選択
この話は灰鉄杯という企画用の短編です。
かなり実験的な作品ですが、皆様に読んでいただければ幸いです。
世界は広大だ。
この世界には、まだまだ数多くの謎が至るところに残されていて、それらは一体誰が、何の為にそうしたのか今もって解明されてはいない………とこの書物には書いてある。
我はその分厚い書物を閉じた。
「くだらぬ」
嘆息しつつそう呟くと、手にした書物を放り投げる。
書物に、先人の知見に対する冒涜、不敬であると感じる者もいよう。だが、気にする必要はない。
投げられた書物は宙に浮くと、ユラユラと動き、元あった書庫の棚へと戻っていく。
この書庫に納められた書物には、その全てに魔力が込められているのだ。よって、定められた場所にも勝手に戻るのだし、何百年、中には千年もの歲月を越えても汚れも、破れもしない。
もう何度この書庫の書物に目を通した事であろうか?
かつては、我もこれらの蔵書に心を踊られせつつ、貪りつくが如く昼夜も忘れ読み耽ったものだった。
だが。
今では、心に躍動を感じない。
知識とは偉大なる先人からの遺産である、そう我が副官は言った。
確かに、書物には古代よりの様々な知見がふんだんに詳細に描かれており、幼少の我にとってこれらは実に有意義で、楽しき時間であった。
だが、もう今やこれらの書物からあの頃の様な高揚は感じ得ぬ。
理由は明白だ。
我はこの世界に飽いてしまったのだ。
退屈で怠惰な日々に。
我は魔王。魔族を統べる者である。
正式には魔族諸国連合の玉座に座る者だ。
魔族諸国連合とは、魔族が設立させた小国同士の連合体の名称。
この世界の歴史とは、我の様な魔族と人間との対立の繰り返しである。少なくともこのおよそ……千年はそうだ。
魔族とは何か? だと。
まぁ、知らぬ者もいるやも知れぬ、貴様の如くな。
我自ら、少し話をしてやろう、光栄に思えよ。
元々、この世界に魔族と呼ばれる種は存在してはおらなんだ。
では、我らは何者であるのか?
簡単に言うなれば、人と魔物の中間とでも言えばいいであろう。
そもそも我らの先人は、人間であった。貴公と同じく、な。
それが分け隔てられるきっかけとなったのは、疫病の流行の為であったと書物には記されている。
我らの先人の住みうる国は、周囲を険しき山脈に取り囲まれ、あらゆる諍いから隔絶された平和な国であったそうだ。
隔絶とは言え、周辺諸国と全く交流が無かった訳ではない。
数こそ少なかったものの、交易商人や吟遊詩人等の大道芸人が国を定期的に訪れては、様々な品を流通させ、様々な物語を伝え、芸を披露し、国民は日々を楽しく過ごせたそうだ。
だが、平和とはただで手に出来る果実では無かった。
やがて、周辺国ではある今では消えた疫病が猛威を振るい、大勢の人々が死んだそうだ。それは人から人へと移る類いの病。
折しも、周辺国は長い戦が終結。その結果として人口が守りの堅固な一部の都市に密集し、さらに不衛生な生活環境であった事もこの災禍の拡大の一因となったということだ。
それはまさに、地獄絵図の様な光景であった事であろう。
そんな中で、我の先人達の治めたその国だけは疫病とは無縁であった。理由は無数にある。
一つは衛生状況が他国よりもしかと確立されていた事。
都市は清潔に保たれ、鼠などが必要以上に街中で繁殖せず、適度な均衡を保てた事も大きい。
だが、最大の要因は、他国との交流を最低限に抑えていた事であっただろう。
限定的な鎖国政策が人の流入を防ぎ、被害の発生を押さえ込んだのだ。
それから数年。状況は好転する事なく、更なる悪化を辿った。
疫病は尚も猛威を振るい、日々、大勢の人々が死の床に着く。
更に追い討ちをかけるかの様に起きた、天候不順による農作物の不作が決定的に事態を激変させた。
周辺国は僅かな食糧を巡り、殺し合いを、戦さを始めた。
それはそれまでとは違って、砦を陥落させれば終結、という様な何処か牧歌的な物では無い。
勝った側は負けた側から何もかもを奪い去る。
残った食糧は当然、金銭も、住人達の命をも。
まさしく豺狼の如きその所業が、公然とまかり通る。
強者は弱者からあらゆる物を奪い、壊す。
そして、それを遮る所か、各々の国の君主が率先するのだから始末が悪い。
それから疫病が収束したのはおよそ五年後。
争いに疲れた周辺国は休戦。
その仲立ちを我の先人達が請け負ったのだが……それこそが最大の失点であった。
先人達が周辺国の支配階級をもてなしたのだが、その時に彼奴らはこれまでは隔絶された田舎国と思っていた国が実際には疫病とも不作とも無縁であった事を共に理解したのだ。
貧すれば窮する。彼らにとってその時から、田舎国は一種の理想郷にでも見えたのだろう。
まずは、その時を境に各国から親善の為の使者が頻繁に訪れる様になった。
そこでの内容は然程重要ではない。
何故なら、使者の役割とは調査査察なのだから。
相手がどの位の食糧を備蓄し、どれ程に収穫するのか?
