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シロクロゲーム  作者: 竹取翁
10/44

1日目ー⑥ 容疑者

1日目 AM9:45 


 少しずつ、「安全地帯」に留まっていた生徒たちが動き出していた。「グレー」エリアに徐々に生徒たちが入り込むなか、白馬たちは安全地帯に立ち往生していた。


「俺たちも、何か「武器」を取りに行こうぜ!とうとうどっかのバカが始めやがったんだ!丸腰じゃやられちまうぞ!」


「そりゃそうだけどさ…けど、最上と約束した以上仕方ないだろ?それに地図がないんなら、「シロ」のチームの「安全地帯」がどこまでなのか、ちゃんとしたことも分からないから―――」


「と、とりあえずさ…どこか、建物の中に隠れない?」


「んだよ紅葉、今は大事なはなしぃしてんだけど―――」


「ここじゃ危ないって言ってんの!いいからさっさと隠れましょうよ!ずっとここにいたら時雨だって探せないでしょ?」


「危ないって、でもここは「安全地帯」じゃ―――」


「「安全地帯の中での攻撃」は禁止されてるけど、外からの攻撃は認められてるわけでしょ?」


「は…?」


灰場は首をかしげたが、すぐに「あっ」と声を漏らした。白馬も黄島も、同時に気づく。安全地帯の中に向けて、「グレー」エリアから攻撃を仕掛けることは禁止されていないんだ。ここが「安全地帯」のどこか分からない以上、一か所に留まっているのは危険すぎる。恰好の的になる可能性が高い。


「じ、じゃあ急ごう?水原さんのことも探しながら――」


「ちくしょう、何でこんなコソコソしながら、クラスメイトから隠れなくちゃいけないんだよ…!」


灰場の舌打ちを、誰も咎めはしなかった。




※※※




AM.9:53


サイレンの音は、2人の名前を2.3度連呼したのちに止まった。大きな音には面食らったが、その後のアナウンスですぐに何が起こったのか理解した。誰かが、荒川と青山の2人を殺したんだ。


「(「シロ」と「クロ」、2つの陣営から1人ずつの犠牲者…ということは、犯行を行ったのは最低でも2人はいるってことか…?)」


見ていないことを考えていても仕方ない。「グレー」エリアを1人で歩き続ける。刃物の類はいくつも散らばっているのを見たが、どれも他の生徒に対して優位に立てるような代物ではなかった。もっと強力な武器を手に入れたいと、そう思っていたが―――


「…!これは…?」


小さな住宅地を通り抜ける途中、寂れた家屋の庭に、犬小屋がポツンとあるのを見つけた。かつてここで飼われていた犬のものだろうか、動物の白骨が隣に散らばっている。何か直感のようなものを感じて犬小屋を覗き込むと、望んでた「武器」が目の前に現れた。


「…十分だな。」


小屋に隠されていたのは、拳銃と予備の弾丸数発だった。もちろん使ったことはない。しかし、使い方はある程度知っていた。とにかく、自分に合った武器が見つかってよかった。これをどのように使うか、覚悟はしたつもりだったが―――


「…!」


誰かが、こっちに向かって歩いてくる足音が聞こえる。咄嗟に、手に入れたばかりの銃を背中に回し、服の中に隠した。


「あっ…鬼銅くん…」


「…蘇芳か。」


蘇芳は最初、鬼銅の顔を見て「しまった」という顔をした。こちらの顔と、胸につけられたワッペンを交互に見て、疑い深そうに後ずさりした。


「さっきの放送…聞きましたか?」


「荒川と青山のことだな。驚いた。まさかこんなに早く殺されるとは―――」


「…失礼と分かってて聞くが、君じゃないんだね?」


「ああ、俺じゃない。」


蘇芳はまだ疑っているような表情をしていたが、立ち去ろうとはせずにその場にとどまった。額に汗が見える。走ったから…だけが原因ではないだろう。


「思ったよりも冷静…なんだな。」


「え?」


「さっきは、ずいぶん取り乱していたように見えたからな。」


「ああ…お恥ずかしい、みっともないところを見せてしまいましたね…あんな程度のことで取り乱すなんて、僕らしくもない―――」


「あんなこと…か。」


蘇芳は深くため息をついて、汗をぬぐった。一歩、こちらに近づく。知らず知らずのうちに、こちらへの警戒心が解けてきているようだった。


「ええ…それにしても驚きですよ。あんな男の言うことを真に受けて、本当に人殺しをするような人が現れるなんて!ま、まあ…まだあの放送が本当だといえるかわかりませんが…」


「あんなウソを今さら流す必要はないと思うが…人選も作為的ではないしな。」


「名簿順ですよ!荒川君と青山君は逆ではありますけれど…出席番号の2と1です!」


蘇芳は、かたくなにこの現実を受け入れたくないと思っているように見えた。当然かもしれない。こんな状況、受け入れなくていいのなら到底受け入れたくない。狂った環境に身を置くことが、どれほど身を焦がすのか自分は知っている。


