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短編ごった煮

異世界は、無理!

作者: 白樺 小人

何も考えず書きはじめたら、こんな結果になるなんて思ってもいなかったお話。



 私が死んだら、知らない私が私を見つめていた。





 うん意味不明。


 目の前に立っているのはまったく知らない人物だ。

 黒いフードを被った怪しい人。よく物語とかで出てくる死神のような格好。

 けれど、何故か私は知っている。

 そう感じた。


 私は死んだ。

 それは確かな事だ。

 私の感覚にすれば、ほんの数時間前の事だ。

 私は車に撥ね飛ばされ走馬灯を見ながら、「あーらー」と間抜けな最後の言葉を吐きつつ地面に叩きつけられた。

 うん。これで確実に死んだ。

 走馬灯を見ている間、自分の体が跳ね飛ばされる時間が長く感じられたのは初体験だ。そして人生最後の体験である。

 まるでスローモーションのようだ、と他人事のように感じていたが確実に私の身に起こった最後の記憶に残っている出来事だった。


 で、気がついたら知らない場所にいた。

 真っ白な空間。

 目の前には見慣れない、身近に感じられる他人が居る他には誰も居ない。


 …………いないはずなのに、何故他にもたくさんの気配が感じられるのだろうか。


 落ち着かずきょろきょろとあちこちを振り返る私に、黒いフードの人(?)が声をかけてきた。

「で、今現在の状況は把握出来た?」

 どこか面白がるような声だ。

 声も聞いた事が無いのに、何故か懐かしい。

「ええと、たぶんおそらく確実の事でしょうけど一応聞きます。私は死んだんですよね」

「ああ、そうだよ。確実に、しっかり立派に死んだよ」

 あっけらかんと返された返事に、軽いな~と思ったが、重く返されても逆に反応に困るのでこれでいいのだと納得する。

「まあ、よく物語とかに手違いとかうっかりとか間違えてとかそんな話があるけれど、君の場合は手違いでもうっかりでも間違いでもなく寿命だった。それは確かだよ」

「どれも同じ意味に思えますけど、まあよく分かりました。でも何で私はここにいるんです?」

「それなんだよね、一番の問題は。君は本来そのままあの世へGOだったはずなのに、何故かここに迷い込んできちゃったんだよ」

 あはは、と笑いながら告げられた言葉。


 ……一から十まで軽いと思った私は、きっと間違えていないはずだ。


「まあここも現世じゃないから、広い意味ではあの世には違いないんだけどね」

「はあ」

 と返事は返したが、よく分からない説明だった。

「でもよくここまで来たね」

「はい?」

 さらに意味不明なお言葉である。

 先ほどまではどこかふざけた雰囲気だったのが、急に真剣な雰囲気に変わっていた。

「君は本来ここに来るはずじゃなかった。でもどんな偶然が働いたのかここにやってきたわけだ。とりあえず聞いてあげよう。君はどうしたい?」

「どうしたいと言われましても、どういう事が出来るのかさっぱりなんですが」

 焦るというより戸惑いの方が大きい。

「ハハハ、面白いね。ここに来た時点で君には全てが分かっているはずなのに。ああ、そうか。人である時間が長すぎたのか。簡単に説明すれば何でも出来るよ。そうだな、よくあるお話のように聞いてあげようか。異世界に移住してみる?って」

「いえ、興味ありません。というか、お断りです。そんな自給自足の生活に足を踏み入れても生き残る自信はまったくありませんから」

 即座にキッパリ断った。

 本気で勘弁である。

 確か、以前どこかで聞いた事がある。

 異世界生活にあこがれる人間が多いと。

 異世界生活で醍醐味と言えば、魔法が使えるとか不思議生物が見られるとか戦闘に巻き込まれるとか。

 選ばれた云々とかな設定は省略するにしても、今のありきたりな生活とはまったく違うものを想像して楽しそうとか血が滾るとか感じるだろうが、実際問題そう簡単な事じゃないだろう。

 とにかく目先の欲に囚われず、本気で考えてもみてほしい。


 服とかは今みたいに量産出来ているかどうかも怪しい。それに着心地のいい服ってのは、基本高価なものである。さらに言えば、手の込んだものはきっと確実に手が届かない。

 ましてや肌着など今ほど肌触りの良い物は、きっと高すぎて手が出せないだろう。というかあるのか、肌着?