そして、険しき山脈に囲われたこの国をどのようにすれば攻め落とせるというのか?
それから数年は、表向きは問題は起こらなかった。
各国は、事ある毎に田舎国を訪れては、自分達の国の土産を持ち寄り、代わりに食糧を引き出した。
先人達は長い長い平和の中でいつしか、他者に対する警戒心が薄れてしまったのだろう。
各国の大使が国に常駐する事も認め、その為に決して少なくない数の人数が入る事をも認めた。それがどのような目的を持っているのか等を露とも考えずに。
そして、事は起こった。
それは建国祭の夜更け。
先人達は、それまで三日三晩続いた祭りが終わり、ゆっくりと深く休んでいた事であったろう。
それは馬の嘶く声から始まった。
たくさんの松明の明かりが静まり返った都市のあちこちに灯される。暗闇だった世界が、突然に昼にでもなったかの如き様だったらしい。
寝ていた先人達は、外が少々騒がしいのが、酒に酔った隣人が集まってでもいるらしいとでも思ったそうだ。
その実は、それは武装した兵士達が都市の要所に進軍していた訳だが。そう、この国に大使館の人員として入り込んだ者共がその本来の目的を達する為に。
まさに電光石火とはこの事だった。
兵士どもは門番を容易く排除、巨大かつ外敵を長年に渡って遮ってきた巨大な門を開いた。
殺気だった兵士どもはまるで豺狼の群れの如き所業に出た。
それはまさに地獄絵図という言葉が相応しかった。
家々で何も知らずに眠りについていた住民を殺し、嬲り、犯し、家に火を放った。
そうして、大勢の命が一晩にして失われ、王宮に殺到した。
流石に王宮はそれなりの抵抗を示した。だが如何せん多勢に無勢。殺到する軍勢は殺しに習熟していたが、守る側には経験など殆ど無く、やがて……敢えなく陥落した。
こうして王宮が陥落した後、周辺国の連中は狼藉と略奪の限りを尽くした。卑劣な勝者は敗者から全てを奪った。
金品を奪い、食糧を奪い、生き残った住民を奴隷商人に売り飛ばした。そして、生き残った王家の者を公開処刑した。
彼らは誰一人、悲鳴すらあげずに刑場にて命を断たれたそうだ。
こうして、一つの国は滅んだ。
だが、各国の者共は気付いていなかった。
王宮が陥落する直前に、一人の王子が脱していた事を。
まだ赤子だったその王子が乳母と共に落ち延びた事を。
それからおよそ十数年の時が流れた。
あれから各国は繁栄を極めていた。あの災禍など無かったのでは無いのか? そう思わせる程に国は栄え、栄華の中にあった。
各国は、更なる富を求める為に他の大陸にもその薄汚れた手を伸ばそうとしていた。
一方、最早廃墟となった国の跡地に少年が足を運んだ。
そこは酷い有り様だったそうだ。
かつてそこにあった穏やかな都市は跡形もなく、僅かにいたのは行く当ても無く、獣同然の暮らしをしていたこの国の生き残り。
少年は心を痛めた。
乳母から話を聞いたのは、数年前の事であった。
海を渡った先にある都市国家にて、その死の間際に聞かされた。
自分が今は亡き国の王家に連なる者であると。
その話を聞いた少年は特に思う事は無かったそうだ。
酷い話だとは思った。自分の祖国を襲った災禍については。
しかし、所詮は自分が見聞きした事ではない。如何に自分がその王国の一つ種だと言われた所で実感など湧くはずもない。
だからこそ、一度その目で見てみよう、そう思ったのだ。
実際、目にした感想は自分の想像を絶していた、そうとしか言えなかった。もっと、漠然とした遺跡のような物を、光景を想像していたのだ。
