**:**の物語「他愛もない会話」
2017.12/29・・・タイトルなど、色々と修正を行いました。
他のタイトルも順次修正を行っていきます。
『
……さて、何を話したものでしょうか?
のんびり骨を食む『羊』の毛並みをなでながら少し考えます。
二人には『私のことを話す』と言ったものの、そんなに語るような大層な話はないと思うのですよね。それに、あまり誰かに話を語って聞かせるのは得意じゃないのですよ。神殿長様なら信徒の皆さんに語るように澱みなく言葉を紡げるのでしょうけれど、私にはあのように上手に語ることはできそうにありません。
「………………」
……けれどここでずっと悩んで黙っていても仕方ないので、……聞き苦しくはなってしまうでしょうが、頑張って私は私にできる話し方で二人に語りましょう。
「とりあえず、お二人に話をするとしたらわたしの生まれでしょうか?」
二人の視線がこちらを向く中、わたしはゆっくりと口を開いた。
「……実は私、こう見えて神殿の出身なのです。少し意外かもしれませんが生まれてからずっと神殿の中で暮らしてきたので、俗世のことについてあまり詳しくはないのです」
ああ、言ってしまいました。
……神殿の関係者は世間の方から疎まれる、という話を耳にしたことがあります。
二人がそうだとはあまり考えたくありませんが、そういう忌避の目があるかもしれないという覚悟は十分しておいた方がいいかもしれません。もしも、この可愛らしい二人から冷たい蔑むような目線を向けられてしまったとしたら、……困りました。
もしかしたら、新しい扉を開いてしまうかもしれません。
「意外も何も……それは、結構はじめのうちから予想できていたのですよ。会話の端々に神殿関係の言葉が出てきていたですし、何よりもかなりの世間知らず振りでしたしね」
「まあ、ピケの非常識は世間知らずっていう以上のものだけどな」
「…………なんと、そうでしたか」
意外なことにすんなりと受け入れてもらえました。少し残念です。
ですが二人が別に気にしていないということでしたら、この話はもう終わりということで構わないでしょう。色々と複雑な事情はあるのですが、私もあえて訊かれていないことを軽々しく口にするようなことはありません。色々と細かく説明をするのも大変ですし、私に上手く説明ができるとも思えないですからね。……とはいえ、こうもすんなりと話が次に進んでしまうと他に二人に話せるような話題がどうにも思いつかないですね。
』
「神殿の出身とはいうが、それは何処かから拾われて神殿で育ってきたってことか?」
「いえ、拾われ子ではありません。生まれも育ちも神殿です」
「……生まれも?」
ディズちゃんは怪訝そうに眉を顰めます。
神殿にいる子どもの殆どは、外で生まれ育った孤児であるそうですね。
神殿には時々親がいない拾われ子が扉の前に置かれていたりすることがあるそうですが、私はそういった境遇ではないそうです。……そう教えられたわけではありませんが、周りの子ども達と同じでないということはさすがにわかります。
「……じゃあ、こっちから質問をしてもいいか」
他に何を話そうかと悩んでいると、どうやらディズちゃんが質問をしてくれるようです。……何を話せばいいのかまとめるのは苦手なので、尋ねてもらった方が助かります。
「どうぞ、……わたしに答えられることならば、なんでも訊いてください」
「それならまずは、……ピケの年を教えてくれ」
「…………年、ですか?」
神妙な顔で何を訊いてくるかと思えば、私の年でしたか。
真剣な顔をするディズちゃんも、頑張って背伸びをしているようで可愛らしいですね。……ああ、そうでした。ディズちゃんの方が私よりも歳上なのでしたっけ? それですと、私のこの感想は彼女に失礼でしょうか。ですが、可愛らしいことに違いはありません。
「……ちょっと、ディズちゃん。ピケちゃんの年も訊いてなかったのですか?」
「いや、仕方ないだろ。年なんて訊ける機会もなかったんだし」
そういえば二人が自分の年齢について何やら言っていたような気がしますが、……気のせいでしょうか、二人共なんだかとても大きな数を言われていたような気がします。私にとっては『7』よりも上の数はどれも『大きい数』なので、二人がどのくらい歳上なのか実はあまりよくわかっていません。……神殿長様よりは歳下ですよね?
