お題:夏の花⑦
じっとりと纏わり付くような、この季節特有の熱い空気を吸うと、柄にもなくボンヤリしてしまう・・。
――らしくないだろ?
はい、そこ笑わない。
・・・俺にも“忘れられない思い出”があるんだ。
あれは、まだメジャーデビューする前の事だった。
仲間達と必死でチケットを売りながら、狭いライブハウスで必死に歌っていた。
あの頃は、とにかくCDを売ることしか考えてなかった。
固定ファンの付いてる他のバンドと競い合い、どっちのファンの方が多いとか熱狂的だとか。
とにかく、マイナーなバンドなんて星の数ほどあるからな。
つまらない事で優劣を付け合って、頭ひとつも抜け出せない現状から目を逸らしていた。
そんな時、・・多分、他のバンドを目当てに来たんだろうな。1人の女性がいたんだ。
その時の衝撃は、一瞬、歌うのを忘れてしまう程だった。
一目惚れ。
そんな言葉があるのは知っていた。
ただ、それを俺が経験するとは思ってもみなかった。
でも、そこでは幾つも参加してるバンドの1つでしかなかったし、下手な行動をしたら出入り禁止。
それだけじゃない。経験不足な俺は、声を掛ける事もできなかった。
あれから、時間があればその女性の事を考えている自分に気付いた。
いや、全ての時間が彼女に染まっていた、が正解だ。
彼女の為に詩を書き、ライブハウスのどこかに彼女がいるのでは・・と思いながら歌った。
結局、彼女とはそれ以来逢えなかったのだけれど・・・・・・。
なんで今日、そんな話をしたのかって?
・・・・・わかるだろ。
その彼女が、俺達のライブを見に来てくれたんだ。
覚えてるかな。
一目惚れの君へ捧げる歌。
俺達のメジャーデビューソング、聞いてくれ。
――“夏の花”。
title:夏の花 ~ M C ~