ごつ盛り・インフレーション
特段、何かを皮肉ったというわけではございません。
2014年9月号
龍堂 礼雅は、眼前にいる敵に意識を集中させた。
この男を倒す為に、俺はここまで来たのだ。
コードネーム、九頭竜。本名は不明。全身黒ずくめである上、常に周囲に殺気を飛ばしている為、非常に近づきにくい印象を受ける。
日本を手にしようとしている魔王、アストロホテプの腹心であり…
礼雅の眼の前で両親を殺害した仇である。
・
2014年10月号
先手を切ったのは礼雅の方であった。
ポケットから呪いの札を数枚取り出し、九頭竜に投げつける。
九頭竜は微動だにしない。
「どうしたんだ?九頭竜の奴、ぴくりとも動かないぞ?」
上記の台詞を放ったのは、新技への反応担当の草次郎くんだ。
物の怪に襲われていたところを偶然礼雅に助けてもらったことがきっかけとなり、旅のお供に加わっている。
「動けないのではない、あの札をよく見てみろ」
草次郎くんの隣で解説をしているのは、新技への分析担当の弦才さんである。
礼雅のライバル役であり、一度は死闘すらも演じた男であるが、現在はこの立ち位置に収まっている。
九頭竜の周囲にある数枚の札から光が立ち上る。
「あの札は太古から伝わりし、束縛に特化した魔法の札だ。そう易々とは突破されまい」
・・
2014年11月号
その呪いの札の名は淡儒札という。
妖魔退治の為に陰陽師が開発したとされているが、詳細はよく分かっていない。
その魔力は凄まじく、神話に登場する最上級の妖魔ですら封じ込めることもあるとされる。
時代が近代になるにつれ、陰陽師の需要もなくなり、すでに忘れられた技術とされていたが…
まさか、礼雅の奴…
・・・
2014年12月号
「…いや、弦才さん。よく見てください。札の様子が何だか変ですよ」
弦才が訝しむよりも先に、呪いの札が突如として燃え上がり、灰となって散った。
「馬鹿な。あの淡儒札をこうもたやすく…」
思わず声を上げる礼雅。
「ふっ、素晴らしい魔力であったよ。だが、所詮は古びた魔力よ」
九頭竜はおもむろに自身の得物を取り出した。
その刹那、禍々しい光が周囲へとあふれ始める。
「まさか…あの武器は…」
「ご存じなんですか、弦才さんっ…」
・・・・
2015年1月号
忌まわしき聖剣…ガラムフルール。
444人の魔王を斬ったとされる、謎の勇者が所持していたとされる。
その切れ味は語るまでもない。魔王ですら紙のように一刀両断してしまう代物だ。
あの、淡儒札が容易く突破されるのも無理はない。
しかし、あの聖剣を所持した者は…魂を剣に呑みこまれてしまうとされる。
九頭竜も後がないというわけか…
・・・・・
2015年2月号
「我らが主、アストロホテプ様から賜った、聖剣の力を受けよ」
九頭竜がガラムフルールを振り下ろした。
光が礼雅を包み込む…
草次郎くんや弦才さんが何かを叫んでいるが、爆音によってすべて遮られた。
九頭竜が背を向けようとした、その時。
「何、バックれようとしてんだよ」
何やら、ものすごい装飾に身を包んだ、龍堂 礼雅がそこにいた。
・・・・・・
2015年3月号
「やっぱり、そうだったんだな」
弦才さんが、そう呟いた。
「どういうことなんですか、弦才さん」
草次郎くんはよくわかっていない様子だ。
「バカな…あの一撃を受けて生き延びられるはずが…」
驚いた反応をする九頭竜に対し、龍堂 礼雅は右ストレートを放つ。
右拳が激しく光り出し、九頭竜の腹部に入り込んだ。
一区切りついたところで、弦才さんが口を開いた。
「あいつは…龍堂 礼雅は…大地のエネルギーをその身に宿しているんだ」
・・・・・・・
2015年4月号
大地…それはグランド。
偉大なる地球の基盤である。
龍堂 礼雅は生まれて間もない頃、大地神を崇める宗教団体に拉致されたことがあるとされる。
幸い、怪我もなく地上に戻されたとされるが…
どうやら、何もされなかったわけじゃないらしい…
「すごいですよ、今までの礼雅さんとはけた違いです」
草次郎くんは、礼雅の変貌に対して早くも慣れていた。
しかし、その喜びも束の間のものであった。
一瞬の間に、九頭竜の貫手が礼雅を貫いていた。
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2015年5月号
油断をしていたわけではない。