 それに機械なんてものが無ければ確実に人力作業。つまり手作業。さらに突っ込めば、最終的には自分で縫え、という話になってくる。手先不器用の私には酷な話だ。

 定住するなら衣類を揃えてくれる場所もあるだろうが、旅するなら確実に自分で繕う事を覚えなければ次の村や街に到着した時、服はボロボロ夜盗が現れた!と追いかけられかねない。もしくはみすぼらしい人間が居るぞ、と白い目を向けられる。

 服も着の身着のまま、着替えを持ち歩くにしても1着2着ぐらいとそう多くは持ち歩けない。というか、そんな大荷物を持ち歩いての旅は、軟弱現代人は次の村に辿り着く前に倒れる。

 旅するなら確実にお風呂は次の村までお預けだ。それまで耐え切れない、というのであれば川や湖で洗い流せ、という事になる。

 ついでに言えば、到着した先に風呂がある保障も無い。あれば重畳、無ければ川で自分を洗濯だ、になる。川が無ければ水を被れ。ああ、ついでに自分の服も洗濯しなければいけない。

 さらに旅するにしてもそうだが、食事は自分で準備して調理しなければならない。

 料理スキル0人間にとっては、確実に死活問題になる。

 それに冷凍食品なんてものは存在しないだろうから、全て自分で準備しなければいけない。

 死にたくなければとにかく料理しろ。食えればよし。人間、死ぬ気になれば何でも食える。味はどうであれ、何とか消化できれば栄養になるんだ。

 旅していれば生野菜は持ち運べないから、乾燥肉といった味気ない食事であろう。保存食というのは万国共通味気ないものである。物珍しさも、2日経てば絶対飽きる。

 知識があれば野草とかも採ってきて調理すればいいのだろうが、こっちの世界と同じものがあるとは限らない。同じものがあったとしても、同じ効能である保障は無い。

 ともすれば、同じ形だからきっと食べられるぞと口に入れると実は毒草でした、なんて展開も考えられるのだ。そうなれば一巻の終りである。

 生き物を捌く、という事も自分で行わなければ肉は食えない。魚は釣り上げなければありつけない。うん、ナイナイ尽くしのオンパレードだ。

 肉といえば火も必要になってくる。生は死ぬぞ。どんな寄生虫がいるか分からないのに、生で食べようとは絶対に思わない。腹痛にのた打ち回って死ねる。

 火を熾すにしても魔法があれば簡単だろうが、無ければ厄介この上ない。火打石を使って、と言われても使い方はさっぱり。湿気た木を持ってきて燃えない、と嘆く自分の姿が想像できて逆に泣けて来る。

 まあ、運良くサバイバルに長けた人間に同行してもらえたならいいのだが、確実に私は足手まといになるな。そうなってくると、運悪ければ見捨てられる。

 旅の最中も移動手段なんて徒歩だろうし、交通手段を使うにしても道が舗装されて無いからお尻は悲鳴を上げるに決まっている。

 宿屋とかで食事、ともなるとお金が必要になる。

 いや、何を買うにしても基本お金は必須だ。

 それを稼ぐ手段も退治とか採取とか依頼を受けて、といった方法を取るにしても、平坦な舗装された道になれきった現代人に、野山を超えてなんて事をすれば確実に次の日は筋肉痛である。

 何か手先が器用とか作る事が出来るとか、手に職を持っていれば話は別だろうが。いや、それでも保証人とか信頼できる人間云々が関わってくるか。ま、そこら辺は何とか誤魔化せばいけるか。

