第18話 誅殺
魔王はゲートに消え、怨鬼もどこか消えた。
地上に現れていた魔物は、山や森、海などに向かって潰走し始めている。
その中に混じる恰幅のいい男が一人。髷が解けた見窄らしい姿、褌一枚で城から遠く離れた小山を走っていた。
「は、ハァッ、ハァッ……な、何故だッ……何故……ッ」
足を引きずり、悔しげに歯を食いしばって逃げるは、この国の将軍・尾張永重である。
一柳が勝手に飛びだし、やられた。
その直後、封じられていたはずの怨鬼が現れたかと思うや、いきなりゲートを攻撃――闇の王と慌てて融合をしたものの、ブレスによってかなりの力を削られてしまう。
十蔵を排することに成功したのに、怨鬼が敵に回った時点で、いや妖刀を失った時点でこちらの絶望的となった。元々からティノー王にとっては目の上のたんこぶで、妖刀を持つ一柳が、怨鬼を討てる唯一の存在でもあったからだ。
闇の声を聞いてから二十年。大きな計画ほど小さな綻びで崩れやすい、との兵法の基本を思い出しながら、山道を走り続ける。
永重は泉を見つけ、よろめきながらその畔に座り込んだ。
両膝をつき、顔をつけてじかに水をごくごく飲む。そして顔を洗い、水面に映る己を見つめながら息を整えた。
「わ、儂の歴史はもっと、輝くはずだった……のだ。何故、何故このようなことに……」
濡れ顔から水の粒が滴り、水面に波紋が浮かぶ。
青く澄んだそれが、ふいに曇った。
――光強ければ、影は濃く
永重の背後から、そのような声が聞こえた。
「影は常に光の後ろに。しかし我、汝が影にあらず――御首頂戴」
それが永重が聞いた最期の言葉。
最期に見たのは水面――今まで従えていたはずの“影”であった。
※これにて本編は完結となります。
本日(9/22)の深夜26時あたりに、エピローグとなる最終話を投稿します




