2. 始まり的な会話文
この物語はシリアスです。
ですがシリアスになりきれないのが奴らの性…ふふふっ。
「……の、……あのっ! 大丈夫ですかっ!?」
「……ん?」
「……大丈夫ですか。随分とうなされていたようでしたけど?」
「……、あんた、誰?」
「私ですか? リョーンと言います。ちょっとしたお使いでコンミューズへ行く途中です。あなたは?」
「あぁ、俺は……、」
「?」
「……ここはどこだ?」
「どこと言われても、コンミューズへ向かう集合馬車の中ですけど、もしかして知らないで乗りました?」
「あぁ、いや……。悪い、寝ぼけてた。ああ、俺もコンミューズに用があって向かう途中だ」
正確に言えばコンミューズの中心にある『昏白の神殿』にだが、リョーンとか名乗った初対面の女に対して言う事もない。
「そうですか。私と一緒ですね」
「馬鹿か、あんた? そんな事言ったらこの馬車に乗ってる奴ら全員がそうじゃないか」
「おぉ、言われてみれば!? ……これは思いもよらない新発見ですねっ?」
「……変な女」
「むっ!? 今、私の悪口を言いませんでした?」
「いや、言ってない。本当の事を言っただけだ」
「そうですか? ……私の気の所為だったみたいですね」
「……物凄く変な女だ」
「それはそうと。宜しければコンミューズへ向かう訳を教えてもらえます?」
「訳、ね」
「ええ。……ぁ、でも単なる好奇心ですから、不都合があるなら教えてくれなくても結構ですよ」
「なら教えん」
「えぇ!?」
「そこでどうして驚く? 言わなくてもいいんだろう」
「そんな、だって、普通ならここで教えてくれても……せめてヒントだけでも駄目ですか?」
「まぁ、ヒントくらいなら。……ちょっとな、カミサマに用事があってな」
「分っかりました! ずばり、貴方は『昏白の神殿』にお祈りに行くんですねっ」
「……似たようなものだな」
もっとも祈る方じゃなくて、死出の手向けに祈らせる方だけどな。
「実は私の用事も『昏白の神殿』へ行くことなんですよ。ますます奇遇ですねっ?」
「……お前、信者か?」
「はい。女神様に仕えている者です。でもそう言う貴方もそうでしょう? だってその紅蓮の髪と瞳は女神様の寵愛を受けている印ですよね?」
「さあ、な」
つくづく忌々しい。ルナの仇を討つためとはいえ“あいつ”の力が身体の中にあるかと考えると、吐き気がする。
おかげで黒かった髪と瞳が紅蓮の色に変ってしまった。まあ、こういう時に怪しまれないって意味では役に立ってはいるか。
「一つ、忠告しておいてやる。しばらくの間、神殿の方には近づかない事だな」
「どうしてですか?」
「理由を知りたいか?」
「はい、当然です」
「どうしてもか?」
「もちろんです。そうじゃないとお使いが達成できません」
「何としてもか?」
「ど、どうしてそこまで繰り返して聞いてくるんですか?」
「……これ以上聞けばもう戻れない、その覚悟はできたな?」
「……い、いえ。ちょっと待って下さい」
「ああ。人生を決める決断だ。十分に検討しろよ」
「そ、そんなに重いんですか。分かりました。慎重に考えさせていただきます」
「ああ、存分に無駄なだけ考えろ。……ふぁ」
眠い。でももう一度眠ってもまた悪夢を見る予感がするから眠る気になれない。
第一にもうすぐコンミューズに到着だ。
……いったいどれくらい経っただろうか?