だが、実際そこにあったのは、無念の中で滅ぼされた亡国の残骸。そして、生々しく残される暴虐の残滓。
そう、そこはわずか十数年前に滅ぼされた場所。怨み辛みが失せるには時は足りてなど無かったのだ。
それから少年は、周辺国を順次見て回った。
時間と金はあった。乳母が残してくれた蓄えと自分自身で稼いだ金が。かの王族には元来不思議な魔力が備わっており、少年もまた例外では無かった。よく当たる占い師として隅々まで国中を巡った。表も裏も見る為に。
結論から言うなら、少年は激しく怒りを覚えた。
戦争が起きたのは、仕方が無い。何故なら、人は時にすれ違い、間違いを犯すものだから。
だが、だからといって生き残った国民達に対する所業は許せない。奴隷とされた彼らは想像を絶する過酷な状況に置かれていた。
海の向こうでも奴隷は存在する。
だが、向こうの国では奴隷からの脱却は可能であり、その立場が孫子まで伝わらない。
しかし少年が目にしたのは、貴族の暇潰しに狩りの獲物にされ、全身を切り刻まれたまだ子供や女性の姿。
それを誇らしげに街の市場に吊し上げ、立てられた看板にはこう書かれていた。
――邪悪なる異教徒達には当然の末路。
先人達の国を滅ぼしたのは、邪悪な神を信仰していたから。
その神の呪いによって、長年の疫病や凶作は起こされた。
全ての不都合を都合良く被せたという事だ。
だから、邪教の国の人間は同じ人ではない、その考えが民草にまで広まっていた。
で、あるからだろうか、奴隷とは何をされてもいい身分らしい、貴族だけではない。一般市民もまた、彼らを虐げる。
意味もなく石で打ち、棒で殴り付け、死んでしまっても罪に問われない。そして、死んだら弔う事すら許されず、都市の郊外に投げ捨てられる。ゴミの様に。
(これが同じ人間に対する所業なのか?)
もう、少年は決意を固めていた。
自分は、奴隷にされた人々を解放して見せる、と。
それから数年間、彼は世界中を巡った。
彼が求めたのは”魔道”の道。
それも、目に見えて強力なそれを欲した。
そうして、行き着いた先は東方の果ての地。
そこにあった秘術であった。
それは自身の身を邪なる存在に捧げる事で、人を越えた力を得る、という禁じられた秘術であった。
自ら人を捨て、人外の魔神になる外道の秘術。
そして、この世界に誕生したのだ”魔王”がな。
彼は戻った。
かつて存在していた祖国の地に、王として。
自らを王家の最後の生き残りであると、表明。
周辺国にこう書簡を送った。
――速やかなる国民の返還を要求する、と。
周辺国は無論この要求を一笑に伏した。
かの王を称する愚者の言うことなど聞くに値しない、と。
だから、書簡に書かれた続きをも信じなかった。
――もしも、要求が叶わなければ、貴国に代償を払わせる。
そして、事は起きた。
魔王たるかの者は、戦を始めたのだ。
各国の貴族に騎士、兵卒に至るまでが敵の軍勢を目にしてさぞや肝を潰した事であろう。
それは人外の者達の軍団。
邪悪なるゴブリン、コボルトにオーガにスケルトンが群れを為す様は異様に映った事であろう。
決着はあっという間に着いた。
魔王自らが前線に赴き、相手の軍勢を炎で焼き払ったのだから。
そして、そのまま余勢をかって攻め込むと、都市を蹂躙。
奴隷であった国民を取り戻していった。
僅か数ヶ月で、各国は半ば半壊した。主だった軍勢は既に失われ、都市は焼かれた。魔王に刃向かえる余力などあろうはずもなく、屈する他は無かった。
