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シロクロゲーム  作者: 竹取翁
33/44

2日目ー⑨ 勘

 少し離れた雑居ビルの上、そこに鬼銅瞬は確かにいた。その距離は互いの銃の射程範囲外。それでも、枝野は精神的に優位に立たれているような焦りを感じていた。狩りをしているとき、狩人もまた別の狩人に狙われていたのだ。枝野が鬼銅を殺そうとしていたように、鬼銅もまた、枝野のことを殺そうとしていた。そのことに、松田は気づいていた。


「さっきの銃声、何だったんでしょう…?」


「灰場が殺された音だよ!やべぇ、やべぇって!今日に入って「シロ」の奴が立て続けに殺されてる。つ、次は俺たちかもしれねぇ…!」


「ここは安全地帯だ。そのことは心配しなくていい。」


「け、けどよぉ…っ!」


「当然だ。僕たちは戦いから逃げているんだから。逃げられるうちは、戦いには巻き込まれない…当たり前のことさ。」


奥田の恨み言は、ここにいる誰に向けられたものでもない、自分に向けた言葉だった。きれいごとを並べても、自分の掲げる理想を体現するための術を持っていない。どれだけ「人道に反する」と言われようが、「少数を切り捨てている」と言われようが、蒼山や松田の意見の方が正当性があると、奥田は自覚していた。


「枝野さん、大丈夫かな―――」


「何で今、枝野のことを心配しているんだ?」


新田の質問に松田は答えなかった。あの銃声は枝野の銃だ。彼女が銃の引き金を引いたということは、渋染赤音か鬼銅瞬を発見、もしくはその他の誰かが殺人行為を行おうとしていたことの証。だが、前者2つならアナウンスが流れないことがおかしいし、そもそもその直後に好奇の死亡アナウンスが流れている。


「ここにいたんじゃ、状況が把握できない。僕、ちょっと外に―――」


「おい、色んなことに意識を飛ばしてる場合じゃないぞ!俺たちは鬼銅を殺すための準備を整えて、それを完璧なものにする…そう決めたのは他でもないお前だろ、松田?」


新田に諭されて、松田は歯噛みした。鬼銅は、鬼銅瞬を敵視する松田琥珀とその仲間の命を狙っている。そしてそれと同時に、枝野浅葱という自分の命を狙っているであろうスナイパーの命も、逆に奪おうと考えているのだ。




※※※




 縹の力を使う場所を間違っている。それは、萌葱が第三者なら当然考え至る結論だった。縹の力は絶大である。「地上最強の男」、「熊殺し」などの数々の異名を持つ彼は、戦闘においてその真価を発揮する。それを選択しなかったのは、単純に萌葱にとって縹は「最強のボディガード」だからだ。


「儂は行く。異論はないと思うが、まだ話し合う必要はあるか?」


「…感情だけで動くべきではないと、俺はさっきから言ってる。お前の勘が当たる可能性はどれくらいある?勘だけで、お前は誰かを殺しに行けるのか?」


「鬼銅瞬は3人を殺している。蘇芳も、ブラウンも、紅井も、儂は特別親しかったわけではない。じゃが、やつらは儂の替えの利かぬクラスメイトじゃった。許すわけにはいかん。そして鬼銅を止めることが出来るとすれば、儂しかおらんと自負しておる。」


縹の見立ては正しい。鬼銅は強い。拳銃の扱いが長けているわけではないだろうが、既に3人の殺害に使ったということ、蘇芳の口内を撃ち抜いていることからも、銃に関する知識や使うことへの抵抗はなくなってきている。面と向かって戦うとなれば、危険なことは言うまでもないだろう。


「お前さんが反対する理由が分からんな…鬼銅を庇う理由がどこにある?」


「庇っているわけじゃない。ただ、俺は自分で見たものしか信じない。自分自身で受け取った情報以外は信用できない。お前の勘や考えを否定するつもりはない。だが、それが俺の考え方だ。」


確実に生き残ることを考えるならば、縹をうまく焚き付け、誘導し、彼に障害となる「クロ」陣営の敵を殺すよう仕向けることが確実であろうと、萌葱は思っていた。しかし、縹はすべて衝動的に行動をするような人間ではない。彼にも理性があり、考える脳があり、絶妙なところで思慮深い。もしも萌葱が彼を使って邪魔者を排除しようと考えたなら、彼は遅かれ早かれそれに気づくだろう。そしてそもそも、首輪を解体しないことには何も始まらない。


