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斉藤チュン太郎乃助右衛門

太陽系から二つほど惑星群を超えたところに、ある一つの星がある。質量は大体地球の四半分、大きさは一回り大きい程度で、地球よりも重力は弱い。天文学的には、まだ若い惑星で、

火山活動が活発だ。その為、大体のエネルギーは、専ら地熱によって賄われている。植物が地表の大半を覆っていて、特に樹木は地球のそれと比べると、幾分妙な進化を遂げている。

皆無闇に背が高く、枝葉は天辺から四半分の辺りまでしか生えていない。表皮は滑りやすく、粘菌の類すら張り付くことができない。おまけに、竹の節目のように、およそ百メートル間隔でねずみ返しのような突起がついている。

その他、地表にあるいくつかの海と強力な地熱のために発生する、いくつかの上昇気流群や、落葉した葉が、これもまた地熱によって都合よく腐葉土になり、そこに大量発生する、食料にふさわしい虫たち等。


つまり、自然が鳥にえこひいきをしているかのような環境なのである。サルの類は、迫害されていると言い換えても良い。

こうして大自然のご寵愛を一身に受けた鳥族は健やかに育ち、数え切れない進化の後、親元を離れるようにして宇宙空間に飛び出した。

巣立ちを終えても尚、彼らの郷土愛は強く、飛来した惑星の先々で自らの種に似た生物を見つけると、幸せのおすそ分けといわんばかりに、自らの惑星にお持ち帰りを行うほどであった。

しかし。それらの大部分は桃源郷の土を踏むこと無く、いや、空を飛ぶことは無く、その生涯を終えた。多くは体の構造が惑星間旅行に適さずに消え、無地に到着したものは、高温多湿、強烈な上昇気流群、重すぎる、あるいは軽過ぎる重力の変化に耐え切れずに、楽園を満喫することなく消えていった。

幾度かそれらの事が繰り返された後、彼らも少しは慎重になり、連れてゆく予定の生物の生態調査を行ってから、楽園への片道キップを握らせることにした。その時点で宇宙旅行に適していなければまた次の機会に、というわけである。

こうして異星鳥の移入の成功率は非常に高くなった。最近では地球という惑星の環境が、彼らの惑星とある程度似ていることもあって、あと数年で移入可能になるだろう、ということで注目されている。

地球担当移入調査官、斉藤チュン太郎乃助右衛門にとって、それは非常に喜ばしいことであった。

移入に成功すると、ボーナスがもらえるのである。その額たるや半端なものではなく、地球の銀座に相当する一等地に家を買い、松坂牛に当たるものを食べ、ドンペリのようなものを鯨飲しての酒池肉林、豪華絢爛なパーテイを連日連夜開催しても、尚数十年はもつという大金である。

だが彼は、成金趣味な宴会を開くつもりは毛頭無かった。仕事が成功したら、まずはたっぷりと休暇をとって旅行に出かけよう。今の家は引き払って、一等地で無くていい、自然の豊かな郊外に、妻と子どものための小さいながら瀟洒な家を建てよう。

引越しの際には、ささやかな祝宴を開こう。地球を発見しながらも定年で引退してしまった、前担当の田中ブッポウソウ徳左衛門乃助氏にもお礼を言いたい。

だからこそ、今地球の人間達に見つかるのは不味い。惑星の支配種族との不必要なコンタクトは重篤な犯罪である。発覚すれば良くても馘首、悪ければ、あるいは。

そんなことは御免です、と彼は首を横に振ると、再び手のひらを地面に押し付けて、深く頭を下げた。折り目のついたスーツは度重なる土下座で汚れて、撫で付けられた髪の毛も、今は乱れている。

「お願いです。通報は、警察だけは勘弁してくださいッ」


以上が焼却場の魔物の釈明の全てである。

我々が、彼のジャンピング土下座から怒涛の申し開きに至るまでに、どのような反応をしたのかは、ここでは詳しく描写しない。少しだけ言及するなら、弓角君は恐怖のあまり声も出さずに号泣したし、葵木さんは最初の方こそ持ちこたえたけれど、やっぱり吐きそうになっていた。

僕はといえば腰を抜かして一歩も動けなかったし、後から聞いたところ、他の皆も大体同じような有様だったというから、部員全員の尊厳の為に、「ひどく狼狽した」という一言で情景描写を終わらせていただきたい。

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