二人共しっかりしていますから、たぶん私よりいくつか歳上なのでしょうね。
しかし、まあそれは置いておきましょう。
「生まれた日が誕生日なのですから。……わたしは、――2歳でしょうか」
「…………2歳、だって?」
二人共、随分と驚いた顔をしています。先程、自分の年齢のことで盛り上がっていた時よりも驚いているかもしれません。……もしかすると二人には、もっと大人に見えていたということなのでしょうか。そんなに大人びて見えますかね?
「はい、わたしが生まれてから2年になりますが、……何か違いましたか?」
また、何か間違えてしまったのでしょうか。
確か年齢とは、年を経て決まった誕生日を迎えることによって一つひとつ増えていくもの――ではなかったでしょうか? まだ二回目なので、数え間違えてはいないはずです。……それとも私の知らないだけで、違う『年』と言われるものがあるのかもしれません。
そうだとしたら、またおかしなことを口走ってしまったというわけですね。
「間違ってはいないが。……本当だとしたら、そりゃ――」
二人共顔を見合わせてなんだか難しい顔をしています。……二人のその顔も可愛らしいとは思いますが、二人共お揃いなんてずるいです。私も仲間に入れてほしいです。
「記憶違いや勘違い、っていうわけでもなさそうですけど。ウチにはもう、何がなんやらさっぱりなのですよ。ということで……どういうことですかね、ディズちゃん?」
「…………いや、わからん。俺にもさっぱりだ」
「そうですか、わたしにも『さっぱり』です」
その、『さっぱり』とはなんなのでしょうか。……思わず使ってみましたが。
◆ ◆
「………………」
正直、どう言葉にすればいいのかもわからない。
ピケの『生まれも育ちも』という言葉から、てっきり神殿の関係者の間にでも生まれた箱入りの寵児なのかとも思ったが、……思った以上に彼女は複雑な境遇にあるようだ。
「とりあえず、ピケの言葉に嘘はないと信じよう。……嘘が吐けるとも思えないしな」
「そう、ですね。……ピケちゃんにそんな冗談や嘘が吐けるとも思えませんですしね」
ポッホと顔を見合わせ、この話題はここで区切ることにする。
彼女の『2歳』という年齢が、レベル0である理由とつながっているような予感がするけれど、まだ確証するには材料が足りていない。……俺の『先読み』ではバッチリと嫌な予感がしているけれど、今回ばかりは判断をまだ先送りにしたい。
「じゃあ、話を戻して質問だ。……ピケには誰か大切な人はいるか?」
彼女の肩に手を置き、その動かない表情をじっと見つめる。
この危険な魔窟迷路から脱出するということに変わりないが、外に彼女を待つ人がいるというのならば出来る限り急いで出してあげたい。……必要とあれば、魔窟迷宮からだけではなく、彼女の住まう神殿の中からも。
「……います。いつも一緒にいる、とても大切な仲間がいます」
ピケはしばらく考えた後、そう言って小さく微笑んだ。
「そうか。……なら、早くここから出ないといけないな」
問題はまだ山積みだけれど、彼女のためにも早く魔窟迷路から出ないといけないな。
『
後は何を話したらいいのでしょう?