「どのみち首輪の数も必要になる。そうじゃろうが?」


「…わかった。だが、確認するだけだ。争いになるかどうかは、その時の状況による。いいな?」


「そこが妥協点といったところかのぅ。」


戦いは避けられないかもしれない。ならば、争点になる問題の種は早くに摘んでしまうのも1つの手かもしれない。萌葱はポケットに入っている拳銃を転がした。確かに強力な武器かもしれない。だが、弾が1発しか入っていなければ、さほど強力なものとも言えないだろう。




※※※




AM.11:26


 好奇のアナウンスを聞いて一度合流した方がいいと考えたのか、麹塵たちが檜皮を探してやってきた。雄黄たちとも運よく合流することが出来ると、黄櫨は渋染と一線を交えた経緯を説明した。東原の追加に異論を唱える仲間はいない。


「それにしても、見境なく襲ってくるものだな…昨日あれだけ念を押されたのに。」


「嘘ついてんのかな…?好奇のこと殺したやつも、渋染なのかな?」


「違うだろ、銃声が聞こえたんだから犯人は鬼銅だ。間違いねぇ。」


鴇がブンブンと腕を振る。鴇は既に臨戦態勢に入っている。「シロ」「クロ」の区別はない、彼の中では渋染は明確な「敵」と認定していた。


「桃岬、どうしよっか?」


「え…?」


檜皮に話を振られ、桃岬が困惑の声を漏らした。ただ、このことを不自然に思っているものは誰もいない。「桃岬琴音はここで発言をする人間」だと、全員がそう思っているのだ。


「な、何で私に―――?」


「何でってわけじゃないけど…桃岬って、学級委員だし?意見聞きたいなって、そう思っただけ。」


「意見って、そんなこと言われても―――」


「自信もって、琴音の知恵を貸してほしいの。」


黄櫨にそう言われ、黄櫨の顔を見る。彼女は頷いて、桃岬を安心させようとする。頼られるということは、桃岬にとっては日常的な経験だったし、彼女もそれを嬉しいと思っていた。この非常事態に陥って、すっかり忘れていたのだ。目を閉じて、じっくりと考えてみる。


「……」


「…どう?」


「みんなの意見も聞かせて。みんなの思ってることを聞きながら、私も意見をまとめたい。」


桃岬がそう言って、全員が頷く。黄櫨は素直に感心した。桃岬はクラスで萌葱と並んでもっとも人望が厚い生徒だ。いや、親しみやすさや親近感からすれば、彼女のそれは萌葱をもしのぐだろう。


「私はすぐに安全地帯に逃げるべきだと思う!」


朽葉が真っ先に口を開いた。安全地帯に逃げること…可能性の1つとしては悪くないと、桃岬は思った。だけど、きっとそれは昨日と同じことの繰り返しになるだろう。問題の先送りにしかならない。