魔王は国民達に自由を保障した。最早奴隷等ではない、と。好きに生きていいのだ、と。
しかし、彼らの大多数は最早奴隷としてしか生きられなかった。
産まれた時よりそう育てられた者達にとっては、あの身分こそが普通であり、突然与えられた自由を受け入れようとしない。大勢の者達は、自分達を卑下し、頭を垂れた。
魔王は困惑した。
自分は、彼らの現状に心を痛めた。自分のした行いは、余計な事であったのかも知れぬ、と。
だが、一度賽が投げられた以上、立ち止まる事は許されない。
数年間が経過し、魔王の王国は確固たる物になりつつあった。
各国の衰退は著しく、自分達から魔王に従う意思を見せる者も続発。その勢いは海の向こうにも轟く勢いだった。
魔王は、国民の中から志願した物にあの秘術を施し、力を与えた。そうして、いつしか成立した新たな人々こそが魔族。
人と魔物の双方の力を持つ者達は、常人を優に凌駕する力を発揮し、海の向こうから来る新たな敵を迎え撃った。
そうして、何十年経った時。魔王は倒れた。
とある人間が討ったのだ。
その人間はこう呼ばれた。”勇者”と。
魔王が倒れた後、魔族はその勢力を大幅に縮めた。
如何に魔族が優れていようとも、魔王程の力は無い。
そもそも魔族は少数だ。誰もがなれる訳でもなく、魔物の持つ邪悪な影響に、その忌まわしき本能に耐えなくてはならない。
彼らは、それぞれに国を作った。
皮肉な事に、そうした国々ではよい統治が行われた。
少数派である自分達が生きる為には、悪政などはもっての他だからだ。
更にそれから時代が流れ、世は戦乱の時を迎えた。
今や戦端は海の向こうにも飛び火し、弱肉強食の掟が世を支配した。魔族の国は互いに纏まる事で周辺国に対抗していたが、情勢は芳しく無かった。
いつしか、戦争は魔族の国と人間の国へと焦点を変えつつあった。これもまた皮肉な事に、魔族の国は比較的物資に余裕があったからだ。隣の芝生は良く見える、という何処かの国の例えの如くな。
魔族は善戦したが徐々にその力を削がれていった。
追い詰められた彼らはある秘術を決意した。
それは、失われた魂の再生。器となるべき肉体を探し、それに魂を宿らせる外道の術。
その秘術を推進する中でも情勢は日々悪化していく。
遂に、人間の軍勢が弱い魔族の国を滅ぼし始めたのだ。
ジリジリと、領土を奪われ追い詰められていく魔族とその国々。彼らにとっては残された希望は禁断の外法だけとなった訳だ。
そうして、その時は来た。
その術を行う為には幾つかの条件が必要であった。
星の並び、土地の力、供物となる命。他にも細かな物も含めれば気の遠くなる様な状況を成立させねばならぬ。殆どの者はそこで挫折する。だが、彼らは違った。
生きる為に何としても生き抜く為の執念で、儀式を執り行った。
遂に魔王は再臨した。
長き時の出来事を全て理解した上で。
彼の者は供物となる者達の知識を共有、彼らの生命力をも取り込み己が力としたのだ。
情勢は一変する。
魔王が復活。たった一人で軍隊を粉砕。怒濤の勢いで国土を奪取していく。だが、彼は悟っていた。
いずれまた、かつて自分に死をもたらした者が、勇者と呼ばれる存在が目の前に立ち塞がるであろう事を。
無論、破れるつもりは毛頭無かったが、可能性は残る。
自らが滅ぶという事が種としてはまだまだ少数派である魔族の衰退に直結する事を痛感した彼の者は、新たな秘術を求めることにした。それは即ち、永劫の時を生きる法の探求。
自らを絶対なる存在へと引き上げる事で、国々の盾にして矛にならんとする試み。
