1日目ー⑭ 日の入り前
前作ではみんないいやつばっかりだったので、ちょっとずつ問題あるように作り変えてるつもり
PM.5:37
少しずつ辺りが暗くなっているのが分かった。白馬たちは未だに縁側で座り込んでいたが、その間にも再びサイレンが流れ、紅井の死が伝えられた。これで、今日に死んだ人間は金原を含め、荒川、青山、蘇芳、ブラウン、向井、朱田、瑠璃川、紅井の9人となった。
「たった1日、それだけで、だいたい3分の1が死んじまった。」
「うん…」
「…牡丹のやつ、ちゃんと黄櫨たちと合流できたのかな?アイツ、1人だと何にも出来ないからなあ…」
「大丈夫だろ、アナウンスは聞こえてきてないんだから。」
「そうよ。それに、牡丹は大丈夫。ここぞってときは出来る子なんだから。」
そう言った紅葉の肩を、黄島はそっと抱く。どことなく沈んでいる空気の中で、萌葱は静かに立ち上がった。
「海松、ちょっといいか?」
「え?どうしたの、萌葱くん?」
「ちょっと一緒に来てほしいんだ。相談がある。」
「?おいおい、お前らどこか行くのか?もう暗くなってきたし、枝野との約束の時間まで一緒にいた方が――」
好奇がそう言って呼び止めるが、萌葱は「悪いな」と言ってその場を離れる準備をはじめ、海松もそれについて行こうとする。再び6人になってしまおうとする中で、白馬は漠然と、渋染のことを考えていた。
「…くば、おい、白馬?」
「えっ?」
「ボーッとしてんなよ?ただでさえ、俺たちがしっかりしなくちゃいけないんだ。」
「ああ、うん。分かってるよ…」
「そうだ、黒崎に聞いておきたいことがあったんだ。」
すると、立ち上がっていた萌葱が思い出したかのように口を開いた。
「何?俺?」
「ああ、渋染のことで、少しな。」
すると、一番反応したのは白馬ではなく、紅葉だった。白馬を庇うように立ち上がって、萌葱のことを睨みつける。
「白馬と渋染は、何の関係もないわ!!」
「個人的な関係があるかどうかは知らないが、共通点はあるだろう?」
「共通点…?何だそれ?同じクラス…とか?あ、進学科の中であんまり成績が良くないとか、ハハ―――」
「時間把握障害だよ。」
その言葉は、白馬だけでなくその場にいたすべての人間を黙らせた。最初に口を開いたのは、やはり紅葉だった。怒りに顔をゆがめ、萌葱のことを恨みがましく睨む。
「白馬の病気が、あの子と何の関係があるのよ?」
「黒崎と関係があるかどうかは知らん。ただ、参考までに聞きたいと思ったんだ。渋染が考えていることが分からない以上、あらゆる側面で考察したいと思った。俺たちが持っていなくて、渋染が持っているもの…それが時間把握障害だ。そして、黒崎は同じものを持っている。」
「お、俺に何を聞きたいって…」
「何か、普段の生活で違和感を覚えることはないか?著しく倫理観が欠如する瞬間や、人の生き死にに対して興味を抱けなくなる瞬間は?もしくは―――」
「いい加減にしてよ!白馬があの子と同じことをするって、そう言いたいの!?」
「そうだぜ萌葱、さすがにそれは、俺だって許せねえ―――」
「落ち着けよ、俺は確認したいだけだ。そうじゃないのなら、それで済む話なんだ。そもそも個人差があってもおかしくない。このことで、黒崎のことを不当に区別したり決めつけたりはしない。」
紅葉と好奇が怒りのままに萌葱に詰め寄ろうとしたのに対し、萌葱はあくまで冷静に説明をつづけた。白馬は、自分のために2人が怒ってくれていることに何かこみあげてくるもを感じながらも、紅葉の腕を掴んで彼女を制止した。
「紅葉、大丈夫だって。好奇もよせよ。萌葱は別に、俺のことを責めたいわけじゃないって。」
「けど、白馬…」
「確かめたくなるのは当然だよ。俺にもちゃんと答える義務がある。」
白馬がそういうと、萌葱は白馬の方に向き直る。最上と水原も、少し外野から2人のことを見ていた。
「俺はずっと過ごしてきて、何か「人をぶっ殺したい」とか、「傷つけたい」とか、そういうことは思ったことないよ。だけど…渋染のことで、なんとなく思うことがあるんだ。」
「なんだ?聞かせてくれ。」
白馬は一瞬の躊躇を感じた。ここで自分の思っていることを言ってしまえば、周りの人間はどう思うだろうか。そんなことを考えてしまったのだ。
