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シロクロゲーム  作者: 竹取翁
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Rest Time ② 作戦

 静まり返る島の中で、最初に響いたのは笑い声だった。人を心底小ばかにしたような、不愉快な笑い声。その声の主は他でもない、蒼山だった。


「協力?倒す?不可能だね、何だそりゃ。そんなことのために俺らを集めたのかよ?」


「ちょっと蒼山、アンタ―――」


紅葉が彼を非難しようとしたが、枝野はそれを止めた。枝野は表情一つ変えずに、「なぜ不可能だ?」と蒼山を問いただした。


「お前が言ったことじゃねぇか。俺たちは今、二分化してる。長い連中で1年以上の付き合いだってのに、見ず知らずの男の身勝手なルール1つで、完全に真っ二つになってる!そんな俺たちが、1つになって協力するって?無理だろ、んなこと。そもそも1つになったことなんて、今まで一度もねえだろ。」


「命がかかってるんだ。背に腹は代えられない。どれだけ嫌っていても、信頼関係が築けていなくても、やらなくちゃいけないことのはずだ。」


「何をバカな―――」


「俺は、賛成するよ。」


最初に声を出したのは、白馬。紅葉や好奇が驚いた表情で白馬のことを見つめる中、白馬はそのまま言葉をつづけた。


「だって、それしかないじゃん?俺たちみんなが生き残れる方法なんてさ…。俺は、みんなで一緒にここから出たいし、そのためなら、やっぱり協力しなくちゃ―――」


「不可能だよ。」


そう言ったのは蒼山ではない。俯きながらもそう言葉を発したのは、松田だった。


「この件に関しては、残念だけど蒼山くんの言う通りだ。僕らはまるで信頼関係が築けていない。「やるしかない」で物事がうまくいくのだとしたら、こんなに楽な話はない。現実はそう甘くない。」


「どうかな?僕は枝野くんの意見に賛成だ。」


松田の隣で、奥田が異を唱える。


「たとえどれだけ現状を嘆いても、今の切迫した状況は変わらない。それなら、手を取り合うしかないだろう。」


「だから、それが不可能なんだよ。できっこない。」


「やってみなきゃわからないじゃないか。」


「分かってからじゃ遅いよ。多くの人が死ぬ。全滅するかもしれない。」


「なら、このまま争うことで奪われる命は目をつむるべきだと言うのか?」


松田と奥田は、互いの意見がぶつかりあって議論が平行線に向かっていた。それを止めようと、海松が「ねえ!」と声を上げる。


「で、でもさ…可能性として…あくまで、可能性としてだよ?みんなで協力して、主催者と戦う方が…1%でも、みんなで生き残れる可能性は、あるんじゃないかな?このまま争えば、全員で帰れる可能性は0になっちゃうんだし―――」


「天文学的レベルに低い可能性を追い求めるなんて、それこそバカのすることだぜ。大事なこと教えてやろうか?最も大人数が生き残れる確率ってのは、このままどっちかのチームを全滅させることなんだよ。頭のいい奴はすぐに分かるぜ。」


「え、偉そうに言わないで!ここには蒼山くんより賢い人だって、たくさんいるんだから!」


海松の言葉に、蒼山の表情が歪む。そんな彼女の視線が萌葱に向けられていると分かると、さらに表情は歪んだ。


「学力と知能ってのは違う…なあ、萌葱?」


「俺に振るなよ。」


「いーや、振るね。いつも偉そうにしてるくせに、こういう時はだんまり決め込むつもりかよ?いい子ちゃんぶるのも楽じゃねぇなぁ、おい?」


萌葱は心底嫌そうな顔をした。蒼山に絡まれている彼の姿を見ることは珍しくもないが、いつもの彼はそれを軽くいなしてきた。しかし、今回は少し様子が違う。押し付けられた難題を、上手く答えることが出来ないから…なのだろうか。


