最大48時間で完全に消滅する。「グレー」エリアには、ゲームの進行に役立つアイテム、武器が点在している。
4.「シロ」「クロ」の各エリアは両陣営にとっての安全地帯である。相手陣営のエリアに侵入した場合、警告の後に処分する。また、警告を聞かず相手陣営のエリア内にて殺害を行った場合、同様に処分する。
5.24時間以上のゲーム期間がある場合、午後9時から午前7時までを「レストタイム」とし、ゲームの進行を禁ずる。「レストタイム」の開始と終了は、放送によって知らせる。
6.各陣営のエリアに滞在中は、首輪から音声が等間隔で流れる。
7.ゲームへの参加が消極的な場合、運営側からゲーム参加を促すことがある。従わない場合、上記の通り首輪の罰を執行する。
8.片方のメンバーが全滅した時点で、ゲームを終了とする。
「…なるほどのぅ、つまりは、このエリアに存在しているであろう「アイテム」を探すつもり、というわけか。」
縹がそう言うと、萌葱は短く頷いた。
「もちろん、それだけじゃない。さっき「シロ」のエリアに近づいた時に、誰かの首輪の「音声」が流れていた。おそらくルールの中にある「エリア内滞在中に流れる音声」、ってやつだろう。思っていた以上に音が周りに響く…相手のチームに自分たちのいる場所を悟られやすいってことだ。」
「悟られやすいって…でも、実際にいるところは「安全地帯」なんでしょ?」
「海松、安全地帯といっても、ルールで明記されているのは「相手陣営のエリアに入ることを禁ずる」ことだけだ。つまり、相手の場所が分かっていれば「グレー」エリアから殺すことは許されている。」
「あっ…」
「ゲームに役立つアイテム、というのが何なのか確かめるつもりでここまで来たが…今さっきここで見つけたものが「コレ」だ。」
萌葱はそう言って、静かに右腕を持ち上げた。そこには、ずっしりと重みの感じられる黒い凶器が握られていた。
「きゃっ…」
「それは…拳銃かぁ?」
「ああ、ここに入るときに見つけた。無造作に机の上に置かれていたよ。」
「だったら、元の住人の持ち物という可能性はないんか?」
「ここへくる途中で、日本語の看板をいくつか見つけた。国内なら、拳銃を持っている一般家庭なんぞほぼ存在しないだろう。あったとしても、それが偶然この島の、最初に入った家屋の住人だったとは考えにくい。」
萌葱の説明に、海松も縹も納得の表情をした。あえて「グレー」エリアに留まったのは、武器を探すため、そしてルールにある「音声」によって、相手のチームに索敵されないため…
「ということは、萌葱…お前はあの男の提示したルールに従って…「クロ」に配属されたものたちを殺すつもりだと…そう認識してええんか?」
「…そういうお前はどうなんだ?最初に「戦力差」という言葉を口にしていたが、お前は連中と戦うつもりでいたってことか?」
「……」
「…ただ単に、最悪の事態に備えて護身する必要があると思っただけだ。悪意がなくとも、極限状態に陥った人間が錯乱して襲い掛かってくる可能性もある。」
「フン、武器なんぞなくとも、儂が素手で相手してやるわい―――」
「それはお前だけだ。腕に自信のない人間だっている。刃物を持った相手には萎縮してしまう可能性だってある。その点で言えば、俺はいい武器を得たのかもしれない。」
「さすがだね…萌葱くんは、もうそんなところまで考えてたんだ―――!」
尊敬に満ちた海松の視線をかわしながら、萌葱は頭の中でゆっくりと、今まで得た情報を整理し、自分のなすべきことをしようとしていた。
「(単純だが大がかりなことをしている。組織的な犯行なのは間違いないだろう。…まあ、得られる情報は限られている上に、あの男の言っていることが真実だという前提で考える必要がある分、すべてを明らかにしようとすること自体がムダだ。となると――)」
ゲームのルールに従うしかない。そして、自分が生き残るために必要な絶対条件は、「シロ」チームが勝つことだ。だが、悟られてはならない。同じ陣営の連中を、もっといえばクラス全員を思う通りに操るには、俺はまだ「クラスの優等生」という信頼を捨てるわけにはいかない。
「(そのうえで、あの男の言ったこと、ルールを1から100まで信頼することは出来ない。あれだけ堂々と顔を晒しておいて、残った生徒全員を無事に帰すという約束は、果たして現実的なのか…?約束を反故にされた時の対処を考えるべきだ。思考を止めている暇はない。まずは――)」
必要なことは2つ。まずは「クロ」チームを皆殺しにすること。相手のチームが生き残っていることは、提示されているルールに従う限り絶対に達成しなければならない条件だ。そしてもう一つは、このゲームに参加しなければならない最大の原因、首輪を安全に外すこと。
「(もろもろを加味すると、「クロ」チームの全滅は遅い方がいい…そうだな、制限期間が3日あるなら、それを最大限活用すべきだ。)」