「…萌葱、渋染の殺し方って、どういうのだったっけ?」
「さっき言ったままだ。首を中心に刃物で刺されていた。」
「それってさ…どれくらい正確だった?」
「正確?同じ場所をどれくらい刺していたか、ってことか…?」
萌葱は少しだけ考えて、それから口を開いた。
「被害者の身体には無数の刺し傷があった。文字通り「めった刺し」と言ったところだったが。それから、青山の首はほとんど胴から離れかけていた。それだけ執拗に刺突していたってことだ。」
その言葉に、白馬は身震いした。分かりたくもない。だけれど、自分の中の仮説がひとつ繋がった気がした。
「傷口は見たか?その…断面図、っていうか。もしかしたら、その…青山の首の断面は、綺麗だったんじゃないかな、って―――」
「おい黒崎、お前さっきから何言ってるんだ?」
たまらずに最上が口をはさんできた。黄島が「ちょっと…」と止めようとするが、最上は構わずに続けた。
「一体、お前は何を言いたいんだ?青山の傷がどうだったかなんて、ここで聞く必要のないこと―――」
「確かに、そうだったかもしれない。」
最上の言葉の語尾は、萌葱の言葉と重なってかき消された。
「渋染が使ったのはおそらくその辺に落ちていた刃物の類だ。それにしては、首と胴の切断がうますぎる。普通なら出るはずの肉片がほとんど散らばっていなかった。さすがに断面を詳しく調べはしなかったが…よくわかったな。」
「えっと…まあ、1からちゃんと説明するけどさ。」
そうでないと、最上や水原の、こちらを信じられないような目で見ている視線を回避することは出来ないだろうから。
「時間把握障害…って、原因も治療法も分かってない病気だから、医者の言うことそのまま鵜呑みにするわけにはいかないんだけどさ…なんていうか、この病気は名前のまんまで、時間の正確な流れが分かんなくなる病気らしいんだよ。」
「続けてくれ。」
「ああ、うん。だからさ、本当は10分しか経ってないのに、それが1時間以上にも感じられる時があったり、逆に1時間も経ってるのに一瞬にしか感じられてたり…言い換えるとすれば、集中力の強弱がすごく激しいんだよ。」
最上の怪訝な表情は晴れない。紅葉と好奇、黄島も依然として不安そうな顔をしていたが、萌葱は白馬の言葉から何かをくみ取ったようだ。
「それで、その集中力が高まったり散漫になるのって、個人差があるんだよ。俺もずっとこの病気になって俺なりに考えてきたんだけど、俺はどっちかというと、誰かと一緒にいるときに集中力が途切れることが多い。逆に、1人で何かしてるときは、時間の流れが凄く遅く感じるんだ。」
「それと、渋染のしたことの、何の関係があるって言うんだ?」
「分からないか?俺はなんとなく、黒崎の言いたいことはわかった。」
萌葱がそういうと、白馬に代わって説明を始めた。
「黒崎が言いたいのは、集中力…注意力が散漫になるときと研ぎ澄まされるとき、その条件は個人差があるってこと。黒崎の場合は外的環境…だが、それが渋染に当てはまるとは限らない。渋染はこのゲームが始まってから、何らかの条件がそろったことでその集中力が高まってるってことだ。その集中力をもってして、傷口を常人よりも数段確実に、切り裂いて突くことが出来た。」
「俺が小学校の時、美術の時間で「点描画」っていうのをやったんだ。点だけで絵を作るっていうやつ。その時にさ―――」
「ああ!」
白馬が説明をしようとしたときに、好奇が思い出したかのように大きな声を出した。
「そうだ、思い出した!お前あの時、動物の虎を描いたんだ!それで、虎の黒模様を――」
「うん、そうなんだ。俺って点描画があんまり好きじゃなくってさ、点が見えないくらい、黒い模様を塗りつぶしたい、って思ったんだよな。そうしたら、放課後に学校が閉まるまでずっと黒模様を点で塗りつぶしてたみたいで…」
「真っ黒だったね、あの時の黒崎くんの虎模様。」
黄島はその場を和ませるように言う。
「渋染も、同じだと思うんだ。同じところを何度も刺すのも、特別な意味があったり恨みがあるわけじゃない。きっと、「同じ個所を刺そう」と勝手に思い込んでるんだ。それで、集中力が凄く研ぎ澄まされているから、それが出来てしまう。」
