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シロクロゲーム  作者: 竹取翁
11/44

1日目ー⑦ 二分化

AM.9:58 


蘇芳の遺体を探るも、何かめぼしいものを持っているわけではなかった。ここに来るまでに、何も武器を拾ってはいなかったようだ。


「(焦っていて拾うつもりになれなかったのか、それともそもそも拾うつもりがなかったのか…)」


銃声が周囲にも聞こえているはずだ。銃声の直後にサイレン、拳銃で蘇芳を殺したと流布しているようなものだ。とにかく、早くこの場から離れないと―――


「…っ!」


また、足音だ。足早にこちらに向かってきている。銃声の音を聞いてきたのか?だとすると、こちらを攻撃するつもりの人間がいるのかもしれない―――




※※※




AM.10:00


水原は走り続けていた。息が切れても、苦しくても止まることは出来ない。さっきから何度か首輪から音が聞こえたりしたが、何が聞こえてきているのか分からなかった。


「待ちな…さいよ!!」


彼女の背中をずっと追いかけてきているのが、向井。本来は少しずれた先に「シロ」の安全地帯があるのだが、それを水原は知らない。水原自身も、パニックに陥った頭の中では、首輪から流れていた音声を聞き逃していた。


「くそ…っ、こんな時に…いつまでも、往生際が悪いね…!」


角へ差し掛かった時、そこが行き止まりであったことに気が付く。2人とも息が絶え絶えではあるが、向井は自身の勝利を確信して笑った。


「や、やめて…向井さん、何で―――」


「あー、やめてよそういうの。私だって人殺しなんてしたいわけないじゃん。けど、もう始まってんのよ。それに、今は「シロ」が2人死んで、「クロ」が1人なわけでしょ?数的有利じゃない。今のうちに、殺れるとこ狙っちゃわないとね―――」


「……っ」


水原は思い切って、向井の真正面に向かって走った。一瞬、向井が面食らったのを隙とし、何とかその場を切り抜けようとする。


「あっ、待ちなさいよ!!」


向井が水原の腕を掴んだ。水原は必死に抵抗するが、2人の腕力は、僅かに向井がまさっていた。


「いい加減にしなさいよ、さっさと―――」


水原が暴れる。向井の手に握られていた大きな裁ちバサミが地面に転がる。ハサミへ2人の視線が移る中、その向こうに人影が見えた。


「あ―――渋染!!」


向井が、今度こそ勝利を確信したように声を上ずらせた。一方で、水原は血の気が引いていくような感覚を覚える。渋染の手には包丁が握られている。そして…彼女の胸につけられたワッペンは、黒色だ。


「渋染!早くコイツを刺し殺して!わかってんでしょ!?」


「やめて!助けて!!」


悲鳴を上げる水原の言葉は届かず、渋染は早足になり、そして小走りでこちらへ迫ってくる。包丁の先端が、こちらに向けられるのが見える――――


「大人しくしろ!アンタはここで死―――」


向井がそう言ったとき、向井よりもずっと強い力で、もう一方の腕がグイっと引かれる。体勢を崩しかけた水原の背中に、思っていたよりもずっと優しく手のひらが添えられる。


「時雨!」


「銀河くん!」


「無事か!?こいつに、何かされてないか!?」


そう言って、最上は向井を思い切り睨みつけた。向井は思ってもみなかった伏兵に後ずさりをするが、恨めしそうに2人を睨みつけてその場から離れようとする。


「チッ…渋染、アンタこいつらのこと―――」


「鬼銅瞬は人殺し!人殺しだぁーーー!!」


「えっ!?」


「はぁ…?!」


その時に、どこからともなく大きな叫び声が聞こえてきた。その言葉の真意を確認するまでもなく、続けて大きな銃声が聞こえてきた。


「何なの、どうなってるの…?」


水原は既に大粒の涙を流している。向井は混乱している様子だったが、この機を逃すなと言わんばかりに、踵を返してその場から離れようとする。最上は「待て!」と声を挙げようとして、言葉に詰まった。


「(渋染、赤音…?)」


この場にいた3人が、叫び声と銃声に困惑する中、ただ一人渋染だけが、何の迷いもなく、一直線にこちらに向かって走ってきていた。両手にしっかりと包丁を握りしめ、視線はどこを見ているのかはっきりと分からない。


「おい、向井―――」



最上の声は、向井に届くことはなかった。


「!?」


「きゃああっ!!!」


最上が異常事態に気が付いて、水原を自分の背中の後ろに隠す。同色の味方陣営であるはずの向井を、渋染は最上と水原2人に目もくれず突き刺した。向井は糸の切れた操り人形のように地面にぶっ倒れ、叫び声をあげるまでもなく、口の中に包丁を突き刺されてしまう。


