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シロクロゲーム  作者: 竹取翁
16/44

1日目ー⑫ 謎

前作よりも、より渋染さんのことを意味不明に描けている気がする。

凍り付くような笑みを帯びていた。渋染はまっすぐにこちらに向かってきて、その速度は徐々に早くなってきているのが分かった。瑠璃川が困惑の表情を浮かべる。一目見ただけでは、危機に瀕している同じ陣営の朱田と瑠璃川に加勢しようとしている、もしくは戦闘を止めようとしているように思えるだろう。しかし、彼女の身体中に飛び散ってみえる血痕は、見るものに当然何か異常なものを感じ取らせた。


「渋染!加勢するなら後ろに回りな!私がこの屑をぶっ殺してやる――」


「3対1だと!?汚ぇんだよ、このクソビッチども―――」


紅井がバットを振るおうとすると、朱田がその懐に飛び込んでいく。すんでのところで彼女の身体を腕を伸ばして止めようとするも、紅井の掌にはナイフが突き刺さり、血が飛び散る。


「ってぇえ!!」


二度目の攻撃、そしてさっきよりもずっと多い流血。自分の手が真っ赤に染まるのを見て、紅井の頭の中の糸がプツンと切れたようだった。


「許せねぇ…こっちに来るんならてめぇも殺してやる!渋染―――」


紅井が渋染の方を見た。しかし、渋染は紅井の手から流れている血を見た後、走り出していた方向が若干変わり、朱田に向かって一直線に向かってきた。


「あ―――?」


そして…次の瞬間には、渋染の手に持っていた包丁が、朱田の脇腹に吸い込まれるように突き刺さった。


「は?は…?」


紅井はその様子を見た直後、何が起きているのかという困惑で固まる。朱田が痛みに叫びをあげながら渋染の腕を掴むも、渋染はポケットから別の折り畳み式のナイフを取り出し、朱田の手の甲に突き刺した。


「ぎゃあ!し、渋染ぇ…アンタ何を―――」


「しっ、動くと、痛いから―――」


「あ、ああ……」


東原は、その様子を窓から眺め、恐怖とパニックで動けなくなっていた。人が人を殺している。この島に連れてこられてから何度も起きているそのことが、今初めて東原の目の前で行われているのだ。


「やめて…やめてよ!何でそんなことすんの!?」


瑠璃川がたまらず渋染につかみかかるが、渋染は全く手を緩めることをしなかった。瑠璃川が腕を引っ張っても、朱田を刺突する手を緩めることはない。普段の彼女からは、想像もつかないような力だった。


「ねぇ…ねぇ、紅井!アンタも止めてよ!あたしの力じゃ止められない!」


「な、何で俺が――――」


「こんなことするのおかしいって!人の命って、そんなに軽いもんじゃない!何でそんな風に簡単に人の命が奪えるのさ!!」


瑠璃川が涙ながらに訴える。しかし、紅井は動けない。渋染は2人に目もくれずに朱田を襲い続け、東原は金縛りにあったように硬直していた。


「…っ、渋染、やめろって!!静江がアンタに何したのさ!静江にだって、アンタと同じように友達も家族もいるんだ!何でそんなことを考えられないのさ―――」


渋染は動かない。瑠璃川はしびれを切らしたように、再度紅井の腕を引っ張った。


「紅井!何してんの、男なら早く止めろって――」


「うっせぇなあ!なん、何で俺が、お前らのために動かなくちゃいけないんだ!!」


紅井は反射的に腕を払いのけた。その時、手に持っていたバットが瑠璃川の顎に命中し、瑠璃川は人形のように崩れ落ちる。


「あっ―――」


東原は思わず声を漏らしてしまい、すぐに両手で口を覆う。紅井は倒れた瑠璃川を見て動揺したのか、再び硬直したのちにバットを振り上げた。


「…俺は悪くねぇ!お前が、しつこいから…!!」


渋染がゆらりと立ちあがる。紅井がびくっと反応してのけ反ると、バットを構えて臨戦態勢に入る。身体が震えてバットが揺れている紅井を見て、渋染は血まみれの顔でにっこりと笑った。


「こんにちは、紅井くん。」


「こ、こんにちは…?この野郎、ふざけやがって…」


「驚かせてごめんなさい。紅井くんには何にもしないから、安心して。」


その言葉に、紅井はますます混乱するばかりだった。渋染と朱田は同じ陣営だった。それなのに、渋染は迷いなく朱田のことを刺し殺した。瑠璃川に制止されても、何も意に介すことはなかった。


