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14. 無情な末路敵は無し

……うわっ、一年弱あいてる!?

きらきらと。

目の前の赤い欠片が空気に溶けていくのを眺めている。


「――」


なんとも言えない気持ちになる。

コレは、何だ?

歓び? 虚しさ? 歓喜? 後悔?


最後まで笑顔を崩さなかったヤツ――ふざけやがって、と思う。

自分のしたことは本当に正しかったのか、アレは正しく復讐になっていたのだろうか、と。


「……ちっ」


苛立つ。何がかは知らないし、考えるつもりもない。俺はルナの仇を取っただけ、何も間違ったことなどしていない――だというのに、ただ激しく苛立つ。


この苛立ちは、なんだろう?

無性に全てを壊したくなるような、それでいて何をする気力すら湧き上がって来ない。

矛盾する感情と分かってはいるが、その衝動がどちらも抑えきれなくて胸の中をぐるぐるとかき乱す。


殺したと言うのに。確かに今、完膚なきまでに仇を殺して、やっと一つの区切りが出来たと言うのに。

……何で俺は殺した相手に対してまだ苛立たなければいけない?


「……っくしょうめ」


最後まで見せていたヤツの笑顔が脳裏に張り付いて離れない。

一体何の拷問だ、これは。いや、それともこれこそがヤツのヤツなりの、殺されたことに対する報復なのかもしれない。

この苛立ちはヤツの呪いで、脳裏に張り付いたヤツの笑顔は俺の中を何かが蝕んでいくその証拠。


「……はっ!」


自分の思考に呆れる。

なんだそれは、バカバカしいにも程がある。

ヤツは死んだ、俺が殺した。それが全てでそれ以上はない、それだけだというのに。


「――」


次だ。

神を一柱屠ったのなら、ここにはもう用はない。次――残りの男神二柱を滅しなくては。

そうすれば少しはこの苛立ちも収まるかもしれない……なんて。



◆◆◆



「――ああ、それは何と愚かな事だろうな、異界の堕とし子」

「ッッ!!」


その声、その嘲笑に、振り返る。


「そして安心するが良い。お前は未だ神を殺してはいない」

「――きさま、は」



――そこに、ヤツがいた。

緑色の髪に、澄み渡り“過ぎる”宝石の様なエメラルドの瞳。存在そのものが神々しく、目に入れた瞬間に反射的に膝を着いてしまうような存在感を纏ったその緑の美丈夫は。



「“一応”はこれで初めましてになるか、異界の堕とし子」

「ああ、ハジメマシテ、男神チートクライ。それから――サヨナラだ」



≪Godless――神は要らない≫



神が創ったこの空間を、目の前の存在を、全てを否定する。塵一つ、存在一欠片すら残しはしない。

全てを消し、否定しつくす闇色の虚無――それが世界全てを包み込む。


全て必要いらない、邪魔、消滅し尽くす。


「――……神なんざ、」

「なんともつれない事を言うな、異界の堕とし子」

「っ!?」


その声は目の前の、虚無が広がっているだけの空間から聞こえた――気がした。

けれどそれは間違い。

実際は……――真後ろから。


「何を驚く事がある? それともまさか本気で――この程度の実力で我等かみを滅せるとでも、シャトゥルヌーメに誑かされて盲信したか? はは、それならば悪い事をしたな。俺もシャトゥルヌーメの様に消滅されたフリでもしておいてやればよかったか」

