1日目ー⑮ 歪な
長くなってるなーって、そう思ってる。
枝野から一通りのあらましを聞いたあと、天王寺は「いいじゃないですか」と賛同の声を上げた。
「みんなで話し合おうの、私も賛成です。今日の朝から皆さんの顔を見てませんし…情報交換っていう意味でも、私はやるべきだと思います。」
「だ、だけどよぉ…そこに鬼銅を呼ぶ必要あんのかよ?今話を聞いてる感じだと、鬼銅は同じチームのブラウンまで殺してるんだぜ?話し合いが通じるような奴じゃねーって。」
「そんな…まだ本人からちゃんとした事情も聞けてないのに、一方的に敵視して追い出すなんてダメだよ。それこそ、争いのもとになっちゃう。」
「それに関しては同意だな。鬼銅にしろ、荒川たちを殺したやつにしろ…直接会って問い詰めた方が手っ取り早い。」
各々が意見を述べていくが、その多くは集合すること自体には賛成しているようだった。奥田は伺うように松田のことを盗み見る。松田は他のメンバーとは少し違う。何かを探ろうとする目で、枝野のことを見ていた。
「…その集まりで話す内容は、ここでは教えてくれないんだね?」
「悪いとは思ってるよ。でも、全員がいる場所で、一度に伝えたい。前情報が入ってる状況じゃなくて、その場で聞いてほしい。」
「…その意見に、僕らが賛同するとは限らないよ。それでも?」
「私は、賛同してもらえると信じてる。」
枝野と松田はしばらく黙りこくったまま互いを見つめていたが、松田が「分かったよ」とうなずいたことで、一応の解決が為された。
「それで、他のみんなにはもう呼び掛けてあるの?」
「ああ、うん。まあね。まだ湾田と勿忘は見つけられてないんだけど、ほとんどの生徒には伝わってると思う…それから、渋染には鬼銅から話すように頼んだからね。」
「ン…?なんで、渋染のことをわざわざ鬼銅に頼んだんだ?」
煉瓦がそう尋ねると、縹が「知れたことを」と吐き捨てる。
「荒川たちを殺したのが、おそらく渋染だからよ。」
縹の返答に煉瓦が素っ頓狂な声を上げ、松田たちも驚きに目を見開く。奥田も信じられないといわんばかりに、「まさか…」と声を漏らした。
「儂らはお前さんらを探すために別行動をしようとしたんじゃが、その直後に黒崎達が話している声が少しだけ聞こえてきてな。ハッキリとは聞き取れんかったが、「渋染」「向井」「異常者」とかなんとか…すぐにピーンと来たわい。アイツが荒川に青山、向井の3人を殺したんだとのぅ。」
「ま、待った待った!!状況を整理させてくれ。どうして、渋染くんが向井くんを殺すことになる?それに、もし仮にそれが事実だとしても、それが荒川くんと青山くん殺害に結び付くのか?」
「私もここに来る途中で縹から聞いたんだけどね、萌葱たちは半日かけて死んだ5人の遺体を見て回ったらしい。その中で、今挙げた3人の殺され方が酷似していたんだって、そう聞いたよ。」
「そこから、さっき聞いたあの話じゃあ…あの声は最上だったから、おそらくはアイツが目撃者。向井が渋染に殺されたところを見たんじゃろう。だから、鬼銅に迎えに行かせた。」
「人殺しのお守りは、人殺しに、ってわけか――――」
「君たち、仮定で話を進めすぎだ。鬼銅くんのことも、渋染くんのことも…まだ確固たる事実を掴んだわけじゃないだろう?」
奥田は、そう言って縹たちのことをなだめた。それが事実であるかそうでないか。それは今は大きな問題ではない。噂や思い込みで疑心暗鬼になり、精神状態が不安定になる…それが一番危険なことだと、奥田は危惧していた。
「…まあ、すべてのことは、今晩に分かるさ。とにかく伝えた集合場所に、よろしく頼むね。」
枝野がそう言って立ち去ろうとし、縹もそれに続く。残された松田たちが無言で立ち尽くしていると、天王寺が「あっ」と声を漏らす。
「…日の入りです。」
※※※
PM.7:56
一日中探し回っても、黄櫨たちは東原を見つけることは出来なかった。途中で何度か血だまりの中に倒れている誰かを見つけ、そのたびに道を変えて辺りを捜索した。周囲が一面暗闇に包まれると、さすがに町の中を堂々と練り歩くのも憚られ、神社の境内に腰を下ろしていた。
「ねえ、大丈夫なの?こんなところにいて、誰かに狙われでもしたら―――」
「この暗闇の中で、誰も何もしかけてこようとはしないって。これだけ大人数で動いてるんだしさ。朽葉は心配しすぎ。」
「アンタが能天気すぎるんでしょ!」
「まあまあ!落ち着いて落ち着いて!」
雄黄が朽葉のことをなだめるも、彼女は鼻息荒く檜皮に突っかかろうとする。そんな騒ぎもよそに、黄櫨はどこかにいる親友のことを心配していた。