だが、「とどめを刺した」という手ごたえが、礼雅の動きを少しばかり遅らせた。
苦痛に顔を歪める礼雅をよそに、九頭竜は語りはじめる。
「君は、この地球の内の、ごく一部の力しか手に入れていない…だが、この私は、地球中を放浪し、力を得てきた」
忌まわしき聖剣を素手であっさりとへし折る。
「怯えるがいい。この姿を…世界を統べる、この、九頭竜の姿をな」
翼が生え、角が生え、腕が増え…すっかり人外の姿となった九頭竜。
変身が終わると同時に、礼雅にむけて牙を剥く。
「礼雅さん!」
叫ぶ草次郎くん。
ピンチの礼雅を救ったのは…ライバル 兼 分析役の弦才さんであった。
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2015年6月号
「弦才…お前…」
喋りかける礼雅を、弦才さんは片手で制止する。
そしてもう片方の手で、日本を滅ぼすだけの力を持つ、九頭竜の攻撃を受け止めていた。
「この力だけは、お前との最終決戦で使いたかったのだがな」
少し残念そうにする弦才さん。攻撃を受け止められた九頭竜は思わず、のけ反っていた。
「地球との直接契約によって得た、この力…」
弦才さんは一瞬で、九頭竜の眼の前に移動し、そして
「存分に堪能しろ」
九頭竜を串刺しにした。
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2015年7月号
弦才さんが礼雅の腹部に手をかざすと、傷は一瞬のうちに治癒した。
「こんな力を隠し持っていたなんてな」
クールな礼雅が、珍しく驚いていた。
「隠していたつもりはない」
ライバル同士の会話が始まろうとした…その時、
「お取り込み中済まないが…まだまだ序の口なのだよ」
九頭竜が平然とした面構えで二人を見ていた。
無傷の状態となっている九頭竜に、戦慄する礼雅、弦才さん、草次郎くん。
「言わなかったかね。私は地球中を放浪してきたのだと」
「そして、その中で、この地球には存在しない力を手に入れたのだと…」
「まさか…」
弦才さんが口を開く。
「宇宙との交信記録を見たのか」
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2015年8月号
宇宙…それはコスモ。
偉大なる銀河の集合体である。
現在でも実態は謎に包まれており、宇宙には未知なる力が多く眠っているとされる。
それをまとめた書物こそが宇宙との交信記録である。
これを見つけたことにより、一般市民であった九頭竜が、日本侵略を目論むアストロホテプに選抜されたのである。
その真実を聞くや否や、弦才さんは膝をがっくりと下ろした。もう駄目だ…おしまいだ…とでも言いたげな雰囲気である。
「それでも、なんとかしてみせる」
龍堂 礼雅は挫けなかった。
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2015年9月号
なぜか九頭竜と互角の戦いをする礼雅。
礼雅以外の全員が不思議がる中、礼雅は九頭竜に笑顔を見せる。
「何の真似だ…貴様…」
そう問われた、龍堂 礼雅はこう返した。
「喧嘩って、やっぱ楽しいよな」
礼雅は自分の過去を振り返る。
決して恵まれていたわけではない幼少期。
辛いこと、悲しいこと、苛立つことばかりであった。
しかし、それでも…
喧嘩だけは、自分を裏切らなかった。
その拳の一発一発が、九頭竜の心を揺さぶっていく。
「どういうことなんですか、弦才さん」
久方ぶりに草次郎くんが口を開く。
「あいつは、己の原点に立ち戻っているんだ」
肉体と肉体のぶつかり合い。
心と心のぶつかり合い。
しばらくして、礼雅と九頭竜は距離を取る。
これが最後の一発になるだろう。
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2015年10月号
「君とは、また別の機会に、思い切り喧嘩をしたいものだな」
「ああ、来世で、またやろうぜ」
礼雅、九頭竜、両者が渾身のストレートを放つ。
しばらくの沈黙ののち…
礼雅が先に屈した。
笑みを浮かべる九頭竜…その直後、彼の体が崩壊した。
「勝ったのか…」
場の異様な雰囲気に、呆然とする弦才さんと草次郎くん。
「よく勝利したな。龍堂 礼雅」