幾多の失敗を繰り返し、その術は完成を見た。
その為に必要な最後の儀式として、魔王は今一度の死を迎えた。
新たな勇者と呼ばれる偉大なる戦士との戦いによって、心の臓を剣で貫かれて。
魔王の死は魔族の治める諸国の弱体化をまたも引き起こした。
だが、今回は以前とは違った。何故なら、彼らは知っていた。
自分達の盟主が戻って来る事を。
一度の死は新たな生の始まり。
魔王は、己が魂魄を無に還す事なく、新たな器を得て戻る。
不老ではない。肉体は老い、やがては朽ちる。
不死でもない。人を凌駕した生命力を持ってはいるが、それでも死ぬ。
不老不死は叶わなかった。しかし、魔王は”輪廻”を繰り返す事で何度でもこの世に再臨出来る様になった。
それも、死を迎える毎に魔力を増して。
肉体は全くの別物になろうとも、魂魄は常に同じ。同じ精神を共有している。これまでの人生での森羅万象を網羅し、その経験に基づき判断を下す。
死ねば死ぬ程に強靭に、かつ知識を豊かにしていく。
それはまさに神とも云える存在へと近付いていくのだ。
そうして、我は今に至った。
ここまでに幾度輪廻を繰り返したのか分からぬ。いや、もうどうでもよき事だ。
この肉体は魔族の中でも特に長命の器らしく、もう百年はこのままだ。最後に勇者と名乗る戦士と雌雄を決したのはおよそ数十年前の事であったか。あの戦いですら最早、我は心が踊らなくなった。この身に宿りし力はあまりに強大に成り果ててしまった。
皮肉な事に、我が絶対者になるに従い、魔族の中ですら離反者が続出した。あれ程に憎しみ、恨んでいたはずの凡人共と手を組み、己らの盟主に弓を引いたのだ。
代償は払わせた。愚かなる者、それに付き従う者、その国を諸共この手で灰燼に化した。
だが、離反は続いた。
その末に……副官までもが我を裏切った。処刑台でこう叫びながらな。
――貴方様はあまりにも強くなり過ぎた。最早、我らが心から敬愛したあの殿下ではない。
最早、輪廻とは”呪い”でしかなかった。この身にはな。
全くもって愚かという他あるまい。
一体我は、何の為に歩んできたのだ?
我が守るべき者達は、臣民達は死に絶えた。
我らの先人を汚し、辱しめた愚者の末裔もその殆どはもうこの世界より消えて失せた。
この地に残るは、この半ば朽ち果てた城。
この地に生きるは、我ただ一人。
今の我に何を守れと言うのだろうな?
まるで道化ではないか? 笑うがよい。
さて、待たせたな。
貴公には選ぶ権利がある。
これより、死にゆく我の首を掲げ、世界の救世主となる道。
或いは、我の跡を継ぎ、新たな魔王となる道だ。
輪廻を解く方法は実に容易い。我の首を落とし、それを砕けば良い。さすれば輪廻は我を離れ、放たれる膨大なる知恵、魔力は新たな器に、即ち貴公に宿るであろう。
さぁ、選ぶがいい。
勇者として、束の間の安寧をもたらすか?
それとも神に限りなく近しき存在と成り果てるかを。
貴公には選ぶ権利があるのだ。
「さぁ、如何とするか?」
「俺は……あんたを――――!!」
彼奴の持つ剣が煌めき、その銀閃が迫る。
かくして選択はなされ、世界は変わる。
その結末がどうなるかは我にも分からぬ。我は既にこの世から解き放たれたのだ。
訪れるは、新たな光か……或いは更なる混沌やも知れぬ。
いずれにせよ我から彼奴に賽は、時代は主を変えたのだ。
魔王であった我がいうのもおかしきことだが、この世界に願わくば幸あらぬ事を。少しでも善き世にならんことを。




