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その男、女にいじめられるに月

作者: がまがま

「ほれ、あんた、馬になりなさいよ。」

少女は冷酷に言い放った。

「いや、でも…」

少年は18歳というこの年になり、

誰も見ていない校舎裏とはいえ、

この少女に馬乗りにされるということが

世間的にみてどう思われるのかを想像したのだった。

そして、

この少女が、これまた世間一般から見て

「自分の彼女」と呼ばれるであろう人物であるということを

考えても、それには困惑の色を示した。

「今日のお弁当はあんまりおいしくなかったから

罰をあげるって言ってるの。」

「そういうのあんまり良くないよ。」

「いいか悪いかは私が決めるわ。さっさとしなさい。」

少年は乗り気ではないにしろ、

四つん這いになった。

少女は肩のあたりに優雅に乗るとリング状にしてあった

少し長めの紐を少年に加えさせ、

乗馬を楽しんだ。

これは最初の乗馬ではなく、時折偶発的に

、そう彼女が気まぐれでこの少年に、

ソフトに意地悪をしたい時にしている遊びだった。

いじわるをしているのに渋々でも乗られてくれる彼に

彼女は実は満足していたのだった。

彼女の名前は、明子

その馬の名前は、睦月である。

かれは、不味いと言われながら、

いつものように空っぽになっている弁当箱を

見てほっとはしているし、主人とスキンシップが

あることにまんざらでもなかったりする。

一方で、それでもいつまで彼らの愛の形が

こんな感じに安定しているのかに興味があったが、

先が思いやられる気分でもいた。

チャイムが鳴る。昼休の終わりだ。

「ほら、もどるわよ。私のすぐそばからは少し離れて戻ってよね。

あんたといっつも一緒のキャラと思われるのは嫌だから。」

と言っても教室の客席の連中にはばればれなのだが。


彼は成績が最上位であった。それは彼女のおかげである。

それに至るには彼らの長い道のりがあった。

彼らの世界ではA~Zまで27段階の階級が制定されていた。

Zは最下層であり、奴隷階級と俗称されていた。彼はかつてその階級に属していた。

生まれたときに体力学力の潜在的能力値が測られ、かれはZと判断されたのだった。

この潜在的能力値には遺伝的な要因が強く影響しているとされていた。彼は

孤児だったので親は不明だったがとにもかくにもZとされたのだった。

彼女は生まれつきのAだった。公爵と言われる身分だった。家族もみなAであり

国家の要職を担っていた。

Zの彼がAの彼女に初めて会ったのは5歳の時、

彼女がこの若さにして家を飛び出した時だった。彼女は偶然に

水たまりに転びかけた。本当に転ぶのを防いだのが彼だった。

それが彼女の初恋となった。

そして小学校が始まる。A~Zの学生たちはみな同じ

学校に入れられる。学校とは教育の場ではあるが各自は自習を

主に命ぜられる。AはAなりのZはZなりの教育を自分に施した。

この学校の目的はほかにもあり、階級というものを学生たちに

実感してもらうことだった。彼女は彼をいじめた。

なぜならば、彼女がいじめなければほかの誰かがいじめる可能性が

あったためだ。彼女は彼にいつも課題を科した。次の階級昇格試験に

合格する事だった。彼女は母がいない彼にとっては母親のようなものだった

のかもしれない。だが、昇格できなかったらもっといじめることを

主張していた。そのうちにドSに彼女はなってしまったのだった。ここで

SというのはSかMかのSであり、

階級のSではもちろんない。

さて、彼の方だが首尾よく昇格を続けた。高校一年のころまでにはCに至っていた。

これは異例中の異例でありそもそも昇格試験とは名ばかりで各階級には大きな開きがあり、

99.99%の人物は1階級も昇級できないのだった。

彼の最初の格付けが間違っていたかと彼の遺伝データを何度探ってもやはり最初はZであるべき

だった。彼は主人公補正というやつが多大に含まれているのは自明だが、

彼の努力でCまで上り詰めたのだった。Cまで来てしまうと彼女も

少し態度を変えていった。

「こんなに努力するのは、あんたもしかして私の事が好きなの?」

彼女は聞いた。

彼は即答はできなかったが、そうかもしれないと思った。

彼はうなずいた。

「ハッ、ちょー迷惑なんだけど。」

彼女は心の中のガッツポーズを隠して言った。

「やっぱ私の相手をするんならB以上じゃなきゃ。」

彼は高2でBになった。