礼雅はうつ伏せのまま、前方を見る。
そこには…
打ち砕いたはずの…九頭竜…に「よく似た」人物が立っていた。
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2015年11月号
「さてと、お前の望みをかなえてやるぞ…龍堂 礼雅」
九頭竜によく似た人物は、とびきり悪い笑みを浮かべた。
「来世…ではないが。また、思い切り喧嘩をしようじゃないか…」
そう言うと、既にボロボロである礼雅を乱雑につかみ、思い切り殴りつけた。
「一体、何が起こっているんだ…」
次々と変化し続ける展開に、まったくついていけない弦才さん、草次郎くん。
礼雅は気力を振り絞り、声を出す。
「おまえ…の正体は…一体…」
九頭竜によく似た人物は、その悪い顔を崩さずにこう言った。
「私は…真・九頭竜。アストロホテプ様が厳選した、九体の九頭竜の内、別格に強いと判断された唯一の九頭竜だ」
驚きであった。この男は、礼雅と弦才さんが死力を尽くして戦った、「あの」九頭竜よりも更に強いというのだ。さらりと言い放った、「九頭竜が九体いた」という話も相当に凄い。
「お前達は、もう終わりだ」
三人の顔に、これまでにない程の絶望が浮かぶ。
どうしよう。
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2015年12月号
彼らに、為すすべはなかった。
真・九頭竜は別格であった。攻撃が当たっても、弾き返されてしまう。
次々と未知の新技を繰り出す礼雅と弦才さんであったが、まるで通用しない。
真・九頭竜は語る。
自分は地球などという低劣な星になど興味はない。目指すは、広大な宇宙での最強の座。
それを手に入れる為に、どんなものでも犠牲にしてきた…
「なるほどな…」
一通りの話を聞いて、ズタボロだったはずの礼雅は立ち上がり、そして不敵な笑みを浮かべた。
「何がおかしい」
苛立ちを隠せない真・九頭竜に対して、礼雅は言い放つ。
「お前じゃ、俺達は倒せない」
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2016年1月号
戯けた理由など訊く必要もないと、真・九頭竜は礼雅を仕留めにかかるが、礼雅は今までに見たこともない動きの良さをみせ、次々と攻撃を避けていく。
「なぜ、回避できる…」
礼雅は不敵な笑みを崩さずに、こういった。
「強さの為になんでも犠牲にするお前じゃ、到底分かりっこねえよ」
だが、相手を倒せないのは礼雅も同じ事であった。
真・九頭竜はすべての攻撃を弾いている。並の火力では傷一つつけられないだろう。
「どうやって倒せばいいんだよ」
絶望する草次郎くんに向かって、一時はかっこよかったライバル、弦才さんが言う。
「どうやら、出番が来たようだな」
訝しむ草次郎くんに構わず、弦才さんが礼雅のもとへ向かう。
「雑魚が二匹になろうが、弾き返されるだけなのは、分かっているはずだ」
非情な真実を語る真・九頭竜に対して、彼らは応じる。
「お前が犠牲にしたこの力…」
「絆の力ってのを、見せてやるよ」
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2016年2月号
長い溜めの後、礼雅と弦才さんは協力奥義を放った。
その名は地球凱旋。
地球を媒介にして発動し、1500万度もの高熱物体をぶつける、弩級魔法である。
「文字通り、身も心も溶けちまいな」
「カッコ悪いぞ…礼雅」
掛け合いも見せつつ、二人の弩級魔法は真・九頭竜に迫っていく。
「ぐ、おおおおおおおおお…」
物体内部からは苦悶の声が上がっている。
ちなみに、外部には一切温度が伝わらないので、安心である。
数分間の後、高熱物体は炎と共に、消滅した。
そして…
真・九頭竜は無傷であった。
呆然とする礼雅と弦才さん。
「ああ、言い忘れていたな。私は戦闘中のデータを常に組み込み続けていてね。君達の技の強さ程度なら、とっくに耐えうるようになっているよ」
次の協力奥義を披露できればよかったのだが、そんな余裕を真・九頭竜が与えてくれるはずもなく、彼らは思い切り両断されてしまった。
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2016年3月号
