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13:彼の物語「自己紹介」

2017.12/26・・・タイトルなど、色々と修正を行いました。

他のタイトルも順次修正を行っていきます。


 ぼんやりと鉱石の明かりによって照らされる、少し開けた魔窟迷路(ダンジョン)の一角。

 そこには、この場所には随分と不釣り合いな幼い容姿をした三人が集まっていた。


「それじゃあ、今更な感じだけど。改めてしっかりと自己紹介でもしておこうか」


 色々と話したいことはあるのだが、まずはそう言って話を切り出した。

 ピケの予想外の活躍によって戦闘が一段落し、今のところ辺りに他のモンスターの気配はしていない。ここが魔窟迷路である以上、完全に気を抜くということは出来ないけれど、これでようやくひと息ついた、というところだろうか。


「そう言えば自己紹介といっても、まだお互いの名前くらいしか知らなかったですね」

「まあ、そういうことだ。こうやって偶然にも三人が集まることになったんだ。これから一緒に魔窟迷路を進んでいくことになるのだろうし、連携のためにもお互いのことをよく知っておかなきゃいけないだろ」


 連携のためにはお互いのことをよく知ることが大切だ。

 どんな恩恵(スキル)を持っているのか、どんな魔法が使えるのか、どんな闘い方をするのか、不得意なことは何か。それに加え、どんな目的や思いを持っているのかも一緒に行動する上では重要だろう。連れ添って助け合う以上、ほんの些細なすれ違いが後々大きな問題にならないとも限らないのだ。


「まずは俺からだろうな。……俺の名前はデューズ=ワイルド。自分で言うのも何だが、レベル100にまで辿り着いた凄腕の冒険者(エルディスト)、――だった。こいつが首に付くまではな」


 そう言って、首に付いた無骨な首輪を叩いてみせた。

 指先で軽く叩けば、カツンと小さく音を立てる。……なんとも親切なことに、まるで付けていることを忘れてしまう程に窮屈さは全く感じられない。あの時ピケに指摘されるまで俺もその存在に気付かなかった程だ。


「この枷は神話級(ゴッデス)連動装備(リンカー)だ。それも対象の姿形だけじゃなく、レベルや恩恵まで完璧に連動させる冗談みたいな連動装備だ。そして、こいつはピケの左手にはめられてる指輪と連動している。……ちなみにピケのレベルは驚くことに、『0』だ。獣人(セリアンスロピィ)のポッホだったら説明しなくてもこの意味がしっかりとわかるんじゃないか?」


 人々から疎遠となり魔物の生息地のすぐ近くで生活をしている獣人ならば、レベル0という存在がどれだけ危ないのかよくわかっていることだろう。


「そんなのモンスターを引き寄せる格好の餌じゃないですか。……外せないのですか?」

「外せない。……さすがに試すわけにはいかないだろうけど、俺の首ごと引っこ抜きでもしなきゃ無理だろうね。或いはそれでもこいつは外せないのかもしれないな」


 もしくはピケの指ごと指輪を切り落とすという手もあるのかもしれないが、……そんなことは試したくもない。迂闊な手段に出れないというのもそうだが、それは巻き込まれただけの彼女に追わせていい負担じゃない……と俺は考えている。


 大人としてのただのつまらない矜持かもしれないが、そんなことはしたくない。

 いくら神話級のすごい装備だろうと、こいつは俺にとって呪いの装備だ。

 俺もできることなら早いところ外したいところなのだが、そもそも規格外の装備なのだ。……もしかすれば、普通の方法ではこいつを解除できないのかもしれない。どちらにせよ、魔窟迷路の中でどうにかできるようなものではない。とりあえず解除の方法に見当がつくまでは、迂闊に外すのは控えた方がいいだろう。


「あ、それだったら参考までにウチが鑑定の魔法を使ってその首輪のことを調べてみますですか? 仕事柄、そういった魔法は結構得意なのですよ。では、『鑑定(アナリシス)……」


