Rest Time ① 集合
このギスギス感が好き。
PM.9:00
街の街灯は、1つとして機能してはいない。月明りもない夜の闇の中では、一寸先を見通すのも困難であった。白馬たちが最初にたどり着いたのだろうか、集合場所は静まり返り、人の気配はなかった。
「白馬、紅葉、お前らにちょっと言っておきたいことがあるんだけど。」
「なんだよ、改まって。」
好奇が小声でつぶやいたことで、白馬と紅葉が反応した。黄島は最上たちと話をしている。今が語るべき時だと、そんなふうな決意が好奇から感じられた。
「その、これからのことだけど―――」
「紅葉、白馬―――!!」
しかし、好奇が話を切り出そうとしたと同時に、大きく響いた黄櫨の声にかき消された。
「彩羽!よかった!!やっと会えたわ!!」
紅葉もまた、ほとんど1日ぶりに再会した親友の姿に歓声を上げて飛び出していく。2人が抱き合っているのを見て、好奇はため息をついて会話を中断した。
「彩羽ちゃん、無事でよかった…心配してたよ。」
「加世もね!ああ、けど本当に安心した。ずっとどうしてるんだろって、そのことばっかり考えてた―――」
「ねえ、牡丹は?彩羽、牡丹にはまだ会ってないの?」
紅葉の質問に、黄櫨は悲しそうに表情を曇らせた。それ以上は聞かなくても分かる。そして、だからといって紅葉たちには黄櫨を責める気にはとてもなれなかった。
「あんまり騒がないでよ!他の誰かに狙われたりしたらどうするの!」
「大丈夫だよ、香波ちゃん。もう「レストタイム」に入ってるから、襲ってくる人なんていないし…」
「それでも、ここに来ようとしてる他の連中を萎縮させることにも繋がりかねない。大声を出さない方がいいのは、私も同意だ。」
麹塵がそう言ったことで、黄櫨たちを庇った桃岬がしゅんと黙り込んでしまう。檜皮は「まあまあ」と麹塵のことを宥めながら、白馬たちに向かって「ごめんね」と頭を下げた。
「そりゃあ、友達同士の再会なら、喜びたくもなるよ。けど、麹塵も悪気があるわけじゃないからさ。ね?」
「ああ、分かってるって。」
白馬はそう相槌を打って笑う。彼女たちの中の、仲が悪いわけではないものの微妙に距離がある関係性を、白馬は見ていてなんとなく感じ取った。そうこうしているうちに、バラバラとまばらに人が集まってきた。
「象牙、リ!お前らどこにいたんだよ?」
「俺?俺はそりゃあ、いろんなところ走り回って、それから―――」
「おい、べらべら話すんじゃねえよ!相手は「シロ」のチームなんだぞ!」
象牙が自慢気に話そうとしているのを、リが横で止める。「なんだよ…」と好奇が不満そうな顔をするが、リはそれよりもずっと不快そうな顔をした。
「そりゃこっちのセリフ。今日だけで「クロ」のチームは5人もいなくなったんだ。数で言えばこっちが不利。ここに来てやっただけでもありがたいと思いやがれ。黄櫨たちも、敵と口なんか聞くんじゃねぇぞ。」
「トゥミョンくん、そういう言い方は―――」
「事実だろ。」
話しているうちに、今度は萌葱と海松がやってきた。ほどなくして、蒼山と紅姫がそれぞれ1人でやってくる。白馬も紅葉も、しきりに周囲を見回して東原の存在を探すが、その姿を見つけることは出来なかった。
「おう、ほとんど集まっておるようじゃぞ。」
そんなときに、縹の声がして、全員が声のした方に注目した。そこには、ぞろぞろと大人数で歩いてくる人影がある。よく見ると、それは枝野と縹率いる、松田、天王寺、新田、奥田、煉瓦、緑黄園たちだった。
「…えっと、これで集まってるのは―――27人、かな。」
「死んだ生徒を除くと、ここにいないのは渋染、鬼銅…それから、東原さんに勿忘くん、それと湾田さん5人だね。」
そういった松田のことを、桃岬がちょっとだけ嫌な顔をした。どうしたのかと尋ねる間もなく、縹が低い声を出す。
「枝野、これでもよく集まった方じゃ…ここで話を始めてもいいのではないか?」
「ダメだ。まだ肝心の2人が来てない。彼らが来るまでは、話を進めるわけには行かない。」