「く…来るんじゃねぇ!!」


渋染が、一歩紅井の方へ踏み出した時、紅井は弾かれたように地面を強く蹴り、その場から逃げ出した。渋染はその後ろ姿をじっと見守っていたが、ふと気が付いたかのように、先ほどまで目もくれていなかった瑠璃川の方を見た。紅井は彼女のことを殺してしまったと思ったのかもしれない。しかし、瑠璃川にはまだ息があった。


「…あっ。」


その時、渋染は足首を掴まれる感覚を受けた。そっと視線を落とすと、血だらけになった朱田が、虫の息になりながらも渋染に食らいついてきていた。喉は潰れてしまって、彼女が言おうとしていることは、渋染にはなんとなくわかった。「瑠璃川に手を出すな」、そんな意思を視線から感じた。


「…朱田さんは、瑠璃川さんと仲が良かったものね。」


渋染はそれだけつぶやくと、しゃがみ込んで朱田の頭にナイフを突き刺した。朱田は2、3度痙攣したのちに動かなくなり、渋染は小さく微笑んだ。そして、再び何度か朱田の身体を刺突し始める。


「あ、ああ、あ……」


東原は腰を抜かせてその場にへたり込んでしまった。そしてすぐに、恐怖に身体中に悪寒が走り、ガタガタと震えながらタンスの中に隠れた。この先、瑠璃川も殺される。もしここにいることが分かれば、彼女はきっとここに来て自分のことを殺しに来る。朱田の死を告げるサイレンを聞きながら、東原は縮こまって息を殺した。そうしているうちに、サイレンと共に瑠璃川の名が聞こえてきた。




※※※




PM.2:28


 寂れた家の中では、くつろぐどころかどこか居心地の悪さを感じてしまい、妙な疲れが蓄積されていく。白馬たちは家屋の縁側に座り込み、何を考えるでもなく、ただただ無言でその場に固まっていた。最上と再会した直後に流れたサイレンは、全員の耳に焼き付いている。朱田と瑠璃川が死んだ。


「たった1日…俺たち、昨日までバカ騒ぎして、フツーにガッコ行って、明日から夏休みだなーって話してたんだよな。」


「……」


「それなのにさ、朝にいきなりわけわかんないことに駆り出されて…それで、もう7人も死んだんだぜ?」


「……」


「…どうなってんだよ、ホントによ…!」


「やめて。気が滅入っちゃうだけだわ。」


紅葉がそう言うと、最上が横から「そうも言ってられないだろ」と口をはさんだ。


「いよいよ、戦いに備えるときがやってきたんだ。俺たちだって動かないと、明日になったらやられてるかもしれない。安全地帯は日を追うごとに狭くなるんだぞ。いつまでも逃げ続けられるわけじゃない。」


「でも、だからって「殺す」なんて選択肢、そう簡単に選べるもんじゃないわ!」


「そういう甘さを捨てる時が来たんだよ、俺たちにも。」


「無理よ、その時になったら殺せやしないわ。私たちと敵同士になってるのは、見ず知らずの他人じゃないのよ?同じクラスの、クラスメイトなんだから!」


「他人は他人だ。」


最上は吐き捨てるように言ったが、紅葉も一歩も引く様子はない。最初に最上が戦うことを提案したときと、同じような構図になっていた。


「…とにかく、私は無理。人を殺そうなんて、そんな気持ちになれっこない。」


「だったらお前はいつまでも隠れてりゃいい。俺は、お前みたいに弱くない。」


「殺せることが強いっていうこと!?」


「今の状況じゃそうだろ!」


「おい、お前たちいい加減に―――」


白馬が2人を制止しようとしたときに、ガサガサと何かが動く音がした。全員の動きが止まり、口をつぐんで固唾を飲み込む。


「…ねえ、今のって、誰か―――」


黄島がそう言いかけた時、白馬は彼女に「シッ」とささやいて、好奇と顔を見合わせる。家の敷地外、塀の向こうから聞こえた音。それは何かが動く音であり、同時に複数の人間の足音も聞こえた。


「……」


最上もまた、刀を手に持ってゆっくりと腰を上げる。目線で、「俺が行く」と言っているのが2人には分かった。紅葉たちが体を寄せ合わせている中、男3人はゆっくりと裏口へ歩を進め、塀の向こうにいるであろう何者かと対面しようとしていた。


「…行くぞ。」


「…おう。」


小声で最上が囁き、好奇が頷く。その瞬間に最上は裏口のドアを蹴破り、刀を鞘から抜きながら外へ飛び出した。


「っと!!」


「っ!?」


「…」


白馬も勢いよく外へ飛び出そうと続き、そのまま好奇の背中に思い切り顔をぶつける。痛みに苦悶の表情をしながらも外へ出ようとした時、白馬はその光景を見て、目を丸くした。


