表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
72/74

第17話 怨鬼と魔王

 一柳が討たれことで、城の方でも異変があった。

 巨大な闇が近づいてくる感覚――激戦を繰り広げる最中、隼人だけがそれに気づき、いよいよか、と左手の人差し指と中指を立てる。

 遅れて魔物の女・ターニアが。隼人の身体が次第に黒染まってゆくのを見て、嬉しそうに顔を綻ばせた。


「無事に帰ってきておくれよ」

「無論でござるよ」


 隼人が笑みを向けた直後、一気に黒く染まった。

 黒は緩やかに膨張。やがて三メートル近くもある巨躯に、隆々とした筋肉を作り始めると、


「――このオレ様がァ、負けるワケねえからよォォォッ」


 背中からは無数の触手を生やし、肩からは二本、鋭い爪を持った腕を伸ばす魔物――かつて東の国を震撼させた〈怨鬼〉となったのである。

 目の部分はまん丸で赤光り。口の部分はギザギザの白い線が走る。

 戦っていた人間たちは驚嘆し、中には槍を向ける者もいたが、唯一この場で事情を知る神楽は、横からそっと槍に手を添え、下げさせた。


「本当に信じていいのだな」

「うるせえェッ! それを決めるのはオレ様だッ!」


 鋭い爪先を神楽に向けて叫ぶと、怨鬼は長屋の屋根から屋根をどしどし駆け。

 そして半壊した城を仰げる、中央付近の位置まで来ると、深く身を沈め、屋根に左手をつく恰好で、がぱっと顎まで裂ける大きな口を開いた。


 ――ブレス


 宙に浮かぶ真っ黒な球体。つかの間の溜めを経て、太い光線が走った。

 夜がきた。

 そこから少し離れた場所にいるドワーフのカテリーナや、侍たち、誰もがそう思った。想像するは、赤い稲妻がゴロゴロうねる嵐の夜――。

 閃光を瞬く光線は、途中の長屋をえぐりながら城の石垣部分に。突き刺さる光が尾まで到達すると、一瞬の間を置いて、漆黒のドームが四分五裂。深紅の雷鳴を轟かせる。

 空が灰色に戻った頃にはもう城は瓦礫の山に。黒煙が晴れ、文字通り「柱一本残した」状態となっていた。その瓦礫が突如、遠目でも分かるほど膨らみ始めた。


『――怨鬼ッ、貴様ァァァァァアッ!』


 黒鎧の騎士王、と形容すべきか。

 骸骨顔にフルプレートを着込んだような、巨大な存在。魔王、闇皇帝……これこそが、かつて大陸の支配を目論み、魔と協力した王の末路・ティノー王なのであった。

 手に握る大剣を握り締め、怨鬼を忌々しく睨みつける。


「やぁっと、あの城にいるクソッタレをぶち殺せるよォォンッ! ィヤッハッハッハァッ!」


 怨鬼は駆け、魔王に向かって飛んだ。


「貴様ッ、与を裏切ったのかッ!」

「どの口がほざくッ! 先に裏切ったのはテメエだろうがよォォォッ!」


 魔王は剣を引き抜くが、怨鬼の方が早い。

 右の拳が思い切り、魔王は地面に向かって叩きつけられた。


「怨の字は恨みだ、糞野郎がッ! よくもオレ様を当て馬にしやがったなッ!」


 下の左手は鎧の首元を掴み、右腕二本、左腕一本は何度も顔を殴りつける。

 魔王もやられっぱなしではない。手にした大剣を振り上げ、掴んでいる怨鬼の左腕を切り落とし、前蹴りで距離を取った。だが怨鬼はニヤリと笑っただけで、すぐに切り落とされた左腕を再生させる。

 魔王には動揺が見てとれた。

 ティノー王は元人間。純粋な邪悪とは、絶対に追いつけない距離があるかのように――。


「てめえの計画よォ」


 怨鬼が頭を傾けながら、楽しそうに口を開いた。


「オレ様が、あとを引き継いでやるよォン」

「何ッ!」

「媒体を得て復活するのは賢いヨ? オレ様の頭じゃ思いつけねェな。闇の力を受け注ぐ器・その核に無能な殿様を選ぶこともよォォ! だからオレ様のブレスにすら耐えられねェ、ウェッハハハハァッ!」


 憎々しく睨む魔王に、怨鬼はぶんと殴りつける。

 相手も抵抗するのだが、振るう剣は虚しく空を斬るばかり。返す刀に相手は膝蹴りから肘打ちを入れる。

 その実力の差は、子供でも圧倒的だと分かるものだった。


「だから、オレ様が、力に耐えうる存在を、作るんだよォォ!」


 追い打ちをかけながら、怨鬼は続けた。


「あの古城はオレ様の宮殿にしてやんヨ。妃をはべらせてなァ」

「き、貴様、まさか……!」

「ンー、二世はなんて名乗ってやろうか。魔王? 新人類? シンプルに魔人かァ? 魔物とのハーフだから救世主か? まあ、これから地獄に堕ちる貴様にゃ関係ねェか」


 言うと、怨鬼は魔王の身体をぐるぐる回す。

 ぶんと高く飛ばし、自身も追いかけ飛翔。そして上空高く、頂点に達するや両脚で踏みつけながら落下する。四本の腕は組み、まるで便器に踏ん張るような恰好で――。


「これがオレ様考案フェイバリッド! 〈糞野郎地獄逝(ぼっとん便所)〉!」


 その真下には、これまでと違う深紅のゲートがあった。

 元いた場所に叩き返すのか、それとも地獄に繋がっているのか。

 怨鬼は地響きと共に魔王を叩き付け、堕としたのである。


「ウェッハッハッハッハァーッ! えんがちょんー!」


 沈んで行く魔王に、怨鬼は呵々大笑。

 両手の人差し指を繋ぎ、空いた片方の手で切り。最後に残った手は、魔王に向かって中指を立てる。

 完全に沈みきったのを見届けると、


「だーけど……オレ様のブレスすら防ぐ、あのアマの霧が厄介だァな。マジであれどうすっかねェ……」


 憮然と腕を組み、そこだけ霧に包まれた山を眺めるた。

 足下のゲートでは、魔王は身体に纏う闇を乖離させながら、地の底に向かって堕ちてゆく。姿が見えなくなると、ゲートはすっと消えた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