「肝心の2人って、もしかして鬼銅と渋染のことか―――」
最上がそう質問した時だった。ここではない少し離れた場所から、複数の足音が聞こえてきた。生徒たちが全員しんと静まり返る中、その音の主は、ゆっくりと集合場所に到着した。
「…遅れてすまない。」
「―――鬼銅。」
見えたのは、拳銃を構えながら歩いてきた鬼銅と、その鬼銅に銃口を向けられながらやってきた渋染の2人だった。その様子を見て、蒼山が大げさなため息をついて2人に歩み寄る。
「おいおいおい、鬼銅。お前まで字の読めない猿になっちまったのか?そいつは俺たち同じ「クロ」の陣営だ。さっさとその銃を下ろせ。」
「ちょっと、話し合いを勝手に始めないでよ。まだ牡丹が来てないのよ!」
「いつまでも来ない奴のことを考えても仕方ないだろーが。時間厳守だ。俺は使えるメンバーだけのことを優先する。」
「その「使えるメンバー」で「同じ陣営」の渋染が、今日青山と向井を殺したんだよ。」
最上がそう言うと、周囲がシンとした後、一気にざわついた。蒼山は鼻を鳴らして「まさか!」と一蹴する。
「仲間を殺す必要があるわけねぇだろう。適当なこと言ってんじゃねぇ。」
「俺は渋染が向井を殺す現場を見てる。水原も一緒にいた。言い逃れは出来ない。」
「姑息なこと考えやがる…そうやって俺たちを揺さぶって、チームの内側から壊していこうって魂胆か?ええ、最上?」
蒼山は、最初から最上の話を疑ってかかっていた。すかさずに最上が反論しようとするが、枝野が「待った」と言って議論を遮った。
「最上たちの目撃証言と、萌葱たちの推測で導き出したことだ…直接本人に聞いてみるのが早いと思うけど?」
「萌葱」という名前を聞いて、蒼山が明らかに不機嫌な顔をした。だが、全員が注目しているのはそんなことではない。「シロ」「クロ」両方の生徒たちが渋染を見つめる中、渋染は伏し目がちなまま、口を開こうとはしなかった。
「…ここへ来る途中、同じことを聞いてみたが、コイツは否定しなかった。そして、返り血のついた制服を着替えていた。」
鬼銅がそう言うと、疑念は確信に変わる。これだけの騒ぎになっているのに、渋染は反論するどころか、眉一つ動かさなかった。
「反論はなし…認めるってことで、いいんだね?」
枝野の言葉に、渋染は小さく頷いた。「何考えてやがんだてめぇはぁ!」と怒る蒼山を諫めるように、枝野が「静かに!」と声を上げた。
「分かった、分かった。落ち着いて。とりあえず今は、敵味方なんて言ってる状況じゃない。もう一つ確認したいことがあるけど、みんなも口を挟まずに聞いてほしい。」
そういうと、枝野は鬼銅の方に視線を合わせた。
「さっき、私は縹と一緒に、血まみれになった紅井を見下ろしている鬼銅のことを見た。手には拳銃を持っている、鬼銅の姿をね。」
周囲がざわつく。紅井を殺したのは、鬼銅だったのか。
「その時本人には確認を取ったけど、改めてみんなの前で答えてほしい。どうして、紅井のことを殺したの?」
鬼銅に向けられた視線は、非常に冷たいものだった。恐れ、軽蔑、警戒…あらゆる負の感情をぶつけられながらも、鬼銅はただただ冷静に、淡々と答えた。
「…紅井は、ひどく興奮状態にあった。話し合いを試みても応じる様子はなかったし、手に持っていたバットで襲い掛かってきた。」
「それじゃ、正当防衛…ってことですか?」
「自分の命の危険を感じた。それに…紅井は瑠璃川のことを殺した、と言っていた。躊躇している暇はないと思った。」
鬼銅の説明で、沈黙が生まれる。それを断ち切ったのは、松田だった。
「よくも見え透いた嘘を。彼の言ってることは真っ赤な嘘だよ。」
「嘘…?どういうことだ、松田?」
「僕は見たんだ。死亡を伝えるアナウンスが流れる直前、瑠璃川さんが朱田さんと一緒にいるのを。」
「えっ!?」
「え――――?」
その言葉に反応したのは、奥田と緑黄園だった。2人の、そして松田の周りにいる数人の反応は少し奇妙なものだったが、それでも松田は構わずに続けた。