「彩羽ちゃん、心配なのはわかるけど、大丈夫よ。時間になったら会えるから。」
「うん…琴音、ありがとう。」
鴇は空を見上げて、深いため息をついた。すっかりと暗くなっているが、月どころか星も見えない。曇り始めたのだろうか、もしかしたら雨が降ってくるかもしれない。
「あと…1時間ってところか。」
「あーー…9時から7時までって、俺たち小学生か!って感じだよな、なあ?世の高校生は、今日日0時を超えるまで起きてるっつーの―――」
雄黄がわざととぼけたことを言って見せるが、その言葉で笑顔になれるほどの余裕はなかった。朽葉は相変わらず不機嫌そうな顔をしているし、麹塵と檜皮は神妙な面持ちで何かを話し込んでいる。一緒に行動をしていても、ここにいるみんなはバラバラのように思える。
「そろそろ、動き出した方がいいんじゃないのか?慎重に進むのだとすれば、目的地に行くまでに1時間くらいかかるだろう。」
麹塵がそういうと、檜皮も「そうだね」と同調した。
「まあーーーそうだな。それに関しちゃ何にも言うことはねえょ。けど、あともうちょっと東原探しに時間割いてもいいんじゃねーの?」
「そうしてあげたいけど…約束の時間を守らないと、枝野の話を聞けないかもしれないでしょ。東原にも集まることは伝えてあるっていうんだし…大丈夫だよ、行こう。」
檜皮に促されて、黄櫨も頷いた。不安はある。後ろめたさもある。だけど、僅かでも希望がないわけじゃない。紅葉に、加世に、白馬たちに会える。そんな小さな希望を胸に、黄櫨は歩きだした。
※※※
バシャバシャと、ため池の中で衣類を洗っている。しかし、べっとりと染みつき乾いてしまった血痕は、水洗いした程度では落ちることはなさそうだった。今の季節が夏なのは幸いだったかもしれない。これがもし冬だったら、移動にはかなりの苦痛を感じたことだろう。
「渋染。」
背後から声をかけると、渋染は一瞬動きを止めた。今回に限っては、鬼銅の声が聞こえていないというわけではなさそうだった。しかし、彼女は振り返ったりはしなかった。下着姿を見られたことを恥じらうような様子もなく、渋染はゆっくりと立ち上がって、隣に見えている家屋へと向かう。
「止まってくれ、渋染。」
銃口を向けると、渋染はそれを横目で見た。ほとんど真っ暗になりつつある島の中でも、黒い鉄の凶器は存在感を放っているようだった。
「…ごめんなさい、服を探させて。制服が乾くまで、別のものを着ていたいの。」
渋染は小さくそういうと、そのまま家屋の中に入っていく。鬼銅は返事をせずに、そのまま彼女の背中に続いた。道中で拾ったライターの火を灯す。うっすらと明かりが灯されると、渋染がタンスの中を物色しているのが見えた。彼女は手ごろなシャツを見つけたのか、それを下着の上に着こんでいった。
「終わったか?」
「ええ、ありがとう。」
何の変哲もない会話。彼女を指名された時に、直感的に分かっていた。彼女が今、この島にいる自分以外の殺人鬼なのだと。しかし、目の前にいる渋染赤音は想像よりもずっと静かで、落ち着いて見えた。
「私に何か用?」
「今日の夜、これからクラスの全員で集まる予定がある。お前も一緒に来るように、連れてくるよう言われた。」
「…私も行かなくちゃダメ?」
「他の連中を殺した手前、後ろめたいか?」
鬼銅にとって、この言葉は渋染に揺さぶりをかけた質問のつもりだった。しかし、渋染は見つけた時から浮かべている微笑みを崩すことはなかった。
「別に、そういうわけじゃないけど。」
「否定はしないんだな。クラスメイトを殺したことを。」
「鬼銅くんも、誰かを殺したの?蘇芳くん?ブラウンくん?それとも紅井くん?」
その質問を受けて、逆に鬼銅が揺さぶりをかけられたように感じた。自分の殺した人間の名前を言い当てられたことに動揺したのではない。彼らを手にかけたことに関しては、鬼銅の中で折り合いをつけていたからだ。
「そういう質問をするってことは…今名前を挙げなかった5人の連中は、お前が殺したってことか。」
渋染は答えなかった。このまま会話を続けていても意味がない。鬼銅は「着いてきてもらうぞ」というと、渋染は抵抗したりはしなかった。
「…さすがに、1日に5人も殺せば疲れるものか?」
「………」
「…お前は、なぜアイツらを殺したんだ?」
「……」
夜は更けていく。朝にバラバラになった生徒たちは、枝野浅葱という1人の生徒の呼び掛けによって、再び1つの場所へ集まろうとしていた。そして、この集合が2日目以降にどのような波乱を巻き起こすのか、この島にいる誰も想像もしていなかった。
生存者:32名
第9回シロクロゲーム:終了