「よう、お前ら。こんなところにいたのか。」


「や、朝ぶりだね。」


「も、萌葱…それに、海松と縹、あと、枝野も―――」


クラスメイトの4人。そこにいたのは、同じ「シロ」陣営の生徒たちだった。


「なにをそんなに構える必要があるんだ。ここは安全地帯の中。「クロ」の生徒はここに入ることは出来ない。」


「あっ!ああ、そういえばそうか。ハハッ、俺たち、ちょっと緊張しちゃって―――」


萌葱にそういわれて安堵すると、同時に萌葱は一枚の紙をこちらに手渡してきた。


「地図だ。頭に叩き込めよ。」




※※※




「それにしたって、この家の中に水が備蓄されてるなんて助かったよ。朝から何も飲んでなかったし、もう限界だった。」


枝野はそう言って、家の中に保管されていたミネラルウォーターをぐいっと飲み干した。災害用のためにとっておいたのだろうか。その他にも保存食となるサバイバルフードがいくつかあり、乾パンなども備蓄されていた。


「いつのものか分からんのじゃ、あまり身体に入れるもんでもない。」


「水は腐ったりはしないから、お腹を壊したりはしないと思うよ。それにしてもよかったぁ…同じチームの人に会えたのって、初めてじゃないかな?」


海松が心底安心した顔でそう言うと、縹も「そうかもしれんな」と宙を見る。


「ここに来るまでに会ったのは、麹塵たちだけだからのう…こうして枝野とも再会できたのは、幸運だったかもしれん。」


「え?どうして枝野さん?」


水原の疑問はもっともだった。確かに再会できたことは幸運だが、縹はあえて枝野単体の名前を出したからだ。


「私がみんなに呼び掛けてたからだよ。3人は、黄櫨たちに話してるのを聞いてたみたいだからよかったんだけど…みんなにも話しておきたいしね。」


「彩羽に会ったの!?」


黄櫨の名前にいち早く反応したのは、紅葉だった。もちろん、白馬や好奇、黄島も同様だ。別々のチームになってしまった黄櫨と東原の安否は、ここにいる4人がずっと気にしてきたことであった。その反応を見て、枝野は少しだけ笑う。


「大丈夫、無事だよ。東原にも午前中にあったんだ。安全な場所に隠れてたから、当分の間は心配いらない。黄櫨も、大人数で行動しながら東原のことを探してるみたいだから、心配いらない。」


枝野がそう言うと、紅葉は全身の力が抜けたかのようにへたりこんでしまった。白馬も、ずっと心の中にあった重しが取れたかのように、少しだけ気が楽になった。


「にしても、アンタたち6人は本当に仲がいいんだね。黄櫨も同じ反応をしてたよ。お互いがお互いのことを、ちゃんと気にかけてるんだ。」


「や、やめろって、こっ恥ずかしいな…」


「安否の伝言も大事だが、伝えたいことは伝えられるうちに言っておけよ、枝野。」


萌葱がやんわりとそういうと、枝野は「そうだった」と言葉をつづけた。


「今日の夜、みんなで集まって話がしたいんだ。もちろん、「シロ」も「クロ」も関係なしにね。「レストタイム」なら争いになる心配もないし、そこでこれからのことを話し合いたい。」


「最上からもそう聞いたけど、これからのことって…何をどうするんだよ?」


「話したいことはもう決まってるんだけど…まあ、それはちゃんとその場で話すよ。みんなに聞いてほしいから。そのために、今日は「グレーゾーン」の中をずっと歩き回って、そのことを広めてきたんだ。」


枝野の話に、白馬と紅葉、好奇はそれぞれ顔を見合わせる。別に、断るような話でもない。それに、これからどうすればいいのかとくすぶっていた自分たちには、何か現状を打開する糸口をつかむきっかけになるかもしれない。


「そりゃあ…もちろん協力はするよ。なあ、みんな?」


「うん。みんなでどうにかしなくちゃいけないもんね。」


黄島がそう言うと、最上以外の5人の視線が彼に向けられる。最上も何か言いたそうな顔をしていたが、「分かったよ」とその場で了承をした。


「そっか、ありがとう。それじゃ、少し休めたから私はそろそろ行くよ。」


「えっ…枝野さん、これからも一緒にいないの?」


水原が不安そうに尋ねると、枝野は「ごめんね」と言った。


「まだこのことを伝えきれてないんだ。「シロ」の生徒とは安全地帯の中を探せば会えるかと思ったんだけど、松田、天王寺、新田、煉瓦、紅井、緑黄園、勿忘、奥田たちには伝えきれてないからね。出来る限り探してみないと。」


