0日目ー① 平穏
今作品は、前アカウントにて連載していた「椅子取りゲーム」のリメイク作品です(前作・アカウント削除済み)。前作を知っている方はほとんどいらっしゃらないと思いますが、ストーリー設定、展開を変更している部分がありますので、もし知っていても楽しめるかと思います。
世間が異世界転生でも、私は懲りずにデスゲームでいきます。ぜひともよろしくお願いします。
都会の子どもたちは、テレビを観る時間がめっきり減ったという。彼らが夢中になっているのは、芸能人が和気あいあいと喋るバラエティ番組ではなく、素人が動画投稿サイトにアップしている企画動画やゲーム実況だ。ともなれば、ニュース番組を観たり、ましてや新聞記事を読むような人はほとんどいないのだろう。
「理系科目は軒並みパッとしないまま…やっぱり予備校に行った方がいいんじゃない?」
それでも、世の中高生が直面する問題に、都会も田舎も関係ない。時代ですら、ここ数十年と変わっていない。森に囲まれて、東京まで出ていくのに電車で2時間近くかかるここ「夕暮町」でも、受験という大きな壁が立ちはだかっていた。
「大丈夫だって…だって、試験には理系科目は含まれないってば。それに――」
「それに?」
母の咎めるような視線から、白馬は目を逸らした。「それに、これ以上自由な時間を奪われたくない」なんて言ってしまえば、また長い長いお説教が待っているんだから。
「それに…ほら、学校でも対策講座とか、いろいろとやってくれてるから。現代文も英語も、地理だって成績は悪くないじゃんか。頼むって。」
「うーん、どうしようかしらねぇ…だって、アンタ古文は良くないじゃない。」
「紅葉だって予備校に行ってないんだからさ!それに、私立に行ってるのにこれ以上母さんにお金出させるのもさ――」
「紅葉ちゃんはアンタよりもいい成績じゃない。お金のことなんて、子供の心配することじゃないの。変なこと言わないの!」
「うっ…」
隣の幼馴染のことを話題に挙げてみても、帰って旗色を悪くしただけだった。ただ、説得に母も多少折れてくれたようで、「まあ、いいわ」と予備校のパンフレットを閉じた。
「とにかく、夏休みの模試が悪かったら、本当に予備校に行かせるからね。どうしても嫌なら、まじめに勉強することね。」
「わかってるって。」
母のその言葉を聞いて、白馬はほっと胸をなでおろす。
17歳、高校2年の初夏。梅雨が明けて、うだるような暑さが町の空気にこびりついていた。
※※※
夕暮町。都内から離れ、山に囲まれた辺鄙なこの町に、黒崎白馬は住んでいた。小洒落た喫茶店もなければ、若者が買い物をするような商業施設も少ない。東京へ行こうとすれば片道2時間はかかるし、この時期にはカエルが大合唱をしている。要するに、そこそこの田舎町なのである。
それでも、この町には毎年、外から一定数の高校生たちがやってくる。その目的はもちろん、写真映えするスポットでもネットで話題の限定店でもない。夕暮町唯一の私立高校、十色高校である。
「十人十色の個性を伸ばす」という校訓から名付けられたこの高校の「進学科」は、県内でも有数の進学校として有名である。その高い進学率を目的に、時には県外からも高校生たちがやってくるのだ。夕暮町に住んでいる子供たちも、この高校への進学は1つの目標となっている。
「それで、予備校には通わずに済んだわけ?」
「ああ、何とかな。ホント危なかったよ。」
部屋に戻ってベッドに寝転がると、白馬はすぐに通話を始めた。通話の相手は紅葉。隣に住んでいる幼馴染でクラスメイトの少女。
「白馬はバカだからなー。普段からちゃんと勉強してないから悪いんだぜ。」
「好奇の方が俺より成績悪いだろうがよ。」
「バーカ。俺はこれから本気出すんだよ。元の成績のこと考えたら、伸びしろしかないんだっての。」
そして、同じく幼馴染の好奇。2人は学校に入るよりも前に一緒に遊んでいた、腐れ縁も腐れ縁の、唯一無二の親友だ。
「勉強できないんなら、予備校も仕方ないんじゃないの。おばさんだって白馬のこと気にしてくれてるんだし。」
「まあ、そうなんだけどさ。勉強するのも、1人の方が落ち着いてできるんだって。知ってるだろ?」
「ああ…それも、例の病気か?」
「ちょっと好奇、その言い方やめなよ。」
「あー、いいっていいって。」
好奇が言っているのは、白馬の持っているとある特徴…病のことだった。
「時間把握障害」。近年になって発見された障害の1つである。ある時突然、自分の感じている時間が本来流れている時間と乖離するような感覚を覚える。それは時に早く感じたり、遅く感じたり。ずっと黒板を見つめていたと思ったら、気が付くと日が暮れている。テストの答案をじっくり解いていたつもりが、ふと時計を見るとまだ5分も経っていない。この障害は先天性のものと後天性のものがあり、白馬は前者。原因は、全世界で未だに分かっていない。「そんなものは誰でも感じるものだ」、「個性のひとつだ」という意見も少なくないが、それでも障害ということで、偏見や奇異の目で見られることも珍しくなかった。
「なんかさ、全員で同じ問題とか解いてると、時間が早く流れちゃうんだよな。1人で集中してると時間が遅く感じるし。だから、ホントに一人の方が集中できるんだよ。」
「それじゃ、また図書館で勉強会しよっか。2年の夏だし、そろそろ勉強漬けになるべきだしね。」
「ゲ~…いいじゃん勉強なんて。今しかできないことしようぜ、みんなで。」
「今しかできないでしょ、受験勉強の準備は。」
紅葉は口うるさいところが母親とちょっぴり似ている。昔からそうだった。夏休みの宿題でも尻を叩かれ、高校受験でも隣でどやされ続けた。
「大学受験か…まだまだ、先のことのような気がするけど。」
自分たちの未来はどこまでも広がっていて、なんとなく生きていても最後には何とかなるような。いつか躓くことがあっても、まわりに友達がいて、何だかんだで楽しく人生を送っているような。
この時の俺たちは、そんなふうに思っていたんだ。だから、テレビ画面の向こうの大人たちが難しく語っている暗い未来のことや世界のことなんて、俺たちは真面目に考えたこともなかった。目の前で大きな事件が起きていたって、新聞もテレビも、興味のないネットニュースも見ていない俺たちには、気づくはずもなかった。
書き溜めをしていますが、自他ともに認める失踪癖があるため、己を律して頑張ろうと思います。少なくとも10話分ほどの目途が立ち次第、登校を開始するつもりなので、見てくださった方は明日以降の更新もよろしくお願いします。