 そう言ってポッホが魔法を唱えようとするが――、


「おい、馬鹿やめろッ! …………と、スマンなポッホ」


 発動する前に全力で止めた。……少し涙目になってしまったが勘弁して欲しい。


「……『三竦み(デッドロック)』の恩恵があるから、それはダメなんだ」

「ああ、ピケちゃんの授かった恩恵ですか。……どういうことなのですか?」


 零れそうになった涙を拭いながら、彼女はそんな質問をしてきた。

 どういうことと聞かれても、……あの恩恵のことをどう説明すればいいのだろうか。


「詳しく説明するのはちょっと大変だけど。……この恩恵の力はかなり厄介で、何気ない動作でも関係なく勝手に戦闘行動と判断されてしまうんだよ。そいつが回復魔法だろうと鑑定魔法だろうと一緒くたに『魔法』だと判断されて、どちらかがダメージを受けることになってしまう。……そして俺には『先読み(プリフェッチ)』と『危機回避(リスクヘッジ)』の恩恵もあるから、咄嗟にピケの魔法に反撃してしまうかもしれないんだ」

「そう、なのですか?」


 今のところ発動前に防げてはいるけれど、発動してしまえばどうなるかわからない。

 それでも意識すればどうにかできるのだろうが、まだ使い慣れている恩恵ではないのだ。危ないとわかっていて、わざわざ危険を犯すようなこともないだろう。


「……とまあ、得意な魔法とか闘い方はあったんだけど軒並み使えなくなっているからね。俺の今の力はピケと全く一緒ってことさ。それでも、積み重ねてきた経験の差で当人より上手く使いこなすことは出来ているからどんどん頼ってくれて構わないよ」


 ここは先輩の冒険者として、この二人をきちんと導いてあげないといけないだろう。

 見た目は二人とさほど変わらない少女だが、中身はベテランのおっさんだ。……自分でおっさんと認めるのも悲しいけど、二人からしてみれば多分俺も立派なおっさんだろう。なんてことをしみじみと思っていると、


「積み上げてきた経験ですか? ……ディズちゃんは、何歳なのでしょうか?」


 ピケが首を傾げてそんな質問をしてきた。……おっと、その質問が来てしまったか。

 自分のことを『おっさん』だとは認めていても、子どもにこうして年齢を伝えるっていうのはちょっと戸惑うんだよな。……こういった子どもの悪意のない正直な言葉って、結構容赦なく傷口をえぐってくるからね。覚悟しておかないと。


「…………今年で四十六だ」

「へぇ、ディズちゃん……いえ、ディズさんって見た目より結構年がいっているんですね。丁度ウチの十個上じゃないですか。……ああ、そうだったのです。連動装備があるから、四十六歳なのにそんな随分と愛らしい見た目なのですね。なんだか面白いのです」

「まあ、そうだ…………え?」


 幸いなことに身構えていた程の衝撃は来なかったわけだけど、気のせいだろうか。……なんか今のポッホの相槌に、随分と衝撃的な言葉が混じっていやしなかったか?


「ポッホは、……何歳だって?」

「えっと、ウチの年は三十六歳ですね。いい年して子どもっぽい服装だとはウチも思うんですけどね、ついつい気に入っている服をいつまでも着続けてしまうのですよ」


 そう言って子どもっぽい服装を気にする彼女は、どう見ても三十六歳には見えない。

 どういうことかと訝しがっていると、彼女もそれに気付いたのか少し思案顔になった。


「……ああ、もしかしてあんまり知られていないんですかね? 獣人っていう種族は年をとってもその見た目がそれ程変わらないんですよ」

「いや、知ってはいたんだけど。……その見た目(・・・・・)から変わらないのか」


 獣人は人で言うところの青年期の期間が長い種族だ。

 寿命は人とさほど変わらないが、だいたい十七、八歳頃から見た目の成長が止まり、そのまま八十歳頃までは老いずに同じ様な姿でいる。他にも妖精人(エルフ)も同じように見た目が若いままでいる種族だが、……あちらは寿命が人の五、六倍以上はあるので彼らの年齢がどうとかは考えるだけ無駄だろう。


 しかし、どう見てもポッホの見た目はピケと同じか少し上くらいだ。

 いくら獣人の見た目が若いままでいるからといって、三十六歳でその姿でいるというのはいくらなんでも若すぎやしないだろうか? ……ほら、ピケなんて理解が追いつかないのか、さっきからぽかんと口を開けたまま固まってしまっているぞ。


「まあ、そうですね。それならせっかくですから、このままウチの紹介をするですかね」


 そう言うと今度はポッホの自己紹介が始まった。


「ウチの名前は、ポッホ=シュピールです。見ての通り辺境に住まう獣人の一族ですが、一人前の錬金術師(アルケミスト)を目指してちょっと前まで中央にある工房で見習いをしていましたです。……まあ、そこもこの間ついに首になってしまったわけなのですが」