「安全地帯の中は探しつくせたの?」


「萌葱たちに協力してもらってね。地図を使って大方回ることが出来たから。」


「そういや、お前らは何してたんだよ?地図を持ってるなら、まずは安全地帯の中でみんなを待って、地図のこと教えてくれたってよかったじゃんか。」


好奇が不満を漏らすも、縹はフンと鼻を鳴らす。


「それは萌葱に言わんかい。儂もそう忠告したが、アイツが聞き入れようとせなんだ。」


「理由は何度も説明しただろう。護身用になる強力な武器を最初に手に入れる必要があった。それに、地形をいち早く把握することが出来れば、地図を見せた時の情報共有が円滑になる。他にもいろいろ事情があったが、そもそも安全地帯に自力でたどり着ける奴らよりも、どこが安全地帯かもわからずに「グレー」のエリアを歩いているやつらに先に出会える方が、ずっと効率がいいだろう。」


「はは、ぐうの音も出ないね…」


黄島が笑う。会話にいったんの決着がついたことを見届けると、今度こそ枝野はその場から離れていこうとした。すると、縹が腰を上げて彼女の背中に続く。


「まて、枝野。そういうことなら儂もお前さんに同行しよう。1人よりも2人の方がいい。萌葱、悪いが少しの間、枝野について行くぞ。」


「ああ、もちろん構わない。俺もお前に同行してもらって、心強かったからな。」


「フン、心配するな。今日が終わればお前さんたちに合流するわい。」


「また安全地帯を出るの?それなら気を付けて。さっきだって、朱田と咲が殺されたばっかりなんだから。」


「ああ、大丈夫。十分注意していくよ。」


枝野はそう言うと、縹と共に歩いて行ってしまった。


「…なあ、萌葱。さっき「他にもいろいろ事情がある」って言ってたよな?」


「ん?ああ…」


白馬が質問をすると、萌葱はそれに応じる。


「何なんだ?その「他の事情」って。」


萌葱は少しだけ話すかどうか迷ったように見えたが、すぐに口を開いてくれた。


「死んだ連中の死体を、観察する必要があると思ったんだ。それで、海松と縹に付き合ってもらって、先に死んだ5人の死体を見てきた。」


その言葉に、6人は愕然として言葉を失った。かろうじて、好奇が「どうして…?!」と言葉を漏らす。


「誰が殺しをしでかしてるのか、それを知る手掛かりになると思ったんだ。正体が分かれば対策も取りやすい。そして、やっぱり得られたものはあった。」


「教えてくれ。俺たちの持ってる情報も、お前らにちゃんと伝える。同じチーム同士、情報交換しよう。」


「お前らの持ってる情報?何か知ってるのか?」


萌葱がそう尋ねると、最上は深く頷いた。水原は、トラウマになっている光景を思い出したのか、苦しそうに下を向いた。


「向井が殺された現場を見た。やったのは渋染だ。」


そう言ったとき、普段は冷静で表情を変えることもめったにない萌葱が、一瞬だけ目を見開いて驚いているように見えた。隣でその報告を聞いていた海松も、信じられないとばかりに口を手で覆った。


「確かか?」


「ああ、この目で見た。水原が向井に襲われてるところを、俺が助けに入ったんだ。その時に、遅れて渋染がやってきた。」


「それで、向井のことを刺したのか?」


「ああ、まったく信じられないと思うけどな、事実だ。」


萌葱は少しの間無言で考え込んでいたが、やがて顔を上げて白馬たちのことを見回した。どうやら、向こうも出し惜しみするつもりはないらしい。


「青山と荒川、それから向井を殺したのは同一人物だ。今の最上の話を組み合わせるなら、3人を殺したのは渋染で間違いない。」


「はぁ?!」


好奇の大声と共に、白馬は腕に小さな痛みを感じた。それが、紅葉が掴んでいる手の力だということに気づくまでに、そう時間はかからなかった。


「いや、ちょっと…ちょっと、待てよ!だって、渋染は確か…やっぱりだ、アイツは「クロ」の陣営なんだろ!?だったら何で、同じチームメイトの向井と青山を殺すんだ…!?」


「だから言ったじゃねえか、アイツは異常者なんだよ。チームなんて、アイツにとっては関係ないんだ。」


「落ち着いて、みんな!萌葱くん、その…3人を殺したのが同じ人だって、その根拠は…?」


「殺害方法が同じだった。青山と荒川の死体を見た時に気づいたんだが、あいつらの殺され方は、全部首を中心に全身を刃物で突き刺されたことによる刺殺だ。それも、急所を確実に刺して殺すっていうやり口とは少し違う。何度も何度も、致命傷を負わせても何度も執拗にそれを繰り返してる節がある。」


