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15. 終わりのない終焉劇

えぴろーぐ

「――…………ア?」


気がついた。

“蘇生した”、と言った方が正確かもしれないが、まぁそんな事はどうでもいい。

と言うか、まだ生きていたのか、俺。いや、死にそこなった――か?


「……」


いや、俺が生きている死んでいるなんて“些事”はどうでもいい。そんなことよりもあの後どうなった?


俺は殺し損ねていた奴に刺されて、それにあの時、おぼろげではあるが他の神どもも――、ッッ!?



◆◆◆



――浮かんだのは、今はもう懐かしい我が家。ヤツが殺し、俺が壊した俺の唯一帰るべき“だった”場所。

そこには当たり前のようにルナがいて、俺は“誰か”の視点でルナを見上げていた。


『――誰?』

『神だ、小人、今日は……いや、おはようと言うべきか?』

『あ~……』

『何だ? 一応ではあるがお前は特別だ。存分に敬うことを許そう』

『あ、うんー? ごめんねぇ――家、宗教はお断りなのよ。じゃ、そいうことだからサヨナラ』

『ちょ、ま、と言うよりお前の所為かっ! お前の所為であの子は、私の愛し子はっ!!』

『な、何よ、急に……って、よく見たらまだ小さな子供じゃない。ねえお譲ちゃん? どこから来たのかな? パパは? ママは? もしかして迷子?』



な――んだ、この記憶……いや、“記録”は?

こんな景色、俺は知らない。

ルナがいて、奴が……シャ、トゥの視線? これは何だ。


ルナはぽんぽん、とシャトゥの頭を生暖かい笑みで撫でて、ソレをシャトゥの腕が大きく振り払う。


『ふざけるのも大概にしろ、ヒトの子。あの子ならばまだしも、お前のような出来損ないが私を理解できていないわけでもあるまい』

『――……て、ことは本当に神様なのね、あなた』

『はじめからそう言っている』

『そんななりなのに、』


……なんだろう、この馬鹿シャトゥは。無乳を寄せて上げて何がしたいんだ、コイツ?

ゼロはいくら足してもゼロだと言うことが分かる見本だ。かくいう目の前のルナもそんな目でシャトゥを見下ろしているし。


『羨ましいだろう?』

『いや全然』

『何だとっ、羨ましいと言え、この巨乳!!』

『私は巨乳じゃなくて別に普通よ……というより逆切れされても困るんだけど?』

『……お前には分かるまい』

『……ええ、本当に、良く分からないけど』

『いいから私を敬え』

『……――私は神様なんてはじめてみたけど、お嬢ちゃんが“神様”ってのは分かるわ。何て言えばいいのか、その不思議なんだけど……貴女が神様であるのは疑いようの無い事実。そうなのよね?』

『それを聞き返すこと自体がおこがましいと知れ、小人の子よ』

『いや、今更偉ぶられてもどう返していいか困るんだけど……そもそも、神様がどうして私に会いにきたの?』

『自惚れるな、出来損ない。私はお前に会いに来たんだ』

『……』

『……』

『……』

『――殺すぞっ!!』

『変なところで逆切れしないでよっ!?』

『……あー、うん、その、――おい、小人。私はお前に言うべきことがあって来た』

『ええ、まあ、何か私に“用事”なのは分かるけど……いいでしょう、聞きましょう』

『……出来損ない、私はお前が気に入らない』

『……それで?』

『……』

『あの、さ? どんな理由か知らないし、確かに私が不信論者ってのは認めるけど、まさかそれを言うためだけにここに来たわけ?』

『ぷじゃけるなっ』

『……』

『……』

『……』

『――殺すぞっ!!』

『だから逆切れするなって……貴女、神様の癖に見た目どおりの子供なわけ!?』

『……、神の戯れも分からぬか。所詮お前は出来損ないだな』

『おい、こら、神、せめてその言葉を私の目を見て言いなさい』

『――お前の息子を頂戴に来た!!』

『……あー、唐突なカミングアウト、アリガトウゴザイマスだけど…………あのバカが何かしたわけ?』

『お前に話す事など何も無い。あの子の為にも、神たるこの私が態々ヒトの世に習って“息子さんを頂きに来た”のだ。黙ってあの子を差し出すのが礼儀と知れ』

『……ゴメン、ちょいタンマ』

『許そう、私は寛大だ』

『……、……え、何? 何このトンデモ展開? 滅茶愉快なんだけど? あのバカ何したわけ? 神様? は、何ソレ?』

『……聞こえているぞ、出来損ない』

『あー、ゴメン。了解、分かった、落ち着いた、オーケー、理解したわ』

『そうか。それは何よりだ。では有無を言わさずあの子を出せ』

『ちょっと待ってね? 今、起こしてくるから……』

『――いや待て。寝ているというのなら私が直々に起こしに行こう』

『……ぷっ、我が息子ながら大物に育ったわね』

『? どうした、あの子のところに案内しろ。何処にいるかは把握しているが態々案内させてやるといっている、さっさとしろ、出来損ない』




――何だコレは、何だコレはっ、何だコレはッッ……何の茶番だ、この記録はっ!!!!