「錬金術師になるのはみんなを助けるためだって話は前に聞いたけど、錬金術での精密な調合はかなり大変だったんじゃないか。獣人はほら、……えっと、かなり手先が不器用な種族なんだろ。魔法が使えるのなら回復魔法を使えばいいんじゃないのか?」


 不器用な獣人が錬金術師を目指すなど、恐らくは前代未聞だろう。

 種族的に苦手であるはずの魔法を使いこなしているので、ポッホは獣人の中でもかなり器用な部類に入ることだろう。……しかし、錬金術での調合作業は魔法を使う時よりも更に集中力と精密さが要求される。魔法が使えるのだからそれで十分ではないだろうか。


 けれど、どうやらそういうわけにもいかないらしい。


「確かに獣人は治癒力が高いので大抵の怪我や病気くらいなら放っておいても自然に治すことができますです。……でも時に、自然治癒に任せるだけではどうにもならないことがあるのです。ウチに使える低ランクの回復魔法では、小さな傷は治せてもそういう非常時にどうすることもできないのですよ」

「だから、錬金術を?」

「そうです。錬金術師の作る回復薬(ポーション)良回復薬(ハイポーション)なら、治療することができるのです。でも、回復薬は高価ですから、たくさん数を用意することなんて簡単にできないじゃないですか。……だからウチが錬金術師になって、みんなのためにどんどん回復薬を作るのですよ」


 錬金術師の作る回復薬は、どんな怪我や病気に対しても一定の効果があるとても便利な万能薬だ。……ただし、ポッホの言うように決して安い代物ではない。


 探索者でも普段から回復に使っているものは調合する前の薬草だ。一部の稼いでいる探索者や金持ちならともかく、一般人が常備薬代わりに使えるようなものじゃないだろう。……まあ、超回復薬(エリクサー)を常備薬代わりにしている俺が言えたものではないがな。


「回復薬もその材料自体はそれ程高いってわけじゃないから、その方が安く済むだろうな。錬金術は応用の幅もかなりあるし、ポッホが錬金術師になればきっと大助かりだろう」

「ええ、みんなのために頑張るのです」


 みんなのため、か。

 こうやって誰かのために健気に頑張る姿を見ると、なんとか応援をしてやりたくなる。……早いとここんな魔窟迷路から抜け出して、その夢を叶えさせてあげないとな。


「……で、どうしてポッホさんはそんな見た目なのですか?」

「え、えっとそれはですね――」


 ピケはやはりそのことが気になっているのか、ポッホにズイッと詰め寄っていた。

 普段は無表情でいるピケにグイグイ迫られて、ポッホは少し押され気味でいるようだ。……というか、この二人はどう知り合ったんだ? 俺が土砂に埋まっている間に出会っているんだろうけど、その辺の話はあまりよくわかっていないんだが。


 とか思っていると、ポッホが続きを話していた。


「ウチの授かった『復元(リストレーション)』の恩恵のせいですね。壊れた物とかを直す時に便利な恩恵なんですけど、……この恩恵によって小さい頃から成長できていないんですよ。今はもう大人なので気にしていないですけど、子どもの頃は少し寂しかったですね」


 そう言って胸を張る姿は、大人というよりも背伸びをしている子どものようだった。

 それにしても『復元』、か。修復する恩恵には幾つか心当たりはあるけれど、そいつは聞いたことのない恩恵だな。……だとすれば、もしかして彼女の独自の恩恵(オリジン)なのか?


「それはどんな恩恵なんだ? もし良かったら、少し見せてくれないか」

「いいですよ。……じゃあ丁度いいですから、この古い地図を直すことにするのですよ。この魔窟迷路の地図らしいんですけど、落ちた時に少し破れてしまったんですよね」


 彼女はそう言うと上着のポケットを弄り、中からしわくちゃになった随分と古びた地図を取り出した。……確かに所々破れてしまっていて、そこに書かれている文字や線などもだいぶ掠れている。この有様では地図としてはちょっと使えないかもしれない。