「アイツの殺害方法の理屈はわかった。だが、動機が分からない。それについては何か思い当たることはないか?」
「それは…」
白馬はしばらく黙りこくった後に、ゆっくりと首を横に振った。萌葱は「そうか…」とつぶやいて、続けて白馬に礼を言った。
「それじゃ…黒崎の病気と、渋染の殺しは関係ないってことでいいのか?」
「渋染の殺害方法に関わることではあるかもしれないが、黒崎には何の関係もない。」
萌葱がそう言うと、最上は大きくため息をついて、ようやく身体に入れていた力を抜いた。それから、ちょっとだけバツが悪そうに白馬のことを見た。
「悪かったな。お前のことを警戒してた。」
「いや、当然だって。俺は何にも気にしてないよ。」
「もう…白馬は人が良すぎるんだから。」
紅葉は今もなお、少しだけ恨みがましい視線を萌葱に向けていた。彼女の中は、白馬のことを守らなければならない、という使命感にも似た感覚で満たされていた。そして、そんな様子を見て好奇と黄島は顔を見合わせて見守る。
「それじゃあ、今度こそ行くよ。また枝野の言った集合場所で会おう。黒崎、いろいろと教えてくれてありがとう。」
「それじゃあ、みんなまたね。」
萌葱たちはその場を離れていく。何かここにいる6人に隠したいことがあるのか、その真意を理解しているものは、ここには1人もいない。萌葱は嘘と本音を織り交ぜて、少しでも自分の望む結果を得ようと画策していた。
そして、最上もまた、小さな嘘をついていた。人を殺すことへの意識、黒崎白馬への意識、そして渋染赤音への意識について。
「(何で俺は…今「ウソ」をついたんだろう。)」
そんな風に思っていたのは、白馬も同じだった。渋染の殺人の動機に心当たりがないというのは、正確には嘘だ。明確な答えが自分の中にあるわけじゃない。だけど、どこか心の中で引っかかることがあった。彼女の「症状」が出るときの条件。それは何なのか。その答えに、白馬はすぐそこまでたどり着きそうになっている気がしていた。
「あとは…枝野の約束まで、待つだけだな。」
好奇がそう言ったが、白馬の耳には届いていなかった。
※※※
松田の歩みは止まることはない。ここに来るまで紆余曲折あったが、松田は誰にどういわれても、絶対に曲げるわけにはいかない確固たる意志があった。奥田の言っていたことは、確かに的を射ていることはあったかもしれないが。
「…松田くん、もうそろそろあたりが暗くなります。完全に日の入り時間になるまでに、蘇芳くんたちの遺体を見つけないといけませんね。」
「ああ、さすがに日の入りになったら視界が悪くなる。危険な市街地の中心をうろつくのは、得策とは言えないからな。」
「…うん、大丈夫だよ。分かってる。」
自分の動きに賛同してくれている新田と天王寺がこういう以上、日の入りを1つの区切りとして動かなければならない。それに、2人の言っていることは最もだ。
「なあ…松田くん、君はもし仮に、蘇芳くんたちを殺したのが鬼銅くんだと分かった場合…どうするつもりなんだい?」
「…逆に、奥田くんならどうする?」
「え?」
奥田が囁き声で質問してきたのを、松田はそう返答した。奥田は面食らったように見えたが、すぐに答える。
「それは…説得するよ。どうしてそんなことをしてしまったのか、ちゃんと理由を聞いて、もうそんなことをしないように説得する。」
「できなかった場合は?」
「それは―――」
「いや…仮に、説得に成功したとしよう。そのあとは?理不尽にルールを押し付けられた状況でのゲーム。拒否権もなければ、孤島で逃げ場もない。奥田くんならどうやって、現状を打開する?」
奥田は答えられなかった。松田の口調は責めているようには感じない。ただ、自分自身に言い聞かせ、確認しているように思えた。奥田が再び口を開こうとしたときに、松田が手をかざして言葉を遮る。
「どうやら、日の入り前には間に合ったみたいだ。」
その声に、全員が顔を上げて松田の指さす方向を見る。そこには、無造作に打ち捨てられている2人の亡骸があった。
「うっ…!」
煉瓦は立ち止まって、その場でしゃがみ込んでしまった。緑黄園はそんな彼を心配するように背中をさする。松田たちがゆっくりと遺体に接近していく中、奥田は2人に寄り添うことにした。
