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シロクロゲーム  作者: 竹取翁
41/44

2日目-⑰ 交渉

貯め書きここまでなんで、またまばらに更新します。

「白馬、私もいっしょに行くから。」


話が一度まとまった時、紅葉が白馬の肩をトン、と叩いた。


「え?」


「え、じゃないよ。これから桐山のところに交渉をしに行くんでしょ?白馬を1人で生かせるなんて、そんな危険なことを押し付けたりしない。」


「紅葉…これは俺の発案なんだ。麹塵のいう通り、俺自身がリスクを負わないとみんなが納得しない。だからこそ1人で―――」


次は、お腹にグーでパンチを打ち込まれる。

決して強いものではなかったが、紅葉の怒気は十分に感じた。


「私たち全員の問題。これ以上文句言ったら、今度は本気で殴るから。」


「暴力かよ…」


軽口とは裏腹に、紅葉は必死だった。

白馬を1人にしてはいけない。好奇が死んだことで、ある種自暴自棄になっている。


「加世たちには私から話す。紅姫のいうことを前提にするなら、交渉に行ったからって殺されるようなことにはならないでしょ。だから、念のためよ。」


「けど…」


「危険だって思ってるなら、それこそ絶対に1人では行かせない。」


紅葉は絶対に譲らない。こうなった以上、白馬は折れるしかなかった。

好奇が死んでから、ずっと手足の先が冷たい。

歩いても歩いても、身体が冷え切っている。

「無理をしている」と言われても、仕方ない状況だ。


「待って、白馬!紅葉!」


声をかけてきたのは黄櫨。軽く息を切らした彼女は、

この場から離れようとした2人に短く言葉を紡いだ。


「アンタたちのせいじゃないからね。」


「えっ…」


「灰場のこと。さっき加世に詳しいことを聞いた。その場にいた誰も悪くないよ。紅葉も白馬も、出来るだけのことをやった。私が保証する。」


「…ありがとう、黄櫨。そういってもらえるだけでも―――」


「それで片づけないで。白馬、紅葉のこと心配させてるって、分かってる?」


黄櫨は逃してはくれなかった。

もう一歩進み出ると、白馬の顔をじっと見つめる。

睨んでいる…と思うほどに、強い視線。


「白馬、顔色が悪いよ。たぶん血液が回ってない。低血圧の症状だと思う。そんなこと、今あったばかりの私だってわかる。ずっと隣にいた紅葉や加世が、気づいてないはずないでしょ。」


「それは…」


「「大丈夫」っていうのは、私たちからすれば突き放されたみたいに感じるの。もっと私たちのことを頼って。こんな時だからこそ、頼ってくれないでどうするのよ。…友達でしょ?」


「……」


言い返すことはなかった。

正論すぎて、何も言うことが出来なかったのだ。


「(でも…けど、俺は―――)」


「…お前のいう通りだ、ごめん。ちょっと、気張りすぎてたかもしれない。」


「気持ちはわかる…なんて、私も言えないけどね。私は中学校からしか知らないから、幼馴染の2人に比べたら何もわかってないんだろうけど――」


「そんなことない。ありがと、彩羽。」


お礼を言ったとき、思い出したように紅葉は踵を返すと、俯いている東原に駆け寄った。


「いつでも相談してね。」


ぱっと顔を上げる。紅葉はそれ以上何も言わず、少しだけ微笑んで歩き出す。

残された東原の肩を、黄島がやさしく抱いた。




※※※




PM.3:50


靴下を脱いで、手の出血を抑えている。

それでも処置が遅すぎたのか、傷口は痛みが絶えなかった。


「くそ…くそったれ、あの野郎―――」


蒼山はやっとのことで安全地帯にたどり着き、早い息遣いでその場にうずくまった。

血を流しすぎた。黒崎から受けた傷は、

蒼山自身が思っている以上に深かった。


「(意識が朦朧としてきた…呼吸が荒い…これ、もしかしてマズイ状態なのか……?)」


失血死の条件となる量はどうだったか。

確か血液量の5~10%だったか。だとすれば、今俺はどれだけの量出血したんだ?


