0日目ー② 黒崎白馬
最初の2.3話は文字数少なめに設定しております。
夏休みまで、あと2日を切っていた。夏のうだるような暑さは相変わらずで、もう少し寝ていたいと思ったって、寝苦しい暑さで目が覚めてしまった。
「おはよ、白馬。」
「ああ、おはよ。」
家を出ると、既に玄関の前で紅葉が待っていた。
「そうそう、昨日言った話だけど。」
「うん、そろそろ動かないとマズいし、頼むよ。図書館なら涼しいし、静かで集中しやすいしな。」
「そう!じゃ、明日から早速始めましょっか!」
「えっ、おいおい、明日は終業式だろ?夏休みは明後日から―――」
「善は急げっていうでしょ。一日でも早い方がいいに決まってるんだから。好奇にも声かけとくね。あ、あとは牡丹と、それから彩羽にも―――」
「いつもの面子ってことだろ?それでいいよ。ありがとな。」
十色高校へは、歩いて20分ほど。自転車を使っての通学も考えたのだが、紅葉たちと一緒に行くのならと、1年のころから歩いて登校している。
「おーっす、白馬。紅葉!やっと自由な夏休みが始まるかと思うと、今からワクワクしてくるな!」
「好奇、昨日も言ったじゃんか。俺たち夏休みは勉強漬けだぜ。」
「は?お、おいおい、まさかあれ本気じゃないよな!?だいたい俺は部活もあるんだし、いやだぜ俺は、勉強漬けなのは来年でいいじゃんか、何で高2の夏に――」
「「善は急げ、ってこと。」」
紅葉と、発した言葉が重なった。
※※※
「おはよー」
「はよー」
「あっついなー」
教室へ向かう途中にも、学校全体の浮足立った空気を感じられた。ただ、廊下の奥にある進学科の教室だけは少し違う。どこか落ち着いたクラスの中に入ると、紅葉は「じゃあね」と友人たちの方へ歩み寄っていく。
「じゃー俺も、今のうちに稲葉のとこ行ってくるな。部活の打ち合わせとかいろいろあってさー。」
「ああ、うん。分かった。」
好奇はサッカー部の部員だ。中学までは一緒にサッカーをしていたのだが、白馬だけは高校に入って辞めてしまった。高校の授業についていくのが大変だと思ったからだが、好奇はひどい成績でも元気に部活に勤しんでいるため、ちょっとした後悔はあるのだが。
「白馬、明日から牡丹と加世も来るって。」
「黄島も?いいけど、黄櫨にも声かけるんじゃなかったのか?」
「彩羽はホラ、部活で記録会があるから。部活がないときは来てくれるけど、明日はダメみたい。」
「ああ、そっか…黄櫨は陸上部だったな。」
進学科でも、部活動をしている生徒は一定数いる。それに、「あのこと」があってからは、「あの事件」があってからは、もともと20名足らずだった進学科の7組は、今や40名もの数になっていた。
「白馬くん、また明日からあらためてよろしくね。」
「うん、俺の方こそよろしく。俺が黄島に教えられるところがあるとは思わないけどさ。」
「ふふ、そんなことないって。私、世界史とか苦手だし。」
「牡丹もよろしくな。」
「う、うん。私は理系だから、役に立てるか分からないけど―――」
黄島加世と東原牡丹もまた、高校に入るより前に知っていた旧友である。このクラスには、他にもう一人黄櫨彩羽という女生徒もいる。
「牡丹は国立受けるんだよな?」
「うん。白馬くんは私立?」
「あー…どうだろうな。東京に出るつもりだから、東京に行けるならどこでもいいかな。」
「へぇ、黒崎くん東京に行きたいんだ。それじゃあ1人暮らしだね。」
「そうなるよな。ま、それが楽しみなんだけどさ。」
「夕暮町から出たいってこと?」
「そりゃあそうだよ。何にもない田舎町だし、一度は都会を味わってみたいじゃん?それに、俺の場合は1人暮らしが一番の目的だったりするんだけどさ。」
夕暮町のことが嫌いってわけじゃない。けど、17年間過ごしてきたこの町を、一度は出てみたいと思うことはある。漠然と、そういうことを考えることが増えた。
「よーし、みんなおはよう。席につけー。いよいよ明日が終業式。けどその前に今日は大掃除があるからな。」
そんな声と共に教室のドアが開いた。担任の谷口が入ってくると、自然と生徒たちが席に座り始める。数人がだらだらと会話を続けようとしているところを、クラス委員の桃岬が諫めたところでようやく静かになった。
「さて、と…。大掃除は前から決められていた割り振りで行う。それから、お前たちもそろそろ受験を考え始める時期だ。この夏休みでどれだけレベルアップできるかが、1年後の本番で響くからな。」
「教育科のていで話進めんなよな、センセー。俺たちに受験とかべんきょーとか、関係ねぇだろうがよぉ、なあ?」
緋井がそういうと、谷口はチラリと緋井のことを睨んだ。しかし、すぐに咳払いをして話を元に戻す。その様子を見て、緋井はわかりやすく舌打ちをした。
「とにかく…とにもかくにも、この夏はみんなにとって大事な時になる。一部、そうでない奴がいるのかもしれないが…まあ、どういう選択肢を取るのかは、お前ら個人次第だ。全員の進路について、先生も精いっぱいやっていこうと思う。だから、頑張っていこう。」
教室はシンと静まり返っていた。その様子を、白馬はボーッとしたまま俯瞰で眺めていた。いつからこうなったっけ?確か、1年前はこんなことはなかったはずだ。進学科7組は、1年間全員がそこそこに仲が良く、みんながそれぞれ、切磋琢磨していたような。
「…くば、はぁくば!」
「えっ!?」
気が付くと、教室からはまばらに人がいなくなり、目の前にはクラスメイトの雄黄がこちらを覗き込んでいた。
「なにボーッとしてんだよ?俺たち体育館の掃除だぜ。さっさと済ませないと。」
「あ、ああー、ごめん。すぐ行くよ。」
歩きながら、思い出す。いや、忘れていたわけじゃない。またいつもの病気のせいで、頭が回っていなかっただけだ。
「嫌になるよな。最近あんな調子でさー。6組との統合があってからずっとだぜ。」
「ああ…そうだな。」
「あの事件」があってから、普通科だった5組の生徒半数が、7組に流れてきた。授業に変わりはない。やってることは、1年生の頃とそう変わりはない。それでも、クラス中でそのような「空気」が流れていた。暮らすが二分されているような、そんな嫌な空気が






