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シロクロゲーム  作者: 竹取翁
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B side ① 手がかり

インターネットとは、人類が生み出した最大の発明の1つ、といっても過言ではない。かつては数日かけて送り、伝えてきたメッセージが、今やメールで世界中へ送ることが出来る。名前も声も知らない人々とメッセージを交換し合うことが出来たり、指先1つで商品が注文できる。


「そして何より…こうしてオカズ探しも困ることがないわけでして――――」


その時、目にもとまらぬ速さでリモコンが宙を舞い、後頭部に命中する。痛みと驚きで悲鳴を上げながら、どこにこのような暴挙をしでかした犯人がいるのかと、振り返って確認をする―――


「何て気持ち悪いもん見てんのよ!このデブ!変態!キモオタ!!」


「いてて…工藤氏、女性差別は厳しく罰する癖に、ヲタク差別は堂々と行うような、SNSにいる連中の仲間か何か?」


橋谷はしや、さてはお前またサボってやがったな?うわっ…こんな気持ち悪いモン見てないで、仕事してくれよ仕事。何のためにお前を呼んだのか分かんねぇじゃんか。これじゃ工藤に何言われても文句言えねぇよ。」


そう言って2人のケンカを仲裁しながら、稲葉いなば友紀ともあきはため息をついた。


「よーっす。進んでるか?うわ、相変わらずあっち~…橋谷、ここ冷房ついてないのかよ?」


「ここは僕の作業スペースでござるからな。利益が出るまでそんな贅沢は出来ないのであります!」


「んなこと言ってよぉ…こーんなエロ本買ってるんなら、先にエアコンじゃね?」


「僕のコレクションに触るなぁぁ!あとエロ本じゃなくて同人誌ね、そこんとこ( `・∀・´)ノヨロシク!」


「ちょっと霧崎!そんな気持ち悪いもの、こっちに見せないでよ!!」


ここに集まっているのは、十色高校の生徒たちである。サッカー部の稲葉友紀の呼びかけで、同じ部活動の霧崎きりさき(じん)土田つちだ拓人たくと、それから呼びかけに応じてくれた工藤くどう未来(みく)橋谷(はしや)義幸よしゆき甘美かんみ沙織さおりの6人が集結した。場所は、橋谷が同人活動に使っている小さなプレハブ小屋。稲葉がこうして様々な生徒を集めたのには、理由があった。


「んなこといってもさあ、いくら探したって手掛かりなんて見つからないって。ネットは万能じゃないんだお。ネットで調べれば何でも出てくると思ってるとか、橋田寿賀子かっつーの!」


橋谷は学校でも有名な、パソコンの扱いに長けた人物だった。彼曰く、まるでドラマや漫画のような凄腕ハッカーの腕前を持っていると豪語している。それが嘘か本当化は分からないが、彼が極秘に入手したといわれる女子生徒のスリーサイズデータは、彼が袋叩きに遭って3週間の停学を食らったということからも、おそらく正しいデータだったのだろう。


「くっそ…霧崎、そっちはどうだ?」


「ぜーんぜんダメだ…さっき3組の井出いでと澤村にも頼んで、人の数増やしてもらおうと思ってんだけどよ…何の情報も出てこない。誰も目撃することなく、今日の朝に7組の連中丸ごと、姿を消したんだとよ。」


彼らが集まっているのは他でもない、今朝起こった2年7組の生徒らの「集団失踪事件」を調べるためだった。終業式の朝、学校へ何十件もの問い合わせがあった。そのすべてが7組生徒の保護者、親族によるもので、「朝になると子供が忽然と姿を消していた」というのだ。


「ねえ、何とかしなさいよ!他の連中なんてどうでもいいけど、行方不明になったのは海斗も一緒なのよ?海斗に何かあったかと思ったら、私―――この私が頼んでんのよ、何とかしなさい!」