「……何だと?」


それはどう言う意味かと、


「俺は先程も言ったぞ? お前は未だ、神を殺してはいない」

「――何?」

「お前は騙されたのだよ、女神シャトゥルヌーメに。くくっ、殺される“フリ”など、シャトゥルヌーメも随分と酷い――ぬか喜びをさせる」

「――」

「お前もそうは思わないか、異界の堕とし子?」

「……」

「どうした? 騙されていて、声も出せないか?」

「……そう、か」

「?」


ヤツは、まだ死んでいない、か。

それは。

――それは、


「どうした、騙されたと知ってはらわたでも煮えくり返っているか? それとも――未だ殺していなかったと、“喜んで”いるのか?」

「くくくくく、はははははははははっ、――そうだ、そうだともっ、ハラワタ? 悔しい? 騙された? あははははははっ!!!!!」

「――ふ、ん。“殺せなかった事を喜ぶ、か。どうやらお前は俺が期待した程の――」

「黙れよ、神 ≪Shout――叫びを上げてのた打ち回れ≫」

「おっ、と。……危ないな」


闇色の虚無の地面を突き破り出てきたカギ爪の様な五指に、後ろに張り付いていた奴が離れる。

それにしても――“危ない”?


「おかしなことを言う。危ない? 何が危ないんだ、えぇ、神サマよぉ!?」

「――」

「この程度の力、避けるまでもないんじゃないのか? ――神如きが、舐めるなよ」

「……成程。思っていたよりも冷静なようだ」

「ようだ、じゃねえよ。――テメェはここで殺す。それで、テメェがかばってやがるアレも、引き釣り出して今度こそ殺す」


ヤツの意思とか思惑とか想いとか、そんな事じゃなくて。

俺が殺すと言う、それ以外は何も関係ない――ただそれだけの為に殺す。

今度こそ迷いはない。理由をつけたり赦しを請うたりも、もうしない。


復讐の虚しさ? 悲しさ?

――ああ、そんなモノは初めから知っているとも。知っていて、俺に未来さきがないなんて初めから分かり切っていたことだし、神どもを殺せればそれで良い、ああそれだけでいいんだ。


「随分と威勢がいいな、異界の堕とし子」

「ハッ、そういうテメェもな」

「ふふ、威勢がよく、驕りがなければそれは神ではない。お前はそう思わないか?」

「知らねぇな。そもそもテメェとかわす禅問答は持ち合わせていない」

「それもそうか。異界の堕とし子イレギュラーはただ規格外イレギュラーとして、化物イレギュラーとして世界を敵に回すのが一番ふさわしいだろうな。そしてイレギュラーに語る言葉は必要ない」

「……ぺらぺらとよく動く口だ。神ってのはそうも無駄な話が好きなお喋りばかりなのか?」

「ああ、そうだな。何せ日頃話す相手がいないからな。こう言った機会は幾分か口が弾んでしまっても仕方ないだろう?」

「……知ったことかっ」

「ああ、お前の知ったことではない。これはあくまで我等かみの事情だ」

「――」

「……ふふ、程良い具合に殺気が高まってきているな。戦るのか? 今ここで、俺と戦る気か?」


少しだけ、高ぶった気持ちを落ち着かせるために息を吸い……吐く。


「――テメェはここで殺す。三度は言わない」

「一俗人にしては勿体ない、良い気迫だ」


気迫? 何だ、それは。意味があるのか?


「――≪Wall――今すぐ倒殺しろ≫」


ヤツの周りを――俺も含めて――鮮赤の壁が取り囲み逃げ道をなくす。


「……ほぅ、コレは」


そのまま、ヤツを圧殺。


「≪害無≫――俺を阻むモノは要らない」


ヤツを押し殺そうとした壁が消える。

“消える”、か。ははッ――……小細工は一切無しだ。


「≪Illogic――ヤツを塗り潰せ≫」


理を侵せ。理を崩せ。理をなくせ。

――立理の男神(チートクライ)を、殺せ。




「――成程。立理に対してことわりを殺す選択肢は一見正しいな。俺に対しては限りない最悪手、」


――?

何だ、ヤツの雰囲気が変わ



「だが、残念。いや、お前にとっては幸運かな? ――時間切れの様だ」

「時間、」





「――おい、チートクライ。何故、お前がここにいる」



「――っ!!??」


崩れかけていた世界が止まる。瞬間、全てが蒼に塗り替えられる。

そこにいたのは蒼の髪に蒼い瞳、気に食わない程にまっすぐ前だけを見据えるその瞳には俺の事など一切入ってはおらず。ただ目の前のチートクライだけを見据えていた。



「やれやれ。随分と遅いお付きだな、クゥワトロビェ」

「シャトゥルヌーメの存在が消えた。もう一度だけ聞いてやる。チートクライ、俺のシャトゥルヌーメは何処だ」

「俺の? おかしなことを言う。いつからかの女神シャトゥルヌーメがお前のモノになったのだ、クゥワトロビェ」

「――黙れ、殺すぞ」

「出来もしない事を言うな、クゥワトロビェ。お前は俺を殺せない。少なくともシャトゥルヌーメの事を話すまではな」

「……」



――はっ、はは、くくく、何だ、コレは?