「あ…ああ…」


「見るな、時雨!」


『向井千歳、死亡!向井千歳、死亡!』


大きなサイレンと共に、向井の死を告げるアナウンスが流れた。混乱した頭をフルに回転させて、目の前の状況を受け入れようとする。


「(どうする?ここで始末しておくか?出来るうちに、俺が、この手で―――)」


そう感じた直後に、我に返る。隣には、絶対に傷つけたくない人がいる。ここで水原を巻き込むようなことになってはいけない。


「逃げるぞ、時雨!走れるか?」


「あ、足が…」


足が震えて歩けない彼女のことを察し、最上は素早く水原をおぶって走り出した。


「(遠慮とか楽観とか、そういうレベルじゃないぞ、黒崎…!)」


背を向けて走りながら、最上は小さいころに感じたのと同じような感覚に陥っていた。久しぶりに感じた、心の底から湧く「恐怖心」を。そして、次にけたたましく響くサイレンが、ひと時も安らぎを与えてくれることはなかった。




※※※



AM.9:59


「あっ、鬼銅クン!」


「ブラウン…」


足音の正体は、ジョン・ブラウンだった。ブラウンは銃声を所在を探すようにきょろきょろと周りを見回していたが、話したくてたまらないといった表情で鬼銅に近づいてくる。


「…どうしたんだ、急いでたみたいだが。」


そんなブラウンに、鬼銅は一歩前に出て自らブラウンに近づいた。住宅の敷地内に、殺した蘇芳の死体を隠している。子供以下の隠し方だが、この状況では仕方がない。何とか、何とかこの場を切り抜けなければ――


「鬼銅クンも、さっきの銃声を聞いてここに来たんでショ?」


「ああ…まあな。」


拳銃はさっきと同じ要領で、背中の裏に隠した。ブラウンは同じ「クロ」の陣営であるということからか、蘇芳と違って最初から警戒心など皆無に見えた。


「…?ああ、気にしないでくだサイ。僕は他の生徒と違って、進学科寄りの人間ですから。」


「ん?ああ…」


ブラウンは、自分と同じ「普通科」の生徒を毛嫌いしている様子がある。ブラウンとリは交換留学で十色高校にやってきているから、他の普通科の生徒よりも少し学力が高い。彼らと自分を同じ括りにされることに、日ごろから不満を抱いているようだった。


「それにしても、もう3人デスか…一体どうなっているんでしょうネ?」


「さあ、分からん…とんでもないことになったことは間違いないんだが―――」


悟られるな。何とか、ここから離れることを考えるんだ。


「しかし、さっきの放送を聞きましたカ?銃声の直後に、蘇芳クンの放送…つまりこれは、誰かが蘇芳クンを銃で殺したと、そう推理出来ますよネ?」


「ああ、だろうな。」


「ん…?ああ、驚いているんですネ?僕が普通科なのに、それなりの洞察力を持っていることを。」


「いや、特には…。日本語はうまいと思うが。」


鬼銅は話をごまかしながら、自然にその場を離れようとした。しかし、ふとブラウンはフンフンと鼻を動かし、匂いを嗅ぎ始めた。マズイ。


「…?何か、妙なにおいがしませんカ?」


「…いや、俺には分からないが。」


「いや、確かににおいますよ。どこか、鉄みたいな匂いが―――」


ブラウンの足が、あの家屋の方向へ進んでいく。やめろ。心の中で何度もそう呟きながら、ゆっくりと背中に腕を伸ばす。


「鉄の匂い…近くに、製鉄所のようなものがあったんでしょうカ?うーむ、何か、どこかで見聞きした覚えがありますネ…推理小説や、日本で見たドラマ―――」


「ブラウン。」


鬼銅が呼び止めようとしたときに、ブラウンの身体が動きを止めた。遅かった。その視線は、蘇芳の遺体が横たわっている敷地内へ向けられている。


「こ、これは…?!まさか、ここが殺人の現場―――」


そう言いかけて、ブラウンは言葉を区切った。何かを察したように、ゆっくりとこちらに振り返る。その様子が、鬼銅の目にはスローモーションのように見える。


「僕は同じチームだ!!」


ブラウンが絶叫した。鬼銅は蘇芳にしてみせたように、人差し指を立てて「シー」のポーズをとった。


「静かにしてくれ、ブラウン。騒ぎにはしたくない。」


「僕は同じチームだ!殺す必要があるのカ!?君は…君は、Abnormalだ!!誰か!誰か、助けて―――」


ダメだ。話が通じるような状態じゃない。


一瞬の躊躇と、刹那の間に固まる決意。鬼銅は銃口を向けて、一撃で絶命させられるように、よく狙いを定める。


「鬼銅瞬は人殺し!人殺しだぁーーー!!」


今までよりもずっと大きな声で叫んだブラウンの背中を見送って、鬼銅は後頭部に向けて銃弾を放った。ブラウンは正面から勢いよく地面に倒れこむ。じんわりと腕に感じる発砲の反動が、ブラウンの命を奪ったことを実感させた。


「…ハァ、ハァ……」


…聞こえただろうか。あれほどの大きな声だったのだ。全員でなくとも、複数人に聞かれていることは覚悟しなければいけない。それなら、聞かれていたであろう人物を全員殺すか?