 住むにしても、治安問題もある。

 人間生きるためには糧が必要である。その糧を得るためには硬貨が必要。人の稼ぎを横取りしようと考える盗人は、何時でもどこでも立派にガッツリ存在している。

 セキュリティもしっかり、鍵もばっちり、治安もそれなりに良好!な世界に住んでいた暢気な種族が、そんな明日を生きるために奪うんだ、な弱肉強食の世界に乗り込んで生き残れるか、と問われたら絶対無理と答えられる自信がある。

 おまけにトイレもアレだろう、ボットントイレ。

 旅していれば確実に野……だろうし、紙なんてあるかどうか。無ければきっと葉っぱで拭いてください、だよ。

 水洗トイレとか整備されてたら万々歳だがそう簡単な事では無いはずだ。大きな都市とかであればあるかも知れないが、辺境の村とかになれば確実にボットンだろう。

 いや、水洗トイレも個人宅に存在していたとしても、きっとお貴族様や荒稼ぎしている商人が占有しているに違いない。


 まあそんなこんなな世界でも、どんな環境であっても一週間ぐらいすれば人間したたかなものである。きっとその環境になれるだろう。

 まあ色々と文句はあるかもしれないが。

 転生してとなるとまた話は変わってくるが、それでも以前の記憶を持ったままだとあまりの不便さに絶対泣けてくる。

 とりあえずそういう訳で軟弱現代人である私は、そのままでという話ならばそんな野生環境溢れた世界はお断りなのだ。

 長く住んでいれば慣れるかもしれないが、慣れる前にくたばる自信がある私は丁重にお断りします。



 ―――とまあ長々と持論を説明し終えた瞬間、爆笑された。

 ええ、まあ笑われるとは思っていましたよ。ですけど、そこまで大爆笑しなくてもいいじゃないですか。

 そう考えていると顔がしかめっ面に変わっていた。

「ああ、すまない。そこまでしっかりきっちり説明されるとは思ってもいなかったからね。そういう事なら、お帰りはあちらから。あの扉をくぐれば次の人生を歩めるよ」

 そういって指し示された方向に、今まで無かったはずの扉があった。

 まだ何かを言っていない。

 そんな気がしていたが、何を言わなければいけないのかも思いつかなかったのでそのまま後ろを振り返ることなく扉をくぐった。

「次は前向きに検討してくれることを祈ってるよ」

 扉をくぐる瞬間、背中に投げかけられた黒フードの言葉に、ああそうか、と思った。

 私は知っている。

 あの人を。

 あれが誰なのかを。


 そして全ては光の中に消え去った。



 ・・◎・●・◎・・



「で、今回も振られた訳だ」

 誰も居ないはずの場所から声が降ってきた。

「だってね。無理強いすることなくあっちの世界に行ってもらう、って最初の取り決めでそう決めちゃったから仕方ないじゃないか。それにしても、あれほどまで元の世界(、、、、)に戻る事を拒むなんて思いもしなかったよ」

 やれやれ、といった感じでため息を一つつく。

「あの子、これで何回目?」

「たぶんこれで、えーと……8回目、かな」

 指折り数えて、うへえ、と声を上げる。

「一番最初は天寿をまっとうしたんだけど、その後はどれも悲惨な終り方をしているのに、あの子も懲りないよね」

 その言葉どおり彼女の人生は一度目は確かに天寿をまっとうできたのだが、その後の人生はそれはそれは波乱に満ちていた。

 川で溺れて、通り魔に刺されて、幼少時の育児放棄に、火事に、天災に巻き込まれてが2回。で、今回は車に撥ねられての計8回目の人生の終焉だ。

「それで、自分の片割れ(、、、、、、)があんなにも足掻いているのを見てどう?」

 どこか面白がるような声に、黒フードは少し悩んでこう答えた。

「いやあ、頑張れ?ファイト!」

「あのね……」

 呆れた風の声の他にも、苦笑する気配があちこちでしている。

 黒フードがフードをおろすと、そこには若い青年の姿があった。

「いやだってさ。いい加減この状況はどうにかしたいとは思ってるけど、結局どうしようもないじゃないか。界を渡るのは一緒でないと無理なんだから。っと、今回の分はこれかな」

