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**:××の物語「最弱の反乱」

2017.11/13・・・タイトルなど、色々と修正を行いました。

他のタイトルも順次修正を行っていきます。



――ゴッ、ガッ!


 くぐもった呻き声に、鈍く響き渡る鈍器の音。

 何者かの苦しげな呻き声と重たく鈍い打撃音が反響するのは、暗くて冷たい洞窟の中。一片の薄明かりすらない深い暗闇の中で辛うじて見えるのは、大きな体に馬乗りになり黙々と殴打を続ける小さな影だった。


「う、……何故だ。どうして」


 呻き声の合間にそんな疑問が投げかけられる。


「………………」


 影は何も答えなかった。

 その間も途切れずに続けられる執拗なまでの殴打。


 影は振り上げた鈍器、……返り血が斑模様に染み付いた大きな壺を両手で力いっぱい振り下ろし続けた。自分が馬乗りに跨っている、圧倒的な強者であるはずの相手に向けて。何度も何度も、ただ黙々と繰り返し繰り返し振り下ろし続けた。


 本来ならそんな脆弱な攻撃など通るはずがなかった。

 小さな影の攻撃力は周囲の石壁を這い回っている虫すら潰せない程に脆弱だ。防御力に至ってはその辺に飛んでいる羽虫にも劣っているかもしれない。そうであるはずなのに、この得体のしれない影と遭遇をしてから一撃も攻撃が通っていない。


 ……いや、攻撃が通っていないどころか、影からの執拗な攻撃のみが一方的にこちらの強固な防御を、――強固であるはずの防御を突き抜けて鈍く響いてきている。

 加えてどういうわけか、一撃の重さが重なるように上がってきている。


「ぐ、うぐっ……」




 戦闘が始まり、既にどれ程の時間が経っているのだろうか。

 ……いや、これは既に戦闘などと呼べるものではなかった。


 一方的に相手を真綿で絞めるような不可解な虐殺。

 この状況はまるで、気付かぬままに毒の沼にどっぷりと全身が浸かり、抜け出せなくなってしまっているかのような最悪の状況。これまでに何度も死線を踏み止まり、激戦をくぐり抜けてきた古強者にあるまじき、哀れでみっともない醜態であった。


 水や空気、それこそ影でも相手にしているかのように、どれだけ決死の力を込めても攻撃はまるで通らず、致命傷ではない小さなダメージの積み重ねによってゆっくりと死に近づいていく。たとえ今更危険に気付いて抜けだそうとしても影はしつこく纏わりつき、決して逃がしてはくれない。……もう残りのライフは四分の一を切っていた。

 このままでは間もなく致命傷へと届いてしまうだろう。




 ……何故だ。どうしてこうなってしまった。

 一心不乱に壺を振り下ろし続ける小さな手を見ながら俺は考える。

どうしてこんなことになってしまったのかと。……けれどその理由はわからない。


 いや、そうじゃないな。……思い当たる理由なら、数えきれない程あるかもしれない。

 強くなるというのはそういうことだ。


 強いということは、尊敬だけではなく嫉妬の対象に。


 強いということは、羨望だけではなく忌避の対象に。


 強いということは、擁立だけではなく排斥の対象に。


 強くなり過ぎるということは、人の道を外れてしまうということだ。


 そうなってしまえば、どこで誰の恨みを買ってしまうかわからない。

 ……かといって、それも仕方がないと甘んじて受け入れられるわけではない。


 果たして彼女は何を思っただろう。自分の運命を耳にして一体何を感じたのだろう。

 俺には何もしてあげることはできないけれど、それでも最後まで彼女の側にいることを続けよう。……たぶん、それが彼女と出会った俺の役目なのだろうと思うから。




 洞窟には打撃音だけが響き渡り、いつの間にか呻き声は聞こえなくなっていた。


「………………」


 覗きこむようにじっと様子を観察した後。最後に影は手にした壺を大きく振りかぶり、ピクリとも動かない頭に向かって止めの一撃を力一杯振り下ろした。


――ゴシャッ


 肉の潰れる音と共に、強者は呆気なく絶命した。




 シリーズ物、始めてみました。

 遅筆なので書き溜めた分を消費した後は亀の歩みとなりますが、よろしくお付き合い願いたいと思います。

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