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第3話 妖刀の行方

 大陸に渡った十蔵と隼人は、しばらく十蔵の妹・琴のいる商業都市〈ワジ〉に留まり、情報を集めていた。


「琴殿。子はまだでござるか」

「隼人殿。それを申すなら、まず隣の兄上に」


 資料を読む十蔵は、椅子に背を預けたまま眉だけ上げた。


「さっさと神楽殿に授けて下さいまし。気配がないなら、あのエルフの娘でも何でも構いませぬ。遅ければ遅いほど面倒なことになるのですから」

「行くぞ隼人。琴は嫁いでから更に小言が増えた」

「むっ、失礼な。跡目争いが心配なのでしょうが、それは兄上が『今後一切やめる』と一言申せばよろしいのでは。任務だなんだと後回しにして、悪習を改善をしないから――」

「ああ、うるさいうるさい」


 十蔵は肩をすくめながら外へ。

 背後から「兄上ッ」と妹の尖り声が飛ぶも、兄はそのまま姿を消していた。



 隼人を伴い、今度は首都〈ポルトラ〉へと向かう。

 琴が調べた情報によれば、半年ほど前、辺境地にある寂れた村に一隻の漁船が到着した。その中に一人の侍がいて、下船してすぐどこかに消えたと言う。

 帰国にはワジからの船を利用したため、記録帳から、妖刀を運んだのは腰物奉行に仕える〈松崎義郎〉と判明。その男は半年前、横領の疑いありと〈尾張永重〉から命を受け、十蔵が誅殺していた。


「何やら、とんでもない事実が出てきそうでござるな」

「妖刀が盗まれたのか、それとも上様が届けさせたのか。そして妖刀は一本か二本か、どれ一つ誤ってはならん」

「無論でござる。まずどのようにして入手したか、その経緯を調べるでござるよ」


 砂漠の町〈エスタン〉にある盗賊ギルドからの情報によれば、砂漠の闇市に出され、いかにも驕りで身を滅ぼしたであろう卑しい風体のエルフが、有り金をすべて(はた)いて購入したとのこと。

 隼人が推察するに、それは〈恨〉の方ではないか。

 強い憎悪や怒りを持つ者を呼び、手にすれば永久に晴れない憎念の亡者となる。

 魔物討伐の依頼が多く持ち込まれる修道士(プリースト)ギルドによく現れるとの情報から、十蔵たちは首都の教会を訪れていた。


「拙者、少し時間があれば出かけたかったでござるが……そうもゆかないようでござるなあ」

「女のとこだろう。……背の高い女を探すのは構わぬが、魔物にまで手を出すか」


 隼人は「おや」と眉を上げた。


「知っておったでござるか」

「当然だ。ちょろちょろ抜けては古城へ赴き、魔物の匂いをつけて帰ってくれば誰でも分かる」

「まぁ拙者も半分は魔物でござるし、問題ないでござろう。正直言えば、此度の調査が終われば、つれて帰ろうと思っているでござる」

「……どこに置くと言うのだ」

「忍びの郷なら誰も気にしないと思うでござる」

「……犬や猫を拾うのとは違うのだぞ」

「まぁエルフや妖精がいるでござるし、迷惑はかけぬと誓うでござる」


 目を細めて笑う隼人に、十蔵が首を振りながらパラパラと記録帳をめくっていると、


「――あら、隼人さん?」


 覚えのある声に顔を上げれば、そこにはシェーシャのクランのサブマスター・ファファがいた。


「おお、ファファ殿。お久しぶりでござる!」

「十蔵さんまでいるとなると……シェーシャも帰ってきたんですか?」

「いや、拙者たちは少し用事でござる。凄腕の剣士が噂になっていたので、どのような者かとついでに見にきたでござる」

「ああ、狂剣士とか言うの? この前、ここに来たらしいわね」


 確か、と顎に手をやり考えると、


「魔界の看守〈微睡みの(オ・ルヴォア)茨姫(ターニア)〉がどうの、聞きにきたとか」


 隼人の表情が変わった。


「それはっ、いつ!」

「えっ!? えぇっと、二週間ほど前かしら……」


 聞くなり、隼人は駆けだした。

 残された十蔵は静かに帳面を閉じ、ファファに渡すと、


「フォールス産の葡萄酒と燻製肉を買っておいてもらえぬか。シェーシャに頼まれていたのだが、私にはあれの好みが分からぬ」


 帳面の上には金貨袋が一つ。

 ファファが「分かりました」と視線が袋から戻すが、そこにはもう十蔵の姿はなく、秋の陽光の中でホコリがチラチラ舞うばかりであった。

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