ルナが愉快そうに笑っていて、シャトゥが不機嫌そうに頬を膨らませていて――なんて茶番、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるなっ!!

誰だコレは、何だコレは、どういうことだ、誰か説明しろ、説明して見せろっ!!



……なんて。“分かっているくせに何故喚く必要がある?”

そう嘲る俺がいる。


説明する必要もなく、理解しているのだろう? おまえが今見ているこの光景が何なのか、

これは奴の記憶だ、どういう原理かなんて知らないし、誰が見せているのかを気にする必要もないが、コレが“女神シャトゥルヌーメの実際に見た記憶”の追体験だというのは間違いない。


――理解っているのだろう?




茶番はまだ続く。願うことなら永遠に続いてほしい茶番はまだ続き、


『ええ、ちょっと待ってね。今案なぃ――』


本当にあっけなく、終わりを迎えた。



シャトゥが驚いているのが分かる。俺も、ソレが理解できなかった。

不思議そうに、ルナがシャトゥを“見上げて”――



『お前は一体何を遊んでいるんだ、シャトゥルヌーメ』



ルナが“転がっていた”場所を踏みにじり、そこについさっき俺もこの目で見た、緑の男が立っていた。――男神チートクライ。

ぴしゃ、と緑の男が踏み潰したソレから飛来してきた赤い液体がシャトゥの頬にかかった。シャトゥはゆっくりと、手でその液体に触れ、目の前で赤に塗れた指先を凝視して、



『――そんなことよりもこのクズは俺のシャトゥルヌーメに何ふざけた口聞いてるんだ?』



ルナが“立っていた”場所に、青の光と同時に男が一人立っていた。コレも、俺自身がつい先ほどこの目で見たことのある――男神クゥワトロビェ。

赤い液体が部屋中に広がって、シャトゥの目の中にも飛び込んできた。でもシャトゥは目を閉じない、目を背けない、目の前で起きた出来事をゆっくり頭の中で租借して、飲み込んで、理解して。