「えっと、もう話すことがなくなってしまいました」
「え、…‥もうネタ切れなのです?」
キョトンとするポッホさん。……そんな顔も素敵です。
「一番大事だと思う話はつい先程言ってしまいましたし、他に私がお話できる話といえば神様のお話くらいなのですが。……せっかくですから、説教でもいたしましょうか?」
お説教なら話すのが苦手な私にもできそうです。
神様のお話でしたら生まれてからずっと聞かされてきたので、いくらでも二人にお話しすることができると思います。……それなら、まず手始めに楽園誕生や知識の実について簡単にお話しするべきでしょうか。それとも、ここは今後のために楽園の獣や疫病神についての話でもした方がいいのでしょうか? ……悩みますね。
なんて、どのお話をしようか悩んでいますとディズちゃんから待ったが入りました。
「あー……いや、説教はまた今度でいいよ」
「ウチもお説教はちょっとやめときたいです」
「……そうですか?」
どうも最近は、『説教』と聞くと遠慮されてしまう方が多いです。
神様のお話はとても大切なことが語られていますのに、最後までしっかり説教を聴いていってくださる方が少なくて困ります。信徒の方は最後まで耳を傾けていってくれますが、どうも熱心に頷くばかりで本当にお話を理解しているのか怪しいものです。もしかしたらコックリコックリと船を漕いで、ただ首を傾いでいるだけなのかもしれません。
……ですが、説教は無理強いして聴いてもらうものでもありません。
残念ではありますが、また次の機会があるのなら二人にはその時にでも聴いてもらいましょう。……あまり難しい説教にすると眠ってしまうかもしれませんから、その時にはできるだけわかりやすいお話にして語ってあげることにしましょうか。
「では、……何を話しましょう?」
「とりあえず、そうだな。言っておいた方がいい内容って言うと、『所持している恩恵』『使用できる魔法』『闘い方』それと『得意、不得意』とかかな。……まあ、難しいことはいいから何かピケの好きなものとか話してくれたらいいよ」
先程二人が話していたような話ですね。
「恩恵に魔法、闘い方。それに、得意なことや不得意なことですか。……そこらに転がる石ころ一つすらまともに持てないわたしにも、何か得意なことがあるのでしょうか?」
「まあ、そう卑下するなよ。……さすがに石ころくらいは持てるだろ?」
「…………いや、そうでもないのですよ」
苦笑するようにポッホさんは近くに転がる石を拾い、私に持たせてくれました。
あれこれ語るよりも見る方が早いということなのでしょう。その石の大きさはだいたいポッホさんの握りこぶし一つと半分くらいでしょうか。……えっと、なんだか以前持った石よりもだいぶ大きくないでしょうか? 凄く重たいですよ?
「……うぐ、これはとても重たいで――」
す、と言う前にその石は私の掌から転がり落ちました。
助かりました。あのまま手の上に乗せられていたら、きっと石の重さで腕がポッキリと折れてしまっていたことでしょう。……そんな重たい石を片手でひょいっと軽く持てるなんて、やっぱりポッホさんは凄いです。
「やっぱり、ポッホさんは凄い力持ちなのですね。素敵です」
「獣人は確かに力持ちな種族ですけど、……この程度で感心されるのは複雑です」
私が褒めるとポッホさんは照れ隠しのようにそう言って、ポリポリと頭を搔いてそっぽを向いてしまいました。……やっぱり、少し照れたようなその顔がとても可愛らしいです。思わずギュッと抱きしめたくなりますね。
「…………冗談だろ?」
そんなやり取りを見てディズちゃんは、とても訝しげな顔をしています。
その手の上には先程私の手から転がり落ちていった石が乗せてあります。……まさか、ディズちゃんまで力持ちだったとは。もしかして可愛らしい子はただ強いだけではなく、みんなこんな感じにとても力持ちなのでしょうか。
「まさか、冗談ではありませんよ。これがわたしの全力です」
「いや、だって……ほら」
そう言うディズちゃんの目線の先には、私が背負っていた宝箱があった。
「宝箱がこの石よりも軽いわけないだろ?」
……そう言われれば、確かにそうですね。
』
……おや、これはおかしいです。
この『物語』にはしっかりと目を通しているはずだというのに、どうして所々彼女の話を読むことができないのでしょう。――これは、『何か』に邪魔をされている? ……まさか、そんなことができるモノなどすでにこの地上にはいないはずなのに。
……もしかして、誰かのことを忘れてしまっているのでしょうか?
服装のネタがようやくでてきましたが、作者もどんな服を着せていたのかすっかり忘れていました。