行き先は華の中
私は不思議で変な夢をよく見ます。
一昨日観た夢を少し脚色して描きました。
様々な辛い現実に直面している方に読んでいただきたいです。
目が覚める。
今日も生きてしまっている。
毎日思うことは決まっている。
全ての筋肉や神経がぴんと張り詰めて身体が重い。
学校へと行く道は、閑静な住宅街だ。
自分の気持ちと憎いほど相反している。
どんどん学校という名の地獄へと近づいていく。
私は学校を目の前にして、立ち尽くす。
もう無理だ。限界だ。
誰にも聞こえないように虫の羽音のようにそっとつぶやく。
近くの駅へと全速力で駆けてゆく。
私は、ある小説の一節を思い出す。
「物理的な距離は、例えるならば三途の川の水のようなものだ。」
本当にそうだと思う。
遠くへ遠くへ
できるだけ遠くへ行きたい。
罪悪感とともに電車に乗ると、そこはいつもの電車とは違う空間だった。
奇妙だ。
姿形は似ているのだが何かが違う。
乗客はまるで心がぬけてしまったかのように虚ろだ。
どこへいくかは決めていなかった。
そんなことはどうでもいい。
窓から見える景色はいたって普通の東京の住宅街だ。
うとうとしているうちに、次の駅へ到着した。
どこについたのだろう。百合ヶ丘あたりだろうか。
目を細め駅の名前をみると、それはみたこともないような解読不可能な文字がそこにはあった。
この非常事態にもかかわらず、全く恐怖心もなかった。
それよりか夜になってしまっていたことに驚いた。
窓の景色を見るとそこは大雪だった。
みたこともない街並みが真っ白く染まっている。
地球に存在するそれとは似て非なる。
身体が震えるほど寒い。
木造の奇妙な形をした大きな建物が多い。
街を歩く人間は、私たちが生きている世界と同じいわゆる人間だと思いきや、それは違うものだった。よく観察すると皆微笑んでいる。気持ちが悪い。
日本語であることを期待し、窓の方に目をやるがやはり解読不可能なものだった。
私は電車から降り、改札から出た。
石畳みの坂道が続いている。
暗い夜を弱々しい赤い提灯のようなものが、意外にもきちんと明るく道を照らしてくれている。
大雪だが、傘は必要ないようだ。
雪で濡れるというごく当たり前の現象が起きていないからだ。
二十分ほど歩いたところで、ベンチを発見した。
疲れていたので少し休憩することにした。
一人になると考えてしまう。様々なことを。多くの場合は邪推なのかもしれない。
いつもと違う。
と私は感じとることができた。
普段通り嫌なことを考えてしまうのだが、なぜだかその全てがどうでもいいのだ。痛みが伴わないのだ。心地が良く安らかでいられる。
しかし、私はふと冷静に思った。
丸一日学校を休むのはいけない。卒業ができなくなってしまう。
だが、私はこの街に既に魅せられてしまっていた。
ずっとここにいたい。
ここは自分の居場所だ。
柔らかくあたたかい感情に浸っていると、老婆が歩いてきて私の目をじっと見つめてから突然ベンチに座りため息をついてから枯れた声でこう言った。
「帰ったほうがいい。」
なぜせっかく心地の良くこうしているのに水をさすようなことを。
「何故ですか。ここ、素晴らしいところですね。なんだか昔来たことがあるような気がするんです。」
老婆は深くため息をついた。
「帰らないと、お前は後悔することになる。」
私はそれでもここへいつまでもいてもいいような気がしたが学校へ行かなければいけないことを思い出す。
私は老婆に何故か礼を言い、駅へと戻った。
学校へ戻る電車がわからないまま、一番始めに来た電車に乗る。
私は入った瞬間、電車の隅に肌色の塊のようなものを発見した。それはとても奇妙なのだったので、近づいてよく見ると乳児だった。目を閉じていて、体は冷たい。
本来生きていなければならないものが生きていないということは不気味なものだ。
乳児ということはその感情を助長させた。
私は強い恐怖を感じる。
「だれか!救急車呼んでください!この子死にそうです!」
反射的にそう叫んだ。
すると、待機していたかのように次の瞬間に医師と名乗る男が来た。乳児に近寄り、生死を確認している。そして、残念そうに言った。
「もう死んでいる。」
そう呟いた後私を見た。
恐怖の表情から、また別の種類の恐怖の表情へと変わった。
その時少女は自分が笑みをうかべていることに気がついた。
私は必死に今あるべき表情へと筋肉を動かす。
医師は誰かに電話をし、乳児を抱き、次の駅で降りた。
私は、とにかくどの電車に乗るべきかはわからないままだが電車をいくつもいくつも乗り継いだ。
そして見慣れた町田駅に到着した。
相変わらず夜だがそんなことは関係ない。
学校へ急がねば。