「…よし、外に出よう。情報を出来る限り探る。大がかりに準備をしている以上、この島のどこかに主催者の手掛かりがあるかもしれない。それに、脱出の方法もな。」
「そ…そうだね!あきらめるのはまだ早いもんね!」
バカが。こんな大胆な誘拐を簡単に成功させている連中が、いまさら手がかりや脱出方法の抜け穴を残しているわけがないだろうが。
「じゃが、「グレー」のエリアで無闇に動き回ることは安全なのか?」
「それじゃあ、縹は安全地帯に入ることを勧めるわけか?」
「そうじゃ。お前さんたちでは…少なくとも海松には荷が重すぎる。危険な場所を同行させるわけには行かん。外を歩いて手掛かりを探すのは、儂1人で十分じゃあ。」
「俺も海松も、お前にとって役に立てることがある。それに、外を歩くうえでも視界が3つあった方が安全だ。誰かが近づいてきたときに、こっちが複数なら襲い掛かってくる可能性も低くなる。」
「遠距離からの攻撃はどうする?ここに拳銃が落ちていたんじゃ、誰かがショットガンやより強力な武器を手に入れていてもおかしくはない!」
「専門の知識があるわけじゃないが、ショットガンは近距離用の武器のはずだ。遠方からの攻撃じゃ、当たる可能性は低い。」
「なら、ライフルは―――」
「同じだよ、縹。同じだ。考えてもみろ。ここに来る途中、俺はいったん集団から離れることを最優先にした。だからこそ、道中で絶対に必要になると思わないものは極力無視をしていたが…お前たちも気が付いていたろ?あちこちに凶器となるような刃物が落ちていたことを。」
「儂は気にしておらなんだ。とにかく、あの男から距離を取ることに専念したからのぉ。一度他の奴に会って、意見を聞こうと思っていた。」
「わ、私は一度だけ…何か物騒なものが落ちているとは思ったけど、怖くて拾おうとは―――」
「俺が見た限りだと、散らばってたのはサバイバルナイフや包丁、誰でも使えるような近接武器だ。そこかしろに置かれていたことからも、それが「ザコ」の武器だって仮説を立てることが出来るだろう?」
「ザコの武器?」
「平たく言えば、希少性の低い武器ってことだよ。そして、こうした家屋の中では拳銃が見つかった―――ショットガンやライフルがある可能性は十分にあるとは思う。だが、それはきっともっと見つけ辛くて、人目のつかない場所に隠されてるはずだ。」
「つまり?結局脅威があることに変わりはないじゃろうが。」
「逆だよ。開始直後の今だからこそ、そういった希少性の高い、強力な武器を誰かが手に入れている可能性が低いってことだ。それに、俺たちはただの高校生だぞ?突然ショットガンやライフルを渡されて、その通常の真価を発揮できるような人間が、いったい何人いると思う?遠距離での脅威となるような攻撃が出来る人間は、俺は2人しか思い浮かばないな。」
「無…誰のことじゃあ…?」
縹は首をかしげたが、海松が思いついたように「あっ」と声を漏らした。
「もしかして、その1人って枝野さん?」
「ああ、アイツはクレー射撃をやっているんだろ。他の人間よりは、銃の知識や扱い方は優れているのかもしれない。」
「それじゃ、もう1人は…?」
「新田だよ。」
「新田…?おお、成る程のぅ、弓矢か…!」
「ああ、その類の武器があればの話だがな。そして、枝野も新田も、この紙を見る限りでは俺たちと同じ「シロ」の陣営だ。」
反論の間を与えるように萌葱が言葉を遮るも、縹は何も言い返そうとはしてこなかった。まったく、いちいち説明の必要な連中だ。もっと言う通りにだけ動いてくれればいいものを。
「…納得が出来たなら、急ごう。さっきの説明のとおり、動くのは早い方がいい。」
「うん、そうだね。縹くんも、行こ?」
「…ああ――――」
現状、もしも両陣営の全員がゲームに意欲的に参加したとして、勝つのは十中八九「シロ」陣営の方だろう。最初に縹が漏らしていた通り、地力としての戦力差が大きい。武器を持たせれば遠方から一方的に攻撃が出来る枝野と新田、剣道4段で真剣を持って戦えば戦力になる最上、そしてステゴロで確実に無敵の縹。
相手の陣営で戦力になるのは…せいぜい麹塵と檜皮くらいだろう。男よりも強い女2人であるが、結局は「女」だ。腕力で縹に敵うわけではない。ただ、たった1つ気がかりな存在と言えば―――――
「萌葱。」
後ろにいた縹が、低い声で萌葱のことを呼び止めた。
「わかっていると思うが…儂は、道理から外れん限り、どちらのチームだろうとクラスメイトを見捨てるつもりはない。同時に、人の道を踏み外そうとする輩のために、自分の手が汚れることも…覚悟はできておるつもりじゃあ。」
「…」
「お前は…儂の味方でいてくれると信じたい。」
「……その問答は最初に済ませたつもりだったよ。俺も一緒さ。」
本当に、お前がただのバカな巨躯だったなら、どれほどよかっただろうな。