分からない。どっちにしろ、状況が

芳しくないことは明らかだった。


「許さねぇ…絶対に、このままじゃ済まさねぇぞ…!!」


今は休息が必要だ。

身体を休めて、傷を癒せる場所を探す。

それから、連中に復讐をしてやる。


「あら…?蒼山くん。」


「…!お前、渋染か…」


声が聞こえてきたが、警戒する気になれなかった。

…それもそうか。ここは安全地帯の中。奇襲の危険はない。


「てめぇ、何やってんだ…?今日は何人殺した?」


「今日…今日は、誰も殺してないけど。」


わざとらしく舌打ちをした。

殺しのポイントを稼ぐことだけが渋染コイツの価値だろうに。


「てことは、枝野と縹を殺したのは―――」


「さあ、分からない。でも、たぶん鬼銅くんだと思うわ。」


「そうか…アイツは、きっちり仕事をしてくれたわけだ。」


渋染は何も言わなかった。

彼女の表情は読めない。

痛みのせいか視界がぼやけており、渋染の顔をしっかりと確認することが出来なかった。


「俺は…俺は、2人ぶっ殺した。勿忘と灰場だ。どっちも一撃だ。ハハッ、あいつら猿どもは、俺の動きを見切ることも出来やしねぇ。ざまあないぜ。」


「そう。」


「……」


「蒼山くん…血が出てる。」


「ああ…大した事ねえよ。こんなもん、じっとしてりゃおさまる―――」


「血の色が黒くなってる。」


渋染との会話が微妙に成立していない。

しかし、渋染の表情が密かに笑って見えた。


「もう、永くないのね。」


「…ああ?」


永くない。

何を言ってやがるんだ、このイカレは。


「息遣いが荒いわ。顔色も悪い。きっと、たくさん出血しすぎたのね。蒼山くん、もうすぐ死んでしまうのよ。」


「何、バカなこと言ってやがる―――」


蒼山が立ち上がろうとしたが、その時ぐらりと足がふらついて、その場に倒れこんでしまう。めまいがする。思考がまとまらない。


「チッ…おい、渋染、手を―――」


助けを求めようとして、気が付く。

渋染が初日に殺した生徒たちのことを。


「…おい、渋染。お前まさか―――」


渋染は答えなかった。


「…っおい!お前まさか、俺のことを殺そうとしてんじゃねえだろうな…!?」


「そんなこと、しないわ。」


渋染は静かに答えた。蒼山は混乱し、早くなる動悸を抑えようと呼吸をする。息が苦しい。脳に酸素が行き届いていない。


「今日、黄櫨さんたちと会ったの。灰場くんを殺したのが私じゃないかって、そう聞かれた。」


ぼんやりとした視界の先で、渋染がしゃがみこんで自分の隣に座るのが見えた。渋染の姿が映る。手首から、赤い何かが滴っている。


「みんな、私が無差別で人を殺してるんだと思ってる。私が何を考えているのか、誰もわかってない。わかろうともしてない。」


「何…何、言ってんだ…?」


「向井さんの時はね。正直あんまり何も考えてなかったの。でもあの後に朱田さんと紅井くんが戦ってるのが見えて…1日目はね。」


「けど2日目になって…明日になったら、私は死んじゃうだろうから…だから、どうせなら好きにやってみようって、そう思って。」


手足が痺れてきた。

渋染のいう通り、出血をしすぎたのか。

こんな、こんなことになるなんて。


「…こんなハズじゃ……!」


こんなハズじゃない。こんなハズじゃなかった。

俺が猿どもに負けるはずがない。負ける要素なんてない。


「(それがこんな…勝負でもなんでもないところで、俺は死ぬのか…!?)」


蒼山の視界がさらにぼやけた。

しかし、これは失血によるショック症状ではない。

両目から溢れてきた、涙の影響だった。


『十色高校の進学科…偏差値も申し分ないし、学校の評判も悪くない。』


父が嫌いだった。俺のことを見ようとしない。

アイツが興味あるのは、俺の副次的情報だけ。

俺の学歴、世間からの評価…


