第31話 成果発表会
成果発表会は、魔法省で一番大きいホールで開催される。
入り口に大きな文字で、「第十五階層ボス本攻略成果発表会」と看板が用意されていた。
受付で招待者の対応を他の探索課の人員が担当している。
今回成果を上げた探索班のフィオナたちは舞台袖の控室で待機している。
「カサドラ嬢のご家族が来場したぞ。良かったな」
「ありがとうございます」
レナードから教えられてフィオナは喜んでいた。
彼はのぞき窓から望遠鏡を使って観察している。
先ほどまではメリルの件で不安だったが、今度は上手く話せるか緊張してくる。
「人質に逃げられたドラン夫人も来ているぞ。よく来れたな」
「男爵家を侮ってくれて大助かりです」
会場に続々と人が集まっている。
事前に新魔法の取得と新発見についてお知らせしていたため、大きな注目を集めていた。
成果発表会が始まる直前、来賓が入場してくる。
司会者が会の開始を伝え、来賓客の紹介をしていた。
国からは第二王子が参加し、以前会ったヤマト国のフユキも出席していた。
魔法省のお偉い方が挨拶や説明をしていく。
そして、いよいよフィオナたち探索班の出番となった。
四人が舞台袖からステージに登場すると、大きな拍手で出迎えられる。
「探索課のリーダーのセレストです。この度はお集まりいただき、ありがとうございます」
レナードは演説台に置かれた拡声器の魔法の道具を使って話している。
これをフィオナが使ったら壊れてしまう。
「今回の成果発表は、新発見の迷宮の仕組みが二つと、第十五階層でボス本から取得した新しい魔法についてです。新発見の一つは、先月入省したばかりの新人であるカサドラ嬢によるものです。彼女からご説明をさせていただきます」
レナードは道具を持ってフィオナに場所を譲る。
いよいよ出番が来た。
フィオナは演説台に移動し、『大音声入ります』と魔法を唱える。
「ご紹介に預かりました、カサドラです。今回は、図書館迷宮にいる本の魔物の中でも、無駄本と呼ばれる本から得られる加護についてご説明します」
参加者たちから驚きのざわめきが聞こえてくる。
フィオナは練習したとおり、加護について説明した。
特にフィオナ自身も驚いたのは、次の効果だ。
同行者の中にすでに加護を持っている人がいた場合、本を倒して条件を満たしても、その加護は得られなかったらしい。
一度だけの加護は、使ったら消えるが、再取得可能か調査中である。
発表会までに探索課の人たちが頑張ってくれたおかげで、ここまで調べることができたのだ。
「加護が得られるなんて!」
参加者から興奮した声が次々と聞こえてくる。
興味を持ってくれた人が図書館迷宮を訪れれば、迷宮がさらに賑わい需要が増える。すると、国からの予算も増えるので魔法省としては大歓迎である。
しかし一方で、迷宮に入った際の同行者によって、出現する本の種類が変わることも新発見ではあったが、若い女性だけでの迷宮入りを推奨したくはないので、今回は内部での情報共有だけになった。
「以上で、私からの報告は終わります」
フィオナが礼をすると、会場から大きな拍手が湧き起こる。
フィオナを讃える声があちこちから聞こえる。
無事に大勢の前での説明が終わった安堵と緊張感のせいで、フィオナは参加者の様子まで見る余裕はなかった。
そのおかげで、ドラン夫人とダミアンが周囲にフィオナのことを婚約者だと自慢していた姿に気づかずに済んだ。
後ろに一歩下がり、やっと気持ちが落ち着き、参加者たちを見渡せるようになる。
すると、真っ先にフィオナは自分の家族を見つけた。
目が合って嬉しそうに手を振ってくれた母にフィオナは笑顔を浮かべる。
招待していた元奉公先の人もわざわざ来てくれたようで、拍手して讃えてくれていた。
その姿を見て、もう無能だった過去とは違うのだと改めて感じた。
演説台に再び立ったレナードが拡声器とともに再び話し始める。
「では、次は私から今回の探索で発見した新しい迷宮の仕組みについてご説明いたします。実は第十階層以降には休憩スペースがあり、その設備の一つに食堂があります」
