チートな妹が来たのでイジメてみた
思いついたのだから仕方ない
「まったくいらつくわ!」
われ知らず私は叫んでいた。
私は公爵家の一人娘18歳。
男が生まれていないため、私が婿をもらうか、跡取りとして誰かを養子にもらう必要があるのです。
そんなところで父親に妾の子がいたことが発覚。
その女の子は成績が良く、運動もでき、容姿端麗、しかも性格も良いとのことで、急遽、家に迎え入れることになった。
それに反発したお母さまは、家から出ていき、実家へ帰っている。
私だって、そんな妹が今更できました、と納得できるはずもありません。
私はそんな妹と違って、それほど目立つ長所がありませんしね。
無論、妹は妾の子であるため、お父様の跡を継ぐようなことはないはずです。
ですが、妹は悪辣にもこの公爵家の使用人やお父様に取り入っています。
まったくあのおとなしそうな顔の下では何を考えていることやら。
そんな妹に対して私は苛立ったのです。
なんとかこのムカつきを発散できる方法はないものか。
そんなとき思いついたのです。妹をイジメてこの家から追い出してやろうと。
ウフフフ。これは楽しみになってきました。
さてさて、どんな風にイジメてやろうかな。
私は悪い顔で笑うのであった。
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家から出ようとしている妹を発見。
丈の長いドレスを着ている。
これはちょうどいい! 踏んづけて転ばせてやろう。
素早く足音を消して妹の背後に辿り着く。
「足元が不注意ですわよ」
扉を開けて出ようとした妹のドレスの裾を私は踏んづけた。
バランスを崩し、前に倒れそうなところを踏ん張って、後ろに倒れ床に尻もちをつく妹。
ククク。無様な恰好だこと。
「お、お姉さま。一体何をなされるのですか!?」
「淑女たるもの常に危機感をもつべきですわ」
そんなとき、外に植木鉢が落ちてきて目の前で割れた。
「……上にも危険がありますわね」
妹は割れた植木鉢をじっと見ていた。
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フッフッフ。妹いびりは楽しいわね。
あの無様な恰好を思い出すたびに笑いが止まらなくなりそうです。
今度は何をするかな?
うん。妹の私物で大事なものを処分しよう。
ウフフ。知らない間に大事なものを処分されて落ち込む姿を見るのがとても楽しみだわ。
今は妹が出かけている。チャンスだ!
さーてと。妹の部屋はっと。
妹の部屋の中は、整理整頓されて、とても綺麗だった。
チッ。誰もいなくても綺麗にしてるとか、イラつきますわね。
妹はあまり私物を持っていないようだ。
どうしたものかと考えていたところ、結構大きな蛇がベッドからニョロっと出てきた。
こ、これは!?
まさか蛇をペットにしてるなんて!
クックック。使用人を呼んで処分させましょう。
自分のいない間にペットが処分されたのを知ったら、妹はどれだけショックだろうか。
考えるだけでニヤけてしまう。
そうして使用人を呼び出し、使用人は結構大きな蛇に驚きながらも処分することに頷いたのでした。
さぁさぁ、妹に是非とも知らせないとね。
帰ってきた妹に、にこやかに私はおかえりを言うと話を切り出した。
「あなた、みんなに隠れて部屋でペットを飼っていたわね?」
「ええ? そんな! 私はペットなんて飼っていません!」
「部屋から出てきたわよ。結構大きな蛇が。もう処分されたころかしら」
「そんなバカな!」
妹は絶句し、処分された蛇を見に、使用人のところへ行くのであった。
クークックック。愛しのペットの残骸を見て悲しむがいいわ。
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ほんと妹をイジメるのは楽しいわぁ。お肌がツヤツヤしてきた気がする。
今度は何をしてやろうかしら?