いつの頃だったか、蒼山和一は周囲の人間を「猿」だと称するようになった。

頭の悪い人間。そう思っていたことに違いなかったが、もう1つの意味として、自分自身の精神を守る盾のような役割を担っていた。


俺が周りに理解されないのは、周りが猿だから。


俺が息苦しいのは、この国を猿が動かしているから。


大人が、同級生が、家族が猿だから。


「こんな…こんなハズじゃ、なかった…!俺は、特別で…俺と、それ以外で、回ってるべきで―――」


「悲しいね、蒼山くん。誰にも心配されないで、こんな劇的でも何でもないことで死んでいくのは。大丈夫、私が…あなたが死ぬまでここにいるわ。」


うるさい。見下すんじゃねぇ。

こんなところで終わるなんて惨めすぎる。

せめて、黒崎を道連れにして死にたい。俺をこんな目に遭わせた、あのクソッたれを殺してから死にたい。


「…てやる、ぶっ殺して…やる…黒崎ぃ…!」


「……」


「…………」


「……………………蒼山くん?」


渋染の問いかけに、蒼山は答えなかった。

答えられなかった・・・・・・・・


「…蒼山くん、私もあなたと同じ。」


こと切れた遺体に向けて、1人渋染は話しかける。


「私も、黒崎くんを殺したい。」


アナウンスが聞こえた。血が手の甲を伝い、地面に落ちる。




※※※




PM.4:10


夏の空は、まだ明るく太陽が照っている。静まり返った廃校のなかで、1人グラスを傾けて水を飲んだ。


「やぁ、思ったより元気そうだね。」


旧知の友人に声をかけるように、桐山は語らいかけた。

黒崎白馬と翠田紅葉。2人の生徒が、ゲームが始まった場所へと戻ってきた。


「今しがたのアナウンス、君たちにも聞こえていただろう?大事な親友の仇が死んだよ。気にはならないのかい?」


「驚かないんだな。」


質問には答えなかった。逆に質問を投げかける。

桐山はトントンと腕時計を指さした。


「映像はずっと観ていたからね。場所から逆算して、そろそろ来る時間なんじゃないか…とは思っていたよ。」


「……」


「どうだい、あと5時間ほどで2日目も終わる。楽しんでもらえているかな…?あくまで私の感覚になってしまうが…少々ペースが遅いな。2日目中盤を過ぎて半分も減っていない。本来なら初日と2日目が一番減るんだ。いや、そもそも3日間も制限時間を設ける方が珍しい。基本的には24時間でのゲーム進行がほとんどだからね。」


「どういうこと…?これと同じようなことを、あなたたちはいくつもやってるの…!?」


「そうだよ。私も複数担当してる。だからもう少し首輪コレを使って新陳代謝を促さなくちゃいけないんだけど…いけないな、どうにも君たちのゲームは楽しくて。お客さんの中でもかなり人気な方さ。」


「監視カメラは黄櫨たちがかなりの数を壊した。ずいぶん不便になってるだろうな。」


「問題ないよ。少しくらいトラブルが発生する方が盛り上がる。」


「ふんぞり返って放送してるアナウンスも、そのうち出来なくなるんじゃないか?俺たちの動きを把握できなくなって。」


「挑発かい?感心しないねぇ、君は私と交渉をしに来たというのに。」


すべて知られている。既に分かり切っていることだったが、あの監視カメラには、こちらの音も拾い上げる性能があったのだ。


「心配いらないよ。そのためにカメラは大量に仕掛けてある。それに、君たちには首輪コレをつけているからね。手に取るようにわかるさ。」


桐山は、余裕の表情を崩さなかった。まるで子供に丁寧な指導を行う、教師のような口ぶりだった。


「この首輪は、君たちの脈も測ってる。君たちの心拍に異常が起きて生命活動を停止した時、私のもとには通知が届くようになっているのさ。もちろん、無理に壊そうとすれば作動して君たちが死ぬことになる。どうせ解除も出来ないだろうから教えてあげるが、スイッチひとつで毒針を頸動脈に刺しこむんだ。致死量を遥かに超える量、熊だって死ぬよ。」


