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♯1

奥華子さんの「ガーネット」という曲を聴いていたら突然頭に浮かんできたお話です。歌詞と内容は全然関係ないんですが…。五話程度で完結させる予定ですので、どうぞよろしくお願いします。




 ――毎年、今日の夕方に、いつもの公園に会いに来て。約束。




 別れ際に、幼馴染の少女が口にした言葉。


 それから五年の月日が流れた。


 青年は約束を守っている。




 約束の日。


 八月三一日の夕方。


 青年は去年と同じように、入り口に設置された車止めを跨ぎ越して園内に入る。


 何度も重ね塗りされたペンキの剥げた箇所から、赤茶けた錆を覗かせる遊具達。


 子供が忘れていったのか、プラスチック製のスコップが刺さったままになった小さな砂場。


 色とりどりの花が咲き誇る花壇に囲まれた公園は、幼い頃の思い出より、幾分か小さくなっているような錯覚を覚えさせる。


 辺りを見渡すまでも無く、青年は目当ての少女を見つけることが出来た。


 背中で手を組んで、こちらに背を向けるワンピース姿の少女。


 ふと、青年の中に悪戯心が芽生えた。


 足音を極力立てないようにそっと近付いていき、


「お待たせっ!」


 突然の大声に驚いたのか、少女はびくりと方を震わせた。


「ちょ、ちょっと……驚かさないでよ!」


「ははっ、悪い悪い……ってこんなやり取り去年もやってた気がするな」


「そ、そう言えばそうかも……」


「学習しろよなー全く」


「むー」


 からかうような青年の口調に、頬を膨らませる少女。年齢不相応なその仕草も、少女には似合っていた。


 仕切り直し、といった感じに少女はえへん、と小さく咳払いをすると、


「……えと、とりあえずお久しぶり」


「おう、久しぶり」


 一年ぶりになる、少女の笑顔と挨拶。


 それに片手を上げて笑顔で応える青年。


 そんな青年をまじまじと見つめる少女。


「? 何だよ?」


「……なんだか随分痩せたんじゃない? 体つきがこう、何て言うか……ほっそりした感じ」


「ん? ……あーあれだ。運動系のサークル入ったからじゃね?」


「なるほど。それで? 大学生活二年目はどんな感じ?」


「結構楽しいかな。授業は専門教科入ってきたから難しいけども面白いし、友達も何人か出来た」


「一人暮らしには慣れた?」


「どうにかね。……あーでも相変わらず家事がめんどい。どうしてもサボりがちになる」


「駄目じゃない。ご飯は? ちゃんと三食食べてる?」


「んー……ノーコメントで」


 困ったような笑みを浮かべる青年を見て、少女は呆れたようにため息を吐く。


「だからそんなガリガリになっちゃうのよ。そのうちどっかの道端で倒れちゃっても知らないからね」


「ハイハイ以後気ヲツケマス」


「気持ちがこもってなーい!」


「分かった分かったホントに気を付けるって! ……言う事がうちの母さんそっくりになってきたな」


「今何か言ったかしら?」


「いえいえ何も言っておりませんですともはい」


「全くもう……」


 それから青年と少女は、人気の無い公園のベンチに隣り合って座り、去年と同じように、取り留めの無い話をした。


 基本的に青年が喋り、少女はそれに相槌を打つだけだったが、少女の顔には嬉しそうな微笑が浮かんでいた。




 ベンチの傍に設置された水銀灯に明かりが灯った。


 遠くの山から聞こえてきていたヒグラシの涼やかな鳴き声もいつの間にか途絶え、二人の周りを夜の静寂が包んでいる。


「……あ、そろそろ時間だ」


 少女の言葉に青年はポケットから携帯電話を取り出し、


「あ……ったく。ほんとアレだな。楽しい時間は過ぎんのが早いな」


 青年の言葉に、少女は青年の顔を覗き込み、


「それは私と話してる時間が楽しいって言ってくれてるのかな?」


「んー……ま、そう受け取ってくれても構わないかな?」


 おどけたような、とぼけたような青年の言葉に微笑む少女の顔は、本当に嬉しそうだった。


「ねぇ?」


「ん?」


「今、幸せ?」


「んー……まだよく分からん」


「そっか……うん、それじゃまた来年、だね」


「おう、また来年来るよ」


「約束」


「あぁ、約束だ」


 そうして二人は再開を誓い、別れた。




 少女と青年が会えるのは、一年のうち、ほんの少しの間だけ。


 青年も少女も、それ以外の日にも会いたいと言い出すことは無かった。


 一年に一日だけ。


 それが、二人が交わした約束だったから。





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