そうですね。ちょっとエスカレートさせちゃおう。
妹は用事があったためにみんなと一緒に食事ができず、一人で食事をとろうとしていたところだった。
ちょうどいい。ここでやっちゃおう。
「あら? 人間様が食べるものを、なぜ、あなたが食べようとしているのかしら? あなたには必要ないわよねっ!」
そう言って私は妹の食事を全部ひっくり返した。
今から食事を食べようとした妹は、流石に怒っている。
「あら? なにかしらその反抗的な目は?」
「お姉さま! 流石にこれはあんまりです!」
「黙りなさい! 妾風情の子が私たちと同じものを食べることが、そもそも間違いなのです!」
「っく……」
うつむく妹。
床に落ちた食事を食べろって言ってもいいけど、流石にそこまではやらないでしょうね。
しょうがない別の方法を示すか。
「今後、あなたは使用人の賄いでも食べていなさい」
「……っ! ……わかりました……」
妹は未練がましく、ひっくり返って床に落ちた食事を見ている。
そんなに食べたかったの? まったく意地汚い。
しかし、クックック。いい顔していますわぁ。その顔とてもそそります。
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さてさて食事も制限してやったし、今度は何をしてやろうかなー♪
今の部屋で寝れないようにしてやろうかなー♪
おっと、妹がテーブルでイスに座ろうとしている。
私は音もなく近づくと、妹が座ろうとしていたイスをドカッと蹴飛ばした。
座るべきイスがなくなり、きゃあっと声を上げ、尻もちをつく妹。
「あらあら。足が滑っちゃいましたわ」
そんなに強く蹴ってないはずなのに、あっさり壊れるイス。
針のような鉄部分が見えている。
「お、お姉さま?」
「ごめんあそばせ。足が滑ってしまいましたわ。私としたことがはしたない」
妹はこちらとイスとを交互に見ている。
私は更に妹に追い打ちをかける。
「あなたが部屋を持つのもふさわしくないわ。今後は使用人の部屋に寝泊まりしなさい」
妹はしばらく考えていたが、やがて。
「……わかりました。お姉さま」
やったやった♪ 妹から部屋まで奪ってやったわ♪
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部屋まで奪ってやったためか、妹の顔色があまり良くない。
ウフフフフ。残念だけど手は緩めないわー。
あなたがこの家から出ていくまではね。
おっ、テーブルの上のコップに水がある。
妹に手元が狂ったとか言ってぶっかけてやりましょう。
びしょびしょになるがよい、妹よ!
「ああっと! 手元が狂ったー」
そう言って妹に向けて水を掛けようとした。
しかし、本当に手元が狂って妹のやや横あたりに水が飛んでいってしまう。
「キャア!」
あれ? 妹じゃない声だ。
最近雇った使用人の女の顔に、水がかかってしまった。
失敗しちゃった。使用人に悪いことしたわね。
それはそうと、なんで貴方そんなところにいるの?
「貴方だったのですね!」
妹はそう叫ぶと使用人の女を投げ飛ばし、動けないように拘束した。
「誰か! 危険人物です! 捕まえているので早く来てください!」
は? 危険人物? 妹はついにおかしくなったのだろうか?
よく見ると使用人の女の手元には刃物があった。
え? なにこれ? どういうこと?
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屋敷にいた使用人たち、さらにはお父様までやってきた。
使用人たちにより、使用人の女は動けないように縛られている。
使用人の女は私に向かって言った。
「あんたが散々邪魔したおかげで失敗したじゃないか!」
こいつは何をいっているのだろうか?
私が何かしたのかしら?
まったく身に覚えがないのだけれど。
「黙りなさい! わからないのですか? すべてあなたの行動はお姉さまの手のひらの上の出来事だったのですよ」
妹もわけがわからないことを言い出した。
「バカな! すべてわかっていて泳がせていたとでも?」
使用人の女が言った。
「その通りです。犯人が誰なのか? いぶりだすためにお姉さまは一芝居打っていたのです」
こいつら何を言っているんだ?
「最初に私を事故に見せかけて、植木鉢を上から落としましたね?」
妹が言う。
そんなことあったっけ?