「こんなことをして何が楽しい。」


「視点が変われば世界の見え方も変わる。君と私の立場が逆なら、きっと君も面白いと感じたに違いない。」


「ふざけるな。」


「白馬、もうやめて…」


声を荒げた白馬を、紅葉が制止した。目的を忘れてはならない。ここに来た理由は、別にあるはずだ。


「…私たちの話を聞いていたんなら、もう知ってるんでしょ?私たちが求めてること…」


「ああ、もちろん知ってるよ。シロクロゲームのルールを無視して、この私と一騎打ちがしたいとやつだろう?」


桐山は子供も絵空事を聞いたかのように、楽しそうにクックッと笑った。


「私は構わないよ。確かにこのまま君たちに心中でもされたらバッシングは必至だ。ただし私としても条件がある。交渉が成立するかはそれ次第だ。」


「条件…なに?聞くわ。」


桐山が指を2つ立てる。


「なあに、簡単なことさ。条件は時間について。従来のルールのまま、「シロクロゲーム」を明日の17時まで実行すること。それが私の提示する1つ目の条件だ。退屈しないとはいえ、ギャラリーも楽しみにしている見せ場がまだいくつかある。それを消化するためにも、最低でもそこまでの時間は確保してほしいね。」


「その時間まで、私たちが殺し合わずにいれば済むことだわ。」


「ああ、そうだとも。では2つ目の条件だ。舞台はそうだな…この廃校にしよう。17時にゲームが終了したら、君たちはその足でこの廃校に来てもらう。その時の生存者が全員揃ったら、新たにゲーム開始だ。」


「確認したいことがある。」


白馬が切り出すと、桐山は「どうぞ」とゼスチャーをしてきた。


「俺たちが勝ったとき、この島からの脱出方法はどうなる?」


「ああ、そんなことか。連絡手段を提供しよう。」


桐山はポケットをまさぐると、中からスマートホンを取り出す。


「電波は通ってる。外部への連絡は可能だ。どこへなりとも助けを呼べばいい。私を倒せば手に入れられるよ。もちろん、事前に破壊したりといったルール違反はしないからご安心を。」


「分かった。それでいい。二言はないぞ。」


「ああ、ちなみにこの広報は君たちが自分でやってくれよ。集合のアナウンスはかけるから、細かいところはよろしく頼む。そっちの交渉に応じてるんだ。それくらいはノンデくれるよね?」


白馬は答えなかった。今あのスマートホンを奪うことが出来れば…そう思ったが、すぐに不可能だと悟る。それに、今隣には紅葉がいる。無茶は出来ない。

そう判断すると同時に、紅葉の腕を掴み、踵を返して立ち去ろうとする。


「ああ、まあ待ちなよ。せっかくの機会だ。ギャラリーの皆さんに挨拶していったらどうだい?」


桐山がへらへらと1台のカメラを向ける。明らかな不快感を示した紅葉とは対照的に、今度は白馬が冷静な対応をした。


「ここで俺が話せば、画面の向こう側にいる連中に伝わるのか?」


「国内のお客さんはほとんどいないけどね。だけど同時翻訳されるから、君の伝えたいことは伝わると思うよ。」


白馬はもう一度桐山を、そしてカメラのレンズを同様に睨みつけると、紅葉の腕を引いて歩き出した。


「ない。画面の向こうにいる人殺しどもに、話すことは何もない。」


言い残すと、今度こそ2人は消えてしまった。

残された桐山は笑い混じりのため息をつくと、ポケットから煙草を取り出して、先端に火をつける。


「まったく、マナーのなってない子だ…お客さんに怒られるのは私なのにね。」


煙草を吹かす。

様々な情報を提供した。カメラを用意した。

本来対等でもないゲーム参加者に対して、

交渉を行いそれを呑んだ。


「トラブルが発生した方が盛り上がる。いつだって、ギャラリーにとってトラブルとは最大の娯楽だよ。そして、私自身にとっても。」


桐山はうわごとのようにつぶやくと、1人で笑った。


「さあ、どんなトラブルが舞い込んできてくれるかな。」



蒼山和一くん。

前作では渋染さんに派手にぶっ殺された彼でしたが、

今作では何とも惨めな最期を遂げました。

そういう死にざまもふさわしいのではないか、

そう思って書きました。

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