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03:彼の物語「豊穣の神殿」

2017.11/16・・・タイトルなど、色々と修正を行いました。

他のタイトルも順次修正を行っていきます。


 ふむ、一先ずはそんなところまでは覚えているようだ。


「それから忘れずに神殿まで行って祭壇の前で聖杯を捧げて、……なんか神殿の爺ちゃんに色々と小言を言われたような気がするけど、何だったかな。えっと、『神の聖域へ罪人が土足で踏み入るのか』とか『神への反逆』だとかなんとか?」


 宗教家の難しい考えっていうのは、やっぱりよくわからないな。


 そもそもこの進化(レベルアップ)という仕組み自体が、その神とやらの作った元々の決まりの輪から大きく外れてしまっているんだから、何を今更敬虔なる信徒の顔をしてあれこれご高説を宣っているのだか。それこそ一度、神でも見てもらった方がいいんじゃないだろうか。

 茶番と言うにも随分と使い古されているから、見ている方は退屈するだけだけどな。




「よもや最後の聖杯までも捧げる者が現れようとは、……このままでは神のおわす聖域が罪人によって侵されてしまう。ああ、なんということじゃろうか」

「……そんな難しいことおっしゃられても、俺には何言ってるかよく分からんですよ」


 キラとトラッポラに別れて中央ギルド会館を出た後、寄り道をせずにまっすぐ中央神殿、――豊穣の神殿へと向かった。そして、いつものように窓口でレベルアップを行いたいと告げると、どういうわけか神殿のお偉いさんである神殿長とお付きの巫女さんがお出迎えをしてくれた。……そして、今は何故だか非難囂々だ。


「……トラント神殿長に無礼ですよ。デューズ=ワイルド」

「おっと、それはすまなかった。神殿長殿」


 そう厳しい口調で言うのは、神殿の巫女であるルージュ=エノアール……だったか?

 その凛とした立ち姿に巫女というよりも戦士のような気配を感じるのは、神に仕える身として鍛え上げられているからなのだろうか。神事を行う所を遠目に見かけたことはあるけれど、こうして話をするのは初めてだ。……会話になっているのかは微妙だが。


「いやね、そうやって『神への反逆だ、冒涜だ』って文句を言われてもな。……レベルを上げていけば、いつかは最後の聖杯だって満杯まで溜まることになるのはもう当然だろ。だから、それをあれこれ非難されるのは正直言って腑に落ちないし、納得いかんよ」


 そもそも、人々に聖杯を授けていったのは神殿(あんたら)じゃないか。


 この国にいる子どもは生まれたらすぐに神殿へと預けられ、聖杯を与えられる。そして、物心つく前から『神の子らは聖杯を満たし、神へと捧げるのだ』と教えられてきている。宗教観は薄くても、もうそういうものだと体に考えは染みついてしまっている。


「確かに聖杯を満たし、神の御前へと捧げることは我等に課せられた神聖な責務じゃな。……だが、人の身で最後の聖杯を満たした者など存在してはおらん。――それはつまり、貴殿は人ならざる者へと足を踏み出してしまったということに他ならないのじゃよ」

「……その理屈は暴論もいいところだな」


 化物扱いはさんざんされてきたけど、人外扱いかよ。

 呆れた声で思わずそう答えるが、『いや、じゃが、しかし……』と何やらブツブツと呟きながら考え事をしているばかりで俺の声など耳には入ってきていないようだ。


「なんということじゃ。よもや罪人が神の座へ上り詰めてしまうとは……」


 この爺ちゃん。えっと、トラント=エカラント神殿長だっただろうか?