「ほう、未踏迷路の地図とは珍しいな。……どこで手に入れたんだ?」

「通りすがりの変態さんに安く売ってもらったのです」

「……大丈夫なのか、その地図は」


 変態さんに売ってもらったというのも気にはなるけれど、心配は別のところにある。

 魔窟迷路の内部が描かれている地図は、言うなればある種の宝の地図みたいなものだ。目印になるものもなく、自分がどちらに進んでいるのかもあやふやになる複雑な魔窟迷路の探索に於いて、進むべき方向の指針となる地図にはかなりの需要がある。


 だが、同時にその偽物はかなりの数が存在している。明らかにすぐわかるような粗悪な偽物から鑑定でもしなければ騙されてしまうような贋作まで様々だ。……そんな道端で売られているような明らかに怪しい地図なんて、十中八九紛い物だろう。


「さあ、どうなのですかね? この地図を片手にここまで潜ってきたわけなので、たぶん大丈夫だとは思うのですけど。……まあ、こんなボロボロのままじゃどっちみち使えないですし、とりあえずは直してみるのですよ」


 彼女が軽い調子でそう言って手にした地図を広げて目を瞑る。

 すると、破れてしまっていた幾つもの穴が見る間に塞がっていった。もはや破れた跡などどこにも見当たらず、掠れて読めずにいた文字もはっきりと読めるようになっていた。……そして、気付けばそこには完璧に修復された地図があった。


「こいつは、……凄いな。まるで時間が巻き戻っているみたいだったぞ」

「本当すごいですよね。これって、どういう仕組みなんですかね?」

「……ポッホもよくわかってないのか」

「? はい、そうですね」


 ポッホはそうあっけらかんと言うが、……これはとんでもない恩恵だ。

 俺だって自分の恩恵がどんな仕組みで起きているのかなどわかっていないわけだから、彼女がその力を把握できていなくても仕方がないのかもしれない。……けれどさすがに、いくら何でも自分の恩恵の凄さに無自覚過ぎるような気はする。


 当の本人はその凄さをまだあまりよくわかっていないようだが、この『復元』の恩恵は伝説の中でも語られている『蘇生(リザレクション)』や『不死(アンダイン)』、『創造(クリエイト)』にも並ぶ独自の恩恵だ。……悪用されればどんなことになるのか考えるだけでも恐ろしいが、この恩恵を授かったのが何も知らないポッホで良かったと思うことにしておこう。


「それにしても、……この地図もどうやら本物みたいだな」


 地面に広げて全体を見てみると、随分と詳細に書かれた物のようだ。


「この地図によると、ここは随分と広くて複雑な構造をしているようだな。お、端の方に魔窟迷路の名前も書いてあるぞ。えっと、なになに。トラヴェ……? ん、ここはなんて書いてあるんだ? 掠れていてよく読めないぞ」

「どれです、……なんですかね? なら、もうちょっと力を込めて直してみますですね」


 ポッホはそう言って地図に触れると、目を閉じて先程よりも力を込めた。

古びていた地図は陽に焼けてしまっていた部分まで直っていき、文字もつい先程その場で書かれたように鮮明に線が引かれていた。そして、地図はどんどんと直っていき……


「メェ~、メェ~……」


 ――そこには元気な一匹の羊がいた。


「…………ちょっと、やり過ぎちゃったみたいです」


 どうするんだよ、これ。……直すにしても羊皮紙から原料になった羊にまで戻すなんて、いくらなんでもやり過ぎだろ。どれだけ滅茶苦茶なんだよ、この恩恵は。


――ぐうぅぅう……


 そんな何とも言えない沈黙の中、腹の虫の鳴き声が響き渡った。


「……そんなことより、お腹が空きました」


 ああ、そう言えばこの魔窟迷路にやって来てからまともに食事をした記憶がなかったな。育ち盛りの子どもにとってはさぞかし辛かっただろう。……さて幸いなことに丁度新鮮な食材も手に入ったことだし、ここらでちょっと食事にすることにしよう。


                                       』


 元は生き物だとは言え、原形を留めていないものから復活させてしまうとは。……いや、これはさすがに性能がおかしいんじゃないでしょうかね? 彼女に会った時には丁度いい配役だと思ったのですが、もしかすると人選を誤ってしまったのかもしれませんね。


 ですが、……本編にはあまり関わらないようにしたいので、今は様子を見ましょう。




久しぶりの更新ですが、またゆっくりお付き合いください

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