「やっぱ対等じゃないと。Aじゃないと。」

彼は高3でAになったのだった。

「まあ、AでもとびきりのAじゃないと。」

ということで彼は彼女を追い越した。

「でも最初はZだったんだから今が良くても

やっぱりお呼びじゃないわね。

私の奴隷として一生這いつくばってなさい。」

彼はいじめられっ子から奴隷になったのだった。


彼女は彼女のコックが作る弁当にうんざりし、

昼ご飯を持て余すようになっていた。

それを見かねた彼が彼女に弁当をつくりはじめたのだった。

「あ~ほんとあんたいちいちうざいわねー。」

そういいつつ彼女は弁当を平らげてそれを彼に返した。

それが常だった。


「もう、クリスマスか。」

ある日、彼女は彼と放課後の街を歩きながら言った。

ショッピング街のショーケースにはそれらしいものが並んでいて

それを見ながら彼女は言ったのだった。

「このままだと、きっとクリスマスもあんたと一緒なのかー。

あんたとこんなに毎日一緒にいたんだったら

ほかの男が寄って来なくなっちゃう。

鬱だわ。ほんと迷惑なんですけど。

離れてくれない?」

彼は困惑した。

だがやはりあとをついていった。

1kmほど歩いたころだろう。

「あ、やっぱりあとついてくるんだ。

やめてって言っているのよ。」

おこったふりをして声を荒げて彼女は言った。

彼女はまた1km歩いた。

100%の自信で後ろの彼に話しかけようとした。

だが、彼の姿はなかった。


次の日、彼はいつものように弁当を作って来てくれた。

彼女はほっとした。

「またこの不味い弁当かー。」

「ほれ、なんか楽しい話をしなさいよ。」

彼のトークは実は彼女の好物であり、

彼女はいつものように会話を大いに楽しんだ。

いつもと同じ様子に再度ほっとした。

だが放課後、彼はそそくさと帰ってしまった。

彼女は絶望に駆られた。次の日も彼は

そそくさと帰る。彼女はあとをつけた。

彼は地下鉄のホームに入って行った。

だがホームまでつけると、彼の姿はない。

まかれたのだ。次の日も次の次の日も彼女はつけたが、

必ず同じ経路は通らず、どこかでまかれるのだった。

でも朝になるといつものように彼は現れた。

12月も後半となり、彼に少しが変化が現れた。

どうも彼は注意散漫となっているのだ。会話が弾んでいない。

彼女は彼を罰した。ビシビシとダメージを与えたのだった。


そんなフラストレーションもたまりつつ、ついにクリスマスはやってきた。

時というのはそろりとやってきてしまうのだ。

彼は今日もそそくさと帰っていこうとする。彼女は信じられなかった。

今日は彼氏彼女ならばいっしょにいるべき日なのだ。彼らの住む星では。

だが、帰ろうとする彼に声をかけるのは彼女のプライドが許さなかった。

エスコートは自動的にされて当然というのが彼女の意見だったのだ。

彼女は自分の家に入り、部屋に鍵をかけ、一人泣いた。

今まで彼を調教してきた意味は何だったのか、

絶対と思っていた服従がなされなくなっている今の状況が

情けなく思えた。無性に涙がこぼれた。

と、突然窓に何かがぶつかる音がした。何度もする。

彼女が見ると紙飛行機が何枚もぶつかっていた。

紙飛行機には文字が書いてあった。

どれもに見慣れた字で「スキ」と書いてあった。

こんなクレイジーなことをするのは一人しかいない。


紙飛行機は彼女が彼に教えた情報伝達の

方法だった。この場所でこの角度で風向きがこれで風速がこの時は

ここから飛ばせば彼女のベランダに着くということを彼女は

彼に調教していたのだった。

彼はそれを正確に実行した。隣の彼女の姉の部屋に

紙飛行機が着陸しなくてよかった。

彼女はその発射地点へ向かった。彼女は家族に今日は帰らない旨を

伝えた。家族は喜んだ。

彼女は到着した。彼がいた。

月のきれいな夜だった。


彼女の期待通り、彼はプレゼントを用意していた。

彼女がショーケースで一番気に入ってたものだった。

「なんで、これってわかっているのよ?」

「…勘だよ。」

彼はこれを買うためにアルバイトをしていたのだった。

最近、疲れていたのはこのためだったのだ。

今日も早く帰ったのは今日が給料日で

今日これを買うためだったのだ。

「あんたって本当に馬鹿ね。」

泣きながら彼女は彼に抱き付いた。

「今夜はいっぱい、いじめてあげる。」

彼も喜んだ。


おわり。

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