9. 対決のような後半戦
またもや非常に開いてるし……
灼眼・・・十二使徒が一柱、女神シャトゥルヌーメの使徒。別名シスコンという
燎原・・・十二使徒が一柱、女神シャトゥルヌーメの使徒。使徒の中でも『最強』の異名をとる使徒。
「――遅い」
「づぅ!?」
「それにその身体ではそれは無理。死ぬ、よ?」
死ぬ? そんな分かり切った事を何を今更。
そもそも俺をこんな身体にしたのはお前たちの愛してやまない“メガミサマ”だろう?
「それをお前たちに言われる云われないな。≪Leap――縋るが如く弾……」
「だから、遅い」
「ちぃっ、――」
≪Gravi
「甘い」
「……くっ」
【灼眼】め。伊達に最速は気取っていない。その気になれば“奇跡”の一つも出させてもらえない、か。
だからと言って引き返す、なんて選択肢はそもそも存在していないがな。
「異界の堕とし子、私は戦う気はない」
「――なら“あいつ”の居場所を吐いてさっさと俺に殺されろ」
「それは断ると最初に言った」
「ちっ、なら一体どういうつもりだ、【灼眼】」
「異界の堕とし子、私は君と話がしたい」
「話、だと? ……今更、お前たちが“あいつ”の犬がこの俺に話?」
「実力の差は理解したはず。なら素直に話し合いに応じるのが最良だ、異界の堕とし子」
「ふ……くくくっ、はははははっ、――おい、腐れ外道」
「腐れ外道? 腐った外道とは私の事か?」
「当然だ、【灼眼】。貴様、話し合いだと? 今更、何もかもが遅すぎる今になって、話し合い?」
「そう、話し合い。話し合いは大事な事だと『燎原』もよく言って――」
「――黙れ売女、貴様らと話す事は一切ない」
「売、女? ……異界の堕とし子、先ほどから貴方の言う言葉がよく分からな――」
「俺がお前たちに許すのは“あいつ”の居場所を吐く事と、死をくべる事の二つ。それだけだ」
≪Fang――静かに
「だからそれは遅――」
「解っている」
【灼眼】が振った、薄い鋼の武器をそのまま掴み取る。肉に刃が喰い込んで、骨にこつんと当たった感触があったが。――知るかこの程度。今も全身を蝕む痛みに比べれば何も感じないのと変わらない。
「っ」
武器の勢いが弱まるのは傷付けないように、って所か?
ふん、理由は知らんし知る気もないがこいつ、やっぱり手加減してやがるのか。俺にとっては付け入るには持って来いなだけだが。
こういう風に、な。
「さあ、食事の時間だ。マナーは問わない。オーダーは――速やかに、そして肉片一つ残さず、だ」
「くっ」
ふん、態々腕一本無駄にして捕まえてやったんだ。簡単に逃がしてやるものか。
逃げ足が速いなら逃げられないように捕まえればいい、それだけの事。それで指が落ちようと片腕がもげようと知った事か。どうせ長くない命だ。気にする事もない。
それに、逃げようとするって事はこっちの攻撃が利くって事だろう、【灼眼】?
「≪牙狼――咀嚼しろ≫」
「――」
「……、な、に?」
今、一体何が起きたんだ?
目の前には滑らかに斬り落とされた“牙”が。ただ“奇跡”の産物はすぐに世界から薄れて消えていく。そして【灼眼】の姿はどこにも――いや。
「少し、焦った」
俺の、真横に。
何が起きた――いや、何が起きたのかは理解している。【灼眼】が刃を握り締めていた俺の指を一本ずつ解いて、自由になったソレで“牙”を断ち切った。ただそれだけだ。
いや、だが……どうしてだ?
「異界の堕とし子、自分の身体を傷つけるような行為は、よくない。女神様が……それに燎原も悲しむ」
使徒【昏白】は滅ぼした。そして目の前のこいつ、使徒【灼眼】は同じ存在のはずだ。
それなのにどうしてだ? 使徒の間でもそこまで実力の差がある、それとも――俺が弱くなっている?
