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11. 返品は不可ですからっ!

るるる〜、悲しくなる。

茶化すな、だと?

何を言ってやがる、こいつは。


「俺は至って真面目だ。貴様こそ既に朽ち果てた分際でふざけた事だけ抜かしてると塩水振りかけるぞ」

「止めてください、髪がべた付いちゃいます」

「安心しろ。その前に成仏する」

「しませんよ、塩水なんかじゃっ!」

「いや、ゾンビに塩水は猛毒のはずだ。“あいつ”の知識にもあるくらいだから間違いない。貴様は塩水で浄化される」

「されませんよっ!? 第一私は死んでいませんし、ちゃんと生きてます!! ……な、なんなら触って確かめてみても、いいんですよ?」

「……ちっ」

「なんなんですか、もー!!!! 今の舌打ちはっ!?」

「おい、痴女。これ以上近寄るようなら今すぐ滅ぼすぞ。それが嫌ならその場で息だけ荒げてろ、変態、屑め。さっさと朽ちろ」

「……ひ、酷い、余りにも酷すぎます。私はすっっっごく、真剣だって言うのに、この仕打ちはあんまりじゃないんですか?」

「は? お前何様のつもりだ? この腐ろうとする死体の分際で」

「だから私は死んでませんってっ! いつまでそれを引っ張るつもりですか!?」

「……、引っ張るも何も事実だろうが」

「その、頭湧いているのか、って言いたそうな表情は止めて欲しいです」

「近寄るな。湧いた頭がうつる」

「……うぅ、心が折れそうです」

「勝手に折れろ。ただし“あいつ”の居場所を吐いてからだ」

「だーかーらー、女神様の御所ならお教えするって言ってるじゃないですかっ! せめてっ、せめてもう少しだけでも私に優しくしてくださいよぉ」

「寄るな、痴ゾンビ」

「何か合体しました!?」

「さっさと吐く事だけ吐け。そのあとで最高に苦しませて滅ぼしてやる。ありがたく思え」

「うぅ……貴方には良心ってないんですか?」

「良心――な」

「ぁ」


何をそんなにわざとらしい表情を浮かべてやがるか、この使徒サマは。俺を“そう”させたのはほかでもないテメェらだろうが。

良心なんて――俺にも“あの時”、ルナが殺されるまでは当然みたいに持ってたかもしれない……だがもう捨てたモノだ。


「そんなモノ……まずお前たちのした御慈悲とやらを思い出して、それからその台詞を吐け。そうすりゃ俺も良心とやらの一欠片でも見せるかも知れねぇぞ」

「……御免なさい」

「謝る必要はない。謝罪を俺は求めてなんてないんだからな」

「……ごめん、なさい」

「そんな薄っぺらい言葉なんざ俺は求めていない、と言ったはずだ。言葉なら“あいつ”の居場所を、行動なら――何もするな。俺が滅ぼすまで、貴様に求める行動は何一つない」

「……そう、ですよね。でも私は――」

「私は?」

「私は、……【使徒】は神の、【燎原】は女神シャトゥルヌーメ様の忠実な僕です」

「知っている」


何を今更、当然の事を――




「――でも、それでも“私”は貴方を助けたい。そう、望んでいます」




――……へぇ。

中々、面白い事をほざいてくれる、この痴ゾンビ如きが。

いいだろう。何を企んでやがるのかは知らねぇが、もうほんの少しだけ、テメェの遊戯に付き合ってやるよ。


「――助ける……助ける、ね。何を、どうやって? 仮にその言葉を信じてやるとして、“あいつ”の力で朽ちていくこの身この魂を、どうやってお前が助けるって?」

「最初にも言いましたよね? 私のこの、このちから、私の全てをあなたに差し上げますと。それが可能か不可能かは――女神様の御力をその身に宿している貴方なら分かっているはずです」


力の譲渡――“あいつ”が俺にした事。無限とも言い換えられる神の力とやらを俺の身体によこしやがった。

“あいつ”が出来る事を――この、目の前の『最強』の使徒が出来ない訳もない。神の事象すら書き換えるってんだ。楽勝だろうさ。

けど、……どういうことだ?


