第7話 きっちり仕留める
首都・ポルトラの西側。
高級感のある小綺麗な住宅街に、シェーシャが借りる建物がある。
模擬戦を終えてから三日後のこと。彼女は入り口の階段前に、十蔵を呼び出していた。
「隼人さんからの嘆願を受け、アンタの復帰を許すことにしたわ」
新王者・ハルジオン、お祭り参加の弱小クランに敗北。
この報せはまさに青天の霹靂で、何があったのかと首都は騒然と、また賭けをしていた者たちの悲喜こもごもな叫びがあがった。
知るのは関係者と、一部始終を見ていたシェーシャのみ。
勝利が雄叫びをあげるのを眺めながら、傍らにいた隼人は恐ろしいことを告げたのである。
『十蔵殿がシェーシャ殿を仕留め損なった。これは忍びにとって恥、だから何が何でも仕留めようとするでござるよ』
たまったもんじゃない。
尻を警戒するのに明け暮れるくらいなら、監視下に置いた方がまだマシだ。
目の前の忍者を許したのは、そう判断した結果だった。
「だけどこれだけは誓いなさい。今後一切、模擬戦中に、私の、お尻を、狙わないこと!」
「承知」
あまりにあっさりした返事に、シェーシャは一抹の不安を抱いてしまう。
……が、
「ま、喰らっても平気だけどね」
シェーシャは、ふふん、と得意げに鼻を鳴らす。
「私のレオタードスーツのお尻部分に、厚いレザーを張って補強したんだから。いかに鍛えているとは言え、指でこれを貫くのは不可能――やれるもんならやってみな、ってくらいよ」
したり顔で、横目をチラりと。
そこには誰もおらず、十蔵は忽然と姿を消していた――。
◇
一方、そこから少し離れた道具屋の前。
隼人は誰かを探すように歩いていると、そこから出てきた女とお見合いになった。
「おっと……おや?」
「あ、すみませ……って、隼人さん?」
それはアルカナの副リーダー。
名をファファと言い、おっとり眉が特徴的なプリーストであった。
「これはこれは、奇遇でござる!」
「い、いったいどうしたの……ですか?」
そんな格好を、と訝る目で下から眺めるファファ。
隼人はいつもの黒装束に、ナイトが装備する重厚なプレートメイルを装備していたのだ。
「十蔵殿を探しているでござる」
「ジュウザってあの、復帰を許された忍者さん?」
「そうでござる。十蔵殿は浪人をしている間、モンクの技能〈貫通撃〉を習得したらしいでござる。拙者も習得しようと思っていて、その効果のほど――
『ンピィィィィィィィィィィィィッ!?』
――うむ、あそこでござるな」
突如として、首都中に響き渡る断末魔。
何だ何だとざわめく群衆の中、効果は絶大でござる、と隼人は何度も頷いている。