「…まあ、金原さんのことは残念でしたが、仕方ありません。これを機に、僕らは本当の意味で団結しなくてはならないんです!凶行に負けてはいけない!」


「仕方ない、ね…。必要な犠牲、ってやつか?」


「そうですね、そういう側面もあるかもしれません。」


「…具体的には?」


「え?」


「相手が本物の銃を持っていて、谷口と金原を殺したことは事実だろう。凶行に立ち向かうといっても、どうやって立ち向かう?」


「それは…僕だけで導き出すことではないですよ。これから、みんなで話し合わなくちゃいけないことです。…そもそも論外だ、人を殺すなんて、そんなこと――――」


本当にそうだ。蘇芳の言っていることは正しい。勤勉で、どこまでも愚直で、優等生。そんな蘇芳の姿を、これまで1年以上、同じ教室で見てきた。蘇芳がまた一歩、一歩とこちらに近づいてくる。いつしか、こちらへの警戒はほとんどなくなっている様子だった。


「…お前は正しいよ。」


「そう言ってもらえると嬉しいです。…色なんぞで揉めている場合じゃない。鬼銅くんも僕と―――」


ほくそえんでこちらに歩み寄ろうとした蘇芳の表情が凍り付いた。彼の眉間に向けてまっすぐ向けられた銃口は、蘇芳に再び大量の脂汗をかかせるのには十分な材料だった。


「なっ…何の、つもりだ…!?」


声を荒げそうになる蘇芳に、人差し指を立て、口元へもっていく。そのしぐさは日常生活ではただの1シーンにしかならないもの。だが、今の蘇芳にとって、それは自分の死を実感させるような、絶望的な静寂を作るものに思えたことだろう。


「静かに。ここで騒がれたら困る。誰かに見つかることは、俺にとって都合の悪いことだ。」


「ぼ、僕をどうするつもりだ…?まさか、殺――」


「蘇芳、お前はきっと正しい。お前の言っていることは正論で、俺のしようとしていることは非難されることなんだろうと思う。だから、先に謝っておくよ。だけど、俺もお前の意見すべてに反目したわけじゃない。」


引き金に指を添えると、蘇芳の目からうっすらと涙が浮かんだ。


「俺にとって、お前が「必要な犠牲」だったんだ。」


「やめ―――」


銃声が響いた。思っていた以上の大きな音だった。




※※※




AM.9:49


灯台の光は、一直線で海に向かって伸びていた。しかし、もちろん劇的な何かが起こるわけではない。静寂に包まれる中、新田と煉瓦が階段を登って松田たちの元に戻ってきた。


「上手く点灯したみたいだな。」


「あ、新田くんに煉瓦くん、おかえり…って、どうしたの、それ?!」


緑黄園が驚いたように声を漏らす。新田は、ここから行く前には持っていなかったもの、弓矢のような道具を背負っていた。


「さっき下で見つけた。アーチェリーの道具一式だ。アローも入っていた。」


「そ、それって使えるの?」


「弓道とは勝手が違うが、やり方を知らないわけじゃない。どこかで試し打ちするつもりだが、問題はそこまでないだろう。いい武器を手に入れた。使う機会も、どうやらそう遠くはなさそうだしな。」


新田がそう言ったのは、さっきのサイレンのことに違いない。あのサイレンが嘘でないのなら、ついさっき、この島のどこかでクラスメイトが死んだ。荒川と、青山。「シロ」と「クロ」の陣営から1人ずつだ。


「こっ…殺し合いが始まったんだよ!俺たちのところにもすぐ来るぞ!早く逃げないと…」


「落ち着けよ。ひとまずやりたいことは出来た。この後のことは、冷静になってみんなで話し合おう。」


「と、灯台の光が付いたからって何だってんだ!だいたい俺たちが拉致されてどれくらい経ったのか、ここがどこかも分かんねえのに…意味ないかもしれないだろ!」


「いや、少なくともそう遠いところには連れてこられてないはず…いや、連れてくることが出来ないはずだよ。」


松田はそういうと、自分の腕時計を指さした。


「電波時計。常に標準電波を受信して、時間の誤差を自動的になくしてくれる時計だ。」


「こ、こんな時に自慢かよ…」


「そうじゃないよ。見て、この時計は日付も刻まれているんだ。ここに見える日付は「7月31日」…僕たちが出席するはずだった終業式と同じ日付だろ?」


「昨日、私たちが学校で大掃除したのが7月30日…間違いありません、1日しか経ってませんよ!」


「そ、そんなの海外なら狂うかもしれないだろ!」


「確かにそうだけど、たとえ時差があったとしても数十日ってことはないよ。変に時計が狂った様子もないし…ここは、日本国内で間違いないと思う。」


「僕も松田くんと同意見だ。ここに来る途中、旧市街地のような場所を通ったが、日本語の看板がいくつか目についた。よほどのことがないと、日本語の看板をいくつも見かける町なんてないだろう?」