「――何を考えてやがる、使徒【燎原】」

「……さあ? 正直なところ、私にも自分が何を考えているのかよく分かりません。分かるのは、あの方が悲しむのを私は見たくないということ。そして同じくらい……貴方の傷つく姿も見たくはないという事だけです」

「……」

「信じ、られませんか?」

「信じられないな」

「そうですよね……」

「けど、お前がこうして大人しくしているのもまた事実、――仮に俺の身体を狙っているとしてもだ」

「ねねね、狙ってませんよ!? べっ、別に興味なんて全然、全然ないんですからっ!」

「……」

「……えへっ」

「ちっ、真正の変態痴女め」

「あぅぅ」

「……」


この女が一体何を企んでやがるのか、パッと見た限りだけじゃ分からない。

今だって俺の視線を何かと勘違いしたのか、“にへらっ”みたいな擬音が聞こえてきそうな薄気味悪い表情を浮かべてやがるし。

仮に、このアホすぎて緩すぎる態度が演技だとすれば大したものだが――


「あ、あの……そんなに見つめられると照れちゃい、ますよぉ」

「疑うだけ無駄か」

「あ! いま何か凄く馬鹿にされた気がしますっ! 撤回を要求しますよ!?」

「なんだ、バカにバカと言って悪い法でもあるのか?」

「わ、私を甘く見ていると痛い目を見ますよ。コレでも世界創生の時より、龍の時代と云われる今この時まで、すっごい長い時間生きてきた、貴方よりもとびっきりのお姉さんなんですからねっ!!」

「ソコまでいくとむしろババァだろうが。この若作り」

「しっ、使徒に年齢は関係ないんですっ、歳だってとりません!!」

「なら始めからお姉さんとか薄気味悪ぃコトをほざくな、この痴ゾンビ」

「痴っ……だから私は痴女でもゾンビでも――」

「俺の身体を狙って置いて言えるセリフか?」

「べべべっ、別に狙っているとかそういう訳があるはずないじゃないですか!! わ、私はこれでも真正な女神様の使徒なんですからねねね!!??」

「あ、そ」

「……か、軽いですね?」

「心底どうでもいい事だからな。それに一度汚されたとはいえ、二度も俺の身体をやらせる気はないし」

「まっ、まだ何もしてませんでしたよっ!?」

「……“まだ”、か」

「――ぁ」

「そうか。少なくともまだ俺は綺麗なままだったのか。それは良かった」

「……あうぅぅぅぅぅ〜」


……何赤くなっていやがるのか。ただでさえ目から髪から、全身が赤いんだ。顔まで真っ赤にしてやがると目が痛くて仕方ない。

ったく、本当に何考えてやがるのか理解不能だな、この痴ゾンビは。


緩やかな、あまりにそう感じてしまうような雰囲気、空気の流れ。



――だから、この痛みも忘れそうになる。




「っ!!」

「――大丈夫ですか!?」


全身を突き刺し貫くような、内からじわじわと崩壊していくような痛み。身体が一瞬、自分の意志で動かせなくなる。


はっ、はははっ。

こりゃ、本気でヤバいのかもしれないな。“痛いと感じる事の出来る痛み”なんて、もう感じることもできないほどに体が壊れきっちまってたのかと思ってたんだが。

今更こんなものを感じるって事は、本当に俺のタイムリミットも近いって事なんだろうな。

……もう、ゆっくりと話しているような時間もない、か。


「折角、だが……テメェと無駄話してるのもこれで終いだ」

「その様……ですね。もう、その身体は限界ぼろぼろの――」

「分かってるじゃねぇか。なら愉快なお喋りもこのくらいにして、そろそろ本気で吐いてもらおうか、あいつ”のいる場所を」

「分かりました。お話しましょう、女神様の今、おわす御所を」

「ああ。――吐け」

「女神様は今……この世界にはいません」

「……どういう意味だ、それは?」

「貴方に力を分け与えた女神様はその罪で今、幽閉されているんです」

「罪? 幽閉だと? そんな、仮にも自称神に向かってそんな事が出来るのは――」


いや。いる、か。

神に罪を問う、もしくは神を幽閉する事が出来るとするなら、それは神と同等であればいいだけのことだ。

そしてこの世界には神と名の付くふざけた輩は、“あいつ”以外なら残り二人いる。



男神クゥワトロビエ――力の象徴たる色は青。世界の法を掌る、超駄神で迷惑千万なロリコン・ザ・ストーカ……

男神チートクライ――力の象徴たる色は緑。世界の理を掌るとか言ってるけど、こいつ嫌い。大っ嫌い!



……いま何か変な知識だったな。

いや、所詮この知識は“あいつ”が元になってるわけだから、あいつの見解どおりと言えばその通りなのか、これは。


「気がついたみたいですね?」

「ああ。――で、どっちだ? どっちが“あいつ”を幽閉した?」

「男神チートクライです。クゥワトロビェ……様は、あのお方が女神様に害をなす事はあり得ませんから。……ただ女神様は大変嫌っておられますけど。報われない恋心ってやつです」

「ほー」


最後のは心底どうでもいい。


「……、ですから女神様は今、この世界の狭間とも呼べる場所にいます」

「いる場所は分かった。道理で“あいつ”の気配を何処にも感じない……いや、感じはするが曖昧な訳だ」

「はい。今の女神様は世界中のどこにでもいると言ってもよいですし、どこにもいないとも言えますので、そう感じてしまうのは仕方ないかと」

「なら――これ以上の回りくどい話は良い。それで、“あいつ”に逢いに行く方法を……お前は当然知っているんだろう?」

「はい、存じています」

「それも、教えてもらおうか」

「はい、勿論。私が貴方の前に現れた理由の一つは、女神様の元へお連れする事なんですから」


……ふん、本当に“燎原”め、一体何を企んでやがる?