「どうした。絆の力で、どうにかなるのではなかったのか」
更に強大な存在となった真・九頭竜は、礼雅と弦才さんをなぶり続けていた。
戦闘結果をフィードバックし続け、無限に成長し続ける生体兵器、それが真・九頭竜。
二人の連携攻撃ですら、軽くあしらわれてしまったのだ。
今度こそ、もう終わりなのか…
祈ることしかできない草次郎くんだったが、ふと自分の存在意義について考えることにした。
僕の役割は…一体何なのだ。
自分を助けてくれた恩人が蹂躙されていく様を、ただ見守ることか。
そうでなければ、ここで無駄に加勢し、無様に果てるのか。
それとも…
「いささか、飽きたな」
真・九頭竜が腕を刃に変形させる。
「終わりだ」
刃が、二人の喉元を裂かんとしたその時、
「やれやれだ」
真部 信一郎、見参。
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2016年4月号
「まったく、急ぎの用だからっていうもんだから来てみたら…」
信一郎は気だるげそうにしつつ、ため息を吐いた。
「貴様なら楽しませてくれるのかな?」
真・九頭竜が一瞬で間合いを詰める。暗黒物質で構成された刃の一撃が迫る。
「楽しませるつもりはないさ」
信一郎は真・九頭竜の背後を取っていた。
「なに…」
驚く余裕すら与えられず、真・九頭竜は背負い投げを喰らっていた。
瀕死の礼雅と弦才さんは、薄れゆく意識の中でその戦いを見つめていた。
もう、反応も解説もする次元ではない。
(戦闘結果を取り込める余裕がない…!!)
真・九頭竜はこれまでに見たことがない敵に、怯えきっていた。
これこそが物語の主人公、真部 信一郎の力である。
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2016年5月号
「宇宙で最強であるはずの、この私をここまで…」
「お前程度のランクじゃ、宇宙ランキングベスト1000も圏外だろうな」
信一郎の言葉に、真・九頭竜が苦渋の顔を浮かべる。
「それに、宇宙ってのはひとつじゃない。次元ごとに腐るほどある…並行宇宙も含めれば、もっとな」
信一郎の圧倒的強さ。
その理由は、宇宙放浪にあった。
しがない高校生であったはずの信一郎は、故あって強大な敵と立ち向かうこととなった。(詳細は第1巻から第10巻を参照のこと)
何度もたたきのめされ、打ちひしがれてきたが、その中で彼は世界の広さを知った。(詳細は第11巻から第30巻を参照のこと)
世界の広さを知るうちに、宇宙の広さを知りたくなった。(詳細は第31巻から第45巻を参照のこと)
宇宙との交信記録に出会い、信一郎は宇宙に出た。(詳細は第46巻から第60巻を参照のこと)
宇宙を知りつくすには時間が少なすぎる。そう判断した信一郎は師匠に弟子入り。数々の修行の末、不老不死の力を身に付けた。(詳細は第61巻から第90巻を参照のこと)
宇宙を放浪し続けた末に、「世界」は決して一つだけではなく、複数の分岐した世界及び虚数の世界により成り立っていることを知る。(詳細は第91巻から第150巻を参照のこと)
その後も、上記のことが小さく感じられるような数々の苦難を乗り越えて、信一郎は「この」宇宙及び次元で限りなく最強に近い存在となったのだ。
重すぎる自分語りを終えた信一郎は、挑発する。
「かかってこいよ、ポンコツロボット。井の中の蛙って言葉をたたき込んでやるよ」
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2016年6月号
ただの一撃で、山が、海が、空が割れる。
それが今の信一郎の力。
力の差を見せつけられ、真・九頭竜は、ふと自分の存在意義について考えてみることにした。
私は…一体何なのだ。
ここで負けたら、私は何の価値もない、ただのポンコツになり果ててしまう。
私は負けるわけにはいかない。勝利にのみ、価値を見出すことが出来る。
それなら…
手段を選んでいる暇はない。
宇宙との交信記録の最終頁に載っていた、禁術。
途方もない、膨大なエネルギーが凝縮される時、それは時空すらも歪める特殊空間となり、その中に存在するものの「相対的時間」を無限にまで延長する。
「うおおおおおおお」
真・九頭竜は己が持つ、すべての容量を使い切り、極限にまで凝縮された「弾」を創った。