この食堂の発見は、女神にはフィオナの功績だと認識されていたが、現実世界で二つも大発見したとなるとフィオナに話題が集中してしまうので、探索班全員の功績だと発表することになった。
これはフィオナも大賛成で、フィオナ自身もみんなで力を合わせて推測を当てたと思っていたからだ。
「今までは迷宮内に食べるものはないという認識でしたが、実はこの食堂で条件を満たせば、食事が現れる仕掛けがあったのです」
レナードの説明に大きなどよめきが起きた。
「階層と時間ごとに異なる食事内容はとても素晴らしいものだったので、探索班の私たちは女神に感謝しながら大変美味しくいただきました。ただ、毎回一つだけダミーの食事があったので、用心は必要ですが」
羨ましそうに話を聞く参加者も結構いたので、この新発見も参加者の迷宮入りを増やすきっかけになるのに違いない。
レナードの話す食堂での条件は知っていれば難しくはないからだ。
上級魔法司書を数人雇える金持ちの道楽として、女神の料理ツアーなるものを魔法省で企画の話があったと噂で聞いていた。
「では、次は第十五階層のボス本から取得した新しい魔法についてご説明させていただきます」
レナードが話を変えると、再び参加者は静かになった。
「この魔法は、人物記と言います。その名のとおり、故人のことを知ることができる魔法です。条件は複雑で、それを満たさないと故人について知ることはできません」
レナードは淡々と魔法の条件を説明する。
故人の名前、生年月日、出身地。
故人の血縁者、故人の遺品も必要だ。
魔法を使用できるのは、故人につき一回だけ。
人物記は本として出現する。
本の保持者の魔力を消費して本のページを映像化できる。
「この場で実際に魔法を使ってみたいのですが、申し訳ないことにこの魔法の魔力消費量はかなり大きいので、一日一回程度が限度なほどです。しかも使ったあとの疲労がひどいため、この場での使用はご容赦ください。ですが、以前人物記の魔法で作った本がありますので、その本を映像化することができます。ぜひご覧ください」
会場がアナウンスと共に暗くなる。
レナードが本を開くと、映像が何もない空間に映り出される。
「ベラ、やめて! 何をしているの!?」
突然流れる大きな女性の声。
映り出された女性は、手に握られた細長い道具で、宙に浮かぶ本を突き刺している。
後ろ姿は、真っ赤な髪が印象的な若い女性。
見開いたページを突き刺して固定し、ページがめくれるのを防いでいた。
女性は振り返って、映像に向かって嘲笑する。
「ほら、ご覧なさいよ。こうすればページが固定されて読みやすいでしょう? みんな必死に防御魔法で耐えるばかりで馬鹿みたいだと思っていたのよね」
「何を言ってるのベラ! 武器で攻撃するのは禁忌だとあなたでも知っているでしょう!?」
「武器じゃなくて、ただの道具! ペーパーナイフだもの。禁忌になんて該当しないわ。みんな神経質なのよ」
ベラと呼ばれた女性が調子良く語る背後で、ペーパーナイフで刺された本の様子が変わっていく。
どんどん膨らむように大きくなっていったのだ。
『武器での本への攻撃は禁忌とされています。該当の本が狂本モードに入ります』
独特な甲高い声でお告げがあり、初めてベラは異変に気づく。
「ベラ、危ない!」
赤髪の女性が誰かに庇われたあと、映像は途絶えた。
「これは私の母の人物記です。亡くなった母は、迷宮内で禁忌を犯し、人を死なせたと非難されていましたが、この母が亡くなる直前の映像を見ると、全く状況が違いました。女神の魔法が偽りの記録を作るとは考えられません。この本を証拠として司法省に提出し、事件の再捜査を依頼したいと考えています。最後、個人的な話となり申し訳ございません。これで私からの報告は終わらせていただきます」
レナードがそう言った直後だ。
「嘘だわ! あの男は嘘をついているわ! 私を陥れようとしているのよ!」
ドラン夫人が立ち上がって叫んでいた。