「……分かりました、では謹んでお聞かせ――」
「あ、わりぃ。コンミューズに到着した。この話おしまいな」
「そんなっ!? 横暴です!!」
なんか、このやり取りは“あいつ”を思い出させる気がす――
「っ!!」
「? ……どうかしましたか、どこか調子でも?」
「何でもない。ちょっと嫌な事を思い出しただけだ」
「そうですか? でもあまり無理はしない方がいいですよ」
「ああ、一応忠告だけ素直に受け取っておこう」
「はい。……て、忠告だけ?」
「聞く気はないって事だ」
「な、なんでですか?」
「何故お前の言う事を聞く必要がある?」
「私は親切心で言ってるだけですっ」
「……お前、何か裏があるな?」
「私はただあまり無理しすぎないようにって言っただけですよ。どれだけ疑り深いんですかっ!?」
「何だ、実は貴様も俺の身体が目当てか? ……痴女だな?」
「実に失礼な人ですね。何で親切に心配しただけでここまで貶められなくっちゃいけないですか。不快ですっ」
「俺も貴様の所為で気分を害した。両成敗だと思って許してやる」
「……一体いつ気分を害したんですか?」
「俺の安らかな眠りを妨げた」
「あなた、うなされてましたよ!?」
「きーきーとうるさい奴だな。おい、少しは黙れよ」
「……もういいです。貴方なんて疲れすぎてどこかで倒れちゃえばいいんです。その時に私の忠告を無視した事を悔いるがいいです!!」
「ああ、その時に改めて思い出す事にするよ。じゃあな」
どうせ、こんなやつなんかに関わらない方が身の為だ。今からしようとしている事を考えればなおさら、な。
「て、どこに行くんですか?」
「どこ? 宿を探しに行くに決まってるだろう。もう貴様に用はない。さっさと消えろ」
「宿? 『昏白の神殿』に行くんじゃないんですか?」
「……話聞けよ。あとお前、俺の忠告を聞いてたのか? 神殿にはしばらく近寄るなって言ったよな?」
「聞きました! でも理由はまだ聞いてません!!」
「そうか、死にたいか」
「死!? 何でそうなるんですか!?」
「まあ、死に急ぐんなら俺がどうこう言うべきじゃないよな」
「一体何なんですか、余計に気になりますよっ」
少しだけ考える。……まあ、これか。
肩に手を置いた。あとできるだけ憐れみを込めた表情を作る。
「敢えて言うなら……短い余生だったな」
「その同情心が嫌過ぎます!」
「まあ何事も人生経験だし?」
「経験も何も死んじゃお終いです。ああもう、だからどうして神殿に近づくと死んじゃうんですか!?」
「……行けば分かる。命と引き換えだけどな」
「どうしてって、訳を話す気は……なさそうですね」
「あぁ」
「分かりました。では私もご忠告だけ受け取っておきます」
「神殿に行くのか?」
「はい、それが私のお使いでしたから」
「そうか。……達者でな」
「はい、あなたも。できればまたお会いした……いとも特には思いませんけど。社交辞令としてまた会いましょうと言われた方が嬉しいですか?」
「いや、いい。それは俺も同感だ。また会わない事をお前のカミサマにでも祈ってるんだな」
「……そうですね。そうします」
「じゃあな」
「はい。では……また」
また、ね。こっちとしてはもう二度と会わない事を願うさ。
だが、もし神殿内で会う事があればその時は――
「……さっさと宿を取りに行くか」
街の内装を確かめるついでに、だけどな。
一通り町中を見まわって道を覚えて、最後に神殿の方でも見ておくか…て事で。
『昏白の神殿』の前で待ちぼうけている変な女がいた。
「……お前、何やってるんだ?」
「あっ!自分から近づくなって言った癖にあなたは神殿に近づいてもいいんですかっ、……死にますよ?」
「はぁ……何で?」
「なんでって、それは……ほら、貴方が言ったじゃないですか」
「お前はあれか、他人の言った事を丸呑みにして信じて、無自覚の内に他人に嘘をばらまくはた迷惑な奴か?」
「そんな事ありませんよ!? あと嘘ってなんですか、別に死なないんですか?」
「いや、お前は死ぬ。俺は死なない」
「何ですか、その差別は!」
「区別と言え、区別と。可哀そうにな……まあ、よく生きた方だったよ、お前」
「まだ生きてます、ちゃんと生きてますってばっ」
「……よかったな、まだ足があるぞ」