「そうだ。事故なら誰がやったかわからない。うまく死ねばそれで終わりだった」
使用人の女が答える。
「しかし、間一髪お姉さまが私を止めてくださいました。しかも不自然にならないように私をいびるような形で」
妹が答える。
え? 何? あの植木鉢って人為的に落とされたものだったの?
あちゃー。私が妹を助けちゃったかー。なんて運がいいやつだ。
「次にあなたは私の不在のときに私の部屋に毒蛇を放ちましたね?」
妹が使用人の女に問う。
「そうだ。屋敷内の誰かかもしれないと疑われるかもしれないが、そんなものはどうとでもなるからな」
使用人の女が答える。
え? あの蛇って毒蛇だったの? ペットじゃなかったの? マジで? 触らなくて良かったわー。
「しかし、それもお姉さまの手によって未然に防がれました。きっとお姉さまは屋敷の誰かが私を狙っているのだと疑っていて、そのために色々と手を打っていたのです」
いいえ。まったく。そんなことは。ありません。
「あなたは私だけの食事に毒を盛りましたね」
妹が使用人の女に問う。
「そう、もう少しでおまえが食べるというところでこの女が邪魔をしたんだ!」
マジすか! あの食事に毒が入ってたとか!? マジすか!?
「しかも、今後の安全のために、お姉さまは使用人の賄いで、安全に食事をできるようしてくれたのです」
妹がこっちを向いてほほ笑む。
「おかげでそれ以来、毒を盛ることができなくなったわ」
使用人の女が悔しそうに言う。
そんな意図はまったくありませんからー。
「私のイスに細工をしたのも貴方ですね?」
妹が問う。
「そうだ。おまえが座れば毒針が刺さるようになっていた。こいつがぶっ壊してくれたがな!」
使用人の女が吠える。
いや、偶然ですよ。グーゼン!
「そして寝るときも使用人と寝ることで小細工を仕掛けられないように、お姉さまはしていただきました」
妹がほほ笑む。
「おかげで、実力行使するしか手がなくなったんだよ!」
悔しそうに使用人の女が言う。
「それもお姉さまによって防がれましたけどね」
妹がニッコリ言う。
「くそっ! こいつさえ! こいつさえいなければうまくいっていたはずだったのに!」
使用人の女がわめいている。
えーと。なんだろうね? これ。わけがわからないよ。
「そういうことだったのか。連れていけ!」
お父様が使用人たちに命じて、妹を襲った犯人を連れて行く。
そして、妹が私に向かって全力で飛び込んできた。
グフっ! 重いぞ貴様! 胸に贅肉たっぷりだろ! 貴様! 少しはよこせ! 貴様!
「お姉さま! お姉さまは私の命の恩人です! こんな妾の子である私を全力で助けてくれました! 本当に感謝しています! ありがとうございます! 大好きです!」
妹が見当違いな感謝の言葉を泣きながら言っている。
「ソーダネー。ワタシモガンバッタヨー」
棒読みで私は答える。
お父様は分かったような顔をしてうんうん頷いていた。
「最初は私をイジメているのだと誤解してしまっていました。しかし、調べるとみんな私を守るためにしていたことだとわかったのです。お姉さまには感謝しかありません! それに犯人の手をすべて潰すなんてすごいです!」
棒読みにまったく気が付かず妹は抱き着きながら感謝の言葉を続ける。
「キニシナイデヨー。イモウトヲマモルノハアネトシテトーゼンノコトヨー」
どうしたもんだろうね。これ。
私が手を出したことがすべて好転してしまうとは。
これが妹のチートってやつなのか?
感激して泣く妹に抱きしめられながら私は思った。
もう、妹をイジメることはできないな、と。
勘違いものを書いたつもりが、よく考えたら勘違いでもなかった。
これぞ超ご都合主義。
名前をつけるなら、すべてが妹が助けられるために好転する程度の能力? って感じか。