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メイプルで沢山かわいい物を見て癒された二人は今回は何も買わずに店を出てきた。外はすっかり薄暗くなり、暑さもやわらいで涼しく過ごしやすい気温に変わっていた。
いつものようにたわいもない話をしていた二人だったが、突然真奈美から笑顔が消え真面目な様子でゆっくりと話し出してきた。
「私さ、昨日人にぶつかったって言ったじゃん?」
「え?うん。」
「あの時さ思ったんだよね、私が注意して歩いてなかったから人とぶつかっちゃったんだって。」
「足音とかさ、気を付けてれば後ろにいる人にだって注意は向けられるじゃん?いつも夜暗くなった時は変質者とか怖いから足音気にしたり、後ろを振り返ったり、後ろに男の人がいれば道の端に寄ってわざと先に行かせたり、反対の道に移動したり気を付けてたけどさ、あの時は朝だからすっごい気が抜けてたんだよね。」
「でもさ、今はあたしちゃんと気を付けてるよ。」
町子は真奈美の話を黙ってじっと聞いていた。真奈美は何を言わんとしているのか。
真奈美は真面目な顔で町子を見つめた。
「町子はどう思う?今、注意してる?」
町子はハッとして思わず後ろを振り向いてしまうのを我慢し、急いで周りの音に耳を澄ませた。
すると少し後ろの方から靴がアスファルトを踏みしめる音が聞えた。
町子は真奈美の様子に飲まれて不安げな様子でこっそりと答えた。
「誰か後ろ歩いてるみたいだけど、普通の通行人じゃないの?」
「…あたしね、さっき暗くなってきたねって言いながら、周りを見渡すふりして後ろを確認してたの。」
「そしたら黒いキャップしてる男の人がいたんだけど、こっち見てたの。…すぐに向こうは目をそらしてたけど。しかもさ、あたし先に行かせようと思って歩くスピードを遅くしたんだけど、向こうもスピード遅くしたんだよ。ずっとウチらと一定の距離を保ってるみたいなんだよね。」
「ねぇ、町子どう思う?」
「…。私も後ろ振り返ってもいい?」
「うん、でも自然な感じで偶然を装ってチラ見してね。あくまでも自然にね。」
真奈美に念を押され、町子は十字路に差し掛かった時に、どっちだったっけと言いながら左右を見渡しついでにチラッと後ろを振り返った。
町子の行動に合わせて立ち止まっていた真奈美は、左右をキョロキョロと見ながらも絶対に後ろを向かなかった。二人で後ろを見れば気づいてる事がバレるかもしれないと思ったからだ。
町子は前を向きこっちだったねと真奈美に話掛けながら歩き出した。
数歩歩いた時、町子は声を殺して真奈美に叫んだ。
「…私も目が合ったんだけど!」