 喋りながら先ほどまで彼女がいた場所に歩みを進めると、目的の物が見つかった。

 しゃがみこんで手に取ったのは、小さな石。

 それを青年はおもむろに飲み込んだ。

「うん、まずまずの結果みたいだね」

「また待つことになるんだけれど、どうするの?」

「どうもしないよ。それに私は1回目の人生で十分満足していたというのに、それをまだ足りないから、って2回目の人生を歩ませようなんて考えたそっちの責任でしょ」

 そういった彼の姿は、先ほどまで立っていた彼女の姿に変わっていた。

「うん。こんな結末だけど、私は楽しい人生を送っていたわ」

 何かを思い返すかのような彼女の姿に、周りの声はやれやれ、といった感じのため息をついた。

「ホント、暢気ね」

「うるさい。これだけ暢気にならないとやってられないのよ。まったく、世界に新しい物を取り入れたいとかでこっちの世界に送られた私の身にもなってみろ、っていうのよ。1回目の人生でやれやれようやく終わった、と思っていたのにさらにもう1回って。嫌がらせのつもりで色々と注文つけたら全部飲んじゃうし。これに関しては、そっちの自業自得ってものでしょ」

「まあ、あれほどまでに拒否反応が出てくることは予想外だったわね」

「そうだよな」

 周りのそんな反応に、彼女は不満げに唸るように言った。

「それもこれも、元はあんたらのせいだろ」

 本来ならば1度目の人生を終えた後、そのまま元の世界に戻ることになっていたのだ。それを横から余計なチャチャを入れた現在姿無き周りの御一同様のせいで、もう1巡りしろ、と言われたのが最初だった。

 ごねた私に、それでも強制的に実行しようとしていたのが分かったから、それを逆手に取って色々と注文をつけた。これだけ注文をつけたらさすがに断られるに違いない、と希望も込めて。

 だがそんな儚い望みは、注文を全て飲んで「行ってらっしゃい~」と軽く追い出された私の片割れをみて、無駄な足掻きだったのだと涙したのは懐かしい。

 現在あれほどまでに拒否反応を示すのも、色々と重なった鬱憤がねじれた根性として残ってしまった影響なんだと自分の事ながらに思ってしまう。

 そんな考えに耽る私を尻目に、声達は楽しそうに会話を交わす。

「でも、そろそろこんなやり取りも終りかもね」

「どうして?」

「今回に限って今までと違う行動を取ったからだよ。今回は向こうからここにやって来てくれた」

「あら、そういえばそうね」

「いつもなら、あちらの方へ迎えに行っていたんだけど今回はどういった心境の変化かしら」

「たぶん前向きに検討されてるはずなんだよ。やっぱりあと一押し必要、かな」

 めんどくさい、といわんばかりの言葉だ。

「あらあら、もう少し頑張れば元の世界に戻れるわね」

 そんな姿無き声達に答えを返さず、フードを再び被り目を閉じた。


 今となっては元の世界にそれほど戻りたいとも思っていない。

 けれど、戻るべき場所はあちらの世界なのだ。

 もうしばらく、ここの連中にやきもきしてもらわないと困るんだよね。

 そう考えながら、次の再会を夢想して意識を闇へと沈めた。



深く考えずにテレテレっと書き上げたから設定なんてまったく無い。


補足として。

とりあえず黒フードは私と同一人物。どっちかというと前世の自分、と言ったほうが正しい。

元の世界に戻る事にそれほど拘りも無くなっているので、半分周りへの嫌がらせのつもりでダラダラと居る。

が、この現世の方ではもうそろそろ出て行って貰いたいので、なかなか個性的な終り方が用意されてしまっている。

それでも当人終りには満足しているので、なかなか出て行こうと思ってもいないのが悩みの種(笑)

でもそろそろ帰ってもいいかな、とは思い始めている。


ちなみに、車に撥ねられた時の考えは実体験から。時間がゆっくり感じられました。

けど、危険すぎるので実行はしないでください。

相手にも悪いですから。

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