「煉瓦くん、大丈夫ですか?無理せずにそこで休んでおいた方がいいですよ。」
「お、お前らは、平気なのかよ…!?」
「…ある程度、覚悟は決めてきましたから。」
そうはいっているものの、天王寺の声はいつもより上ずっていたし、顔色もどことなく悪く見えた。新田はそれを察するように彼女を立ち止まらせると、松田と顔を見合わせ、頷いてしゃがみ込んだ。
「蘇芳は頭を一発…ブラウンもだな。銃声の数と同じ。やっぱり一撃で仕留めたんだ。」
「うん。それに、蘇芳くんは頭を撃ち抜かれたんじゃないよ。ほら、よく見て。」
松田が蘇芳の顔を指さす。新田がそれを見ると、蘇芳が口内から出血しているのに気が付いた。
「口から出血…?」
「逃げようとして、舌か何かを噛んだってことですかね?」
「ううん、違うよ。蘇芳くんは、口内を撃ち抜かれているんだ。聞いたことがある。拳銃自殺をする場合、頭に銃口を向けて発砲をしても、頭蓋骨が滑って一命をとりとめる場合があるって。確実に死ぬためには、こうやって口の中に銃を差し込む―――」
指で拳銃の形を作って、松田が自分の口の中に人差し指をそっと入れた。天王寺と、少し離れたところで聞いていた緑黄園が顔をゆがめる。想像するのすら恐ろしい。
「それじゃあ、蘇芳くんは自殺―――?」
「そうじゃない。犯人は、そういう細かいところをちゃんと計算していたってことだよ。頭を撃っても殺せない可能性があるから、一撃で確実に仕留めて、弾数を節約しようとしたってことだ。」
そう言いながら、ブラウンの死体に目をやる。蘇芳が弾薬が貫通して後頭部から出血しているのと同様、彼もまた後頭部からの出血痕がある。しかし、その頭には弾薬がめり込んでいた。
「…ということは、ブラウンは背後から発砲されたってわけだな。あの叫び声と合わせて推理すると、逃げようとしたところを追撃された、ってことになる。」
「うん。そうだね…だけど、この傷口は何だ?頭蓋骨に刺さったはずの弾が掘り出されてる…どうしてこんなことを―――」
「それは儂らのしたことじゃ。」
その時、隣の道から声が聞こえてきて、松田は弾かれたように立ち上がった。新田がアーチェリーを準備する間もないと判断したのか、忍ばせていたナイフを手にとる。
「待った待った、私たちは味方だよ。」
その声と共に、2つの人影が姿を現す。大きな巨躯と、吊り上がった目の女子生徒。それが縹匡史と枝野浅葱だと気づくのに、そう時間はかからなかった。
「縹くん…」
「お前らか…」
新田がナイフを静かに下ろす。2人はともに同じ「シロ」の陣営。ここで争う必要はないと判断したのだろう。煉瓦は縹の存在と枝野の持っている銃に怯んだものの、いつものようにパニックに陥ったり叫んだりはしなかった。
「すまんな、松田。儂らが昼頃に、お前さんらと同じように死体を調べに来たんじゃよ。どこからどうやって殺害されたのか、詳細に知るべきだと言っておった。」
「言っていた…?ていうことは、それは縹くんが考えたことじゃないの?」
「ああ、萌葱が提案したことだった。」
その名前が出たことで、緑黄園たちは安堵の表情をして、新田や奥田たちも納得のため息を漏らす。唯一、松田だけを除いて。
「萌葱くんが?」
「ああ、そして松田。お前らの推理は正しい。それをやったのは、十中八九鬼銅瞬で間違いない。」
「そんな―――」
緑黄園が抗議の声を上げるが、枝野が残念そうに首を横に振る。
「さっき、彼が鬼銅を殺した現場を見た。直接見たわけじゃないけど、死体のそばで返り血を浴びていたし、本人も否定はしなかった。手に拳銃を持っていたし、ほぼほぼ確定だ。」
「けど…けど、同じ銃だって決まったわけじゃ―――」
「儂が調べた。紅井の亡骸のそばに落ちていた弾薬をな。間違いない。蘇芳を殺したものと同じじゃ。」
縹の言葉には怒りが込められている。それをここにいる全員がなんとなく感じ取っていた。緑黄園はショックを受けたような顔をしていたが、それ以上何も言うことはなく、枝野は松田の方へ歩み寄る。
「とにかく、見つかってよかった。アンタたちにも来てほしかったからね。」