「…あくまで成功率の話だけをするなら、確率は低くないと思うぞ。」


「バッカが!!相手は重火器を持った、それもかなり扱いなれたエキスパートだぞ!俺たち40人を超える人数を拉致してきた!組織的犯行だ!成功するわけが―――」


「優れた重火器とそれを操るスキルを持っていても、30人を超える高校生から攻撃されれば、それを一気に捌くことのできる人間なんて存在するのか?」


萌葱の問いかけに、蒼山の言葉が詰まる。萌葱は構わずに続けた。


「あとのことを考えても仕方ないのは、どんな状況でも同じだろう。組織的犯行だからたとえ成功したところで仲間が来る…って言いたいんだろうが―――」


「ああ、そうだ!!武装した仲間が来れば俺たちは虐殺される!逆らった罪でチーム関係なくな!猿でもわかる理屈だ―――」


「ゲームや作戦が終わった後のことを気にするなら、このまま争っても同じことだ。俺たちは全員、首輪コレが取り付けられてる。アイツが約束通り、勝ったチームの生徒を生かして帰す保証がどこにある?どっちにしろ俺たちは袋小路に捕らわれているんだよ。お前の理屈に当てはめても、枝野の作戦が特別リスクを負うわけじゃない。それに、奥田が言ったことに俺も同意する。もっともらしい理屈をつけても、殺人の罪が消えるわけじゃない。」


「ググッ…!」


「蒼山、この島で荒川たちが死んだのを聞いて、感覚が麻痺してるんじゃないのか?どんな理由を並べようと、人殺しは人殺し、犯罪だ。バカでもわかることだと思うが?」


「ぷぷっ。」


「笑ってんじゃねぇ!!」


吹き出した紅姫のことを、八つ当たりするかのように蒼山がはたいた。その様子をしり目に、松田が険しい表情で萌葱のことを見た。


「じゃあ君は、枝野さんの作戦に賛成するっていうんだね?」


「…いや、そう単純な話をしてるわけじゃない。俺が言ったのは、蒼山そいつが言っていた「リスク」のことと、作戦の成功率に関することだ。それ以上の「リスク」が、枝野の作戦にはある。」


「私の作戦に、リスク…?」


萌葱が説明を始めようとする。もうすでに、場の空気はすっかり萌葱のペースになっていた。いつものことだ。彼はいつも、自分の持つ知識とその話し方で、その場の中心に立つことが出来る。


「言ったように、ただ全員で特攻を仕掛けていくだけなら、主催者の男1人を倒すことは難しくない。だが、「全員無傷で」という条件を付ければ話は別だ。もっと現実的な話をすれば、「全員生きて」、だ。」


「それって…」


「かなり難しいだろう。重火器を持っている人間に向かって突進していくことで、相手は必ず発砲してくる。その弾が誰かに命中し、敵が次の弾を装填するまでの間に決着をつける…たとえ力で敵わなくとも、人数の力を使って成功させる。成功する可能性は高いだろう。特に、今俺たちには鬼銅や縹がいるからな。だが―――」


「その成功のためには犠牲が伴う…少なくとも、最初の1発で倒れる1人は確実に。そういうことだな?」


「1人ならいい方だ。銃の種類には詳しくないが、相手の持っていた銃が、数発撃てるものだったら、弾が一度に複数を傷つけることのできる散弾銃だったら、犠牲者の数はもっと増える。」


麹塵の問いに答えながら、萌葱はなおも続ける。


「それに、全員にかなりハイレベルな精神的強さを求めるものだ。自分が撃たれるかもしれないと分かっていながら、隣で誰かが倒れても、止まらずに進まなければならない。そこまでのことを要求するのは、俺は難しいと思う。必然的に持久戦を望まなくちゃいけないだろう。だが、その場合向こうにはコレ(・・)がある。」