 ……美女な巫女さんの方ならともかく、親しくもない爺ちゃんの名前なんて熱心に記憶しておく特異な趣味などない。とまあ、それは置いておき。……さっきからこの爺ちゃん、『ああ、なんてことをしてしまったのか』と人のことを意識の外に放って頭を抱えているばかりで、ろくに話が先に進みやしない。


「人の身で最後の聖杯を満たしたやつはいないっていうけどよ、レベルなんてモンスターと闘う中で多少なりとも上がっていくものだろう。史上初なのかもしれないけどよ、……上があるなら目指していく、それの何が悪いっていうんだ?」

「それが高慢というのです、デューズ=ワイルド」


 反応がないと思って愚痴を言ってみたが、巫女のルージュさんに窘められてしまった。


「進化によってレベル100にまで至るものは、今のところモンスターだけです。それも伝説に残る災禍のモンスターばかりではありませんか。……理解していただけませんか? 貴殿はその領域に踏み込んだということです」

「………………」


 レベル100になんてなっちまったら、俺もモンスターと大して変わらないってか。


 確かにレベル99の今ですら一振りで鉄の塊を切り裂き、片手で翼竜を消し飛ばすことができるんだ。それがそれ以上の力を持つ存在になるのだとしたら、人間じゃないと畏怖され避けられても仕方がないのかもしれない。……とはいえ、それはそれだ。

 少なくとも原因の一端を担う奴にとやかく言われたくはない。


「いや、あんた達こそしっかりと理解できているのか? ……俺はモンスターじゃない、デューズ=ワイルドという一人の人間だ。たとえレベル100になろうと、俺が俺でなくなるってわけじゃないだろ? 災禍のモンスター達なんかと比べないでくれないか」

「いえ、それはすみませんでした」


 彼女はあっさりと頭を下げた。……大して悪いとは思っていないようだ。


「まあ、難しい話はこの際どうでもいいんだけど。……結局、ココに(・・・)ある俺の最後の聖杯はきちんと受け取ってもらえるのか。それとも駄目なのか、はっきりとしてくれ」


 聖杯があると思われる胸を指しながら、頭を抱える爺ちゃんと巫女さんに問いかけた。

 悲壮感溢れた顔をしていた神殿長であったが、肺の中の空気が空っぽになるんじゃないかという程大きな溜息を吐くと、ようやくこちらを見据えてくれた。


「済まない、デューズ=ワイルド。……儂は今どんな顔をして貴殿の顔を見れば良いのか決めかねておるのじゃ。貴殿とは長い付き合いになるが、神殿の長として人類初の快挙を遂げたことを素直に祝うことはできんのじゃよ」

「………………」


 確かに毎度毎度のごとく聖杯を捧げている手前、敬虔なる信徒からは程遠い存在である俺も神殿とそれなりに長い付き合いにはなるけれど、……神殿長とはそんなに関わることがあっただろうか? なんていうことをここで言うのは不躾だろう。


「じゃが、貴殿の聖杯は神の御前へと捧げてもらおう。……いかなる理由があろうと供物を捧げずに人の世にいつまでも留めておくなど、あってはならないことじゃからな」


 ……さんざん人のことを放っておいたのは、どこのどいつだったかな。


「では、トラント神殿長。……最後の供物をお受け取りください」



          ◆     ◆


「まあ、一悶着合ったわけだけどそれから無事にレベル100になって。えっと、それで酒場まで行ってみたら、……何故かあいつらが先に打ち上げを始めていやがったんだよな。その後、しっかりと仕切り直してくれたから別に気にしてはいないけどさ」


 なんとかその辺までは覚えているみたいだな。

 ……しかし、こう思い出してみると色々と酷いな。


 確かに『今日は俺が奢ってやる』と言った。……そうは言ったけれど。

 だからって、店にある酒と食料の在庫が空になるまで飲むってどういうことだよ? どうせ人の金だと思って遠慮なしで散々好き放題飲み食いしやがって。最初の一件目だけで結構あったはずの今回の依頼の報酬が軽く吹き飛んだぞ。


「……それからあいつらと調子に乗って三、四件近くの店を回ったところまではちゃんと覚えてるんだが、あれから何がどうなったんだったかな。…………くそ駄目だ、酒がまだ残ってるのか記憶がもやもやとして思い出せないぞ」


 何故だろうか、今回は随分と記憶が混濁しているようだ。

 いつもだったら酒飲みにとってはありがた迷惑な毒耐性のおかげで、こんな感じに酔いが次の日まで残るってことはなかったんだけれど。さすがに昨晩は調子に乗って、耐性の限界を超えるまで飲み過ぎてしまったということなのだろうか? レベル100の毒耐性の限界を超えるって、昨晩は一体どれだけ飲んだんだろう。


 手探りで周囲を確認しながら、昨晩のことをどうにか思い出そうとしてみる。


「ったく、あいつら容赦なく飲み過ぎなん…………ん、何だ?」


 隣りを探っていると、何やら生暖かいグニグニとした物体に手が触れた。


「…………?」


 グニグニ、グニグニ


 ……何だろう、この不安になる中途半端な感触は?