「何ですかその幽霊は!?」
「きーきーと、本当にうるさい奴だな。ほら、門番の巨人にも睨まれてるぞ」
「え、あ、……、すっ、済みません〜っ!!」
逃げた。しかも腕を引っ張って。……おかげでこの変な女と共犯だと思われたぞ、きっと。本当にはた迷惑な奴め。
「もうっ、あなたの所為ですよ!」
「ああ、全く遺憾だ。貴様、この責任をどう取るつもりだ?」
「ただでさえ【厄災】の魔種が近辺に現れたという事で厳戒中だったのに。あれ絶対にブラックリストに載りましたよ!!」
「既に死んだ分際で俺に迷惑を掛けるなんてひどい奴だな」
「……話がかみ合ってません!?」
「……待て。魔種が現れた? どういう事だ、詳しく話せ」
「……何を言っているんですか。貴方が言ってたのもどうせこの事だったんでしょう。魔種……それも『滅び』を内包した龍種の変異種、【小厄災】クラスが現れたという事で神殿じゃ厳重警戒中で、おかげで中に入れませんでしたよ。いつもなら市民に一般開放しているはずなのに。散々です」
「『滅び』……龍種……、ふむ」
「もう、あなたも知ってたなら最初からそうと言ってくれればよかったのに。何であんな回りくどい言い方をしたんですか?」
「黙れ死人。今考え中だ」
「だから死んでませんってば!!」
「……」
「ちょ、聞いてます?」
「おい、死人」
「死人違いますっ……で、何ですか?」
「その魔種、あと神殿の様子の事で知っている事を詳しく話せ」
「なんであなたに話さなきゃいけないんですか?」
「死人の分際で随分と反抗的だな、お前」
「だからいい加減私が生きてるって認めて下さいよぅ!!」
「ああ、分かった。ゾンビで妥協してやる。だから話せ」
「ゾンビって、それも既に死んでますってばっ!!」
「注文の多い奴だな。……フレッシュがいいのか?」
「当然ですっ……ちなみにフレッシュゾンビとかじゃないですからね」
「ちっ」
「舌打ちしたぁ!? やっぱりその気だったんですね!?」
「まあ、仕方ないから生き返った事を認めてやる。いいからさっさと知っている事を全て話せ」
「うぅ、どうしてこんな思いをしてまで話さないといけないんですか……?」
「もういい、役立たずめ。どうせお前の知識なんてそこいらの町人に聞けば手に入るような情報しか持ち合わせてないんだろうが、村人Aの分際で」
「そんな事はありませんよっ。私、ちょっと凄いんですよ?」
何故か肩をちらりと見せた。年中頭が茹で上がってるような女だ、暑いのだろう。
こっちは寒いくらいだと言うのに、贅沢な奴め。
「そうか。ならさっさと吐け」
「……今何か凄い事をさらりと無視された気がするんですけど」
「どうでもいい。だからさっさとゲロしろ」
「何か言い方がどんどんぞんざいになってきている気がします。……もう分かりましたよ。話します、話せばいいんでしょう」
「よし、言え」
「……、はぁ。滅びの魔種――黒龍が現われたみたいなんです。もっとも真の黒龍【厄災】ではなくグレーくらいアッシュドラゴン【小厄災】ですけどね。それが近隣に被害を出していて、それも明日辺りには不敬にも神殿を直接襲いに来るって噂じゃないですか? その際には何やら使途――『昏白』自らが浄滅に赴くらしいですよ。だから『昏白』に対する警備と、黒龍【小厄災】への警戒も合わせて警備が厳重になってるんです。私も怪しい人だって事で中に入れてもらえませんでしたしね。……あはは」
「お前は元から怪しい奴だ」
「そんな酷いっ!?」
「……」
これは使えそう、だな。
「もういいぞ。遠慮せずに土に還れ」
「まだそれ引きずってるの!?」
取り敢えず後ろから聞こえる暴言と罵倒は耳に入れない事にした。
明日……確実ではないから数日見込むとして、その時が勝負か。あとは『昏白』にどれだけスムーズに接触できるか、が問題だな。
物語&登場人物紹介
ルナさんはお亡くなりになっております。誰がコマドリ殺したか、ですね。
我らが主人公くんは親代わりを殺されて多少?やさぐれちゃってます。あと人間不信かも。
特に何故か女を見ると痴女と勘違いする傾向があります。一種のトラウマですね、これは。
リョーン
コンミューズに行く途中の馬車の中で出会った女の人。変な人らしい?種族は不明で女神様に仕えている人。