奥田がそう付け足すと、緑黄園も頷いてみせる。


「それから、僕たちをここまで運んだ方法に関しても言えるよ。この島の全体を見たわけじゃないけど、そこまで大きな島じゃない…ヘリコプターを止めるような場所は確保できるかもしれないけど、飛行機を離着陸させるような滑走路はないはずだ。」


「それがどうしたんだよ…っ!?」


「僕たちは全部で41人もいたんだよ?先生も合わせたら42人、あのアルゲンとかいう男を合わせたら43人だ。そんな人数を、ヘリコプターで一気に運べたとは思えない。だとすると船になるんだろうけど…煉瓦くん、昨日きみが寝たのは何時?」


「は?何だよ急に…じ、11時くらいだったと思うけど?」


「天王寺さんと緑黄園さんたちは?」


「私たちはお泊まり会してましたから…11時くらいまでは、一緒におしゃべりしてたと思います。記憶があるのはそのくらいで…」


「あ、昨日は最後に私が寝たと思う。天王寺さんも桃岬さんも寝てたから…時間は、確か0時くらいだったと思う。」


「だよね、僕も同じくらいだよ。僕が起きた時間が8時ごろだったから…主催者たちは、8時間足らずで僕たちのことを拉致して、ここに連れてきたってことになるでしょ?8時間で行ける場所なんて、それもこの大人数を一か所に集めて、なんてたかが知れてるよ。」


「でも、でもでもでも…こんなんで助けが来るかなんて、わっかんねぇだろ!?」


「もう、煉瓦くん、ネガティブなこと言うの禁止です!やってみなくちゃ分からないんだから、今は出来ること全部やっちゃいましょう!」


「…そういうお前は何してんだよ。」


「ライトを使って、モールス信号を送ってみてるんです!私、この前読んでいた漫画で知りまして…これなら助けがくるかも!」


「可能性は0じゃない…とりあえず、出来ることをやっておくのはベストだね。」


松田は「さて、と…」と話の腰を折ると、真剣な面持ちで口を開いた。


「誰にやられたと思う?荒川くんと、青山くん。」


「や…やっぱり、7組の誰かなのかな?本当に、そうなのかな?」


「状況的にそうとしか考えられないな。殺された荒川辺りが、自暴自棄になるかもとは思ってたが…」


「「シロ」の荒川くんと、「クロ」の青山くん、ですもんね…」


「間隔が短かったところを見るに、近くで複数のもめごとがあったのかもしれないな。」


各々が意見を出す中、松田は全員に配られていた「名簿」と「ルール」の書かれた紙を開いた。名簿を確認して、誰がどちらのチームに属しているのかを確認する。


「荒川くんが凶行に走る可能性は、僕も考えてた…普段から感情をコントロールするのが苦手な人だと思ったから。けど、そんな彼を殺した「クロ」側の人間がいる…」


頭をひねってみても、その答えを導き出すことは出来なかった。が、松田が唐突に口を開いた。


「…鬼銅くん、ってことは考えられない?」


「えっ…鬼銅くん…?」


緑黄園が困惑した顔を浮かべたが、煉瓦は「それだ!」と声を上ずらせた。


「そうだ!それだよ!アイツは暴力団長の息子なんだ!人殺すのなんて何とも思ってないに違いねえ!!」


「ちょっと、そんなひどいこと…!鬼銅くんは確かに暴力団の家系の人だけど、人を殺すことを何とも思ってないとか、そんなことないと思うけど!」


「なんだ、詳しいのか、緑黄園?」


新田が訪ねると、緑黄園が複雑な顔をした。それに助け舟を出すように、奥田が隣で口を開く。


「彼女は、鬼銅くんと同じ市立中学出身なんだ。知り合った年月は、僕らより3年長い。」


「何か、暴力沙汰を起こしたり、問題行動があったりはしなかったの?」


「な、なかったよそんなこと…ケンカはすごく強かったけど、自分からけしかけるようなことはしたことなかったし…その証拠に、こうやってうちの学校の進学科に入ったわけでしょ?」


うーんと唸ると、松田は再び名簿に視線を落とす。


「けど、「クロ」側で他に何かアクションを起こすような人が見当たらないんだけど…」


「蒼山ならあるかも。アイツいつも普通科の俺らのこと嫌ってたし!」


「悪い方ばかりで考えず、正当防衛という可能性もあったのでは?檜皮さんや麹塵さんが、荒川くんを返り討ちにしたのかもしれませんよ?」


そんな話をしていた、まさにその最中だった。悲鳴に近い叫び声が、灯台の上まで響いてきた。


「鬼銅瞬は人殺し!人殺しだぁーーー!!」


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