「ああ、俺も確かに見た。」


萌葱の説明に、最上が同調した。


「そんな…そんなことって、ありえるのかよ…?」


「今さら何言ってんだ、俺の見たことだけでも十分だろうが?アイツは頭のねじの外れた、殺人者なんだよ!それとも、俺の行ってることを疑うってのか?水原も現場にいたんだぞ。」


「けど、もしかしたら向井さんから2人を守ろうとしたっていう可能性はない?青山くんだって、きっと荒川くんから―――」


「敵を殺すやり方として、あまりに不自然な方法だ。混乱を起こして自分が思っていたよりも猟奇的な殺害方法になっていた、ってことも考えることは出来たが、3人とも同じ殺害方法だとすると意図的としか思えない。咄嗟の行動の、一度きりの出来事なら黄島の説明で辻褄が合わないこともないが、3回ともなると疑わしいな。」


萌葱はそう言いながらも続ける。


「ただ、そういう可能性もないわけじゃない。青山のことは差し引いても、荒川と向井は日常的にも言動に問題がある連中だったことは確かだ。日ごろから、渋染が恨みを持っていた可能性も考えられる。」


「萌葱まで、あいつのことを庇う必要ないだろ?アイツは人殺し、それも仲間殺しの異常者だ。疑う余地はない。」


「その方が、40数人のクラスの中に異常者がいる可能性よりもずっと高い。「普通じゃない」から「異常者」なんだ。俺も、そんな風には思いたくないってことさ。」


萌葱がそう言うと、その場の空気は沈黙に包まれた。恐れ、怒り、さまざまな感情が渦見ている中で、その場にいた2人は、他の生徒たちとは全く違うことを考えていた。


1人は、萌葱海斗。口ではああ言っておきながら、萌葱は自分の中で渋染赤音という人物を、「想定に入れてはならない人物」として、既にインプットしていた。


「(あの殺し方は、普通の日常生活を普通に送っているやつのやり方じゃない。いくら恨みを持っていたとしても、あれほど猟奇的に人を殺すことが出来るのか?そもそも、人を殺す経験なんぞ持っているはずもない。それなら、今回の殺し…つまりは荒川殺しが、渋染にとって最初の「殺人」だったはずだ。何の躊躇もなかったのか?荒川のサイレンから青山のサイレンが鳴る時間のインターバルは短かった。つまり、アイツは大した迷いもなく、あの短い限られた時間で、あれほどの犯行に及んだということ。どれだけの恨みがあったところで、正常な人間があんなことを出来るはずがない。)」


だとすれば、渋染赤音は理性のない人殺し、文字通りの異常者なのだろうか?その問いに、萌葱海斗は「No」と答える。


「(そもそも理性がないのなら、既に安全地帯に乗り込んで、人を襲おうと考えるだろう。午後以降になって全員の動きが活発化したとはいえ、多くが安全地帯に逃げていくか、家屋や人目のつかないどこかに身を潜めていたはず。ただただ野性的に殺しを行いたいのなら、それを狙わない理由はない。)」


最上は、水原を襲った向井とにらみ合っていたのだという。その状況下で、同じ陣営の誰かが駆け寄ってくるのを見た時、向井の心理には余裕が生まれたはずだ。最上たちもまた、「自分たちに襲い掛かってくる」という可能性から身構えたはずだ。最初に荒川と青山の殺害現場を見た時もそう。2人はふいうちのような形で刺された形跡があった―――


「(渋染は野性的じゃない。むしろ理性的だ。理性的に、人間として殺人を行っている。殺しやすい人間を見極めて、確実に成功させる。その証拠に、集団行動をしている人間の前には姿を現していない。野性的な殺し屋よりも、よっぽど質の悪い存在だ…)」


始末しなければならない。そんな思いを巡らせた萌葱をよそに、別の思案を巡らせている少年が、もう1人。


黒崎白馬。彼が思い起こしているのは、この場にいない仲間の存在でも、殺しを行っている渋染の姿でもない。あの日の放課後、校庭に佇んでいた、あの時の渋染赤音だった。


『夕日を、見ていたの。』


どうして渋染は、あの日夕日を見ていたんだろう?

軽く流したけど、今回で瑠璃川さんが口走っていたことは常に考えて物語を作るようにしてます。どんな人間にも親がいて、祖父母がいて、もしかしたら兄弟、姉妹がいて…全員に家族が、人生があったんだと思って書くことは大事だと思ってます。

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