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シロクロゲーム  作者: 竹取翁
42/44

2日目-⑱ 秘密の

PM.4:30


『やってみなきゃわからないじゃないか。』


奥田の言葉が、頭の中で何度も反響する。

彼が出て行ってからまもなく1時間。

あれからずっと、同じことを考えていた。


「お、お、おかしいぜ。絶対に、何度考えてもおかしい。死体がひとりでにいなくなったりするか?歩いたり…飛んだり跳ねたりするわけじゃないだろ…!?」


「当たり前だ。」


「だったら!やっぱり、神隠しなんだよ!今に始まったことじゃねえ!【例の事件】と同じで、リは――――」


「何度も言わせるなよ。そんなことはあり得ない。お前は何かとあの事件にくっつけたがる。過剰に反応しすぎなんだ。」


「けど…じゃあ、どうやって説明するんだよ!?」


「誰かが俺たちの見ていないうちに死体を移動させたんだろう。何の目的かは知らんが…とにかく死体を動かされた程度で俺たちに大した影響はない。いい加減に騒ぐのはよせ―――」


「おおおお前は!お前は、見てないから!教育科だから、そんなことが言えるんだ!当事者の気持ちも知らないくせに、そんな―――」


「煉瓦くん、落ち着いて…新田くんも、煉瓦くんのことを刺激するのはよしてよ…」


「今のコイツは、何を言っても勝手に刺激を受けると思うがな。」


3人が話している脇を通って天王寺が近づいて来たことに、松田は気づいていなかった。


「松田さん、ちょっといいですか?」


「やってみなきゃわからない、か…」


「松田さん…?」


「けど…やってみても、どうにもならなかったじゃないか―――」


「松田さんってば。」


三度声をかけられて、ようやく気が付く。


「え、わっ!?天王寺さん!?ご、ごめん。ちょっと考え事をしてて――――」


天王寺はビー玉のように丸く大きな目をしばたたせて、松田のことを見つめる。クラス一、いや校内一の美少女と名高い彼女の瞳は、見たものを吸い込んでしまいそうな輝きを帯びていた。