…いや、非現実的だ。冷静になれ。とっくにやると決めたはずだ。




※※※




AM.10:03


『ジョン・ブラウン、死亡!ジョン・ブラウン、死亡!』


悲痛な叫び声と共に、サイレンとアナウンスが無慈悲に流れた。その音を聞きながら、緑黄園はぽかんと口を開けていた。


「…どうやら決まったみたいだね。」


「まだ確定ではないよ、松田くん。決めつけは時期尚早だ。」


「警戒することは否定できないけどな。お前もそう思ってるんだろ、奥田。」


奥田が咎めるように松田を諫めるが、松田の意見にかぶせるように新田が口をはさむ。


「…どっちにしろ、身の振り方を決めなくちゃいけない時期だ。もう4人も犠牲者が出ているんだし、それに―――」


『向井千歳、死亡!向井千歳、死亡!』


「え…!?」


荒川正紫、青山英次、蘇芳健司、ジョンブラウン、そして向井千歳。ゲームが始まって1時間半、既に5人が立て続けに死んだ。


「戦う覚悟を決めなくちゃいけない。このままだと大惨事になる。絶対に、これを止めなくちゃいけないんだ。もしその役を誰かが担わなくちゃいけないんだとしたら…僕はやる。」


松田の言葉に、他の5人はシンとなった。そして、次に口を開いたのは天王寺だった。


「私もやります。このままなんて嫌ですもん。協力させてください!」


「俺もやる。そのために武器も整えた。」


「じ、じゃあ、私も…何もしないままは、きっとモヤモヤするから―――」


「俺は…くっそ、わかったよ、やるよ。けど、あんまり期待しないでくれよ。俺は別に頭良くないし、ケンカも強くないんだからな!?」


天王寺、新田、緑黄園、煉瓦が同意した。最後まで黙っていた奥田は、俯いていた顔をあげて低い声を出した。


「…松田くん、君の志は素晴らしいと思う。だから…僕の意思が固まるまで、君たちと一緒に行かせてくれ。それまでに、答えを出したい。」


「分かった。みんなも、ありがとう。とても心強いよ。」


「それで、具体的にどうするんだ?止めるといっても、一筋縄ではいかないだろう。」


「徹底抗戦だよ。主催者は僕たちに対して致命的な勘違いをしている。僕らに武器を与えたことだ。絶対にただではやられない。僕たちが、逆に向こうに立ち向かうんだ。」


「そのためには、まずは目先の敵を知ることから始めよう。推測の域の出ない殺人者を見つけ出して、その間に仲間を募る。最初は同じ陣営から固めていこう。誰か、信頼できる人はいるかな?」


「信頼っていうなら、やっぱり萌葱くんが一番だと思います。頭もいいし、きっと大きな力になってくれますよ。」


「あとは…黒崎たちも大丈夫じゃないか?あいつらいつも一緒につるんでるし、一気に仲間を集められるかも。」


「…わかった。それじゃあ、動こうか。細心の注意を払って、慎重に。」


事態が大きく動くのは、今夜の「レストタイム」だ。松田はそう確信していた。焦ってはいけない。期間は3日ある。




※※※




3日の期間を有効に使え。常に頭をフルに回転させろ。最初に犠牲者が連続するのは予想できたことだ。これから誰が、どう動くかを推測しろ。この1日をどう使うかが、ゲーム後半の明暗を分ける。クラス全員のことを掌握しろ。俺にはそれが出来る。




※※※




このまま、じっと耐え忍んでいるしかないのだろうか。


疲れてへたり込んでいる紅葉たちの隣で、ぼんやりと白馬はそんなことを考えていた。サイレンの音が何度も鳴り響き、聞きなれたクラスメイト達が死んだという知らせを受け取った。


「金が欲しいって、そういってた…」


「え?何か言った、白馬?」


紅葉が白馬のつぶやきに反応したが、白馬には聞こえていなかった。


「(金が必要。このゲームの様子を視聴している人間がいて、その視聴料を徴収しているとするなら…今の俺たちの姿も、どこかの誰かに見られているのか?)」


気持ちの悪い視線を感じて、白馬は頭上を見上げた。監視カメラが、無機質な視線をこちらに送っている。そんな様子を見ながら、なぜか白馬は自分たちの当分の身の安全を悟った。期間が3日なら、少なくとも3日は大丈夫だ。どうしてそんなふうに思ったんだろうか。


「…なあ紅葉、お前最初に目が覚めた部屋でさ…出入口のドア、開いてたか?」


「え…?何よ、急にそんな話。」


「いや、まあちょっと…な。」


紅葉はちょっとだけ考えた後で、すぐに答えた。


「しまってたわよ。錆びついてて、開けるのもちょっとだけ大変だった。」


帰ってきた答えは、心の中の不安を膨らませただけだった。


コロナウイルスが怖いので国外逃亡します。半分ウソです。旅行です。返ってくるのはこの話が更新された日です。次回更新できてるかな…書き溜めしないと…

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