第10話 二本の妖刀
隼人から報せを受けた十蔵は、深刻な表情で思案している。
「――まことに怨鬼の妖刀か?」
「刀で魔剣に属するものと言えば妖刀のみ。他に妖刀はあれど、素人でも斬れ味を保ってられるのは〈怨鬼〉が打ったものぐらいでござるよ。拙者ら〈怨の一族〉は封じた〈怨鬼〉の力で、それらを破壊――この世に残す、二本を始末することが役目でござる」
「今もなお破壊できておらぬ、〈恨〉と〈滅〉か……。しかし、あれらは城に保管され、仮に持ち出せても、琴が何かしら報告をしてくるはずだが」
「琴殿の管轄は商業都市〈ワジ〉の港方面でござる。船を寄せるだけなら岸辺も、目が届かぬ場所などいくらでもあるでござるよ。それに以前、刀が持ち出されたと言う事件もあったでござるし」
ふむ、と十蔵は宙を見つめる。
するとそこに、後ろからシェーシャが「いいかしら」と、障子の枠をノックしながら現れた。
「申し訳ないけど、立ち聞きさせてもらったわ。――ござる、アンタさっき魔剣の持ち主を『エルフの剣士』って言ったわよね?」
「そうでござる。〈狂剣士〉と名乗っているらしいでござる」
「おかしいわ。エルフはそんなダサい通り名は付けたがらないし、何より闇に染まった武器とか持ちたがらないもの」
心の腐食は恐ろしく、オークになるのを懼れる。――と、長い寿命と歴史による経験を語る。
「ダークエルフなる、戒律を持たないなもいると聞くでござる」
「あいつらはただの日焼けよ。南の島に逃避・バカンスに行ったのが始祖なんだし。ここは誰かと決めつけず、まずそいつが何者か調べてからのがいいと思うわ」
力を誇示するように魔剣を振り回すなら、必ずどこかで見つかる。
シェーシャが言うと、十蔵は腕を組みながら頷いた。
「確かにその通りだ。ちょうどカシュヤパが琴の屋敷におるし、魔剣の類いの留意点などを聞いておくよう、琴に伝えておこう」
「堅物な父とアンタの妹が? ……ああ、輸送の経路とか徴税についての協議とかあるわね」
「それもあるが」
十蔵の珍しく楽しげな表情を浮かべた。
「絶縁状態と言えど、やはり娘の寿ぎは喜ばしいものだ」
まさか、と二歩、三歩と後ずさりしたシェーシャは、
「嘘でしょ……?」
「突然の報せに、あちらも大慌てなようだ。よかったな」
突如としてくるりと、猛ダッシュで屋敷を飛び出した。
頭の中で『余計なことするなクソ忍者ッ』と、呪いながら――。