『……ぁ』


口から声が一つだけ零れた。

それは果たして奴がこぼした声だったのか、それともこの光景を見ている俺自身が出した声だったのか、どちらかなんて分からなかった。

ただ俺は、俺と違って奴は――確かに事態を理解した。


『どれ、愉快なことなら俺も混ぜてもらおうではないか』

『おい、シャトゥルヌーメ、こんな小汚いところは早急に出るぞ。――ふん、造物の……それも小人如きが何様のつもりか』


クゥワトロビェがシャトゥに向かって手を伸ばす。その顔に浮かんでいるのは驚きすらも軽く凌駕できるほどに慈愛に満ち溢れた笑み。

その指先がシャトゥの“汚れ”を拭うように触れた、その瞬間。




『――理解は?』




怖気が奔った。


シャトゥが、こう言った。


『理解はしていますか、二人とも?』


『理解? 何がだ?』

本当に分からないと不思議そうにシャトゥを見返してくるのは男神クゥワトロビェ。


『なんだ、シャトゥルヌーメ。もしかして今の小人の女、“お気に入り”だったりするのか?』

愉快そうに、いや愉快を微塵も隠さず嗤って来るのは男神チートクライ。


『やめておけ、シャトゥルヌーメ。造物の中でもとりわけ出来損ないの小人など直ぐに死ぬ。思い入れをするだけお前の慈愛の無駄だ』

『ククッ、俺もクゥワトロビェの言うとおりだと思うぞ、シャトゥルヌーメ。小人なんて矮小で、可能性に満ち溢れた種族、お前が気にする必要など何もない』



――Murderer's Crimson≪朱の殺意≫



口ずさんだシャトゥの言葉に二人が黙る。

クゥワトロビェはその意味を理解しきれずに不思議そうに。チートクライはその意味を理解してただ無表情に。


次の瞬間には男神二人は血飛沫にそのものになっていた。その後に残る影も形もありはしない。

何も残らない、ただ残ったのは真っ赤に染められた部屋だけであり、



『――EXE≪在れ≫』


ただその一言だけで、シャトゥの足元に無傷のルナが創生される。

けれど分かる、そこに転がっているのはルナの容をしたモノの塊、それだけであって決してルナではない。



とん、とん、とん、と音が聞こえた。

どこか怖がっているような、それでもその先に進まなければ――“誰か”の足音がこの家の二階から聞こえてくる。



『――』


シャトゥが右手を掲げるといつの間にかその手には真紅の大鎌が握られていた。

少しだけ、唇を噛む。それは俺がシャトゥだからこそ分かる、ほんの僅かな逡巡と後悔、遣る瀬無さ。


……神が、こんなことを思い浮かべるのかとぼんやりと思い浮かべながら――


シャトゥは足元のルナに、一目見て致命傷と分かるように真紅の鎌を振り下ろした。





◆◆◆




あぁ、



あぁ、



ああぁ、



目の前で俺が泣いている。見っとも無くもルナの死体に抱き綴って喚きたてている。それをシャトゥは見下ろしていた。


――哀しい、悲しい、かなしいカナシイ。

俺のものではないシャトゥの感情が胸の中に渦巻いている。



『――あぁ、そっか』


私は、彼が好き。どうしてかなんて分かりはしないけれど、分かることも私には許されないのだろうけれど。それでも私は彼が好き。

どうしようもなく愛してしまっていると、今ようやく気がついた。


その呟きをもらしたシャトゥを俺が見上げた。


「シャ、トゥ……?」


分からない。ああ、そうだろう。分からないか、俺?


『異界の堕し子よ、私の愛しき子よ』

「なん、で……? お前が、ルナ……を?」

『不出来な失敗作を、壊しました。ただ――愛しい子、あなたが私を見てくれるように、と。たったそれだけの事です』


何も無い、とはこの事なんだと思う。

目の前の俺の瞳に殺意が篭るのを見つめて、見つめて、見つめ続けて――何とかシャトゥは口を開くことが出来た。


『私が憎いですか、私の愛しい異界の堕し子?』

「あぁ、憎い」

『なら、どうしますか?』

「……お前を――殺してやる」

『今のあなたの力ではそれは無理でしょう。神殺しはヒトには過ぎた業です』

「それでも、俺は絶対にお前を殺す」



理解っている。私がそう望んだのだから。

だから私は、シャトゥはこの子の為に出来る限りの――いや、シャトゥルヌーメという存在自体を食いつぶしてなお、出来る以上のことを、この子が私を憎めるように、この子があの神たちに殺されないように、しようと思った。


『――』

「っ!!」


かれの苦痛がおれを見上げる。

彼が、落ちていた剣で私に切りかかって来て――それは間違えようも無い“私に対する”殺意の証明であったけれど。揺るがない。この程度でシャトゥの決意は揺るがない。


刃はシャトゥの体に触れる前に粉々に砕け散る。そのこが私を傷つけることを拒んだのか。……持ち主と同様、何て出来損ないな剣なのか。――これはきっと哀愁だった。


「なん、で…」

『愛しい異界の堕し子、それがあなたの願いなら、求めなら、私がそれを叶えましょう。その力を私が与えましょう』

「……っ!?」


これが、最初で最後だろう。

唇から唇へ、口内から口内へ、体内から体内へ、魂から魂へ。

シャトゥという存在自体を粉々にすり潰し、すり減らし、譲渡するその口づけは――あの時に俺が感じたのと同じ、血の味がした。


「っ、っ!!!」


苦しかろう、それは苦しかろう。


「――!!」


目の前でもだえ苦しむ俺。

それを見下ろすシャトゥは。俺が感じた苦痛なんて呆れるほどに柔な、もはや苦痛とも呼べない存在をすり減らす“痛み”を感じてなおその笑みを止めることは無い。


『異界の堕し子、愛しき子よ、あなたの願いを叶える力を、私の存在ちからの半分を与えます。その力を、その力でどうするもあなたの自由。私を殺しに来るのも良いでしょう。力に負けて自滅するのも、また仕方のない事。全てはあなた次第』

「……かみ、がっ」

『……』

「神がっ!!」

『はい』

「神がっ!!!!」

『……はい』

「神がっ!!!!!!」

『……はい、私はこの世界の三神が一柱、女神シャトゥルヌーメ。ですが願わくば、あなたにはどうかまた――――シャトゥ、と』

「神がぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

『……最後にこれは私の我侭だけど――どんな形であれ、それが私を憎んで殺す為だけだったとしても、私に会いに来てくれると……嬉しい、です』



シャトゥは存在を消されそうな“痛み”の中で、ただそれだけ――『もう一度俺に“シャトゥ”と呼んでほしい』、なんて馬鹿なことだけを願って。

俺が確かに気絶しているのを確認してから……一筋だけ、涙を流すことを自分に許した。



◆◆◆



まるで夢から覚めたように、俺は何処かの平地のど真ん中に立ち尽くしていて。


「ふ、ざ…………………………………………け、」


それ以上の言葉を、俺は持っていない。

拳を地面に叩きつける。


「ち……きしょう、糞が」


痛みは無かった。


半場ですけど、たぶん、EPISODE I はコレでおしまい。

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