「はぁーーーー…甘美氏は顔は文句なしの500点満点なんだけど、性格態度言葉遣いもろもろでマイナス500点で、プラマイゼロなのが惜しいところなんだよなぁ……」


「何ですって…!?」


「あー、分かるかも―――」


ぎろりと甘美に睨まれて、橋谷とその意見に小声で同調した土田が黙り込む。


「ふざけてる場合じゃないでしょ!警察は何してるの?こんなことになってるのに、どうして何もしてくれないの?」


「拓人、警察にはもう行ったんだよな?」


「とっくに行ってるよ…けど、学校側から先に通報があったみたいでさ、俺のことなんて軽くあしらわれて―――それと、「1つの事件にかまってる暇がない」とか、そんなこと言ってたような―――」


「あー、それって、今全国で起きてる集団失踪事件のことっしょ?」


橋谷のその言葉に、全員が「はあ?」と声を出した。橋谷は冷蔵庫から麦茶を取り出しながらそれをラッパ飲みする。「みんなのでしょ!」と怒る工藤を押しとめて、稲葉が橋谷に問いただした。


「いやだから、今全国で同じようなことが起きてんだって。高校生の集団失踪事件。いろんなところで、今は500件くらい起きてんのかなぁ…それで警察も手一杯なんじゃね?解決出来たって報告は聞いてないし。」


「適当なこと言わないでよ。そんなのテレビでもネットでも、どこでも報道されてないわよ?」


「だって、報道規制されてるんだもん。当然っしょ。」


「報道規制される情報を、何でお前が知ってんだよ?」


霧崎の質問に、橋谷は「(`・∀・´)エッヘン!!」と胸を張って得意げな顔をした。


「そりゃ、僕が天才ハッカーなわけで!最近は政治家とかもさ、みんな平気でブログとかSNSとかやるようになってるんだよね~。んで、それをちょちょいっと調べてくと、IPアドレスとか、どこから書き込んでるのかとか、いろんなことが分かっちゃうわけ。そんでもって、あとは乗っ取りとか遠隔操作で中身を盗み見るだけ…このご時世でも、まだパスワードを誕生日とかにしてる\(^o^)/オワタ‼な人っているもんだから。」


「な、何言ってんのか半分も理解できてねぇけど…今、好奇たちが巻き込まれてることが、全国で500も起きてるっていうことか?」


「そゆこと。」


「なんだよ、それ…!?」


驚きと焦り、そして動揺。それほどの規模で何かが起きているとするならば、いたずらの域をはるかに超えている。何か組織的な、自分たちには想像もつかないことが行われているのかもしれない。そんな恐怖が、稲葉たちを襲った。