萌葱はそう言って、首に巻き付いている首輪を指さした。新田が伺うように言葉を重ねる。


「それで?萌葱は結局、この作戦には賛成なのか?」


「…現時点では、なんとも言えないな。だけど、一長一短で決行できるような作戦じゃない。時間をかけて考える必要がある。」


「そんな時間、僕たちには残ってない。」


「そうだな、だから迷っている。」


「何度だっていう。どう考えても無謀な計画だ。準備も信頼関係もないこの状況で、そんな作戦を決行しても成功する道理がない。」


「じゃあ、アンタはこれからどうするつもりなの。」


「…不本意だけど、今はルールに従うしかないよ。それがこの最悪な状況の中での、最善の策なんだ。」


枝野は考え込むように目を伏せていたが、顔を上げて縹と鬼銅のことを見た。


「作戦の要、大事なのはアンタたち2人だ。それから萌葱に麹塵、檜皮たちにも協力をお願いしたい。あの男を倒すために、どうしても必要なんだ。」


名指しされたものたちは、一様に黙りこくって誰かが口火を切るのを待っていた。最初に口を開いたのは、檜皮だった。


「私はいいよ。人殺しなんてしたくないし、それなら戦った方がずっとマシ。」


「そう簡単に判断できる話でもない。命を懸けなければならないことだ。」


「けど、貴代美だって誰かを殺したくないでしょ?」


「戦うとなれば、あの男を殺すことになる。」


「私はその方がまだいいなぁ…」


「儂はお前の話に乗った。萌葱、お前さんも当然そうじゃろう?」


「さっきも言っただろう、今の時点で簡単に決められる問題じゃない。少なくとも俺は、今の作戦の状況じゃ協力することに好意的じゃない。」


「…それじゃあ鬼銅、アンタは―――」


「俺は協力しない。」


誰よりも早く、鬼銅は枝野の要求を拒否した。ずっと顔を伏せていた渋染が顔を上げる。白馬の隣にいた紅葉が、小さく「嫌…」と声を漏らしたような気がした。


「信頼されていない状態で、そんな計画には乗れない。そもそも、俺は誰とも協力するつもりはない。」


「そんな…鬼銅くん、今ここで疑いを晴らしたらきっと―――」


「疑いじゃない。俺が3人を殺したことは事実だ。そして、それはこれからも変わらない。」


「それって、これからも殺人を続けるって言う意味でいいのか?」


松田が嫌悪感に満ちた声でそう凄んだ。鬼銅は怯むことなく、松田の正面に立って彼を見つめ返す。


「お前も同じじゃないのか。協力は出来ない、ゲームに従うしかない。それは、残ってる「クロ」の生徒15人の命を犠牲にするって、そういう意味じゃないのか?」


松田は答えなかった。鬼銅はこれ以上議論をするつもりがないということなのか、踵を返してその場から離れていく。それに追随するように、渋染もゆっくりと振り返って、集合場所から立ち去ろうとする。


「待てよお前ら、まだ話は終わってないぞ。」


「うるせぇよ鴇、話し合いはもう終わってんだろうが。」


抗議の声を上げた鴇に反論したのは、鬼銅でも渋染でもなく、蒼山だった。


「終わってるって…まだ何も決まってないだろーがよ。」


「交渉が決裂したって言ってんだよ。麹塵は乗り気じゃない、松田とそれについてる金魚の糞どもも作戦参加望めず。てゆーかそもそも、「クロ」の陣営は全員参加しねーんだよ、ボケ。」


「私の名前を自分の意見のダシに使うのはやめろ。」


「麹塵、お前もこの普通科と同じで無能か?よくよく考えればわかるだろうが。」


蒼山が演説を始めようとしたことで、鬼銅と渋染は姿を消してしまった。枝野が舌打ちしたのが聞こえたが、蒼山は続ける。


「考えてみれば当然のことだ…今日死んだ連中は9人、殺されたのは8人で、殺したのは全部渋染の鬼銅の2人だ…そうさ、どっちも「クロ」の陣営だ…「シロ」の腰抜けどもは、この1日で誰一人殺せちゃいない…俺たちが折れる必要なんざ全くないのさ。」


「その2人が「クロ」の生徒を5人殺してるんだ。制御しきれると思ってるのか?」


「アイツらだってバカじゃない…これ以上「クロ」の生徒を殺して回れば、自分の首が絞まることくらい理解できてるさ。それに、鬼銅がブラウンを殺したのは「事故」だといった…有利なのは俺たちさ。」


「あくまで、対立構造を崩さないということか…?」


「お互い様だろ、お前らの側にも血気盛んな奴がいるみたいだしなぁ?」


そう言って蒼山が睨んだのは松田たちだった。松田と新田は、厳しい視線を蒼山に向けていたが、彼はそれに怯む様子はない。笑ってあしらうと、2人に続いてその場を離れていった。松田はしばらく蒼山の去った姿を睨みつけていたが、やがて枝野の方を見て、口を開いた。


「どっちにしろ、この作戦は終わりだ。」

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