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「…あなたは誰ですか?何で、全く知らない私達を助けてくれたんですか?」
「あの男達とどういう関係なんですか?」
真奈美は気の弱そうで頼りなさそうな男を警戒しつつ尋ねた。
「私は普通の会社員なんですが…、なぜあなた達を助けたのかは、あなた達も私と同じだからという理由です。彼らには…私も狙われているんですよ。」
男はとりあえず駅に向かいましょうと二人を促した。
「しばらくはこの膜の外に出ないようにして下さいね。」
「これって何なんですか?おっきいシャボン玉ですか?」
「この膜は周囲の風景を反映させて膜の内側の景色を隠しているんですよ。だから、今私達は外側からは見えていない状態になりますね。」
「…。」「……。」
「………先ほど彼らがこちらに全く気付かず目の前を通り過ぎた事で信じて頂けるかと…。」
疑いの視線を敏感に感じとった男は、自信がなさそうに二人に説明していた。
「あの、外側から見てもいいですか?」
「今外に出ない方がいいですよ。一応これは力を遮断する効果もありますので。もっと駅に近づいたら膜の外に出て見てみて下さい。」
人通りが多くなる所に行くまでに真奈美と町子は男から大まかな話を聞いていた。
男の話は、二人にはとても空想的で荒唐無稽な話に聞えた。
ただ話を聞いただけでは到底信じる事が出来なかったであろうが、つい今しがた自分達の身に起こった事や現在進行形で目に見えている膜の事などがあり、二人はどこか疑念を抱きつつも納得した。
駅に近づいてきた時、二人は男に促され一人ずつ膜の外に出た。
膜の外に出た真奈美を見ていた町子は、真奈美がこちらを振り返ったものの目が合わず視線がキョロキョロと定まらずにいる様子を見た。
続いて町子が膜の外に出て、少し驚いている様子の真奈美を無視し後ろを振り返ると、そこには透明で所々虹色に光るシャボン玉のような膜も男も見当たらず、普段の見慣れた駅前の風景や帰宅に向かう人々が見えるのみだった。
二人が辺りに視線を彷徨わせていると、不意に少しうつむき加減でスマホを操作し駅に向かう男性とぶつかりそうになった。
すぐに距離を取り謝りながら相手を見ると、それはたった今まで一緒にいた気の弱そうで真面目そうな男だった。
「すごーい!めっちゃ自然な感じで気づかなかったですよ!」
「いきなり人が現れた!って感じじゃなくて、そこに人いたんだ!って感じ!」
「私は慣れてますので。意外に、人が多いほど目立ちにくいんですよ。観光地でもない限り何でもない所をじっと見ている人はあまりいないですからね。」
男は少し微笑みながら感心する二人に説明した。
その後二人は男と別れそれぞれ別の電車に乗り帰宅したが、一人で道を歩くのが怖い気持ちとなるべく一人にならないようにと忠告を受けた事もあり、真奈美は親に迎えに来てもらい、町子は部活帰りの地元の友達と一緒に帰った。