「な、なに…?」


「あっ、すみません。ちょっと、2人だけでお話ししたいことがあって。お付き合いいただけますか?」


「うん、もちろん。何かな?」


天王寺はちらっと緑黄園たちの方を見た。


「…皆さんの前では、少し話しにくくて。場所を移動しても…?」


「僕は…構わないけど。」


今更警戒心はない。

このゲーム開始から隣で観察していて、

天王寺がおかしな行動に出るとは思っていなかった。

それに、彼女が話したいことの内容に、

松田は思い当たる節があった。


「それじゃあ、1階のホールへ…長くなりそうなら、他のみんなにも報告しておくけど。」


「いえ、大丈夫です。出来るだけ短く済ませますから。ありがとうございます。」


天王寺はにこっと笑うと、緑黄園に一言何か言って、それから先立って階段を降りていった。

松田は彼女の背中を追って階段へ向かい、そのまま1階へと進む。


「(奥田くん、今頃誰かと合流できただろうか…厄介なやつら、渋染や鬼銅と遭遇していないといいけど。いや、アナウンスが聞こえていないってことは、無事でいる証か…)」


「すみません、わざわざ移動までしてもらって。」


「いいよ。それで、僕に話って?」


天王寺は再び、玉のような瞳を松田に向ける。


「あの、もしかしたらって気になっていたことがあるんですけど。」


「…」


遠慮や躊躇は感じられない。

必ず問いかけるのだと、既に心に決めていたようだった。


「松田さんは、過去にこの「シロクロゲーム」に参加したことがあるのではないですか?」




※※※




PM.5:00


日の長い夏の空も、少しずつ太陽が傾いてきた。

萌葱は僅かに滲んでいた汗を拭うと、小さく息を吐いた。


「…出来た。」


「えっ?本当に?」


海松が身を乗り出す。

最終日を前にして、萌葱はついにやり遂げた。


「ああ。首輪の仕組みを、大方理解が出来た。100%じゃないが、これで解除も出来るかもしれない。」


喜びの声を上げそうになり、しかしすぐに海松は口を押えた。


「…どういう仕組みなの?」


「仕組み自体は思っていたよりも単純だった。といっても、こんなものを作る技術は到底想像つかないが。」


萌葱は回収した首輪のひとつを手に取った。


「俺たちの行動を制限する首輪には、中に針が仕込まれていた。細かく分解してみてわかったが、針とカプセルが繋がっている…おそらくだが、毒だろうと思う。」


芳香剤のビーズをさらに超小型化したようなカプセルと、針の先端が繋がっている。

細工を調べている過程でカプセルを壊したとき、針が吸引し、もう片方の先端から何等かの液体が漏れた。注射針と同じように、極細の筒状になっていたのだ。


「液体はすぐに気化して消えてしまったが…俺たちを殺す方法がこれだとすれば、毒以外に考えられない。」


「そ、そんな少量で人を殺せる毒があるの?」


「…いや、正直なところ、そんな毒物は知らない。だが少なくともサリンや農薬じゃない。もっと強力なものだ。これだけ少量を注入された瞬間に死ぬようなものだからな。」


最も致死性の高い毒物は、確か食中毒などを引き起こす細菌由来のものだったはず。名前などは憶えていないが、それならばこの量でも死に至るのだろうか。それとも、それ以上に強力な毒物を誰かが開発した・・・・のか。


「首輪の形状を確認するに、頸動脈の位置…そこに、この針が飛び出すように作られている。無理やり外そうとすれば警告が流れるといっていたが…正直、どのタイミングで針を刺しこまれるのかどうかはわからない。」


ゲーム参加者41名ぶんの首輪の状態を、

リアルタイムで把握が出来ている。

ということはつまり、首への接地面積や

手を触れた反応、すべて記録されているということ。


「(どういう発明をすれば、こんなものが作り出せるんだ?)」


秀才といえど、所詮萌葱は高校生。

物品の発明や製造の過程を解析・分析する力は持ち合わせていない。


「じ、じゃあどうやって取り外すの?何か、特殊な工具でもなくちゃ無理なんじゃ…」


「いや、外すこと自体は案外簡単にできる。」


萌葱はそう言って、首輪を指さした。


「さっき説明したように、この首輪が俺たちを殺す方法は針を刺して毒物を注入することだ。だから、針の射出箇所を破壊してやればいい。」


「破壊?首輪を壊すってこと?」


「そうだ。尖った刃物、ドライバーの先端、なんでもいい。的確に射出箇所さえ潰してしまえば、針が折れ曲がるのと同時に首輪も外れる。誤って頸動脈を一緒に傷つけたりする危険性はあるが、まあ大して難しい作業じゃない。」


そう聞いて、海松はホッとしたような表情に戻る。


「だが、1つだけ問題がある。」


「えっ、問題?」


「ああ」と返事をしながら、持っていた首輪を海松に差し出した。

海松がおずおずと出してきた掌の上に首輪を乗せると、首輪の内側…針の射出部分を指さす。


「どうやらこの首輪、俺たちを始末する以外にも、俺たちの生存を確認する役割もあったらしい。かなり小さいが、接地面に液晶画面がついてる。あくまで予想だが、俺たちの脈拍を測るためのものだと思う。」


あらゆる技術の小型化に成功している。

今自分たちが相対している組織は、

とんでもなく恐ろしい相手かもしれない。


「ということは…えっと、ごめんね理解力がなくって。じゃあ向こうは、この首輪で私たちの生死を判別して、あのアナウンスを流してた…だから、この首輪を壊しちゃったら、私たちは死んだことになっちゃって、首輪を壊したことがバレちゃう…ってこと?」


「ああ、その理解でいい。俺の言いたいことは十分伝わってるよ。」


この島からの脱出方法は見つかっていない。

こちらの生殺与奪は、桐山という男が握っている。


では、ルールを破って首輪を破壊し、生存している

生徒がいると分かった時、奴はどうするだろう。

いくつかの可能性が考えられるが、

違反者を罰するという理由で殺害されるリスクは、

無視できないほどにはあると萌葱は考えていた。


「かといって、破壊方法が分かったことを材料に交渉するのも不可能だ。相手はその瞬間、俺たちの針を作動させれば済む話だからな。」


「けど…萌葱くんは、それを分かったうえで「解除も出来る」って、言ったんだよね?」


だって萌葱くんは、意味のないことを言わないから。

そんな言葉が続くだろうと、萌葱は思った。


「ああ、その通りだ。」


「教えて。それってどんな方法?」


「首輪の外し方は、さっき伝えたこととほぼ同じだ。針の射出箇所を一定の力で圧迫すれば、首輪のロックが解除されて外れる。その代わり、力加減が強すぎても、弱すぎてもダメだ。強すぎれば針が飛び出して死ぬし、弱すぎても向こうにアラートが届くことになる。」


その強弱の感覚は、何度となく試して掴んでいた。

仲間の死体から集めた首輪たちがその役割を果たした。


荒川の首輪で部品・おおよその構成を理解した。

青山の首輪で針の動作・殺害方法を把握した。

向井の首輪では首輪自体の強度を分析した。

そして、残った蘇芳、ブラウン、朱田、瑠璃川の首輪。

これらで詳細な分析や繰り返しの実験を行った。

力加減による針の射出は、外れた首輪でも反復して検証することが出来た。1日目と2日目の半分を使って足を運び、調べ上げたことで、萌葱は桐山でさえたどり着くはずがないと考えていた首輪の解明に行き着いたのだ。