それともまさか、本当に頭の中にまでウジが湧いて、腐ってやがるのか? それなら俺にとっては願ったり叶ったりだが。


「……殊勝だな、お前らのメガミサマを殺そうとするヤツを、そのメガミサマの元まで案内するなんて。それは余裕の表れか何かか?」

「いいえ。ですが今の貴方に女神様は害せない、そう言ったはずですが?」

「やってみなきゃ分からないだろう?」

「……そう、ですね。確かにその通りかもしません、でも」

「私がいる限りメガミサマに手出しはさせません、とかほざくつもりか? 俺にも手を出さないとさっき誓っておきながら?」

「……いえ、違います。私が手を貸さなくとも…………いいえ、“私が手を貸さなくては”貴方が女神様を害する事はどう足掻こうと不可能だ、と確信しているからですよ」

「仮にそれが本当だとするなら、“あいつ”を殺るのにお前の力が必要って言うのなら――テメェの力を奪ってでも、無理やり協力させるだけだ」

「――はい」


? なん、だ……、今、こいつは――


「どういうつもりだ?」

「どういうつもりも何も、私は最初から言っていたはずですが? 私が此処に在るのは、女神様の元へと貴方を御連れする事。そして――私の全てを貴方に差し上げます、と」

「……何を、言っている?」

「有り体に言ってしまえば……そうですね。先ほども話の途中でしたけど、私の力と身体を貴方に与えます。そうする事で――私の“にくたい”を得る事で、貴方が朽ちる事ももうなくなり、“ちから”を得る事で、貴方の望みをを叶える術が手に入る」

「――聞いている限りだと、俺にばかりメリットのある話だな」

「そうでもないですよ?」

「なら聞こうか。そんな事をして――テメェに一体どんなメリットがあるとほざく気だ?」

「――」

「……、は?」


今、この女、なんて言いやがった?




「届かなかったのなら、何度でも言いましょう。――貴方を助けられる、貴方の手伝いが出来る、それは“私”の望みであり、間違いなく今の私に叶う最良の方法です」




「……」


理解、できない。本当にこいつは何を企んでいる?

いや、そもそも本当に“企んで”いる? この緩み切った表情の――何故か、どうしてかルナの面影に重なる表情を浮かべている奴が?

緩み切っていてだらしがないほどのこんな奴に、どうして気を抜くと気圧されてしまいそうなほどに俺はプレッシャーを感じている? 殺気も、敵意も、この女からは何一つ感じないというのに。


「そしてもし叶うのならば、それが貴方にとっても最良の結果になりますように……」

「……」

「それに、ですよ?」


近寄って、来る。

これ以上近寄ると滅ぼすと言っておいたはずが、何の躊躇いもなく。


頬に触れてくる、どこか熱を持った指先。

それに俺は――動けなかった。なんでか、この先のこいつの言葉を聞かなくてはいけない。こいつが今からしようとしている事、その全身全霊だけは、邪魔しちゃいけない。“そうしないと後でルナに怒られる”と、ほんの一瞬だけ、本気で考えてしまっていた。


頬を僅かに赤く染めて、どこか照れたような微笑を浮かべて――俺の口元で囁いた。



「好きな人の為に何かをしたいって、“私”がそう思うのはダメですか――?」



視界全てが、“燎原”の顔で赤く染まっていて。

唐突に唇を奪われていた俺は――突き飛ばし拒絶する事、もしくは在り得ないが受け入れてやる事……そのどちらもせずに、やはり何もする事が出来なかった。


そして、俺は何もできないまま――



身体が熱い、体が熱い、カラダが熱い――!!

コレは――あの時の、“あいつ”が俺に力を分け与えやがった時と同じ――



唇が、離れていく。

何処となく晴れ晴れとした、だが初々しく照れたような表情をヤツは浮かべていて。


「私の初めて、あげちゃいました♪」


――目の前で、最後にそうほざいて、使徒【燎原】は赤い霞となって消滅した。


もう、1/3年ほどぶりじゃね?

開き過ぎですよね? もう済みませんです。


で、こちらの方はもう少しでラスト! ……に、なる予定です。色々とばしちゃってて不明点とかありますけどね?

燎原が何故かべた惚れ状態な理由とか、色々と。


そんなわけで、一応ラスト1、と言う事にしておきます。

……終わるかどうかはさて置いて。


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