「何とか…何とか出来ないの?!ねえ、アンタそんなことできるんなら、さっさと海斗たちの場所突き止めてよ!」


「んな無茶な―――」


「おーい、呼ばれてきたぞ!霜村と須田も協力してくれるって!おじゃましまーす!」


「んな無茶な!?」


霧崎が呼び掛けてきてくれたことで、新しくメンバーがぞろぞろと入ってくる。バスケ部の澤村哲と井出いであきら、チア部の須田真奈美と、その友人の霜村弥生だ。


「今さっき、五十嵐にも電話したから。あとでこっち来ると思うわ。」


「ちょちょ、ここは僕のオアシスであって、蒸し風呂じゃないって!それに、これ以上登場人物増えても渋滞するだけだし、誰も得しないっていうか―――」


「何わけわかんねーこと言ってんだ、橋谷?お前が働いてないだろうって霧崎に言われて、俺はちゃーんと有益な情報ゲットしてきたんだぜ?」


澤村が得意げな顔でそう言うと、手に持っていたスマホをテーブルに置いた。全員がそれを覗き込むと、それは1本の、短い動画だった。


「…ナニコレ?何か、チカチカ光ってるみたいだけど―――」


「SNSに挙がってたんだ!港から見えたんだってよ、今まではこんなの見たことなかったって!どう考えても怪しいだろ?」


饒舌に説明する澤村のことを、工藤は冷めた目で見つめていた。彼女だけではない。その場にいたほとんどの生徒が、呆れた目で彼のことを見ていた。


「あのなあ、これが何の手掛かりになるって言うんだよ?」


「いや、これだけじゃない。他にも、心霊スポットで謎の声を聞いたとか、あと!実は使われてないダムには空洞があって、そこで暴力団員が潜伏してるって噂も―――」


「遊びじゃないのよ!真剣に探してんの!!」


「俺だって真剣だっての!こういう身近なところから、手掛かりがつかめるかもしれないだろうが!ぜってー暴力団関係だよ、鬼銅がいるんだからな!」


無秩序な言い争い…稲葉はただただ、頭を抱えるばかりだった。7組には中学からの友人が多くいる。黄櫨に黄島、それに、好奇と白馬、紅葉と牡丹は小学校からの付き合いだ。何としてでも居場所を突き止めたい。何かトラブルに巻き込まれているのなら、救い出してやりたい…そういう思いから行動していたが、一向に突破口は見えてこなかった。


「…ん?これ、モールス信号じゃね?」


その時、ただ一人だけ、動画の様子に関心を持った人物がいた。橋谷はじっとその動画を見つめ続け、確認するかのように口ずさむ。


「ナ・ナ・ヘ・ル・プ・ア・イ…?」


「何だそら?日本語になってんのかよ、そんなの?」


「ちょっと待て!ヘルプ…?Helpって、助けてくれって意味じゃないのか!?」


稲葉のその言葉に、さっきまでわあわあと騒いでいた全員が、再び一斉にテーブルを取り囲んだ。思ってもみなかった手がかり、救出の糸口。


「ヘルプを一つの意味としてとるなら、「ナ・ナ」と「ア・イ」の意味が分かんなくねーか?」


「「ナ・ナ」って…そうよ、もしかして数字の7、7組のことを意味してるんじゃないの!?」


「そっか、そうよ!そうに違いないわ!!」


「んじゃ、最後の「ア・イ」ってのはどういう意味だよ?」


「アイだから、「自分」って意味じゃないの?私は7組、助けて。みたいな!!」


須田と霜村が手を取り合い歓声を上げる。しかし、言い出しっぺの橋谷が「(ヾノ・∀・`)ナイナイ」と白けた顔をする。


「何でありえないって言えるんだよ?ちゃんと暗号になってんだろ?」


「だって、モールス信号なんて7組の誰かが知ってるわけないもん。僕みたいに、博識で知恵の深いヲタクじゃないと。」


「海斗は知恵が深くて博識よ!」


「けど萌葱氏はヲタクじゃないっしょ。一般人がモールス信号なんて知ってるわけないっつーの。それに、知ってるならもっとうまくやるし。こんな下手くそな信号、偶然に決まって――――」


その時、橋谷が言葉と共に体の動きも止めた。喜びがぬか喜びだったかもしれないと消沈しかけていた生徒たちは、何かあったのかと橋谷に注目した。


「僕…昨日、天王寺氏にモールス信号のこと教えた。」


「はぁ!?」


「僕の貸した漫画で、モールス信号の描写があって…興味を持った天王寺氏に教えてたんだった…それで、結構放課後遅くなって…学年一の美女と放課後のひと時、グフフ…」


「グフフ、じゃねーよ!それじゃあ決まりじゃねぇか!!」


「ア・イ」は「I・自分」じゃない。天王寺藍の、「藍」っていう名前だったんだ。


「す―――すぐに、このこと警察に話そうぜ!ここまで証拠がありゃ動いてくれる!!」


「そうだね…私たちに出来ることってそれくらいだし…澤村くん、すごいよ!思っても見ないところで手掛かりゲットだね!」


「へへっ、そうだろ?」


「いいや、それじゃダメだ。」


稲葉は、無意識のうちに言葉にしていた。みんなの視線を感じても、思いが変わることはなかった。


「全国で、同じような事件が何百件と起きてる。たとえこのことを信じてもらえたとして、ちゃんとした捜索がされるのなんて、いつだ?俺たちの話は上まで届かないかもしれない。土田だってほとんど門前払いだったんだ。」


「けど、それじゃあどうするんだよ…?」


「もちろん、警察には伝えに行く。だけど、もしそこですぐに動けないってことになったとしたら…」


恐怖心はある。だけどそれ以上に、使命感がある。


「やらなくちゃいけないんだ、俺たちで。」

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