「渋染と鬼銅を始末するべきだと思う。」


「ダメ。少なくとも鬼銅くんは相手に出来ない。」


それに関しては即答した。鬼銅は危険だ。麹塵と檜皮は確かに強い。だけど、鬼銅はきっとそれよりも強い。同じチーム同士で戦うということも、奨励されるべきことではない。


「じゃあ、桃岬はどう思う?渋染たちのこと、どうするべきだろ?」


「…とにかく、殺すとか、そういう物騒なことは考えたくないかもしれない。」


「甘いぜ桃岬!俺たちがやらなくて誰がやる!?英雄ヒーローが逃げちゃダメなんだ!」


「女の子がするようなことじゃないよ…俺も、香波ちゃんと同じで安全地帯に戻るべきだと思う。そのあとのことは、そこで考えよ?それか、俺たち男だけで行くからさ。」


雄黄の意見は折衷案としては、今のところ最適か。ただ安全地帯に入るだけでは問題は解決しない。だけど自分自身も含めて、東原や朽葉など、戦いに向かない人もいる。


「私は、みんなと戦いたい。渋染と会って分かったの。逃げたくない。」


黄櫨の言葉を聞いて、桃岬は目を開いた。


「…よし、それじゃあ、一度黒崎くんたちと合流するのはどうかな?」


「白馬たちと?」


黄櫨にとって、それは思ってもみない提案だったのだろう。驚いたように目を丸くしていたし、隣で未だに涙を瞳に溜めていた東原は顔を上げる。


「何でそうなるのよ!アイツらは敵じゃない!」


「まあまあ、香波ちゃん!琴音ちゃんも考えがあっていってるんだって、ね?」


雄黄がすぐに朽葉を宥める。


「何かするなら、人が多い方がいいと思うから。さっきの銃声も灰場くんのアナウンスも、本人たちに会って聞いてみれば、知らなかったことが分かってみんなスッキリすると思う。大勢でいれば…怖いのも、不安なのも、それだけ減ると思う。」


桃岬の意見を聞いて、檜皮は内心思った。彼女は誇るべき学級委員だと。


「(東原がずっと怯えてることも見てるし、黄櫨が灰場が死んだ後でほんの少しだけ自暴自棄になってるのにも気がついてる。逃げるでもなく、危険を冒すでもないし…全員が納得できる折衷案って感じ。さすが委員長、って言うのかな?)」


「分かった。アイツらとは休戦協定を結んでいるしな。行こう。」


「なあ桃岬、どうせなら、このタイミングで松田たちとも休戦協定を結んでみないか?お前の言った通り、大勢の方が頼もしいじゃん?」


すると、ほっとした様子だった桃岬の顔が引きつったように見えた。気が付いたのは、雄黄と檜皮の2人だけ。だが、その理由についてまでは考えに至らなかった。


「ま、そんなに多すぎてもアレじゃんか。とりあえず白馬たちだけでいいんだよ。」


「そうかぁ…?あっ、それじゃあ、萌葱たちとも会ってみようぜ!アイツは縹とも一緒にいるし、死ぬほど頼りになるだろ!」


萌葱の名前…その名前を聞いて、最初に思い浮かんだのは安堵。なるほど彼がいれば、この現状を打破できる打開策を導き出してくれるかもしれない。学校生活でも、桃岬は何度も彼に救われてきた。


「…今は、やめとこう?どこにいるのかも分からないし、多すぎるのも、良くないから―――」


「ちぇー、何だよ、せっかくいいアイデアだと思ったのによぉ。まあ、いいや。とりあえず白馬たちと合流するのがいいか。」


鴇が桃岬の意見に折れると、雄黄は彼を桃岬から離すように鴇と肩を組み、彼女のことを心配している眼でちらりと様子をうかがう。檜皮も自然な形で桃岬に近づき、隣に並んだ。


「大丈夫?どうかしたの?」


「う、ううん。大丈夫、何でもないの。」


「…ま、松田はちょっと過激なところあるもんね。けど、どうして萌葱たちも?」


桃岬は答えられなかった。まだ、自分でも答えが見つけられなかったからだ。「勘」としか言いようがない。ただ何となく、今は彼に会いたくないと思った。




※※※




 全速力で走る。誰にも追いつかれないように。追う側の人間だったはずが、今は必死に追っ手から逃げている。枝野は息を切らしながら、ぐるりと周囲を見回した。鬼銅の姿は、まだ見えてこない。


「逃げ切ったのか…?」


考えていることは同じだった。この島中のどこかにいるターゲット、それも反撃の一撃を食らう可能性のあるターゲットを探すのに、ただ闇雲に町の中を走り回るのは非効率かつリスクを伴う。それならば、見晴らしの良い場所で敵が近づいてくるのをじっと待つ。枝野の持つ銃を使えば、遠距離からの攻撃が可能だからだ。


松田はこの銃のことをライフルと言っていたが、それは違う。松田は当面の目的は同じでも、最終的な目標は反目し合う間柄だ。銃について詳しくもない人間にとっては、一目見ただけで銃の種類など識別できない。だからこそ、手の内のすべてを明かす必要はないと考えたのだ。この銃は猟銃である。