「死んだ順番は、朱田さんが死んだ後に瑠璃川さんだ…もし仮にお前の言っているように、紅井くんが瑠璃川さんを殺したんだとしたら…朱田さんは、いったい誰に殺されたんだ?」
「そんなこと、俺は―――」
「ありえないんだよ。2人は一緒に行動してた。そして、2人が死んだときの間隔は1分となかった。それなのに、瑠璃川さんだけを殺したなんて、果たしてそんなことがありえるのか?朱田さんが誰かに殺されて、たまたま居合わせていた紅井くんが瑠璃川さんだけを殺したって、そういうのか?」
松田の質問に、鬼銅は答えなかった。睨み合う両者をみてたまらなくなったのか、緑黄園が前に出て仲裁に入る。
「も、もうやめようよ、お互いに疑ったり責めたりするのは!鬼銅くんが言ってることを信じてあげたっていいじゃない!」
「いいや、ダメだね。聞きたいことは他にもある。蘇芳くんとブラウンくんを殺したことだ。」
「ああ、ブラウン…?何で同じチームのブラウンを鬼銅が―――」
「本人に聞いてみたらどうだ?」
松田の怒涛の詰問は、周囲を圧倒させるほどだった。枝野は額に手をついて下を向いている。彼女はこのことを知っていながらも、この場で話すつもりはなかったのかもしれない。ふと、白馬はそう感じた。
「…蘇芳は、もみ合いになって殺した。その現場をブラウンに見られて…事故だったんだ。落ち着かせようとしたときに―――」
「事故や偶然で3人の命を奪ったって?ずいぶん出来すぎた話だ―――」
「けれど、紅井くんのことは本当よ?朱田さんのことを殺したのは、私だから。」
今度こそ、蒼山が激高して拳を振り上げる。その時の拍子に、隣にいた紅姫の顎に蒼山の振り上げた拳が当たって、「ぐえっ!」という間抜けな声と共に紅姫がひっくり返る。
「そう、今のそういう感じ。紅井くんが瑠璃川さんともみ合いになって、それでバットが彼女にあたって気絶させてしまったの。そのあとすぐに紅井くんは逃げていったから、自分が殺したと思ったんだと―――」
「ちょっと待て、その口調からして、瑠璃川を殺したのもお前か?」
最上の震える声に、渋染は視線を逸らして無言を決め込んだ。奥田は混乱しながらも、事態を収拾しようと松田の腕を掴む。
「し、しかし、今の証言で鬼銅くんの言葉に信ぴょう性が生まれた。ただ決めつけるのは良くない―――」
「信用できないね、同じチームの殺人者として、互いのことを庇っているのかもしれない―――」
「もうやめろ、松田。今回は私がみんなを集めたんだから。」
厳しい声で枝野がそう言うと、ようやくその場が収まった。枝野が見ているのは鬼銅だけだ。渋染のことは、彼女の中では優先順位が低いのだろう。
「蘇芳ともみ合って殺した…っていうのは、事実なんだね?」
鬼銅が頷く。
「そう、それじゃ…どうしてそういうことになったのか、説明してくれる?」
「…ここでは、答えたくないな。」
「ふざけるな、貴様―――」
今度は縹が怒りだす番だったが、枝野はそれもまた制止する。そうしてようやく、枝野は全員の方に向き直った。
「今回みんなに集まってもらったのは、ある提案をしたいと思ってのことなの。私の思いついたことを、みんなに協力してもらえるかどうか、確かめるために。」
「思いついたこと…?」
枝野は一呼吸置いた。そんな彼女を見る松田の表情は、険しくて何だか息をのむようだった。
「今のこの状況を見てよ。何の前触れもなく島に連れてこられて、水知らずの男が提示したルールに従って、私たちはクラスを二分されて争ってる…疑って、糾弾して…これじゃ向こうの思うつぼだ。私は、そんなことになりたくない。」
誰かが舌打ちをした気がした。誰かが鼻で笑った気がした。誰かが身を乗り出し、誰かが息をのみ、白馬は時がゆっくり進んでいるように感じた。枝野の背後に見える鬼銅が、何か言おうと口を開いたのが見えた――――
「クラス全員で協力して、このゲームの主催者を倒さないか?」
枝野の提案は、多くの生徒にとって、予想外のものだった。
ジンギスカンは食べたことないので、好きも嫌いもないです。