「外してからすぐ、迅速に針の収納を取り除く。そうしてまた首輪を首に取り付けてしまうことが出来れば、こんなもの何も恐れる必要のない飾りになる。」


「けど、さっき萌葱くんが言ってたじゃない?この首輪には脈拍を測る機能もあるって…一瞬でも首から外してしまったら、向こうに気づかれるんじゃないの?」


もっともな疑問だった。


「ああ、俺もそう思った。だけど、昨日の夜縹と話した内容で、その考えが変わった。」


そう。縹が話していたのは、

あの日黒崎たちと合流した後、

縹が枝野とともに鬼銅に遭遇した時のことだ。


『儂は、鬼銅が紅井を撃ち抜く瞬間を見とった。鳩尾みぞおちに拳を潜り込ませ、その中で銃を発砲しておったのよ。かなりの出血じゃった。そして、それからしばらくしてあのアナウンスが鳴った―――』


「それが、どうかしたの?」


「分からないか?紅井のアナウンスが流れたとき、「死んだ瞬間」と「アナウンスが鳴った瞬間」に、しばらくのインターバルがあったってことに。」


海松は目を見開いた。


そもそも、脈拍を24時間一寸の間違いもなく計測することなど、果たして出来るものなのだろうか。

健康体の生身の人間でも、

脈が弱く計測がしづらいことは珍しくない。

まして、24時間接地し計測を続けているなら尚更だ。


「推測だが、死亡アナウンスは首輪の脈拍と設置されているカメラの映像、2つの情報を基に流しているんだと思う。脈だけの判断なら、計測が上手くいかなかったときに誤ったアナウンスを流してしまいかねない。おそらく、映像を頼りにできないなら十数秒のインターバル…それくらいの余裕はあるはずだ。」


「つまり、首輪を外すための力加減さえ間違えなければ…」


萌葱は頷いた。


「感覚が覚えているから、自信はある。だが危険なことには変わりない。だから「かもしれない」とつけた。」


そういったあと、何秒の沈黙があっただろうか。

ほとんど迷いなどなかったかのように、彼女は口を開いた。


「萌葱くん、お願い。私の首輪で試してみて。」




※※※




最初に違和感を覚えたのは、たぶん初日。

不安や混乱して当然の状況下で、

彼は的確に作戦を立案し、仲間を先導した。


冷静さは新田が、リーダーシップは奥田が

似たようなものを持ち合わせていたかもしれない。

しかし、まだ転入してから数か月と間もなく、

最も不安や恐怖を感じる境遇といっても

過言ではない彼が、ここまで冷静でいること。


天王寺はその一点に、引っ掛かりを感じた。


「もうひとつ、さっきゲームのルールのこと、松田さんは話してくださいましたよね?ゲーム終了時点で、シロとクロの両陣営で、多いほうが生き残れると。ルールに明記されていないことを、まるで見てきたかのようにお話しされていました。」


一言一句、覚えていたのだ。

この極限状態の中、得られる情報とは

自分の命を守る盾と同義だ。

松田や新田、奥田の方針にただ従い、

何も考えずに動いてきたわけではない。


「奥田さんも仰っていた、松田さんの非情なまでの合理的な決断…新田さんの覚悟を強固にする材料にもなっています。それが出来る人は、冷淡な人か経験のある人、どちらかだと思うんです。そして、私は松田さんが冷淡な人だとは思えない。短い関係性ですけど、私は人を見る目がありますから。」


彼女は優秀だ。

松田は心でそう呟いた。

そこまで分析出来ていて、

そこまでわかっていて、彼女はここに残って

自分とともに戦う道を選んでくれた。


「的外れなことを言っていたらごめんなさい。だけど、どうしても確認しておかないと、と思ったんです。松田さんと奥田さんたちのやり取りを見て、私も思っていること、包み隠さず話さないと後悔すると思って。」


「…仮にそうだとして、君は僕が主催側てきだと、少しの疑いも持たないの?」


「持ちませんよ、当然っ。」


自分の凍っていた心が、少しだけ溶けた気がする。

この人になら、話せるかもしれない。


「…ごめん、天王寺さん。やっぱり緑黄園さんたちに、少しの間席を外すって伝えてくれない?」


「えっ?」


松田は顔を上げた。

透き通った天王寺の瞳に、

松田の顔が映った。


「全部、話すよ。君に聞いてほしい。」


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