「(さっきの蒼山との一件で弾を一発撃ちこんでしまった…今のうちに、次の弾を――)」


蒼山に向かって放とうと考えたのは一粒スラッグ弾だ。猟銃で発砲できるのは散弾銃ショットガンと一粒弾。散弾銃は無数の弾丸を散開発射するもの。長距離からでは威力が低く、あの場所からは飛距離が届くか不安だった。一粒弾は散弾銃よりも飛距離が長くあの場面に適していたが、威力が非常に高かった。もし白馬のナイフよりも先に蒼山に命中していれば、彼は腕ごと吹き飛んでいたかもしれない。そう思ったからこそ、枝野の引き金を引く指に一瞬の躊躇が生まれてしまった。クレー射撃で扱う銃とは、似ているようで何もかもが違う。そして、この猟銃で一度に装填できるのは2発。来るべき時に備え、万全の準備をしなければならない。


「落ち着け、まだ何か起きたわけじゃない。ここにいると知られたわけでも―――」


乾いた発砲音がした。枝野は咄嗟に身をかがめ、そのあとすぐに音の出どころを探そうと周囲を見回した。


「…くそっ!!」


枝野は再び、全速力で走り出した。背後数十メートル先、その姿を捉えた。鬼銅瞬は立っていた。枝野は焦ってその場から逃亡したが、誤算だったのは鬼銅も同じだった。


「(クソ、もっと近づいて撃つべきだったか―――)」


鬼銅は拳銃の扱いには慣れ始めていた。だからこそ、背後からの奇襲ならば命中させることが出来ると思ったのだ。しかし、鬼銅は銃の知識について、もちろんエキスパートではない。自分の持っている銃の飛距離についてなど、到底理解しているはずもない。射程50メートルを僅かに下回る鬼銅の銃では、離れた場所にいた枝野を撃ち抜くには、少々遠すぎた。


「(だが、追い詰めたことには変わりない―――)」


鬼銅はそのまま枝野を追う。枝野が女子の中で優れた運動神経を持っているとしても、それはあくまで女生徒の中での話。男と女では、生まれつきで身体の作りが違う。足の速さも、持久力も、体力も、男女のどちらもがトップクラスならば、たいていの場合男に軍配が上がる。


「(どこか、高いところへ…少しでも有利な場所へ―――!)」


近距離で撃ち合おうと思った場合、重量もあり構えて準備をしなければいけない猟銃よりも、片手で発砲のできる拳銃の方が有利だ。建物を障害物に逃げ回ることは出来るかもしれないが、それもすぐに限界が来る。何より、このままでは他の誰かを巻き込んでしまう。自然と枝野の足は、島の東側の森、小高い丘の方へ向いていた。


「市街地から離れるつもりか…?」


威嚇射撃のつもりで、鬼銅はもう一発発砲をした。走り回っている枝野には命中しない。既に有効な飛距離には届いているはずだが、自らも走っていることからも、狙いが上手く定まらなかった。


「っ!!」


枝野は路地へ入り、無人の家屋へ窓から侵入、裏口や玄関、別の窓からの脱出を繰り返し、何とか鬼銅の追跡をかいくぐろうとする。しかし、鬼銅はゆっくりと、しかし確実に、枝野との距離を詰め始めていた。


「(アイツ…想像していたよりも、ずっと厄介だ…!)」


枝野はあの夜、鬼銅から決別の意思を受け取った時から、こうなることを予感していた。鬼銅が何を考えているかなど、枝野には読み取ることなど出来ない。しかし、彼の意思が決して曲がることはないだろうと確信できた。根拠などない、勘だ。自分の身体が危険信号を発していた。鬼銅瞬は殺さなければならない。そうでないと、自分自身が殺される。


「っあ!!」


丘の近くへ逃げ出した時、とうとう鬼銅の弾が、枝野のふくらはぎに命中した。足に激痛が走り、一気に走れなくなる。しかし、今の一撃で鬼銅の銃に装填されていた銃弾がなくなったのか、鬼銅の走っていたスピードが弱まり、ポケットに手を入れて何かをまさぐり始めた。


「悪く思わないでくれ、枝野。」


鬼銅がそういって、拳銃に弾を込めようとした。


「枝野ぉぉぉぉ!!!」


地面が揺れた。鼓膜が破れたのかと思った。枝野の目に映った鬼銅の顔は、これまでにないほど動揺していた。


「縹匡史―――!」


おおよそ高校生とは思えない巨躯を揺さぶりながら、あふれ出るような殺気を身にまとい、怒号を上げてこちらへ近づいてきた。


「お前さんはそこにいろ!ソイツは…儂が仕留める!!」

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