そしてそれは、信一郎の放った空をも割る一撃のエネルギーを、残さず吸収した。
信一郎が彼の狙いに気付いたが、すべては手遅れであった。
凝縮弾に膨大なエネルギーが加わり、真・九頭竜を呑みこむ。
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2016年7月号
信一郎は顔をしかめていた。
今、自分の目の前にいる真・九頭竜は、「さっきまで」の真・九頭竜とはまるで違う。
洗練された殺意が、ビリビリと伝わってくる。
無限に延長された時間の中、真・九頭竜は己を鍛え続けたのだろう。
気が済むまで鍛錬し、気が済んだら特殊空間を破いて外へ出る。
内部は永遠に近い時間でも、外部からすればそれは一瞬の出来事だ。
傍から見れば、別人のようになったと錯覚してもおかしくない。
「キエロ」
時までも超越し、遥かな高みへと登った真・九頭竜の攻撃は、流石の信一郎も避けるのが精一杯だった。
(今のこいつの攻撃は…まさか)
信一郎は、嫌な予感が現実になっていないかを確かめる為に、式神を呼んだ。
式神の見てくれはそのまま死神である。
不老不死であり、手に持っている鎌で触れたものすべてを、有無を言わさずに次元の彼方へ葬り去るというおまけつきである。
信一郎の最強…ではないにしろ、強い方にあたる式神である。
しかし、その不老不死も、次元の彼方へ葬る鎌も、現在の真・九頭竜には無意味なものだった。
今の彼は「時源回帰」の能力を持っている。
それは、彼に関わったものすべてを、「生まれる前」の状態に戻してしまうというものである。
有り体に言ってしまえば「すべてがなかったことになる」。
滅びの鎌は、真・九頭竜に当たる前に消滅し、彼の放つ斬撃に触れた式神もあっさりと消滅してしまった。
「ツギハオマエダ」
永き時は、真・九頭竜から感情や理性を完全に奪っていた。
(哀れなものだ)
こうなってしまったものを倒すには、同じ「時源回帰」の力で存在を消すしかない。
信一郎は懐から大判の写真を一枚取り出した。
そこには、自分が出会ってきた仲間達が全員写っている。
人数が多過ぎて一人一人は点のように小さい。
だが、信一郎はその中にいる、すべての仲間の顔、名前、性格、果てにはスリーサイズまでをも知っている。
そして、すべての仲間とのつながりを、忘れたことはない。
信一郎と真・九頭竜がにらみ合う。
勝利を勝ち取るのは…どちらか。
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2016年8月号
信一郎と真・九頭竜が、最期の一撃を繰り出した。
双方ともに極大なビームを繰り出している。
それは時空すらも歪め、過去や未来の多元宇宙、並行宇宙にすら影響を及ぼしていた。
そんな状況下でも固唾を呑んで見守る、礼雅、弦才さん、草次郎くん。
「ナゼダッ、ナゼッ」
「ナゼ、キサマハ、キエナイノダァーーーーーッ」
真・九頭竜は出力の限界を外し、鬼のような形相で叫び続けている。
対する信一郎は、そんな様子を冷静に見つめている。
(当然だ、俺には…)
(守るべき仲間達がいるのだから…)
信一郎が眼を見開くと、ビームの量は、これまでの比ではない程となり、真・九頭竜に襲いかかる。
「ウゴオオオオオオオオオ…コロスコロスコ」
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2016年9月号
「どう?日本侵略は進んでる?」
魔王アストロホテプは、部下に気さくに声をかける。
「はっ…それについてなのですが…」
「我らが魔王軍、四天王の一人、真・九頭竜殿がやられたようです」
アストロホテプは、あくびをしている。
「アストロホテプ様?」
部下の問いかけに、アストロホテプは少し不機嫌となる。
「うるさいなあ。真・九頭竜がどうだっていうの。あいつは四天王の中でも最弱…」
「…ですらないか。だって、あいつはもう、元・四天王だからねえ」
アストロホテプの顔が悪に染まる。
「あいつは確かに、「あの当時」は最強だったけど…」
アストロホテプが右手を差し出すと、四天王の席に新しく加わった人物がライトアップされる。
その名は、真・九頭竜・改。
「もう時代遅れなんだよね」
最新刊578巻は2016年12月発売予定!!