目の前に、神がいる? 憎い憎い憎い、殺したくて堪らないルナの仇(かみ)が三柱とも?


これが運命のいたずらとでもいうものか? 面白いことをしてくれる。なら望み通り、俺がこの場で神を全て殺し尽くしてやるさ――


「まあいい、別に出し惜しむことでもないからな」

「シャトゥルヌーメは何処だ」

「ああ、アレは死んだ。滅んだ。――ほぅら、そこに小人がいるだろう? ソレがシャトゥルヌーメを殺した」

「――な、に」



≪Godless――神、殺し≫


神殺しの刃、ソレが蒼の空間全てを覆い尽くして――

その吠え面も、俺の事を歯牙にすら描けなかったその態度も、全く気になんてしていないさ。お陰でお前ら神を殺し尽くせると言うのなら、


「≪おれに従え、蒼穹よ――≫」


――あ?


「……ぐ、ぼ?」


なんだ、コレは。

手が見える? 俺の胸から、蒼い手が突き出している?

その手が握っている、どくどくと脈打つソレは、俺の……?


「何……コ、レ……――」








死ぬ?

こんなにあっさり? 路傍の塵芥の様に? 神を一柱も殺せぬ内に?

――ヤツらが、ルナを殺したみたいに? 俺もなにも出来ず?



「やれやれ、どちらも気が早いな。――まあ、異界の堕とし子、お前はここまでと言うことだ。その怨讐、無念、心より憐れに思うよ」

「――おい、チートクライ。この程度のゴミクズの小人が俺のシャトゥルヌーメを殺した? 余り冗談ばかり抜かすな。俺の気はそれほど長くはないぞ」

「嘘は言っていない。事実、シャトゥルヌーメは既になく、あの小人はシャトゥルヌーメの“あか”を有している。それが証拠では物足りないか?」

「――それ以上聞く冗談はないぞ、チートクライ」

「……ふぅ、やれやれ」

「もう一度だけチャンスをやる。――シャトゥルヌーメは何処だ」

「何度聞かれても答えは変わらんよ。シャトゥルヌーメはそこの小人が確かに殺、!!」

「!!」



≪――LivingScythe≫

≪――DeathScythe≫



“赤い”大鎌が三振り――



◇◇◇


「――バカなッ!? 今そんな力を出せば本当に、くっ、『断空』!!」


一振り――立理の男神、チートクライが前方に掲げた緑色の何かごと、その身体を貫いた。


「ぐっ、しゃ……シャトゥルヌゥゥメェェェェェ!!!!」


◇◇◇


「シャトゥルヌーメ!! やは」


一振り――立法の男神、クゥワトロビェが顔満面に狂喜の笑みを浮かべた直後、その身体を串刺しにした。


「っご……な、何故だ、シャトゥルヌーメ。何故なんだ!?」


◇◇◇



最後の一振り――それは霞んだ視界に映るそのまま――身動ぎすらできない俺の身体を貫いた……気がした。


はんっ、念入りに止めを刺すなんざ、随分と注意深いものだねぇ――……シャトゥルヌーメ











【――もう、本当に。これで貴方を助けられるのは最初で最後ですからね?】


≪Heresy my lover――……御免なさい、あの出来そこないを守れなくて≫


幻聴が、聞こえた。


……何か考えていたのと展開が違ってきました。不思議です。


神様、やっぱり基本的に強いです。

シャトゥがあっさりめなのは、敵対心とかその辺りの抵抗がゼロだからです。

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