 しかし、しばらく輪郭をなぞっているうちになんとなく自分の触れている物体の予想ができてきた。……まあ、なんとなくの予想はついてきたのだが、何故こんなことになってしまっているのか理解の方はまったく追いついてこない。


「……どうして子どもがこんな所にいるんだ」




「くそ、何か明かりはないのか」


 灯火(マジックライト)暗視(ナイトビジョン)の魔法を使おうとするが、どういうわけか発動しない。


 何度繰り返し試してみても失敗してしまう。体を巡る魔力の感覚からして全快となっているはずなんだが、おかしなことにどちらも魔力切れとなった時のように、『ポフンッ』と軽く小さな音だけ鳴らして不発に終わってしまった。


 仕方なく四つん這いになりながら先程よりも更に広く周りを探ってみるが、体がだるく思ったように体が上手く動かない。……風邪をひいた経験はなかったけれど、これが病人の体調というやつなのだろうか。まるで身体が鉛にでもなったようだ。


「…………ん、なんだこれは?」


 しばらく辺りを探っていると、大きめの木箱のような物に手が触れた。


「……洞窟にある木箱。いや、まさか宝箱(ギフトボックス)か?」


 勘違いや間違いであって欲しいが、どうだろうか。

 これが宝箱だとすると、問題は益々ややこしいことになってしまう。


 いや、俺の持つ恩恵(スキル)の特性からして、残念ながらこの嫌な予想は的を外してはいないだろう。『先読み(プリフェッチ)』……これまでに何度も窮地から救ってくれたこの恩恵だが、今はこの先に待っている展開をなんとなく読めてしまうのが逆に恐ろしく思えてしまう。


 しかし、今はそんなことを考えていても仕方がない。

 光源を確保できる可能性が少しでもあるのならば、と木箱の蓋へと手をかけてみる。


 鍵はかかっていなかったようで、すんなりと開き始めた。


――ギィ……


 ゆっくり慎重に木箱の蓋を開けると、錆びついたような軋んだ音をさせながら箱の中から見覚えのある独特の眩い光が、零れ出るように漏れてきた。


「……くっ、眩しい」


 急に明るいものを目にしたため、鈍い痛みに襲われた。


 目を慣らしながらゆっくりと細く瞼を開けていく。木箱の中には赤黒い蝋のような物で封のされた、古びた巻物(ロール)がひとつ入っていた。……畜生、やっぱり宝箱だったのか。


「いや、問題を考えるのは後だ。……まずは子どもの様子を確認しないと」


 箱から漏れる光によって、辺りは目を凝らせばなんとか見通せる程に薄暗くなった。

 そしてぼんやりとした明かりの中でどうにか、少し離れた場所に横たわっている子どもの姿を確認することが出来た。地面に広がる髪の長さからして女の子だろうか。……遠目ではまだよくはわからないが、小さな胸が穏やかに軽く上下しているのでおそらくは気を失っているか、眠っているだけだろう。


「ふう、良かった。おーい、大丈……ッ!」


 駆け寄ろうと一歩踏み出そうとした時、自分の体の異常に気付かされた。


「おい、どういうことだ。この小さな足は、細い腕は、……俺なのか?」


 ……デューズの視界に入ってきたのは、自分の意志によって踏み出された小さな足と横たわる少女の元へと伸ばされたその華奢な細い腕だった。


                                       』


 目が覚めたら隣には覚えのない謎の少女。そして、原因不明の体の異常。

 いかにもここから物語が始まるっていう感じがしてきます。最近の物語の傾向からしてこれくらいのインパクトでは若干弱いような気はしますが、彼の物語の始まり方としてはまあこんなところが妥当ではないでしょうか。


 さあさあ、ここから物語はどう転がっていくのか楽しみです。




目が覚めると体が縮んでしまっていた。


・・・いえいえ、黒尽くめの組織は出ませんよ

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