……どちらも考えられない事じゃない。相性という問題もあるし、俺の身体がボロボロな事も事実。
だが、だ。
例え事実がどちらだろうと。俺が取るべき道は一つしかないし、それ以外を取る気もない。目の前の使徒を滅ぼして、次の使徒に“あいつ”の居場所を吐かせる。それでも駄目ならまた次だ。使徒全てを滅ぼした後で改めて“あいつ”の居場所を探しても構わない。
第一、使徒を滅ぼせない程度じゃ――“神殺し”なんて夢のまた夢でしかない。
だから、この憎しみが俺の身体の全てを塵に変えてしまう前に――
「……――≪疾く」
「もう――させない」
無理だな、【灼眼】
貴様如きが――使徒如きが俺を止められると己惚れるなよ?
「づ!?」
「これで、」
「≪疾く」
「まだ? ……ならこれで!」
「ぐぅ……≪疾く、射」
「こ、この……っ」
「がっ!? ……、と、≪疾く、射殺」
「っ!!」
「――ごほっ」
「……な、なんで避けてくれないの、異界の堕とし子?」
……ほらな、俺に手加減なんてしてるお前が俺を止められるはずもない。俺を止めたかったら――殺して止めろ、【灼眼】
そう言う意味じゃ、まだ『昏白』の方が厄介だったってわけだ。
◇◆◇
「≪疾く、射殺せ――神への祝福≫」
「それは遅いと――」
「聞こえなかったのか、【灼眼】。俺は“射殺せ”と言ったぞ?」
「――ぇ?」
“奇跡”ってふざけたモノは過程があって結果があるんじゃない。初めに結果があって、それから過程が世界に組み込まれていく。
だから――
「滅べ、灼眼」
ぽっかりと、小さな穴が【灼眼】の胸の中心に空いて――
「な、に……?」
何も起きていない。――いや、【灼眼】の目の前に小さな赤い点が浮かんでいる。アレが原因か? だが、アレが一体どんな……。
「そ、そんな……」
【灼眼】の仕業じゃない。奴は明らかに目を見開いてうろたえている。……使徒でさえもうろたえるような事態だと?
そんな事、ありうるとしたら使徒の更に上位で――“あいつ”
「シャ――」
「ごめんなさい」
――違う。“あいつ”の声じゃない。が、聞き覚えのある声。誰だ?
「ごめんね、灼眼。でもこれは私の我儘で、貴女には消えて欲しくないの。真っ直ぐこの世界を見て、誰もに喜びを与えてあげて欲しい」
「……燎原」
燎原、だと? 使徒【燎原】か!?
だが神殿もはるか遠くにあるはずなのにどうして――いや、むしろ俺が向かう手間が省けたと思えば良い。振り返って、“あいつ”の居場所を吐かせて、そして殺してやる。
そうだ、使徒なんて今すぐにでも殺してやる。
「分かって、とは言わないけど、せめて許してあげて――彼を」
「燎原?」
「彼の事を恨まないでいてあげて。それがあのお方の、そして私の願いでもあるから」
「燎原、何を言って……」
「私は私の意志で動きます。そして【灼眼】、邪魔をするなら貴女でも容赦はしません」
「――ぇ?」
なのに、どうしてだ?
どうして俺は後ろを振り向けない? 何を震えている? それとも、まさか今更恐れてるとでも言うつもりか、それも使徒なんぞを?
――ふざけるな。
「≪素は燎原の火の如し総てを滅ぼし尽くす終焉の業火、祖は私の名を呼べ。私は須らく塗り替えるモノ――Wildfire≫」
――指一つ動かせないまま、俺の視界全てが赤に染まる。
主人公、前回に引き続きピンチ中。
と、言うよりももはや死ぬまでのカウントが始まってる状態だったりするし。
残り3くらい? ……単位は敢えて言わないけど。
と、言う訳で。執筆が遅いなぁ、と思う今日この頃なのです。苦しいですが次回もまたこんな頻度かと。